アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について   作:蕎麦饂飩

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ギャグ…? テイストなお話でお口直しです。
感想欄であった返信のリサイクルです。すみません。



悲劇には喜劇を挟んだ方が色が出るんですよぉ…。


とある騎士の独白と懺悔

私は恐ろしくてたまらない。

私の国の理想的で完全で完璧な王子様が。

 

ああ、私はこう見えてこの国の騎士をやっています。

ただのカッコいい素敵なイケメンではありませんよ。

名前ですか? 今夜と言う素敵な時に免じて答えざる事を許して頂きたい。

 

ああ、どうしてその騎士たる私が王子様を恐ろしいと言うかですか?

 

ええ、お答えしましょう。

ですが、私の忠義と王子様の名誉にかけて最初に言っておくことがあります。

トリスタン卿を筆頭として素敵な殿方で構成されていたブリテンの騎士団にも、その忠義を奉げるべき王族にも何の落ち度も無いのです。

 

 

私は美しい女性が大好きです。ええ、勿論女性は皆美しいので、女性が大好きとシンプルに言っても良いでしょうね。

王子様の周りには美しい女性が集まるので素晴らしい空間が出来上がります。何時まで眺めても飽きません。

 

その中でもやはり国一番の美女と言えば、王妃様ではないでしょうか?

経産婦としてますます美しく魅惑的になられたとランス…コホン、とある騎士が言っていました。

 

まあ、それは置いておきましょう。

王子様は何故恐ろしいかという事なのですが、あの方は理想的すぎるのです。

どこか薄ら寒くなる程に。

 

 

かつて、円卓にカッコ良くて美しいトリスタン卿が存在したころの話です。

 

迫りくる蛮族を払う為に、一つの村を犠牲にするという悍ましい案が出されました。

それもあの王子様からです。

信じられないのも無理はありません。あの通り、王子様はお優しい方で有名ですからね。

他国にさえ賢君になられるであろう王子様の慈愛は知られているほどですから。

 

 

その発端は、王が会議で騎士たちに意見を求めた事でした。

 

「如何すれば敵に対処できるか皆の意見が欲しい」

 

王はそう言われました。

 

 

そこにアグラヴェイン卿が、

 

「策が無い訳ではないのですが…そのどれも犠牲を伴い、王の名誉を汚す事になります」

 

と意見されました。もう、この意見の出し方が厭らしいですね。

ねえ、聞きたくなるでしょうという様な誘いの意見の出し方です。

そこであの王子様が言うのです。

 

 

「…仕方ありません。村には犠牲になって頂く他ありません」と。

 

誰もが思ったはずです。

あの善良で完璧な王子様が人を犠牲にするのか? と。

 

ですが、これにも理由がありました。

先ずそれが軍事的に最良で、その村を犠牲にすることで多くの他の村を救えること。

ひいてはブリテンを救えること。

そして、王様自身もその案を浮かべかけていたのを先回って王子様が述べたという所です。

全ては王様に汚名を着せたくないという王子様の思いがそこに在ったのでしょう。

 

 

王子様は言われました。

 

「これは騎士の道どころか人の道にも外れた選択である事は承知です。

ですが我等は選ばなくてはなりません。この村かブリテンかを。

それがどちらも救える程には強く賢くなかった人である我らの罪であり、限界です。

その罪は私が背負いましょう。私の名前で村を犠牲にする案を発布します」

 

その言葉は善意からなる言葉であった事は誰も否定できません。

まさに理想的な王子様です。

 

そして、それに誰も何も言えない中、

その理想的な王子様を救う為に陛下がその汚名を自分の物としようと考えました。

 

「…いや、待て息子よ。その悪行は私が背負おう。私のブリテンの王としての最後の責務だ。

そして、お前は私の後を継いで王になれ。

――お前が犠牲になるより私が犠牲になる方がブリテンには良い選択だ」

 

 

それが、この度の王位継承に至る裏話です。

王子は完全で絶対の正義故に、

王子に逆らう者は須らく『悪者』にされてしまう。

 

これは余りにも残酷なことです。

これは余りにも恐ろしい、そう思いませんか?

 

王子…様に逆らう事が出来ない形の特殊な独裁です。

 

 

 

 

実はこの村にはあのトリスタン卿の恋人がいたのですが、あの場でそれが通る訳がありません。

王があの案を言ったのなら、王にわた…トリスタン卿がせめて批難程度はしたかもしれません。

ですが王子様には誰も何も言えない。できない。

少なくともその場では。

結局、トリスタン卿は円卓を去るときに彼らに苦言を告げたそうです。

 

 

何故ならばあのお方がなさることは何時だって常に最善の策。それを変えてしまう事は最善から離れた結果に至ります。

誰も公の存在としては王子様には敵いません。

とはいえ、最善の結果が各々の心における望みと同じとは限らない、そういうことです。

 

 

もしかしたら、あの王子様は『理想』でしか無いものなのかもしれません。

…いえ、不敬でしたね。

そろそろ夜風も冷えてきましたし、お話はここまでにしましょう。では――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、私は知った。

王子様が、モードレッド卿に刺されて亡くなった事を。

 

私が、円卓から離れなければ、彼を救う事が出来ただろうか?

解らない。私に、いえ、誰にだってできない事が出来る理想の存在を、理想で無い人間でしかない私が救えるだろうか?

 

 

だが、それでも、それでも私が王子様の死を後悔する事を忘れる日が来るとは思えない。




眠っている様で糸目は実は見ているんだというお話。
まあ、王子様の周りには美しい蝶たちが集まってくるから仕方ないね。

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