アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について   作:蕎麦饂飩

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ついでと言っては何ですが、ガレスちゃんのバッドエンドな第3話にあとがきでおまけを追加しました。
良ければどうぞ。


とある父親の独白と契約

私は何時から理想の王であることを辞めたのだろうか?

私は何時から理想の王であろうとすることを辞めたくなったのだろうか?

 

ロホルトが成長していく中?

ロホルトが生まれた時?

それとも最初から私は何処かでこの苦しみを誰かに押し付けたかったのだろうか?

 

 

何処までも救いの無いこの世界の中心でブリテンを救う為に生まれてきた私の愛しい王子。

息子はすれ違いかけた妻との間さえ取り持ってくれた。

息子は民に愛されこの国に愛され、神にさえ愛されていた…ハズだった。

 

 

何処までも聡明で、何処までも慈悲深く、何処までも冷静で、何処までも理想的な私の望みの体現者。

いや、私だけでなくあらゆる者にとっての万能の理想の体現者。

 

私が彼に教える事が無くなったのは何時からだろう?

彼が私を支える様になったのは何時からだっただろう?

 

もしかすると、最初から私が彼を導いた事は無かったのかも知れない。

 

 

それでも、それでも彼がいるだけでブリテンは全て上手く回っていた。

彼が上手く回していた。

 

私は父親としてでなく、王として彼に嫉妬すらない。

彼に全てを委ねて任せて溺れたくなる。

 

 

それが私の息子。

完全で完璧なる理想の王子ロホルト。

 

 

 

 

 

 

 

喪ってわかる。

ブリテンは、私は、ブリテンは、こんなにもロホルト・ペンドラゴンと言う存在に依存していた。

もう何もうまくいくように思えない。

 

 

ロホルトでさえ駄目だった。

その言葉で誰もが納得してしまう。

納得出来てしまう。

 

 

妻は離れていき、騎士は離反し、蛮族は息を吹き返し、大地は荒れ始めた。

モルガンの娘一人いなければこうはなっていなかったはずだ。

あの存在を許した私の責任だ。

 

私が犠牲になればよかった。

あのモルガンの娘に刺されたのが私であったのなら、きっと生き残った王子は滞りなくブリテンを維持していただろう。

 

私では為し得なかった事を成し遂げ、それでいて私を立ててその為に自らを致命的な犠牲にする事さえある優しい息子。

妻も子供が出来ないときはこの国である私に嫁いできた役目を果たさない外様の様な扱いを受け、苦しい思いをしてきた。

それがロホルトの存在で国民に感謝される理想の国母として安らぎと平穏を手に入れた。

私達のすれ違いも何時の間にか解消されていた。

 

 

ロホルトは完全で完璧な理想の体現者であり、私よりもはるかにブリテンの王に相応しい。

私にできない事も彼にはできて、彼にできない事は誰にも為し得ない。

 

 

それでも、それでも私はブリテンの王であり、民を導き救わなければならない。

その中でさえ思う。ああ、息子がいてくれたのなら、

私の王子が生きていてくれていれば私もブリテンも誰もが救われた。

 

救われない存在など要る筈も無かった。

そんな存在など要る訳が無い。

 

 

ブリテンの守護者ロホルトの存在を厭う者などブリテンにいるわけがない。

いや、存在させてはならなかったのだ。

 

 

 

神よ、もし私の願いを聞き届けてくれるなら、

私は貴方に全てを奉げよう。

 

それがブリテンの理想の王に王権を渡し損ねた先王の責任であり、

愛する息子を純粋に愛する息子としてだけでは想えなかった私の罪なのだから。




ブリテンの守護者に生まれた息子を持った父親の物語

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