インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第113話

「ウグッ……ひぐっ……」

 

 その頃、ここは学園内にある、とある女子トイレの中の一室。その室内にはトイレはあるが一人の少女がその上に膝を抱くように座りながら泣いていた。

 楯無だった。彼女は止まらないまま、溢れてくる涙を何度も拭いながら泣き続けていた。原因は箒に疫病神と言われたからである。それだけならまだしも、確かに疫病神なのかもしれないと思っていた。自分の行動のせいで一夏を危険な目に遭わせ、二度も殺されかけている。

 死の片棒を担ぐようにも思えるが彼女が悪い訳ではない。が、それ以上に楯無は多くの従者を喪ったのだ。あれは父の命とは言え、自分もその原因を担いだようにも思える。

 楯無はそれに気づくが確かに疫病神とも言える。従者者達が死んだのは自分と拘ったせい、一夏が死にかけているのも自分を守ったせいだからだ。

 何が当主だ、何が学園を守る生徒会長だ、自分は誰も守っていないではないか、と。楯無は自分に非があると思いつつ泣きながら呟いた。

 

「もう嫌だ……生徒会長も、更識家当主も……何もかも嫌だ……嫌だ……!」

 

 楯無は泣きながら全てを否定した。最早、自分は楯無ではない、会長としての器ではないと、全てに悲観している。刀奈に戻りたい、出来る事なら普通の家庭で生まれ、そこで人生を謳歌したい、そう思ってしまった。

 

「…………」

 

 そんな中、トイレの外側、通路の方では一人の少女が奥から聴こえる嗚咽に耳を傾けながらもつらそうに下唇を噛みながら俯いていた。楯無の妹、簪だ。

 彼女は姉を心配し、従者である布仏姉妹に一夏を看るよう言い残し、姉を追い掛け、捜していたのだ。が、ついさっき見つかったのだが声を掛ける気配はない。

 勇気がないからではない、姉のつらそうな声と気持ちに何も出来ないでいたからだ。吐き出させる意味でもあるが楯無のつらそうな姿を想像するだけでも妹である自分もつらくなっていく。

 姉は一夏を追い詰めたのが自分だと思っている、一夏を傷付けたのは彼女ではない、未知の機体と一彦だ。何方も強者でもあるが未知の敵だった。

 一夏と姉はそれを相手にしていた。学園を守る義務として挑んだに過ぎないのだ。一夏は楯無を守ったが従者としての使命だ。姉が気に止む事ではないと言い切れないが姉は自分を追い詰めている。

 刀奈として生きていきたいと思っている。出来る事なら慰めたいが自分は姉を赦さないでいる。同時に姉に酷い事を言った箒に対しても怒りが沸いてくる。

 哀しみと怒りが混じり合っているが簪は目に涙を浮かべている。好きな人が死にかけているのと姉が困っている事への不安で押しつぶされそうになっていた。

 簪は目元を抑えながら壁に凭れ掛かりながら崩れ落ちると、嗚咽を上げながら何かを呟く。

 

「織斑さん……助けて……お姉ちゃんを……お願い……!」

 

 簪は一夏に懇願した。何も出来ない自分への罪悪感を抱きながらも彼に助けを求めていた。この状況を打開出来るのはかれ、一夏しかいないと思っているからだ。

 学園は今、不穏な空気に包まれている。暗い影を落としている。それを変える事が出来るのは一夏しかいない。彼なら時間を掛けてでも立て直す事が出来る、姉の負担を少しでも和らげる事が出来ると思っていた。

 しかし今はそれさえも出来ない、このまま目がさまさないと言う訳ではないが少しの間、この状況が続く事に悲観していた。いつまで続くのかは判らない。だが今は哀しみに包まれている。

 出来る事なら早く目覚めてほしい、そう思っていた。簪はそう思いながら泣き続けていた。トイレの中では楯無が泣いている。姉妹は悲観している中、誰も手を差し伸べられないでいるのだ。

 そんな彼女達を救えるのは彼、織斑一夏しかいない。だが今は、状況が状況であり誰も慰められないのであった……。更識姉妹が泣く中、二人は絶望に包まれていた……。

 

 

 

「お、おい小娘、何を言ってるんだよお前!?」

「そ、そうよ!? 正気なの!?」

 

 その頃、学生寮の一夏と楯無の部屋では一美と、彼女が引き連れている殺人鬼、チャッキーと彼の妻、ティファニーが揉めていた。それは、一美が一夏に協力関係を願う事であった。

 一美の言葉にチャッキーとティファニーは驚きを隠せず、詰め寄っている。一美の発言とは一夏と同盟を結ぶ事であった。それは敵対する者同士が互いの利益の為に手を組む事である。

 しかし、それはデメリットでしかない、一美は全プレイヤーの中では最弱とも言える。彼女自身が即席プレイヤーでもあり、ゲーム全体を理解していないからだ。

 自殺行為とも取れる発言でもあるが、彼女の場合は敵の敵は味方と言えるだろう。が、一夏が承諾するとは思えない上、相手は全プレイヤーの中では最強格にあたるのだ。

 そんな者が弱者である彼女の要求を受け入れるかどうかは判らない、逆にまた利用した挙げ句、殺す確率も高く、脱落をも意味しているのだ。

 チャッキーとティファニーはそれに危惧する中、一美は訳を述べる。

 

「で、でも……私達、とても弱いし……で、出来る事なら、協力すれば……」

 

 刹那、会話を無理矢理遮らすように、この部屋を出入りする扉から、扉の開く音が聴こえた。一美は驚きながら振り返るが枕を落としてしまう。そして咄嗟にベッドから降りると、ベッドの下に隠れる。チャッキーとティファニーも驚くが人形達は風のように消えた。

 

「……っ!」

 

 一美は口元を両手で抑える。誰かが来た、それだけでも判ったのだ。しかし、楯無ではない事にも気づいたのだ。彼女なら開けるや否や、声を掛ける筈、なのに、声が無いと言う事は別の誰かが来た事である事だと思っていた。

 自分は楯無や布仏姉妹以外知られていない。それが原因でもあるが一美は楯無の為にも誰にも知られない為にも隠れたのである。

 しかし、一美は隠れているだけでも怖がっているのだ。出来る事なら帰って欲しい、そう願っていた。刹那、誰かの足が見える。少女であるが楯無や布仏姉妹とは違う事に気づいた。

 一美はそれに気づくが恐怖で動けないでいる。声も愚か身体も震えている。誰かに助けを求めたいがそれが出来ない。チャッキーとティファニーを使ってもいいが自分にはそれが出来ない、人を殺す事が出来ないのだ。

 一美はその事で自分の弱さを痛感しながらも部屋に来た者に対して恐怖している。すると、その少女は何かを捜しているのか誰かの机の上を漁り始める。

 大事な物を捜す為にも思えるが少女らしき者から泣き声が聞こえた。

 

「ひぐっ……うぐっ……」

 

 一美はその嗚咽に気づいた。目を見開くが少女らしき者から途切れ途切れであるが呟くような声が聞こえてくる。まるで後悔しているようにも思えるが何か理由があるようにも思えた。

 

「一夏……」

 

 その少女は一夏の名を呟いている。その少女は鈴であった。彼女は机を漁っているが一夏の机でもある。彼女が探している物、それは織斑一夏のデータであった。

 それは中国政府からの命でもあるのだ。中国政府は男性操縦者のデータを欲しがっている。鈴をスパイにさせたのもそれであった。鈴は政府の命に逆らえない狗へと成り果てていた。

 いや、両親の身の安全を盾にされているからだ。鈴は両親を守る為に狗になっただけだ。しかし、中国政府の命で一夏のデータを探すよう言っているだけでもあるが鈴にはつらかった。

 一夏に嫌われたくない、両親を殺されたくない、それが鈴の純粋な気持ちを弄んでいるのは中国政府である。彼女がどうなろうと中国政府には痛くも痒くもない。

 一夏のデータを欲しがっているだけであった。鈴は泣きながら一夏の男性操縦者としてのデータとなる資料を探している中、私物をも探している。

 両親を助ける為には想い人を出汁にしなければならなかった。鈴はその事で苦い思いと葛藤する中、探す手を止めない、泣くのを止めない。

 

「一夏、ごめんね……ごめんね……!」

 

 鈴は泣きながら彼に謝罪する。後悔の念を吐き出すようにも思えるが彼に嫌われたくない思いで一杯であったからだ。そんな鈴に、ベッドの下に隠れている一美は何も解らず困惑している。が、彼女には何か理由がある事だけには気づいていた。

 しかし、一美は鈴の様子に気づきながらも泣いている。見つから無い事を祈っていた。鈴が何かを探し終えるまでの間、幼女はその場を動けないでいた……。


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