インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第130話

「いい加減にしろ貴様……何故俺に関わろうとする!?」

 

 一夏は楯無の胸倉を掴みながら怒る。最早、限界であったのだ。自分は独断で動いたとは言え、楯無に干渉されたくない。これでは束縛されている気分であるからだ。

 それに時間を大事に使いたいのに略、無駄な時間を費やしている。倉持技研や中国政府の奴等をジェイソンを使って殺したのは腐った世界に蔓延る奴等を掃除したに過ぎない。

 それを楯無が指摘する事は我慢の限界であった。自分は彼女の恋人ではない。自分が何をしようが勝手であるのだ。が、自分のした事は赦されない事をしたのは判っている。

 しかし、それを一夏は彼女に教えようとした。が、今は楯無に対して辛辣な事を指摘した。

 

「貴様……俺が何をしおうが勝手だろうが……誰を殺ろうがお前には関係ない……それにお前に指図される気もない!」

「だ、だからって貴方のした事は……!」

「それには気づいている……!」

 

 楯無が言い終わる前に一夏が叫んだ。これには彼女や近くにいる虚も肩を震わせるが二人は恐る恐る、一夏を見る。彼は眉を顰めているが憤怒している。歯を食い縛っているが言葉を止める気配はない。

 その証拠に彼は再び口を開いた。

 

「だからって何だ? 俺があいつを使って奴等を殺れって命令してはいけないのか……!?」

「そうよ! 貴方達がした事は……!」

「それでは腐った人間達の悪行を見て見ぬ振りしろと言うのか……!?」

 

 一夏の言葉に楯無と虚は目を見開く。が、一夏は歯を食い縛りながら険しい表情を崩さない。しかし、彼の言葉には一理あった。奴等は権力で自我を失った者達に過ぎない。

 腐った人間であるが名誉を欲しいが為に豪遊をし、犯罪を揉み消す事は出来る。不祥事さえも闇に葬らせる事が出来る。同時に下の人間に擦り付ける事も出来る。

 彼はそれを赦さなかったのだ。ソイツ等のせいで二人の少女達は傷付いた。簪は倉持技研や日本政府により、鈴は中国政府の者達に両親を盾にされた。

 何方も腐った人間達の犠牲に遭ったのだ。この事を極僅かな者達を除き、周りにいっても信じてくれないのと闇に葬られるのがオチだ。泣き寝入りでしか出来なくなるからだ。

 それに奴等は気にもしないが誰かがやらなければ犠牲者を増やすだけである。法律で裁けても裁けなくても、奴等には死が相応しいからだ。一夏はそう考えていた。

 否、違う、彼は正義の使者になろうとは考えていない。彼は悪とも考えている。人が人を殺める事は赦される事ではない事に気づきながらもそれを実行したに過ぎないのだ。

 彼は腐った人間が嫌いであった。その所為で自分の身は危うい立場に遭ったからだ。それ以前に幼き頃から苛めや迫害されたからであった。

 彼が変わったのも腐った人間達の犠牲に遭ったからだ。否、周りの腐った人間達が彼の人格を変えたに過ぎない。このゲームに参加したのもそうであるが彼を変えたのは彼が最初に殺したプレイヤーであるだろう。

 話が逸れてしまったが彼は腐った人間達を憎んでいる。それ以前に殺しを行なったのも腐った人間達を赦さないが故であった。自分が手を下したがジェイソンに任せたのも彼の鬱憤を少しでも晴れれば良いだけであった。

 簪に対してダークヒーローが良いと言ったのも正義と言う言葉は自分には相応しくないからであった。自分はもう、表社会にいる事は出来ない、裏社会の人間としてひっそりと生きていこうと考えていた。

 ゲームを制し、幾多の願いを叶えるまでの間であった。その間は腐った人間達を殺しながらであった……。それを良い身で裏切ったのは更識家であった。

 彼等の元へと身を置いたのも他のプレイヤーを捜す為であった。利用する為でもあった。しかし、結果は残念な物であった。青年の変死事件や女子高生自殺事件の関連性等を調べてはくれない。

 一夏はそれで我慢の限界を超えていた。

 

「貴様等は俺の調べて欲しい事を調べてはくれなかった……っ!」

 

 一夏はそう言いながら楯無の胸倉を放すと、彼女を乱暴に突き放す。これには楯無も驚くが尻餅を突いてしまう。

 

「お嬢様!」

 

 虚は慌てながら楯無に駆け寄り、彼女の近くでしゃがむと心配そうに彼女を見る。が、不意に一夏を見る。彼は眉を顰めながら自分達を見下ろしている。

 虚は身を震わせるが楯無は彼を見上げたまま顔を青くしている。彼の怒りを間近で見たからだろう。しかし、彼の行いを赦されない事と知りつつも咎める事は出来ない。

 何故かは判らない。判るとすれば恐怖だろう。自分よりも彼の方が幾多の修羅場を潜り抜けてきたようにも思えたからだ。が、一夏は楯無に対して、こう言った。

 

「貴様が何を言おうが俺は腐った人間達を殺すのを止める気はない……奴等がいる限り、世界は腐ったままだ……!」

 

 一夏はそう言いながら風のように消えた。それは楯無といるのが嫌であったからだ。最も、信頼を完全に失いつつあったからだ。否、最初から無いに等しいだろう。そんな中、一夏の言葉に楯無は何も言えなくなるが項垂れた。

 彼の覚悟を知ったからである。そんな彼女に虚は心配そうに慰めるが楯無の目には涙が浮かび始めていた。そして、そんな彼女を慰めてくれるのは虚だけであるが、彼女は声をかけない。

 が、テレビは点いたままであった。そして未だに緊急速報は流れ続けているが新たな情報が入った直後であった……。

 

 

 

「ふ〜〜ん? 中国のお偉いさん達、殺されちゃったんだ?」

 

 その頃、此処は霧に囲まれ建て物。そこは夢見一彦と、彼が引き連れている殺人鬼、フレディが住んでいる場所である。建物内にはプレイヤーの一人かつ、IS、ジルドレの専用機持ちでもある一彦が不思議そうにテレビを観ていた。

 彼が見ているのも勿論、中国政府の役人達が鏖殺された内容だ。が、時間が経つに連れ、犠牲者が殆ど判るようになってきた。しかし、そんな被害者達を嘆き悲しむ者達はいる。

 彼等彼女等の遺族や知り合いだ。皆、身内が殺されて泣いているだろう。怒りを沸き上がらせるだろう。そんな中、第三者でもある自分達他人は知らない。

 同情はするか知らない振りをするだろう。勿論、一彦は他人であるが後者の方を選ぶ。が、彼はある事に気づく。

 

「一晩で数十を……ふふふ〜〜ん、犯人の目途に気づいちゃった〜〜」

 

 一彦は実行犯は誰であるかに気づいた。それは殺人鬼の仕業である事にだ。誰かまでは判断出来ないが怪力の持ち主である事にも気づいたのだ。

 これは他のプレイヤーを捜すチャンスでもあり、倒せるチャンスでもある。一夏と一也である事もそうだが他の二人のプレイヤーをも捜しているのだ。

 しかし、一彦は自分以外の、一夏と一也以外の奴を捜しているからだ。彼は一夏達も含めているが彼はその事を調べようとはしない。何故なら、彼はこれから、ある計画を実行に移そうとしていた。

 三年と言う長い年月を掛けたのだが一通りの事は調べた為に問題はない、後は実行だけである。刹那、扉の開く音が聴こえた。一彦は不意に扉の方を見ると、ある男性が出てきた。

 全身が火傷姿の身体に赤と緑の横縞のセーターに黒いズボン、黒い帽子を被り、右手には鉤爪を装備している。フレディである。彼は一彦が引き連れている殺人鬼であるが何故か怒っている。

 

「おい一彦、何時になったら計画を実行する!?」

 

 フレディは一彦に訊ねると、彼は軽く笑う。

 

「ふふっ? フレディは慌てん坊だね?」

「慌てん坊じゃねえ! 俺は早く人を殺したいんだよ! それに俺の愛する爪が人の肉を引き裂き、突き、更には生き血を欲しがり始めているんだぜえ!?」

 

 フレディはそう言い終えた後、爪を舐める。不気味としか思えず快楽を求めているとしか思えない。狂気とも言えるが彼の場合、狂喜を求めているだろう。

 殺人鬼の血が騒ぎ、それを自分で止める気配はない。そうなるのも無理はない、彼は最近、人を殺していないからだ。一彦自身が命じた為である。

 相当鬱憤が溜まっているだろうがそんな彼を見て一彦は笑みを崩さない。

 

「だ〜〜め。後一週間の辛抱だからね?」

「巫山戯んなよ!? 俺は早く人を殺したいんだよ!? それに俺は……!」

 

 フレディはガミガミと怒る。が、一彦は知らない振りをするように笑いながら耳を手で塞ぐ。ああ、やっぱり怒ってる。彼はそう思っていた。

 しかし、彼はある思惑があった。それは日本全土を震撼させる事をしでかすからだ。それに自分達には一夏の右腕がある。それはゲームにとって重要な物になるが今は使わない。

 

「(フレディ……もうすぐだから待ってね? それに後一週間の辛抱だけど、もうすぐ、日本全土を震撼させる事をさせるからね? それも

子供達を生け贄にすると言う狂宴を起こすから……ね?)」

 

 一彦は内心そう呟いた。が、フレディは彼の思惑を知らずに相当溜まっているのか怒り続けていた……。


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