インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「!?」
ブギーマンは楯無のランスで突かれ、同時に腹を刺されてしまう。それが原因で包丁を落としてしまった。が、ランスの先端はブギーマンの腹に食い込み、ブギーマンの服の腹部分に血が滲み出る。それは生々しく、人が刺された瞬間でもあった。
「キャァァァ!!」
簪は悲鳴を上げる。彼女は刺される所を産まれて初めて目撃したからだ。生々しく思えるのと同時に、恐怖でしかないだろう。人が死ぬかも知れない恐怖さえもあるだろう。が、そんな簪に楯無は言い放った。
「見ちゃダメ! それに簪ちゃんは逃げなさい!」
楯無は簪を気遣うように言った。姉として妹を守ろうとしてるのだった。が、それはムダであった。簪はブギーマンが楯無に殺害されると言う意味での刺された瞬間を目撃してしまった事が原因で腰を落とす。
いや、彼女自身が恐怖で支配された事での行動だった。彼女は顔を涙でくしゃくしゃにしているが身体を震わせている。逃げる事は愚か、それを行動する気配さえもない。
簪の様子に楯無は困惑する。
「簪ちゃん! 逃げて! 逃げなさい!」
楯無は簪に言う。怒りや困惑が入り混じっているようにも思えるが簪からは返事や行動の気配はない。未だ、恐怖で震えている。
「簪ちゃ! ……っ!?」
楯無は何かに気づき、ブギーマンを見る。ブギーマンは腹に刺さる意味で食い込んでいるランスを両手で掴むと、力一杯掴んでいた。楯無はランスを掴まれている事に気づき、ランスを更に食い込ませようした。
「なっ!?」
刹那、楯無は何かに気づいた。それは、ランスが言う事を聞かないようにびくともしないのだ。いや、ブギーマンの掴む手が強すぎた事だろう。
彼は人の頭を押しつぶす程の握力を持っている。暗部の人間とはいえ、ブギーマンから見れば一般人としか見られていないのだろう。
「くっ! この!」
楯無はランスを動かそうとしたがブギーマンの握力には敵わない。一方でブギーマンは力一杯掴むと、腹から離れさせた。微かだがブチブチと何かの切れるような音が聴こえるが楯無は目を見開き、簪は。
「キャァァァ〜〜!!」
簪は悲鳴を上げるが、同時にブギーマンは完全にランスを腹から離れさせた。ブギーマンの腹には血が出続けている。とてもどす黒く、不気味であり、微かに肉が見える。
しかし、ランスの先端にはどす黒い血が付着しているがブギーマンの物である事は一目瞭然であった。目撃者かつ、本人が自ら名乗りを上げない限り、誰のかは判らないだろう。
楯無はブギーマンの腕力に改めて驚くが直ぐに歯を食い縛ると、ランスを解除する。ブギーマンはランスが解除された事に驚きはしないが楯無はISを足部分だけを展開しながらブギーマンに迫ると、横蹴りした。
刹那、何かを蹴る音が通路内に響き渡る。同時にブギーマン後ろへと吹っ飛ぶ。百キロ以上はあるであろう巨体が少女の一発の蹴りで宙を舞い、血も舞う。
ブギーマンは仰向けで地面に叩き付けられるが、起き上がる気配はない。楯無はその隙にISを解除すると簪に駆け寄り、肩を掴む。
「簪ちゃん、今のうちに逃げるわよ!?」
「……あっ……ううっ……!」
簪は首を左右に振る。拒んでいるのだ。
「どうしてなの!? 逃げなきゃ私達が殺されるわよ!?」
「い、いやだ……!」
「簪ちゃん、そんな事を……!」
「織斑さんをはどうなるの……!?」
「えっ!?」
簪の言葉に楯無は目を見開くが簪は泣きながら怒る。
「織斑さんはどうなるの……!? 織斑さんを置いて逃げたくない……!」
簪は泣きながらいい放った。それは簪が一夏を想い、そう言ったのだ。自分達が逃げればどうなる? ブギーマンは一夏を殺しに掛かるだろう。そうなれば見殺しになるのだ。
「で、でも奴の目的は私達よ!?」
「それでもダメ! アイツは織斑さんを連れて行くかもしれないんだよ!?」
「っ!?」
簪の言葉に楯無は更に驚く。しかし、簪の言い分は正しいのだ。ブギーマンは自分達を殺して、一夏を連れて来いと一也に言われたのだ。が、もしも一也が人形を始末して、一夏の所に戻ってきたらどうなる。有無も言わず殺すだろう。
簪は逃げたくなかった。それは一夏を守りたいと言う少女の強い遺志でもあった。が、彼女は非力でありか弱い少女だ。それでも、心の中は厚い炎を滾らせている。
一方、楯無はそこまで考えていなかった。否、簪を守りたいが為に冷静を欠いていたからだ。姉として思うが故の枷ともなっていたのだ。楯無は簪の言葉に驚く中、簪は何かに気付き叫んだ。
「お、起きたよ!?」
「なっ!?」
簪の言葉に楯無は驚きながら振り返る。ブギーマンは上半身を起き上がらせていた。が、それは復活したと言う意味でもあった。楯無は驚くが簪を背中に隠す。
その間にブギーマンは起き上がると、重い足取りかつ彼女達に歩み寄る。楯無は「そうはさせないわ!」と言いながら立ち上がると、ISの腕部分だけを展開しながら、ブギーマンに迫る。
楯無は腕を振り上げると、ブギーマンを殴ろうとした。が、それはブギーマンに掴まれる意味で防げられてしまう。楯無は目を見開くがブギーマンは楯無を持ち上げる。刹那、ブギーマンは楯無を横へと放り投げた。
更にその直後、楯無は背中から壁に激突する。
「ああっ!!」
楯無は身体中に激痛を感じるが地面に直撃した。それが原因でもあるが更に激痛が走ったのだ。
「お姉ちゃん!?」
簪は泣きながら楯無を心配するが楯無は激痛で悶えていた。が、ブギーマンは楯無を見て気にもせずに簪を見る。
「ひっ!?」
簪は悲鳴を上げるがブギーマンは簪に歩み寄る。しかし、簪は腰を落としたまま動けないでいる。いや、一夏を置いていけないのと、簪を見捨てる事が出来ないからだ。
そんな簪の気持ちを察する事も無く、ブギーマンは簪に歩み寄る。途中、片膝を突くがそれは落とした包丁を拾う為であった。ブギーマンは包丁を拾うと立ち上がり、再び簪に迫る。
「か、簪ちゃん……逃げて……! 逃げて!」
楯無は激痛を堪えながら簪に言うが目に涙を浮かべている。が、簪は未だその場を動こうとはしなかった。一夏と楯無を見捨てる事が出来ないのと、ブギーマンへの恐怖が彼女を足止めしていたのだ。
「あ、ああっ……!」
簪は腰を落としたまま泣き続ける。一方でブギーマンは簪に慈悲を与えるつもりも無いように、歩み続けるが簪の直ぐ近くまで迫っていた。
彼女よりも二回り、いや、それ以上な巨躯が簪を覆い隠すように近づいてくる。そして、ブギーマンは簪の前に立ち止まると、簪を見下ろす。
簪は泣き続けていたがブギーマンは包丁を振り翳そうとして、包丁を持っている手を上に伸ばそうとした。
「止めて! ……止めてぇぇぇーーーーっ!!」
楯無は涙を流しながら懇願する。しかし、彼女は動けないでいるのと身体が言う事を聞かないからであった。
「あ……あぁっ!」
簪はブギーマンを見ながら震え続けている。しかし、ブギーマンは包丁を上まで上げると、簪目掛けて振り下ろした。
「イヤァァァぁっーー!!」
簪は恐怖の余り目を閉じながら頭を抱える。殺される。そう感じたからだ。が……刺される音はしなかった。
「あっ……!?」
そんな中、楯無は目を見開く。
「……えっ……!?」
簪はいつまで経っても刺されない事に気づき、目を開けた。刹那、簪は目を見開いた。
「あっ……!」
簪は目を見開いた。しかし、簪が驚くのも無理は無い。何故なら、包丁は簪の頭を突き刺してはいない。そうなれば簪は死んでいるのだ。
簪が生きていると言う事は、包丁は簪を差す事は出来なかったからだ。しかし、包丁は誰かを刺していた。それもある人物の腕を。
「!?」
包丁の持ち主であるブギーマンは驚き腕の主を見た。刹那、ブギーマンは思いっきり鳩尾を殴られる。ブギーマン程の大男が、強靭な巨躯の持ち主が簡単に宙に浮いたのだ。
ブギーマンは激しく叩き付けられた。背中からとはいえ、大男であるブギーマンには痛いだろう。大きな音が響き渡るがブギーマンが叩き付けられた音であった。
が、包丁は手放している。落ちた音はしない。何故なら、包丁は簪を守ろうと腕を犠牲にした者の腕に突き刺さったままであるからだ。
「あ……ああ!」
「っ……!?」
そんな中、更識姉妹は驚きを隠し続けないでいた。その者を見て驚き湯づけていたのだ。が、その者は彼女等が良く知っている大男であった。
ヨレヨレの服に白いホッケーマスクを付けている大男、誰から見ても武器であるだろう。が、その大男の正体は一夏が引き連れている殺人鬼、ジェイソンであった。
彼は更識姉妹を守る為に動いたのだ。しかし、彼が独断で動いたのではない、楯無に逆らったのではない、彼は保険をかけられてのだ。それは一夏であった。
一夏は少し前、ジェイソンと一緒にいた際、レザーフェイスとの戦いを終えた際に、ジェイソンに、こう言っていたのだ。
『自分が怪我で動けない時には、お前が更識姉妹を守れ』と。
ジェイソンは一夏の命を受けただけであるが、彼が怪我を負った際に、何か遭った時の為にジェイソンにそう言い残していたのだ。それは功を奏しているが、一夏は更識姉妹に何か遭った際の保険をジェイソンに託したのだ。
ジェイソンは更識姉妹を守る為に一夏の命を受けたに過ぎない。が、ジェイソンがいる限り、彼女達の心強い味方である事に変わりは無かった……。
次回の土曜日の投稿はお休み致します。次回は日曜日からの投稿になります。