アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について   作:蕎麦饂飩

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お待たせしました。皆様の大好きな絶望のお時間です。
Welcome to the saveless world



鬱展開注意

此処までの話と比較して尚鬱展開です。
耐性の無い方は気を付けて下さい。(読んでは欲しい)


この救われない世界に祝福を…下さるのですか? ねえ答えて下さい。今度こそ、今度こそ王子様は救えるのですか? ねえ、誰か教えて。誰も教えてくれないのならもう私が答えを決めるしか無いんだから。後書追加

「この特異点の最大の歪みは『理想王』が存在する事だ」

 

ドクターが次の特異点の説明をしてくれる。

理想王? 聞いたことが無い。

 

「本来の歴史には『理想王』という人物は存在しなかったんだ。

その人物は理想の王になる前に死んでしまったからね。

その人物とは、ブリテンの悲劇の王子。

ロホルト・ペンドラゴン。

以前の特異点で出遭ったモードレッドが殺めた、生きていればブリテンが存続したとさえ言われる、なり得なかった希望さ」

 

 

その特異点を解決(・・)するということは――――――――――

 

 

「うん、そうだ。…君達の手でブリテンの希望を絶やすしかない」

 

 

 

ドクターからの説明は終わり、その後にダ・ヴィンチちゃんからの地理特性的な説明があったけど、頭に入ってこない。

先程のドクターの言葉だけが頭の中でグルグルと巡る。

 

 

私達が、折角うまく行ったはずのブリテンを破滅させるために生き延びた王を殺さなければならない。

 

だが、それでも行くしかないのだろう。

それが私達の肩に背負った責任なのだから。

 

 

 

 

かくして私達はレイシフトを実行した。

行先は―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

    『夢幻理想領域キャメロット』

 

 

 

 

 

 

 

 

レイシフトの最中、女性の若いとも老いたとも思えない声を聞いた。

 

「やった。遂にやった。ああ、愛しい愛しい王子様。

忌まわしい修正の輪が壊れ、ようやく私の為に生き残って下さった。

私の、私の愛しい王子様。

壊れた世界で佇まれる欠けるものの無い完全な王子様。

もう二度と貴方を失わせない。誰にも、誰にも渡さない」

 

 

それは悲しい祈りだった。

その祈りは、何処か絶望に似ていた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達はブリテンと呼ばれて存続する国の近くに到着した。

 

そこは理想の国だった。

とても特異点とは思えないほどに完全で完璧な国家に思わずここが特異点であることを忘れそうになった。

この国の国民の誰もが言う。

 

「この国はやっと救われました」

「陛下が救ってくださいました」

「この国は救われるのです。救われたのです」

「ロホルト王がいればこの国は幸福です。私達も幸福です」

 

…だが、違う。全くこんな完璧な理想何て人間が求める世界じゃなかった。

だれもが機械の様に救われると連呼する国は、人間として歪だった。

 

「オレ以外にも気が付いたヤツがいたようだな」

 

その聞き覚えのある声に振り向くと、そこには以前であったことのあるモードレッドが被っていたフードを持ち上げていた。

 

「モードレッド!?」

 

「しっ、静かにしろ。何でオレの事を知ってるかはわかんねーが、オレはこの国のお尋ね者なんだ」

 

 

「それは、どうして?

この国ではロホルトが生きているのに」

 

私がそう問うと、モードレッドは理由を話してくれた。

ロホルト王子お抱えの女魔術師が駆けつけたガレスを犠牲にして、その血で王子を蘇らせたという話だった。

その時にアーサー王もその女魔術師も誰もが生き返った王子に夢中で、

誰もモードレッドに目を向けなかったので逃げられたという事だった。

 

 

「あの野郎は確かにこの手で殺したはずだったがな」

 

恐らくは聖杯の力だろう。

私達は彼(女性扱いすると怒るので)とその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その先で「この世界は理想的に救われた世界じゃない、目を覚ませ!!」と言う人々を襲う使い魔達を斃す中でハサン達の協力を得たり、

彼らも畏れる死するべきものを殺す山の翁に出会ったりした。

 

 

そして今―――――――――、私達は騎士王とギャラハッド、そしてモードレッドを除く円卓の騎士たちと戦っている。

ガウェイン

ベディヴィエール

トリスタン

アグラヴェイン

パーシヴァル

ケイ

ガヘリス

パロミデス

そしてランスロット

 

彼らはいずれも伝説に語られる天地無双の英雄たち。

けれど、私にも共にやってきてくれた英雄(仲間)達がいる。

力無き私の願いを叶えてくれる英雄たちが。

 

「みんなっ、お願いっ!!」

 

 

「今度こそロホルトを殺してやるぜ」

「心得た」

「任せな」

「理想王…理想を抱いて溺死しろ」

 

それぞれの英雄たちがそれぞれの言葉で応えてくれた。

ならば私はこう言うだけだ。

 

「薄っぺらい完璧なんて壊してあげてっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――

綱渡りに綱渡りを重ねる戦闘を行い、遂に私達は勝った。

後は…騎士王に匿われるだろうロホルト王を殺す…だけだ。

 

 

 

 

騎士王が一人で私達に立ち向かい、

フードを被った魔術師と王子は手を繋ぎ屋上へと逃げていった。

 

「あの子は良く頑張った。私の知らぬところで。

私も今度こそ息子を守ってみせる。

それは世界に反する行為かも知れないが、それでもあの息子ならブリテンを、世界を存続させる方法を見つけられると信じている。

何せ私の息子は『理想の王』なのだから」

 

 

この時、私達は『あの子』というのが良く解からなかった。

それでもその疑問を振り切って戦う事にした。――――――『理想の王』を殺すために。

 

「アンタは放棄したんだ。父上。いや、アーサー王。

自分でブリテンを救う手段を探す事を」

 

「お前が、よりによってお前がそれを言うかモードレッドォォォォッッ!!」

 

 

捻じれて狂った親子は雌雄を決し―――――

 

「ロ…ホ…ル……ト」

 

「最期の言葉がそれかよ。まあ、最後に憎まれただけでも良かったぜ。

漸く見てくれた。最後に見てくれたざまあみろロホルト。

これでも、尊敬していたんだぜ……ち…ち…う……え。」

 

 

――――――そして互いに倒れた。

 

 

 

 

 

 

そして、私達は塔の上に理想王たちを追い詰めた。

 

「どうして、どうして邪魔をするの?

そうして王子様を殺すの?

ねえ、そんなにも王子様が憎い?

そんなにも王子様の存在がいけない事なの?」

 

 

魔術師がそのローブから顔が露出する位髪を振り乱して此処ではない何処かへ叫ぶ。

 

その声は声質は違うが私がレイシフトの中で聞いた時の声の持ち主だと解った。

彼女は理想王の頬を愛おしくその白い指で撫でながら言う。

 

「…ガレスッ!? まさか…。でも、間違いありません」

 

私の横でマシュが驚愕する。

モードレッドの話では確かに魔術師に殺されたはずのガレスがそこにいた。

魔術師がガレスだった。

 

 

「そう。私がガレス。

今回の黒幕よ」

 

 

彼女がそう言うと急に私達は眠気に襲われた。

 

そして夢を見た。

 

 

少女の手当てをする王子様。

 

そして殺される王子様。

 

 

少女の料理を褒める王子様。

 

そして殺される王子様。

 

 

少女と語り合う王子様。

 

そして殺される王子様。

 

 

少女に花のティアラをかぶせる王子様。

そして――――殺される王子様。

 

 

 

偶然に必然に、モードレッドに世界に殺される王子様。

 

それらが延々と繰り返されていた。

そして意識が浮上する。

 

 

「もう…、もういいでしょう?

王子様を何度殺せばいいの。世界の手先(あなた)たちはっ!!」

 

それは悲壮な祈りだった。

それは悲観な懇願だった。

その感情は、絶望に似ていた。

 

 

それでも、私達は特異点を解決(王子様を殺さ)しなければならない。

私達の責任は決して軽くない。

 

それでも、それでもその少女の絶叫は胸に刺さった。

もう、ロホルト王(王子様)あなたは理想王なのだから理想の終わり(ハッピーエンド)位掴んで欲しかった。

 

 

そう思ったのが悪かったのだろうか?

私のささやかな願いと理想王が口を開いたのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「君に命を与えられたから君の理想に従おうと思っていたのだけれど。

結果、騎士達も死んだ。モードレッドも。そして世界も死ぬだろう。頃合いだ。

…もう、終わりにしよう。

それがきっと理想的な結末だから。

君にとっても、世界にとっても―――」

 

理想の王(王子様)はそう言って塔の上から身を投げた。

 

 

そして皆の視線の先で地面へとぶつかり、ハジケタ。

後味の悪い理想的な結末が静寂を産み、

その静寂を狂気が呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「―――――あははっ、解かっちゃった。解っちゃった。

王子様をどうやっても世界が幸せにしてくれないなら、私が王子様の幸せな世界になればいいんだ。

成り果てればいいんだ。あはははっ―――――――」

 

 

魔に堕ちた女が嗤う。魔に堕ちる少女が叫ぶ。

それは同一線上に存在していた。

 

何処までも哀しい、何処までも救いの無い救われない救えない物語。

 

 

 

少女は聖杯を掲げ呼び出した悪魔を喰らい高次の存在へと成り果てた。

先程まで来ていたローブの下に隠れていた可愛らしい魔法少女と呼んでも似合わない事も無い、

何処か花嫁衣装のようだった衣服は、彼女の指先から止まることなく流れる血で真紅に染まった悍ましい喪服に変わった。

その姿はまさしく―――――魔女だった。

 

 

 

恐ろしい獣と化した少女を突如顕れたハサン達のハサンたる山の翁を先陣としたサーヴァントが激戦の末に倒した。

そして間際に人に戻った彼女の、救われない世界で恋した少女の絶叫がこの世界に、ブリテンに幕を引いた。

 

 

 

 

あの王子様は彼女を救おうとしなかったのだろうか?

救いたいと思わなかったのだろうか?

それともその結果がああだったのだろうか?

 

ただの人である私には理想と言う思考は届かない。それで良い。それが人間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、私達は決して忘れないだろう。

何時までも耳に残る、何処までも救いを求め――――――そして何処までも救われないこの世界の絶叫を。




僕達は異空の魔術師たちに倒された。

それでも、救われた。
たち(・・)は救われた。


だって、今まで僕を支え続けてきてくれた、救い続けてきてくれた、愛し続けてきてくれた彼女が隣にいるのだから。

「ありがとう、ガレス」

僕はそれに報いたいと思う。

「今まで君にうけてきた恩義を返したいんだ」



「いえ、王子様に尽くすのは騎士として当然の事ですから」


「自惚れで無く、僕を王子としてでなくロホルトと言う男として見てくれるのなら、
僕は僕自身の感情を以って君を支えたい――――――――――――











――――――これが現実ならどれだけ二人は救われたのだろう。
血に染まった絵日記帳に描かれた理想は、何処までも救いの無い幸せな夢が笑っていた。




ガレス・オルタ 幕間の物語より引用








因みに途中で出てきたサブタイトルの『夢幻』はいずれ覚める夢と、無限に続く誰かさんの悪夢というダブルミーニングです。



さて、夢幻の泡沫であれ、砂上の楼閣であれ、人々は確かにそこで生きているのです。
ある意味『カルデアと言う理想』によって人々の感情を理解できなかったFGO主人公たち。
何処までも残酷な物語。

さて、皆様も人の気持ちが理解できているでしょうか?
もしかしたらそう思っているだけなのかもしれませんよ?

感想お待ちしております。

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