インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第115話

「…………」

 

 あれから一時間後、ここは生徒指導室。ここは規則を破り、進路の事で色々と話をしなければならない生徒と話をする為に設けられた部屋だ。

 そんな部屋には一人の女性職員がイスに座りながらデスクに肘を突きながら目を閉じていた。眉間に皺を寄せているが誰かを待っている。彼女の目の前には空いたイス、すなわち、その誰かが座る物でもあった。そして、その女性職員は千冬であった。

 彼女は誰かを待っている。その者は彼女にとって問い質したい者でもあったが同時に憤りを覚えていた。しかし、そうなるのも無理はない、彼女はその場で待機する以外、何も出来ないのだった。その者は放送で呼び出しをしている為、ここに来るのも時間の問題であった。

 いつ来るかは彼女には判らない、何か訳があって遅れたのなら兎も角、無視する事は出来ない。雷を落とされる危険もあるからだ。それでも待つ事以外、何もしないでいる。最悪、再び放送で呼ぶ以外は……。

 刹那、この室内を出入り出来る扉から叩く音が聴こえた。誰かが外からノックしてきた音でもあった。千冬はそれに反応する意味で瞼を開くと、視線を鋭くしながら扉の方を見る。

 

「誰だ?」

「二年の更識楯無です」

 

 千冬が問い掛けると、扉の向こう側にいる者は直ぐに応えた。が、千冬は眉間に皺を寄せ続けている。やっと来たか、千冬はそう思っていた。

 同時に怒りが更に煮え滾る。何故黙っていたのか? と。そんな千冬を余所に扉が開き、一人の女子生徒が生徒指導室に足を踏み入れる。

 楯無であった。彼女は放送で呼ばれたのだが表情は何処か哀しく、つらそうにも見える。いや、当主や生徒会長の事で色々と疲れきっているからだ。

 彼女の目尻には微かに涙の跡が残っている。暗部の当主とは言え、生徒会長とは言え、一人の少女だからだ。

 しかし、そんな楯無に千冬は何も言わなかったか歯軋りする。楯無への怒りがあったのだ。千冬の行動に楯無は目を見開くが直ぐに俯くと、何も言わず扉を閉めると、無言で千冬の向かい側にあるイスに腰掛ける。

 

「…………」

「…………」

 

 二人の間には会話は無い。が、千冬は口を開く。

 

「どう言う事だ……更識姉!」

「……えっ?」

 

 千冬の言葉に楯無は惚けてしまうが顔を上げる。千冬は鬼の形相をしていた。怒っているようにも思えるが楯無は悪い事をしている訳ではない。

 いや、規則を破った訳ではない、千冬に有る事を隠していた事を咎められていた。それは千冬にとって赦されない事であり、憤りしか無い。

しかし、楯無の返事は千冬の逆鱗に触れてしまった。

 刹那、千冬はデスクを叩く。

 

「惚けるな!? 何故一夏を、私の弟をお前達の家業に入れたのかと訊いているんだ!!」

「っ!?」

 

 楯無はデスクの音に震えるが千冬の言葉に反応していた。バレた、そう思っていた。同時に千冬が訊ねているのは恐らく、一夏が暗部に身を墜とした事だろう。

 暗部とは裏家業であり、暗殺や諜報等の危険な仕事を受ける事が多い。言わば平成で言う忍びみたいな存在だ。千冬は一夏がその暗部にいる事を楯無に問いつめていた。

 と言っても一夏は楯無と簪の父であり、前当主である源次の推しで入ったに過ぎない。利用する為でもあるが一夏は暗部の、否、人間とは思えない速さで任務を熟し、達成してきた。

 今の彼は更識家にとって重要な人物としても認識されている。源次や半蔵、その彼等の愛娘達や従者達も彼の行動力に驚かされてきたのだ。

 しかし、千冬にはその事を言っていないが彼女に言う気は更々ない。言えば怒るのが目に見えていた。楯無は千冬の様子に戸惑うが千冬は言葉を続ける。

 

「何故一夏を暗部に入れた!? 布仏姉妹から訊いたんだぞ!?」

「なっ!?」

「それだけではない! 一夏が自ら言ったのだぞ!?」

 

 千冬の言葉に楯無は更に驚く。が、一夏が箒に対して従者と言っただけであるが千冬から見れば暗部に入った事を楯無に咎めている。

 近くには布仏姉妹がいたが千冬は彼女等に訊ねたが虚は戸惑いながらも何も言わず、本音は泣きながら虚の背中に隠れていた為に納得出来るような事は聞けれなかった。

 それでも千冬は憤りを隠せない中、ある事を思い出す。それは楯無に咎める事であった。千冬は楯無に訪ね続ける中、楯無は目を見開きながらもつらそうに俯いた。

 バレた事に戸惑いを隠せないからであった。同時に言い返せる事は出来ず、弁明する気力も無い。彼女が悪い訳ではないが源次の代わりに怒られているのだ、指摘されているのだ。

 同時に今の彼女は何もかも丸投げしたいくらい、落ち込んでいる。そんな状態の彼女に千冬は同情さえもせず知らない中、更に怒り続ける。

 

「答えろ更識姉! 何故アイツは、お前等の所にいるんだ! 答えろ!」

 

 千冬は我を忘れて怒る。そんな彼女に楯無は何も言わず震えている。悪い事をした訳ではないが悪い事をした。理不尽でもあるが身内である彼女にも非がある為、仕方ない。

 楯無は縮こまる思いをする中、千冬は更に怒る。

 

「答えろ! 更……」

「止めろ……!」

 

 刹那、千冬の怒りを鎮める意味で、第三者の声が聞こえた。千冬は驚きながら、楯無は目を見開きながら声がした方を見る。そこには、楯無の直ぐ隣には右腕の無い一人の青年が立っていた。

 その人物は、一夏であった。彼は患者着姿であるが集中治療室からここまで来たのだ。無論、風のように移動しながらであるが。

 

「い、一夏……何故ここに!?」

「お、織斑君……!」

 

 千冬と楯無は驚くが一夏は眉間に皺を寄せている。千冬に向けてでもあるが千冬は彼の鋭い眼差しに肩を震わせるが楯無は違った。

 彼女は一夏がここにいる事に驚いているがどうやって来たのかまでは知っている。が、突然の行動で驚くが一夏は千冬に対し彼女を睨んだまま左腕で楯無を自分の方へと引き寄せる。

 

「っ!?」

 

 楯無は一夏の行動に目を見開く。が、患者着姿とは言え布越しからでも彼の肌を感じる。楯無はそれに気づきつつも彼を見上げる。

 

「い、一夏……お前は何故!?」

 

 千冬はイスから立ち上がりながら訊ねる。刹那、一夏は何も言わずに楯無を巻き込む意味で風のように消えた。

 

「なっ!?」

 

 一夏の行動に千冬は驚くが彼は楯無と共にいなくなった。千冬は愕然としながらも辺りを見渡す。室内には誰もいない。いるのは彼女だけであるが千冬は外を出る。

 外、廊下にも誰もいない、人が通る気配もない。しかし、一夏が楯無と共に何処かへと消えた事に驚きを隠せないでいた。

 

「い、一夏……!」

 

 千冬は我を忘れ、弟と、楯無を問いつめる為に二人を探す為に廊下を走り出した。彼女自身が履いているヒールの音を立てながら……。

 

 

「……お姉ちゃん」

 

 その頃、ここは一夏と楯無の部屋。一夏のデスクの上は荒らされた後なのか酷く散乱している。そして、ベッドの上には枕を抱き締めながらつらそうに俯いている幼女、一美であった。

 彼女は鈴がいなくなった後、ベッドの下から出てくると、再びその場で待機していた。しかし、鈴は一夏の何かのデータを探すのに失敗し、部屋を出たのだ。

 それは、誰かが来る事に警戒しているのと、バレたら両親の命が危ういからでもあった……。鈴がいなくなったとは言え、一美は経過しているのと微かに怯えている。

 彼女は楯無が早く戻って来る事を祈っていた。刹那、一美の近くから何者かが風のように現れた。

 

「っ!?」

「きゃっ!」

 

 一美は突然の事で驚くが誰かが声を上げていた。一美が振り返ると、更に驚く。そこにいたのは、尻餅を突いている楯無と、その隣には一夏がいたのだ。

 

「……誰だ、お前?」

 

 一夏は彼女を見て眉を顰める。そうだろう、自分達がいる部屋に見知らぬ幼女がいるのだ。それは侵入者かも判らないのだ。一夏は一美を見据える中、一美は震えている。

 彼女は一夏の様子に気づくのにはそう時間は掛からなかった。一方、楯無は一美に気づくと、驚きつつ立ち上がる。

 

「一美ちゃん!」

 

 楯無は一美に近づくと、軽く屈むと彼女を見る。

 

「お姉ちゃん……」

「どうしたの? それに良くお留守番していたわね?」

 

 楯無は一美に優しく問い掛ける。一美は楯無を見て微かに微笑むと軽く頷いた。安心していた。楯無が来た事による物だろうが確かに安心していた。

 が、それは一時的でしかなかった。一美は直ぐに一夏の方を見る。一夏は自分を睨んでいるが一美は一瞬だけ震えていた。

 

「あっ……織斑君」

 

 楯無は一夏を見る。哀しそうであるが一夏は一美を睨み続けている。が、楯無は一夏を見て俯く。あの事がバレた事に後悔していた。しかし、一美は楯無の様子に気づくが一夏の事も気になっている為、どうすればいいのかは判らなかった。

 そして、一夏は楯無の様子に気づく中、一美が何者かも気になっていた……が、直ぐに眉を顰める。

 

「まさかお前……」

 

 一夏は気づいた。一美もまた、自分と同じプレイヤーである事に……それも、手を組むまででは考えていなかった……それも一美からのお願いされるまでは……。


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