アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について   作:蕎麦饂飩

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世界が己の守護の為にブリテンを切り捨てた様に、
王子様はブリテンの守護の為に寒村を切り捨てたという話


とある騎士の誓いと後悔

此度は私が如何にしてあの御方に忠誠を誓ったのかをお話しましょう。

 

 

私はかつてある女性と恋に落ちましたが、それは叶わぬ恋でした。

打ちひしがれた私でしたが表面的には明るく朗らかにいたと思います。

私が人生で最も多くの女性と触れ合った時期はこの時であったでしょう。

何処か自棄になっていた部分もあったと思います。

 

失礼ながらこの時の多くの女性は私を根っからの社交的な美青年だと思われていたと思います。

ですが、私はある時運命に出会いました。

 

何処までも勇敢に物怖じせず女性達に振る舞う私を見て臆病者と言った女性がいました。

彼女の名前は伏せますが、私がある農村に任務で向かった時に出逢いました。

 

彼女は直ぐに私の笑顔の仮面を見抜き、その仮面を被らなければ再び恋が出来なくなった私を臆病者だと叱ったのです。

 

 

私はその失礼な女性に衝撃を受けました。

ですが、その衝撃が私の眠っていた、いえ、眠らせていた感情を呼び戻したのです。

 

 

任務が終わり、帰らなければならなくなった時に彼女と初めて一夜を明かしました。

その時の彼女の約束は今でも覚えています。

 

「もし、わたしがピンチの時は必ず来てくれるって約束してくださいね?

私の騎士様」

 

その約束を私は必ず守ろうと誓いました。

 

 

 

 

 

 

ある時、蛮族の総攻撃がありました。

その為にある村を犠牲にして敵の側面と背後に回り込み、敵を前方に敗走させて疲弊したところを隠蔽している拠点の部隊で破壊する計

 

画が立案されました。

 

お察しの通りあの(・・)農村です。

 

 

私は気を失いそうになりましたが、それを堪えて必死にそれ以外の選択肢があるはずだと、

その選択肢は選んではいけないものだと主張しました。

しかしそれは通りませんでした。

 

 

 

 

 

もし、わたしがピンチの時は必ず来てくれるって約束してくださいね?

私の騎士様

 

 

彼女の言葉が脳裏に反復しました。

この時、直ぐに動いていれば結末は変わったかもしれません。

ですが、私は2日悩んでしまいました。

そして悩みに悩んだ末、私は騎士であることを棄てる決意をしました。

 

切っ掛けは同僚の一言でした。

「トリスタン、卿はいい。許される恋をしているのだから。」

許されぬ恋慕に苦しむ友人の言葉でした。

 

 

その言葉に恋に全てを賭ける覚悟が出来ました。

騎士では無く、ただのトリスタンとして彼女を救いに行くことを決意しました。

 

それは命令に違反し、忠義を損なう行為。

故に王に騎士を辞めさせていただく不恩を願い出に行こうとしたところ、そこに王と王子が見計らったようにいました。

 

 

「貴方の決意を汚しはしません。貴方を騎士のまま行かせましょう。

ですが、作戦に変更はありません。今からでは村は間に合わないでしょう。そのはずです。

貴方の席は円卓に空けていますから何時でも帰ってきてください。

ですよね、父上」

 

王子は全てを悟っているようでした。

逆に言えばその上でこの非道を決意したという事です。

全てを知られており、全てが計算された行動でした。その上で、その上で村を、彼女を犠牲にすることを決意したのです。

全ては理想的な結末の為に。

 

 

私は感情的に彼らに嘆きました。

 

 

「貴方達には人の心が解らない」

 

 

そう、言ってしまったのです。

 

 

 

 

そして彼らに背を向けて私は奔走しました。

 

もし、わたしがピンチの時は必ず来てくれるって約束してくださいね?

私の騎士様

 

 

そう言った彼女を救う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…結果として間に合いませんでした。

村は蹂躙され、破壊され、凌辱されていました。

 

 

絶望に嘆く私に気が付いた蛮族の1人が私に襲い掛かりましたが、それを見る事も無く切り伏せました。

そしてそれに気が付いた他の蛮族たちが次々と私に襲い掛かりました。

私も腕には自信があります。

蛮族たちを切り裂き、突き殺し、射抜きました。

 

ですが、僅か一人で何が出来ましょう。

忽ちの末に劣勢に追い込まれ手傷さえ負いました。

それでも、それでも敵を討たなければならぬ。そうしないと彼女を救えなかった自分が壊れてしまう。

そう思いましたが、それでも事体は好転しませんでした。

 

 

 

もはやこれまで、そう思った時に聞き覚えのある怒声と蛮族たちの悲鳴と共に軍勢が押し寄せました。

ブリテン王国軍の軍勢でした。

 

余りにも早い編成からの出兵。敵兵が完全に不注意な中に恐慌を齎す奇襲。

此処までの速度でこれを為せるのは、私は1人しか知りません。

 

殿下…貴方は何処まで理想の人なのでしょうか。

 

 

 

 

 

「生存者を捜索しろっ!!」

 

 

僅かにこの村に残った其れなりの騎士が部下達に命令していました。

そこで僅かな希望が芽生えました。そう、もしかしたら彼女が生きているかもしれない。

そんな希望が。

 

 

「誰かいないのかっ…

おいっ、一人生きてるぞっ、手を貸せっ、この瓦礫の下だ。」

 

私はその声に向かって駆け出しすぐに救助活動に当たりました。

助け出されたのは女性。彼女に似た肌の色と髪の色。

ですが、良く似ただけのその女性は彼女とは別人の老女でした。

 

真に失礼ながら私の心の中には落胆がありました。

貴女の騎士は貴女の窮地に助けに来れなかったという絶望が。

 

 

 

…その老女は目が見えないようでした。

 

「ねえ、騎士様。トリスタンという騎士を知っているかい…?」

 

私はその声に硬直しました。

そう、他でもないこの私こそが―――

 

 

「知らないかい。有名なお人だそうだけどねぇ。」

 

私の無言を否定と受け取ったのでしょう。

彼女は言葉を続けていました。見えなくなった目で涙を流しながら。

 

 

「あの子は言っていたよ…。

逃げずに此処で立ち向かおう。きっと騎士様が助けに来てくださる。私の騎士様が来てくれる。

風のように軽やかに、私と新たな命を助けに来てくださると…。

 

 

私は娘も孫も一変に喪った。

もしトリスタンという騎士にあったら伝えておくれ。

私は絶対にあなたを許さないと」

 

 

 

その声は憎悪に濡れていました。

 

「高名な騎士様の悪口なんて打ち首ものかもしれないがねえ、もう生きる気力も無いのさ。判るだろう?

騎士様、あなた様では何もできなかったかもしれないが、

王子様なら、他でもなくあらゆる事に完全な王子様なら先程死の淵に沈んだ娘を救い希望を示してくれたやも知れぬ。

此処に来たのがトリスタンで無く王子様だったらね、そう思わずにはいられないよ」

 

 

その王子様がこの村を切り捨てたのだとは言えなかった。

それにあの王子様なら、もし仮に彼女の死の間際に間に合っていれば救えたでしょうが、きっと私にはその手を握って謝ることぐらいしか出来ませんでした。

 

 

「トリスタンに、許さないと確かに伝えておくれ。」

 

そう言って、老女は他の騎士が用意が出来たと言った救護所に連れて行かれました。

 

 

その後、私の背後に良く知った騎士が来ました。

 

「トリスタン卿、此処にいたのか。

殿下からの伝言だ。

此度のことは卿に責任はない。

心優しい卿には堪えるだろうがそれらは全て殿下の罪である。と」

 

 

あの方なら、あの方が村を救うつもりなら救えたのだろうか。

いや、救えたに違いない。

もし、この世界をやり直せるならこの御方に全てを委ねるしかない。

なのに、なのに何故!?

 

 

 

「それともう一つ。

これは伝言で無く遺言になってしまった。

僕には人の心が理解できないのかも知れない。それでも人の心を理解しようとはしてきたつもりだった。

殿下はそう言っていた」

 

 

殿下、貴方もまたこの救われない世界で懸命に生きていただけだったのですね。

漸く解った真実が私に深く深く突き刺さりました。

この傷はきっとイゾルデも治せないでしょう。

 

 

 

もし…、もし次があるのなら、私は王子を絶対に護ってみせましょう。

次こそは曇りなき忠誠を貴方に。




尚、次があった世界でもカルデア組に蹂躙された模様。

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