インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第119話

「何かしらあれ?」

「軍人気質と言うのかしら?」

「軍人オタク?」

 

 ラウラの挨拶に周りは不信感と疑問を抱いていた。しかし、シャルロットは兎も角、ラウラ本人はそう言った寛恕は無い。彼女は軍人気質やオタクでもない、正真正銘の軍人だ。

 ドイツが誇る、IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長をも務めているのだ。同時に千冬を教官と言ったのも彼女とはある関係で知り合い、尊敬しているからでもあった。 

 周りはラウラの事でひそひそと話をしている。一方でシャルロットとラウラは何故か辺りをきょろきょろと見渡していた。クラスの生徒達、否、同級生の顔を覚える為なのだろう。

 しかし、顔を覚えても名前まで覚えなければ意味が無い、にも関わらず二人は見渡している。が、二人は、ある人を捜していたのだ。それは学園にとって貴重かつ、唯一の生徒。

 女性からは畏怖、憎悪、興味、好奇等の色んな視線を受け、男性からは期待と希望が籠められた視線を送られている。本人は自覚ないとも言えるが唯一の異性でもある男性なのだ。

 それは……刹那、通路側の一番前の扉が開く。勝手に開いた訳ではない、誰かが来た事を感知したからでもあった。クラス中の生徒達が一斉に扉の方を見やる。

 真耶と生徒達は戦慄した。が、簪と本音、千冬と箒は驚愕し、シャルロットは戦慄と恐怖している。それぞれ反応が違うようにも思えるが共通しているのは、ある人物を見ていたからであった。

 その人物とは、学園で唯一の男子生徒である一夏であった。彼は学園で指定されている白を基準とした制服を纏っているが右腕は無く、表情も険しい。 

 周りに怒っている訳ではない、彼は常に何時もの表情を浮かべているだけであった。しかし、それは生徒達が怒っていると誤解されているからだ。

 周りは一夏に悪い事をした訳ではないがそう思っているのも仕方が無いだろう。同時に右腕の無い彼を見て覚えているのも無理は無いだろう。

 

「お、織斑、い、今まで何所に行ってたんだ!?」

 

 千冬は驚きつつも彼に詰め寄る。昨日今日と連絡が無かったのと何をしていたのかを教師として怒っていた。が、一方で姉として心配しているのも無理は無いが無事である事に何処か安心している。

 千冬は教師としての仕事、姉としての身内での事で葛藤するが学園内での場合、前者の方が圧倒的に多いだろう。

 

「…………」

 

 一夏は千冬が詰め寄るのを確認しているが視線を、教卓前にいる二人の女子生徒に向けていた。見慣れぬ生徒達がいる事に気付いていたのだ。

 シャルロットは一夏を見て怯えるが何処か興味本位があるようにも思えた。一夏は直ぐにそれに気づくが彼は彼女とは別に、もう一人の生徒を警戒していた。

 ラウラだ。彼女は何故か自分に憎悪が籠った視線を送り、歯を食い縛っている。敵を見るような目でああったからだ。自分は彼女には何もしていない、怨まれる理由も無いからだ。

 一夏はラウラの視線に気づく中、千冬は一夏に訊ねていた。その口調は怒っているが彼が無視している事に

 

「織斑! 聞いているのか!?」

「…………」

「織斑! おい……!」

「……黙れ」

 

 刹那、一夏は千冬にそう言った。が、その言葉にはトーンが落ちているようにも思えるが怒りが孕んでいた。彼なりの怒りでもあった。

 

「っ!?」

「ひっ!?」

 

 その言葉と口調が千冬とクラスの生徒達に効いたのか、彼女達は戦慄する。同時に電流が走ったように身体が震えた。彼の怒りを察知したからでもある。彼が怒っている理由は知らないが不機嫌ではないかと思っていた。

 彼は怒っている訳ではないが、この口調は彼が何時も周りに対して言っているだけであり、仕方が無い。しかし、一夏は千冬とは視線を合わせていない。

 彼は視線をラウラに向けていた。ラウラも一夏に視線を向けているが憎悪を向けている。すると、ラウラは突然、一夏の方へと歩き始める。

 周りはラウラの行動に驚くが彼女は気にもせずに一夏の前に来ると、彼を見上げる。自分よりも背が高いのは知っていた。小柄である事は理解していた。

 しかし、彼への怒りは消えていない。そして、ラウラは一夏と向き合っていた。何方も視線をそらす気配はない、が、一触即発の危険さえも感じた、そう言った空気が流れていたのだ。

 それを知るのはクラスの者達だけであり、目撃者達でもあるのだ。周りは二人の間には不穏な空気が流れている事に直感していた。何かが起こる、そう思っていた。

 

「……貴様が織斑一夏か?」

 

 すると、それを更に濃くさせる意味でラウラが怒りが孕んだ口調で彼に訊ねる。周りもそれに気づくが一夏は普通に応えた。

 

「……それが何だ?」

「……っ!」

 

 刹那、ラウラは一夏を叩こうと手を挙げ、彼の方へと向けた。その直後、一夏はラウラの手を難なく掴む。

 

「っ!?」

 

 その光景をクラスは戦慄した。千冬と真耶は驚き、シャルロットも驚く。簪は肩を震わせ、本音は泣きそうになり、箒は目を見開く。しかし、ラウラは一夏の行動に驚きながらも歯を食い縛る。

 彼女は一夏の頬を叩こうとしていた。怒りを吐き出す意味でも行動で示そうとしていたのだ。だが、一夏はそれを防ぐ意味でも赦さない意味でも制止した。

 ラウラは一夏の行動に怒る。

 

「貴様、何故受け止める!?」

「……馬鹿か? 普通、嫌だろ?」

 

 ラウラの言葉に一夏は静かに反論する。それもそうであるがラウラは反論する。

 

「巫山戯るな! それに私はお前を赦さないのだ!」

 

 ラウラは一夏に対して怒りながら言った。一夏から見れば何も解らないだろうし、周りも解らない。が、千冬だけは知っている。彼女とは知り合いであるが故でもあるが千冬はラウラの言葉に微かに気づくがラウラは言葉を続ける。

 

「貴様のせいで教官は……教官は嘆き悲しんでいたのだぞ!?」

 

 ラウラは一夏に対してそう怒った。が、一夏はラウラの言葉を聞いて眉を顰める。自分は千冬に対して避けていただけであるが哀しませる事はしていない。

 否、彼自身がそう思っているが千冬は一夏がいない三年間をつらく感じながら生活していたからだ。しかし、ラウラは千冬を尊敬しているが故でもあった。

 それなのに一夏は知らないでいる。ラウラには憤りしか無かった。そんな彼女を一夏は冷ややかな目で見ていたが二人の間にはピリピリとした空気が流れていた。

 千冬は止める気配はないが止めると言う事は出来ないでいた。一夏は自分の境遇を知らないでいるのと、ラウラが自分を心配しているが故でもあったのだ。

 どちらも自分には大切な生徒であるが千冬はそれに葛藤しつつも止められないでいた……。一方で周りも一夏とラウラを見て震えているが生唾を吞んだり、泣きそうになっていた。

 しかし、それはどうなるのかは誰にも知らない。判るとすれば、本人達の行動で判る事だろう……。

 

 

 

「……っ」

 

 その頃、ここは学園にある森林地帯。そこには一人の青年が気に凭れ掛かりながら座っていた。手にはアサルトライフルを抱き締め手いるが表情は険しい。

 その青年は一也であった。彼はチャッキーとティファニーの人形から逃げる事が出来たが再び学園へと来たのだ。しかし、彼は警戒していたのだ。

 一夏がISを持っている事に気づいたのだ。夢見一彦との戦いで知ったのだが彼はそれで警戒している。それに他のプレイヤーもいる事にも警戒していた。

 出来るならそれを倒せば問題ないのだがそれを打開出来る手だてがあれば野話であった。しかし、彼にはそう言った手掛かりは無い。彼は今、危機的状況に陥っていたのだ。

 ブギーマンがいるのは心強いがそれだけでは足りないからだ。一也は舌打ちすると、歯を食い縛る。どうすればいい? どうすれば奴等と対等に渡り合えるのだ、と。

 織斑一夏と夢見一彦、何方もISを持っている為、勝ち目は無い。一也は悩んだ。自分には澪香を生き返らせるという揺るぎない決意があるからだ。

 が、戦いと言う殺し合いを制するには強大な力が必要であった。一也は悩んだ、悩みに悩んだ。

 

「澪香……っ」

 

 一也は俯いた。万事休す、そう思っていた。

 

「おいおい、ブギーマンのプレイヤーがそんなんでは面白くもねぇな〜?」

 

 刹那、近くから声が聞こえ、一也は驚くと共に立ち上がりながら銃を構える。彼は声がした方を見るがそこは木が有った。しかし、一也は表情を険しくしている。

 

「だ、誰だ!?」

 

 一也はアサルトライフルを持ち構えながら訊ねる。敵か? そう思ったのだ。

 

「おいおい、俺に向けるなよ?」

 

 すると、木の方から誰かが出てきた。いや、木の後ろから誰かが身を出すように出てきたのだ。

 

「お前は……!」

 

 一也はその人物を見て驚く。その人物は主催者であった。このゲームを管理し、プレイヤーのサポートをする。否、中立の立場であるが彼はある目的で一也に近づいたのだ。それに彼は一夏にレクター博士を紹介したのを誰にも言っていない。

 

「どうして驚くんだ?」

 

 主催者は一也を見てからかうが一也は驚きを隠せないでいる。しかし、彼は知らなかった。主催者が彼に重要なサポートをしてくれる野を……。

 それもISを与えると言う、一夏と一也と対等に渡り合える機体を知っているのであった。それもその専用機の名は、ゾディアック……。

 


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