インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第118話

「ねえ、どうなってるのかしら?」

「判らないわ、でも、危険が迫ってきている事に変わりないのよ?」

「それに織斑君、生徒会長を守って右腕を失い、更には学園に襲撃してきた未知のISから会長を守って大怪我を負ったらしいのよ」

「嘘……そんな」

「織斑君は起きているけど、彼は今どうしているかは判らないわね……」

 

 翌日、ここはIS学園の一年一組。室内にはクラスの生徒達がいるが近くにいる者と談話をしている。その話題は安穏ではない、不安と恐怖で支配されているように暗い。

 学園を襲撃してきた者達の話題でもあった。一昨日のクラス代表対抗戦の際に現れた三機の未知の機体と教師達のあるまじき行動と一夏の右腕が切り落とされた事。

 それだけでなく、未知の機体が現れ、学園の一部を破壊した事と一夏と楯無を追い詰めた事。学園の警報が鳴らず、更には教員達が全員、眠ってしまった事だ。

 それだけでも生徒達は怯えるのに、動揺も広がっている。学園は何者かに狙われている。それだけは把握出来るが安心出来ない。自分の身は自分で守らなきゃならないのに、生徒達は全員、この教室にいるように言われたのだ。

 彼女達は二日の間、学生寮で待機していたのだ。それは学園長、十蔵の命でもあるからだった。昨日とは違い、今は学園が再開しているが自習が多いのだった。

 それに昨日は学園の状況を把握する為に警察やIS委員会の面々が調べにきた。が、それ以上に女子生徒達が怯えているのは、あの事であった。

 

「それに怖いわ……あれは何なのかしら?」

「あれって……まさか大男の事?」

「ええ、何でも織斑君の近くで暴れていたのよ……」

「マジで!? それ本当なの!?」

「そ、それは先生方の話であるけどそれが本当かどうかは疑わしいけど、それを警察やIS委員会とかに報告しているらしいのよ」

 

 生徒達は話題を変える意味でもあるが、ある事を話題とする。それは大男、ジェイソンの存在であった。彼は今、身柄を警察署に引き渡されている。

 同時に警察は、この前の倉持技研での件が終わったばかりであるにも拘らず、厄介な事件を抱える事になったのだ。警察から見ればはた迷惑であるが仕事でもある為、仕方ないだろう。

 しかし、今頃はジェイソンの素顔を見て戦慄したのは言うまでもないが生徒達は知らない。そんな中、その会話を聞いた者がいた。セシリアだ。

 

「っ……!」

 

 セシリアは会話の中で『大男』と言う五文字かつ二文字を聞いて身体を震わせながらはをガチガチと音を立てる。セシリアは大男、ジェイソンに対し恐怖していた。

 あの時の戦慄が脳裏を過る。部屋に現れた時は怖かった。同時に殺されると思った。命からがら逃げられたとは言え、今でも怖い。同時に一夏との戦いでも怖いと感じていた。

 ジェイソンと一夏、何方もセシリアには恐怖の対象として認識されていた。が、その恐怖を克服しない限り、彼女の明日は無い。そんな彼女が震えているのを数人は気づいているが彼女等は皆、哀れみの目で見ていた。

 一夏がいない間、彼女がクラス代表となるだろう。それだけは明白であるが不安もあるからだ。一夏の技を受けたのは彼女だけである。しかし、自分達は一夏の技を観客席から見た為に良く知らないののだ。

 が、今はセシリアがクラス代表である事に変わりない、出来る事なら応援したい、そう思った。出来ればの話だが……。

 

「織斑さん……」

「かんちゃん……」

 

 しかし、それ以上に一夏の事を心配している者達がいた。簪と本音だ。彼女等はクラスの生徒であるが一夏を心配している。彼女達だけではない、周りにいる数人も心配しているだろうが彼女達は違う。

 短くも長くもない間、一夏といたからだ。家族とも言える間柄でもあるが簪は想い人として心配している。彼は無事であるが今の所、連絡が無いのだ。

 何でも電話しても通じず、最後には電源を切っていたのだ。不信感としか言いようが無いが彼は単独での行動を好み、ジェイソンと行動する事が多い。

 まるで誰かに秘密を抱えているようにも思えるが彼は更なる秘密を作ったのだ。それは楓一美と言う幼女と手を組む、と。楯無から聞かされたのだが驚きとしか言いようが無く、更には一美は暫くの間、一夏と楯無の部屋で暮らす事になったのだ。

 寝る時は楯無と共にであるが昼間は何をしているのかは判らない上、風のように消えるため、行動範囲が判らないのだ。一美は自分達よりも小さく、一回りも年が離れているのと、まだ幼い。

 簪と本音はそう思いながらも一夏を心配している。彼は今、何をしているのかは判らない。が、簪はある視線に気づく。それは窓側の一番前の席だ。

 その席に座っているのは箒だ。彼女は簪に対して憎悪が籠った視線を送っている。一夏での件だ。箒は楯無だけでなく、簪にも憎しみの感情を抱いている。

 恋愛面であるが嫉妬さえもあるのだ。しかし、今は一夏の安否を気にしながらも簪を罵倒出来ないでいる。今問題を起こせば一夏に嫌われる。

 箒はそれを恐れながらも今は睨む事しか出来ないでいた。が、クラスの生徒達は不安と恐怖で支配されるように困惑する。それを打ち破る和やかな空気は流れない。

 誰も話題を変える気配はなかったからだ……が、それを変える事が起きた。

 それは……刹那、チャイムが鳴った。これには生徒達も驚きながらも席に着き始める。チャイムの音が鳴り終わるまでの間であるが全員、席に着いていた。

 チャイムが鳴り終わる頃、黒板近くにある通路側の扉が自動で開き、二人の教師が教室へと足を踏み入れる。織斑千冬と山田真耶の二人だ。

 出席簿は真耶が持っているが千冬は何も言わないでいる。真耶は困惑しているが千冬は凛としている。流石に周りも気にするが二人は黒板前にある教卓まで歩くと、生徒達を見渡すように振り返る。

 

「諸君おはよう」

「お、おはようござい、ます……」

 

 千冬の言葉に生徒達は返事をする。逆らう訳ではないが何故か覇気が無い。あんな事があればだが千冬もそこは理解していた。真耶はと言うと生徒達に気づいているが気遣ってもいる。

 何方も生徒達を心配しているが一夏を心配している事にも変わりない。が、今はそれどころでは無いのも理解しているが千冬は口を開く。

 

「諸君、昨日、一昨日と色々と大変な事が遭ったが学園側は……ふう、それは別にするとして、諸君等に伝える事がある」

 

 千冬の言葉に生徒達はざわめき始める。それは嫌な予感しかしなかったのだ。また何か起きるのか、そう思っていた。周りはざわめく中、千冬は一喝する。

 

「静かにしろ!」

 

 千冬は周りに言うと生徒達は肩を震わせるが同時に黙る。これにはきついだろうが効果はある事に変わりない。生徒達が黙るのを身達冬は頷くと、彼女は真耶を見る。

 真耶は困惑しているが頷くと、千冬の代わりに喋る意味で前に出る。

 

「皆さんは色々とあるかもしれませんが実は今日、このクラスの二人の転校生が来るのです」

 

 刹那、クラスの生徒達はざわめきだす。二人の転校生? それは驚きとしか言いようが無かった。何故なら学園は今大変な事が起きているのに今更とも言えるからだ。

 しかし、どんな者達かまでは判断出来ないが新しい仲間である事には変わらないのと、どの国から来たのかも判らないからだ。周りは何かを考えるように近くにいる人達と話すが千冬の再度の一喝で黙ってしまう。

 真耶は少し苦笑いするが気を取り直すと、扉の方を見る。

 

「では、入ってきて下さい」

 

 真耶が扉の方を見ながらそう言った。刹那、扉が自動で開く。生徒達は音に反応して一斉に扉の方を見やる。同時に、二人の女子生徒が教室に足を踏み入れた。

 一人は金色の長い髪を後ろで一纏めにしているが透き通った白い肌に澄んだ紫色の瞳の少女であり、制服であるがスカートは短い、が、美脚であった。

 もう一人は小柄であるが腰まで伸びている銀髪が特徴的であるがで、左目には眼帯をしているが、右目は紅い。制服は普通であるものの表情は険しく、軍人のような雰囲気を醸し出している。

 生徒達は二人を見て何も言わないが緊張している。どんな人物かまで把握出来ないからだ。しかし、二人の転校生は教卓の前に立つと、生徒達を見るように振り返る。

 

「シャルロット・デュノアです。フランスから来ました」

 

 金髪の少女は自らの名を彼女等に教える。穏やかな自己紹介でもあるが、周りはポカンとしていた。この状況を理解していないのか、と。

 

「…………」

 

 しかし、銀髪の方は何も言わない。が、何かを探しているように視線を左右に泳がしている。軍人のように佇んでいるが周りはそれを気にしていた。

 少女からは会話は愚か、自己紹介は無い。同時に近寄り難い雰囲気を醸し出しているからであった。しかし、そんな少女に千冬は呆れると、訊ねた。

 

「ラウラ、ちゃんと自己紹介しろ」

 

 千冬は呆れながらそう言うと、少女、ラウラは反応し、千冬を見ると、彼女を見ながら敬礼した。

 

「はい、教官!」

 

 ラウラは千冬に敬礼した後、クラスの生徒達を見るや否や、自己紹介した。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。それだけだ」

 

 ラウラはそう言った。しかし、生徒達はラウラの言葉に疑問を抱いていたのだった……。


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