アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について   作:蕎麦饂飩

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とある王妃の惜愛と決別

この国に、私の居場所はありませんでした。

 

私はアーサーに後ろ盾を作るために用意された『高貴な妻』という役割を果たす道具として存在していました。

子が一向に生まれない私を人々は影で蔑み嘲笑い見下して軽蔑していました。

アーサー王自体が権威を手に入れた以上もはや無用の長物だと、そんな噂話が聞こえた事もあります。

勿論、正面から言われたことは一度もありませんでしたが。

 

それにそんな言葉を聞かなくとも私自身が一番その事実を理解していました。

美しく壮健な王に子を産む事も無い王妃は無用。

それは誰よりも理解していました。

 

 

そんな中、まさかの懐妊でした。

何処か諦めていた王もそうでしたが、私自身が一番驚きました。

まさか女性同士(・・・・)で本当に子がなせるとは信じていなかったものですから。

 

 

 

 

私と王はこの愛しい奇跡の子にロホルトと名付けました。

ブリテンを救い得る理想的な時代の王になるという半ば諦めの気持ちで期待しながら。

 

しかし、王子は本当に理想の王子でした。

読み書きは元より武術も優れ、あらゆることにおいて息子に敵う者はこの国にはいませんでした。

 

息子はその年代の子供が憧れる騎士には興味を示しませんでした。

息子は騎士ではこのブリテンは救えない。僕は僕にしかできない王道を行かなければならない。

それ以外を進む余裕はこの国には無いと。

 

 

そして息子はあらゆる面において理想の王子として存在しました。

息子はそれでいて優しい子でした。農業改革の一環と言う理由はあるのですが、私の為に花の園を作ってくれました。

そこにはこの国では珍しい様々な花や薬草が育てられていました。

 

民にも優しく、既に外国でさえも息子の高名は広まっているようでした。

私は以前とは一転して国母として持て囃されました。

此処に私の場所が出来ました。ロホルトが作ってくれました。ようやく安らぎが私に生まれました。

 

 

ある時、侍女の1人が私に教えてくれました。

忠義に篤い円卓の騎士のガウェイン卿の妹ガレスをその花畑に連れて行き花の王冠を被せたと。

 

 

 

何処にも浮いた話の無い息子は、

まさか妊婦や経産婦は素敵ですねという変わった騎士のような特殊嗜好があるのではと思っていましたが、

そんな事はありませんでした。

 

私は歓喜して未来の義娘と息子を結ばせるべく侍女に命じて様々な策を取りましたが、息子は恋愛に鈍感なのか効果はありませんでした。

 

 

 

 

そしてある時、遂にロホルトへの王位継承が決まりました。

息子の見送る日にして私の集大成たる日です。

 

その日は約束された祝日になる筈でした。

 

 

 

 

 

あのモルガンの娘に、いえ、―――――――――――アーサー王の娘に刺されるまでは。

此処に私と息子は永久の別れを告げる事になり、私とアーサー王には決して越えられない溝が出来たのです。

 

 

…完全でなくともよかったのです。完璧でなくともよかったのです。

私は、あなたが生きてさえいてくれれば。

私の全てが失われました。私の価値が、私の想いが、私の希望が、私の愛が。

もう、この国に私の居場所はありません。

 

 

 

だから、もう…

 

此処では無い何処かへ連れて行ってくれませんか、お願いしますランスロット。


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