アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について 作:蕎麦饂飩
オレはアイツが気に食わねえ。
アイツの全てが気に食わねえ。
オレはあの騎士の王たるアーサー王に憧れて血の滲むような鍛錬の末に定数の決められた円卓の騎士の座に辿り着いた。
そしてオレは知った。
オレは、オレこそはアーサー王の後継者なのだと。
天に昇るような気持だった。夢なのかとさえ疑った。
オレが、オレがアーサー王の息子なんだって。
だが、それはオレが次の王になれる事とは結びつかない。
アイツの存在だ。
アイツは何時だってあらゆる面で俺より王に相応しい。
騎士を理解し、民を慮り、王国を救う視点で全てを俯瞰する。
それは最早人間にできる在り方では無かった。
『理想の王子様』というのが本当の名前だとしても笑い話にもならない。
寧ろロホルトと言う名前は理想の体現としてこの国に充満している。
詩にも踊りにも建築にも農業にも軍隊にもあらゆるところで王子様の影響を受けない物はこの国には存在しない。
受けない者は存在しない。
最早冗談だと言われた方が理解できる。
それが現実として存在するのがあのロホルトだ。
オレはある時にアーサー王に貴方の息子だと素性を明かした。
モルガンの元に生まれた貴方の後継者だと。
だが、言いやがった。あの王は言いやがった。
「私の息子はロホルトただ一人だ。私の後継者はロホルトただ一人だ。」
そう言いやがった。
アイツの方が王に向いている。
そんな事は解っている。アイツは誰にも真似できない完璧な王子様だ。
だが、アイツは俺から全てを奪いやがった。
オレが憧れた王は不抜けた。最早自分がブリテンの理想になろうとはしていない。
簡単だ。自分より理想的なロホルトがいるからだ。
そしてオレからあの人の息子であるという誇りも奪いやがった。
許せねぇ。アイツは何時だって全てを奪っていく。
ブリテンに全てを与える王子は、噂とは真逆に全てをオレから奪っていく。
アイツに勝っていると思っていた武術だって、アイツが見せる演武を見ただけでその距離が解る。アレは何でもできるとかそういう領域にない。
そして騎士として円卓にはいれるぐらいの実力があったとしても、
オレが死ぬ気で目指した騎士の頂きに何一つ興味を示す事も無い。
一貫して王の後継者を名乗り続ける。
これではオレが余りにも惨めに見える。
それでいていつもオレの目の前に現れて、オレがアーサー王には認められない。
オレはこのままでは後継者にはなれない。
そういう事を解りやすく説明してくれやがる。
解ってる。そんなのは解ってるんだよ。
だがな? 王子様、テメエが知らないオレが後継者になる方法があるんだぜ?
テメエは想像もしてないのかも知れないけどよ。
父上には憎まれるだろうが知った事か、今では息子としてのオレはあの人の中では存在しない。それよりはマシだ。
いや、不抜けた王も理想の王子も要らねえ。
オレが、オレが王になる。あんな連中なんか要るものか。
そんな不満を抱えながら生きていた時、遂にオレは王子を殺した。
父上はただアイツだけを見つめていた。此処にオレがいるのに全然見てくれない。
いや、そうでも無かった。
父上がオレを恨んでいる。父上がオレを憎んでいる。父上がオレを殺そうとしている。
父上が――――――――――――オレを見てくれている。
ああ、願いが一つ叶った。
見たか、ロホルト。
今、父上はお前で無くオレを見ている。オレを想っている。オレで埋め尽くされている。
初めてお前に勝ったよ完璧で完全な常勝の王子様。
勝てない、お前には勝てない。何処かでそう思っていたんだが。
だけど、だけど本当の所は、
本当は――――――――父上、ただ貴方に息子だと認めて貰えれば、それで…それで良かったのかも、知れないな。