インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第10話

 一時間後、此所は東京の某所――そこは沢山の高層ビルが並び建っているが地上は騒がしかった。それもその筈、地上は今、警察による大規模な捜査が行われていた。

 理由は至って簡単、男性のみでISを動かした男の存在――それは日本中に衝撃を与え、世界中にも衝撃を与えている。警察は上層部の命――言わば政治家達の命だろう。

 彼等は男性操縦者の存在を知りたくも保護したいのだ。ISに革命を起こし、男尊女卑社会を覆す事が出来る――そう考えていた。逆で言えば私利私欲の為であるが今は見つけるのが先だろう。

 

 そんな中、とある高層ビルの屋上には、ある青年がいた――一夏である。一夏は眉間に皺を寄せながら腕を組んでいるが、彼は数分前からビルの屋上の中央に居たが、此所は十階建ての大きくもないビルであるが、彼は何故か其処に居た。

 理由は勿論、ある者を持っていたからだ。それで彼は此所に待っている。ビルは何処でもいいが彼が此所に待ってるのも近くには自分がISを起動した場所に近いからであった。

 それに彼が待っているのは……刹那、一夏は上空を見上げる。空は青いが彼は何かが近づいてくるのを感じたのだ。

 的中した――そこには何かが此方へと迫って来る。と言うよりも少し離れた場所へと迫る。それ異形な物、否、乗り物であった。人参なのだ。人参型ロケットだったのだ。

 一夏はそれを見て眉間に皺を寄せ続けるが人参型ロケットは直撃する一歩手前に宙に浮く形で停まるが突然、人参型ロケットから扉らしき物が開く。

 刹那、誰かが降りてきた。二十代の女性で紫色の長髪に琥珀色の瞳。ウサ耳を着けているが青と白を基準としたドレスを着ている。

 

「あっ……っ」

 

 女性は一夏を見つけるや否や、目に涙を浮かべる。逢いたかった――彼女は一夏に対してそう言った感情を抱いていた。三年前のあの日から、今日までの間ずっと捜し続けていた。

 が、今その時がずべて終わった。彼は、一夏は目の前に居るのだ。彼女から見れば嬉しかった。ISを起動した男性――それは誰でも良かったのと別にどうって事は無かった。

 しかし、目の前にいるのが一夏である事に変わりは無かった。

 

「いっくん……私だよ、束さんだよ?」

 

 女性は自らを束と言う。しかし、一夏は束をずっと無言で見ていた。

 

「いっくん――いっくーーん!!」

 

 束は泣きながら一夏に駆け寄る。一夏は彼女を無言で見ていたが束は一夏に抱き着こうと飛びかかる。刹那、一夏は彼女の首を掴んだ。

 

「うっ!!?」

 

 束は首を掴まれ悲痛の声を上げるが一夏の手を両手で掴む。しかし、彼女は一夏に宙に浮く形で掴まれていたが彼は束を睨んでいた。

 

「い……いっ、く……ん?」

 

 束は自分の首を絞めている一夏に愕然としていた。何時もの彼とは違う――束はそう感じていた。何時もの彼は誰よりも優しく、自分よりも他人を気遣う優しい青年だ。

 しかし、今の彼は他人を見下ろし、怒りを露にしている。自分に向ける瞳には怒りと憎悪が込められている。束は一夏の様子に気付いていたが首を絞められている為に意識が朦朧としていた。

 彼の手には力が込められているのとそれが人間とは思えないくらい事にも気付いた。束は何とか逃げようとするか抵抗するが一夏には敵わなかった。

 男性と女性の力の差とも言えるが一夏は束の首を掴んでいたが彼女を乱暴に投げる。束は地面に叩き付けられるが一夏は束を無言で見ていた。

 

「い……いっく、ん?」

 

 束は身体中に走る激痛を堪えながら、一夏を見る。一夏は束を見続けていたが眉間に皺を寄せている上に、束に手を差し伸べていない。

 何時もの彼なら手を差し伸べる筈だが何時もの彼ではない――今の彼は一夏は束にも憎悪を抱いていた。ISを造った張本人でもあり、自分が立場を悪くし、言われも無い誹謗中傷に遭ったのだ。

 それだけでも苦い思い出だが自分は束の応援をしていた――彼女を心配させまい様に気丈に振る舞っていた。しかし、三年前のあの日ですべてが変わった。

 結局はISのせいで自分の運命は変わってしまったのだ。自分がドイツに行ったのもIS関連で行ったのだ。全てISのせいで変わったのだ――自分が束を気遣ったのも全て無駄と感じてしまった。

 優しいだけでは何も変わらない――一夏はそう気付くと共に必死で立ち上がろうとしている束を無言で見続けていたが束から見れば一夏の視線が痛く恐怖さえも感じていた。

 

「いっくん……な、なんで酷い事をするの? 束さん、だよ?」

 

 束は身体中に走る激痛を堪えつつ立ち上がると彼に歩み寄る。一歩一歩、彼の傍へと近づく。一方、一夏は束を見て何とも思っておらず、表情は険しいままであった。

 憎悪を向けているが何故か動こうとはしない。束が此方へと近づく中、束は手を伸ばして来る。一夏に触ろうとしていた、肌に触れようとしていた。

 刹那、一夏は彼女が伸ばしてきた手を叩く様に払う。束は一夏の行動に瞠目した。一夏の行動は拒絶とも思えた。それだけでなく、彼は一向に口を開こうとはしない。

 束が嫌いではない――憎悪の感情を向けているが為と、彼女とは話したくないと言う理由なのだろう。

 

「い、いっくん? どうした、の?」

 

 束は叩かれた手を押さえつつ震えながら訊ねた。叩かれたては赤くなっており、ヒリヒリとするくらいだ。が、束は手の痛みよりも一夏の様子が変である事に疑問と恐怖していた。

 

「……何が、いっくんだ、元凶兎め……」

 

 刹那、一夏は微かに口を開くと、束にそう呟いた。――っ!? ――。その言葉は束には戦慄を走らせるには充分な言葉だった。背筋が一瞬だけ伸び、一瞬だけ肩を竦め、一瞬だけ身震いした。

 束は一夏の言葉に戦慄が走っただけでなく、彼の他人行儀とも言える言葉を悲痛や戦慄を感じていた。何時もの彼なら自分に優しく問い掛けるのに今は違うのだ。

 束は震えながら両手で口元を押さえるが何かを言いたかった。否、何も言えなかった――一夏にかけてやる言葉が見つからなかった。余計な事を言えば彼の逆鱗に触れる――そう感じたのだ。

 

「何がいっくんだ……てめえのせいで俺はどんだけ、どんな目に遭ったのかを知ってんのか?」

「い……いっく……」

「知らねえだろうな……貴様は他人には興味が無い兎だからな……!」

 

 一夏は束に対して辛辣とも思える言葉を続ける。束は一夏にとって心を許せる存在だった。今は違う――彼は彼女が造ったISにより酷い目に遭ってきた。

 それを返す意味で、ツケが回る意味で彼女に返そうとしていた。彼は束には愛情や慈悲は無かった。最初は応援していたが今は憎悪の対象であり、デスゲームを制した後にある願いでISを排除するのもそれが原因だった。

 一夏は三年もの間、誰とも接触しなかった事で寂しさを募らせる以前に憎しみをも増幅させていた。全てはISが原因だ――そう思ってしまった。

 今の彼には束の言葉は届かない――それ以前に彼女を他人としか見ていなくなっていた。ISが彼を変え、人間関係を変えてしまった。最早戻る事は難しい――最悪、元には戻れないだろう。

 

「貴様は今まで、ISの事ばかり考えていた……他人等、如何でも良いと思っていやがった……」

 

 彼は、一夏は束に辛辣な言葉を続けるが束にとっては一言一言が胸に突き刺さる。他人の言葉なら兎も角、一夏の言葉が彼女から見れば辛く哀しくも思えた。

 裏切りに遭った気分であるがそれ以上に哀しみが込み上げてくる様にも思えた。彼は辛い思いをしていた事には気付いていたが、束は一夏に手を差し伸べる事は出来なかった。

 自分は追われている身であり、彼を構ってやれなかった。時折連絡もしていたが彼は嬉しそうであった。否、あの時の彼は自分を気遣う意味でも気丈に振る舞っていたのだろうか? そう感じた。

 しかし、追われている身であり、あまり構ってやれなかったのもそれだった。

 束は色んな思考を走らせるが一夏は言葉を止めない――否、束に憎悪をぶつけようとしていた。此所で待っていたのはそれであった。ISを起こした事は想定外だが束に憎悪をぶつけようとしていたのだ。

 

「……もういい……」

 

 刹那、一夏は何を思ったのか言葉を止め、踵を返すと何処かへと行こうとしていた。

 

「ま、まっていっくん!!」

 

 束は我に返ると、一夏を呼び止める。何かを言いたかった――今言わなければ彼は遠くに行く様にも感じるが何とか止めたかった。出来る事なら彼に戻ってきてほしい。

 自分の幼馴染みである女性の為に、自分の妹の為にも戻ってきてほしい――束はそう願い出来る限りの勇気で一夏を呼び止めたのだ。すると、彼は立ち止まると、肩越しで束を見る。

 瞳には憎悪が籠っていた。束はそれに気付きながらも作り笑いを浮かべる――立ち止まってくれた――そう思うと嬉しさを隠せないでいた。

 だが……彼は束を見ながらこう言い放った。

 

「知るか……」

 

 一夏はそう言い放った。それを聞いた束は瞠目したが一夏は建物の中に入ると、風の様に姿を消した。

 そして其処には束しか残っていなかったが束は何かに気付き、あわてて人参型ロケットに乗ると、何処かへと飛去っていった……。


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