アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について   作:蕎麦饂飩

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A 救いはないんです


Q 救いはないんですか!?

あー突然なんだけど、今死にそうなんだ。

話せば長くなるけれど、もうすぐ死ぬと思うので所々簡略化して話す事にするよ。

 

僕の名前はロールト。ロホルトと発音しても良い。

僕がどのような境遇と立場であるかは『アーサー王の嫡男』という言葉で大凡わかってもらえると思う。

 

僕は西暦6世紀付近でアーサー王と王妃ギネヴィアの元に生まれた。

それもこの時代には無い知識を引っ提げてね。

どうやらマーリンと言う気持ちが悪い男が僕に先を見通す祝福を与えようとしたが、

元々それに近い作用を持つ『眼』を持っていたせいで化学融合して遥か未来で生きてきたような知識と死生観を与えたようだ。

 

厳密には未来ですらない様で、

僕はどうやらこの世界の外という視界を持つようで、まるでこの世界がゲームの中の様に感じられた。

おかげで周りの人々が特徴づけられた登場人物(キャラクター)にしか思えない所はマーリンを呪うしかなかった。

 

生まれて直ぐに零歳児としては異常な知識を持っていたこともあって、

その視点を制御して受け入れた(諦めた)

 

 

そしてその視点の上で思った。

父親がアーサー王。……父親? どう見ても女性じゃないか。

もはや両親がなのはママとフェイトママのヴィヴィオちゃんと同じだ。

というか、これFATEだ。

 

正直な所、僕が息子として両親の愛に応えられたかには自信が無い。

少なくとも応えようと僕なりに必死で頑張った。

どこか相手をアイコン化してその属性に一致し得る行動を、

この世界を外から俯瞰した時に知った『原作知識』と『現代知識』を重ねて必死に頑張ってきたつもりだ。

理想的な完全で完璧な王子を目指してきたつもりだった。

 

それ故に、細目の変態にはアルトリア・ペンドラゴン共々「貴方達には人の心が解らない」と言われたりもしたし、

『原作』と違って経産婦になった母上にヒトヅマニアが本来以上に欲情したりした。

経産婦ならエレインがいただろうに、自分の妻は人妻と呼ばないのだろうか?

その辺の感情は遂にわからなかった。

 

本来ブリテンの正当な後継者であったが故にアーサー王の物となったブリテンを恨むモルガン。

その子であり、ある意味正当なブリテンの支配者を名乗るべき血筋のモードレッド。

 

政治感覚に疎い彼女がブリテンを支配すればあっさり滅びそうだが、

その背後にはモルガンもいるから安心できると思いたいところだが、

復讐に狂ったモルガンではブリテンの存続に有効な施策を打てそうにも無いと思った。

 

そもそもジャガイモ以外が殆ど育たないという不毛の土地へと変わっていくブリテンでは、

僕でさえまともに楽しめる料理のレパートリーは広げにくかった。

それでも僕なりに農業改革と料理技術発展には寄与したつもりだ。

 

まあそれは兎も角、僕は『モードレッド』というキャラクターを気に入っていた。

それは今、剣で貫かれて殺されかけてても変わっていない筈だ。

それも、今では大したことだとも思えないので取り敢えず置いておく。

 

 

 

 

 

僕は彼女が気に入っていたので彼女に積極的に接触した。

それにエクスカリバーとクラレントを託される事を約束され、

現在の王権を継ぐ僕と、旧き王権の残り香である彼女の婚姻はブリテンの為にも良いものだと思った。

ガレスもその点では及第点だったが、彼女は『原作』に出番と言う物が無い。

それ故にキャラクター像が深く定まらなかったので向こうに望まれたところで執着は出来なかった。

 

だからこそ、彼女とだったらこの世界で『人間』として生きる路があったのかも知れないが、

僕は『アーサー王の息子』だ。キーキャラクターであるアルトリア・ペンドラゴンの為にも最善を尽くす必要があった。

 

 

だから、僕は反逆する事が元々解っていたモードレッドに接触した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

∮∮

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、テメエか。騎士にも任命されなかった野郎の分際でオレの前に顔を出すな。

この際だ、はっきり言ってやる。オレはお前が大嫌いだ」

 

彼女(モードレッド)は何時もこの調子だ。

僕を視界に入れる時にはいつも憤怒の炎を眼差しに灯している。

全く恨まれる訳が解からなかったけどね。

 

 

 

「僕は産まれた時から王を継ぐことが決まっているから騎士である必要も無いのさ。

だから王を継ぐ者としてこの国にそれなりの実りを齎してきたつもりだ。

まあ、そんな事はどうでもいい。

この際はっきり言っておこう。僕は貴女が大好きなんだ」

 

 

なるべく素敵な笑顔を作ってみたつもりだったが、上手くできていたかどうかは解らない。

モードレッドは何も反応してくれなかったからだ。

外の世界の知識をあてにするならここでニコポだとかいう現象が発生する筈だった。

イケメンに限るという事だったけど、間違いなく僕の容姿は美しいので問題は無かったはずだ。

 

「…確かにテメエは完璧な王の器だ。

他国から奪ってきた農作物をこの国の土地で栽培する技術や、その調理法、

財政政策や、軍事戦略、

戦闘を除いてオレが勝るものは騎士である事でしかない。

民には優しく汚職に手を染めず、それでいて目的の為には一つの村ごと敵を壊滅する冷酷な戦術を提案する事もできる。

素晴らしいよ。本当にな。

だが、テメエだけは絶対に認めねぇ」

 

 

実に残念な答えだった。一世一代の告白の返しがこれだったのだから、

傷ついた僕を慰めてくれるラッキーイベントが起きても良いぐらいだった。

…普段のガレスからの控え目なアプローチがラッキーイベントで、

これがその反動のアンラッキーイベントという考え方もできるが、

それではあまりにも僕が報われない。

 

 

「…どのみちアーサー王の元でも裏切る心算でしょう。

それで、いつ頃なのですか? 裏切りの予定は」

 

「―――はっ、何から何までお見通しってか?

気に食わねえよ。そういう所がなっ」

 

彼女は完璧な騎士であり王であるアーサー王に複雑な感情を抱いている。

それを極めてシンプルに言えば子供として認められたいという当たり前の感情だった。

だから僕はそれを救済してあげようと思った。

 

「ええ、知っていましたよ。

ですから貴女が父上に認めて貰えるように僕が取り成してあげましょう。

僕が父上にお願いすれば父上も貴女に優しくしてくれると思いま――――――」

 

 

その言葉の何処かが彼女の逆鱗に触れたのだろうか?

それとも、今までずっと彼女へのアプローチを間違えてきたのか、

そもそも彼女を攻略する事自体が不可能だったのか、

今尚僕にはわからない。

 

 

わかるのは彼女が奪い取って僕を貫いている王権の証明(クラレント)から伝わる明白な殺意だけ。

 

 

どこで間違ったのだろう?

何を間違ったのだろうか?

 

 

 

 

わからない。

わからない。

わからない―――――――

 

これでは何の救いも無い。

僕の望みもアーサー王の望みもモードレッドの望みも満たされない。

 

ああ、考え事をしていたら父上(アルトリア・ペンドラゴン)がやって来た。

 

「これは…。ロホルトッ!! しっかりしろっ!! 愛しいロホルトッ!!」

 

「父…上、モー…レッドが認めてほし…ったようですよ…?」

 

 

見た事も無いように取り乱すアルトリア・ペンドラゴンに取り敢えずモードレッドの望みを伝えて置く。

最早死ぬ僕にできる事はせいぜいその程度だった。

 

だが、

僕がその直後見たのは、僕に明日譲り渡すはずだった騎士王の証明書(エクスカリバー)でモードレッドを貫く彼女の姿だった。

 

ああ、これでは余りにも救われない―――――――




理想を目指す人間は情熱的だ。
だが、理想そのものになった存在に情熱は存在しない。


アーサー王の息子に生まれたが救いが無いのはモードレッドというオチでした。


















感想欄で書いた嘘予告

その1
アヴェンジャー・騎士王「私の願いは愛する息子を害したモルガンの娘を抹殺する事だ」

セイバー・王子様「私に願いはありません。そうですね、敢えて言うのなら可哀想なモードレッドを僕に免じて愛してあげてください」

アサシン・モーさん「もう一度お前を殺して今度こそオレがブリテンの王になるっ!!」

ランサー・ガレスちゃん「消えるのは貴女よ我が愚弟モードレッド」

キャスター・モルガン「我が娘たちよ、我が夫よ、潰えたブリテンと共に闇に沈め」

アーチャー・英雄王「此度の宴は道化しかおらぬ。精々我を愉しませてみよ」

ライダー・征服王「なあ、英雄王。正直コレ、当時のブリテンで解決して貰ってて良かった話じゃないか? それより飲まんか?」



その2
王様「私の願い? 全ては愛する息子の事だけだ。ブリテンを導く愛しき私の後継者」

モードレッド「其れならオレがっ!! オレにだって!!」

王様「私の息子は正妃ギネヴィアが生んだロホルトただ一人。
完全で完璧な息子だった。只一つお前の為に情けをかけた事以外はな。
私の願いは――――息子が生存する手段として、あの時代のお前の存在自体を抹消する事だ」

モードレッド「父上ぇぇぇぇっっっっ!!!!!!!」




その3
王子様「父上、モードレッド、剣をお引きください。
父上、此処にいるモードレッドもまた貴方の息子です。私に免じて認めてあげても良いのではないでしょうか?」

王様「それはお前の頼みでも聞けない。ブリテンにも私にもお前にもその者は必要ない。
何故だ、ガレスでは駄目だったのか?」

王子様「私が愛しているのはモードレッドです。私の妻として義理の子としてなら認めてあげてくださいますか?
大丈夫です。私ならモルガンがどう動いてもそれを初動で封じ込める事も可能でしょう」

王様「それはできない。お前ならモルガンを封じてブリテンを救えると理解して尚、
私はお前を殺したモードレッドを認める事は無い。許せる事は無い」

王子様「どうしても無理であれば私の我儘は退くしかないのでしょうね。
其れよりも父上、父上の願いは何でしょうか?
私は父上の為にこの度の聖杯戦争から退く覚悟があります。
聡明な父上の願いに勝る望みもありませんし、身内同士で殺し合い無駄に戦火を広げて無辜の民に犠牲を生む訳には行きません。私のマスターも説得できます」

王様「そう言えるお前だからこそ王位を継がせたかった。
もし、お前があの時代への復活を願うなら、私がこの戦争を辞退したいと思う。
それならばどのみち願いは変わらない。
もし、その上でお前がブリテンを救えなくとも、
ならば私ではどうあがいてもブリテンを救えなかったという事なのだから」

王子様「愛する父上の寛大なお気持ちに感謝いたします」


ここまで2人にガン無視されていたモードレッド「ローホルトォォォッッッッッ!!!!!」




その4
王子様「モードレッド。貴方が独力で父上に愛されることは絶対的に不可能なので、それを可能にする聖杯を私が持って来てあげましょうか? 大好きな貴女の為に」

モードレッド「テメェが最初の脱落者になりやがれぇっっ!」




その5?



王子様「ああ、愛しいガレス。どうか僕の愛を受け入れておくれ」
ガレスちゃん「…っ!!」
王子様「どうしたんだいガレス。無理にとは言わない。
せめて返事だけでも聞かせて欲しい」
ガレスちゃん「…王子様。すみません感動の余り、私…」
王子様「じゃあ、ガレス…」
ガレスちゃん「はい。王子様貴方の申し入れをお受けいたします―――――」


ガヘリス「――――的な絵日記が見つかったんだが、兄貴的に妹の妄想をどう思う?」
ガウェイン「そうだね。絵が上手い」

アグラヴェイン「私は見ないでおこう。仕事が忙しいのでな。
では10秒数えて後ろを振り向くが良い」



     ~そして10秒後~


ガヘリス「9、10…っと。で後ろを振り――――ガレ…ス?」
ガウェイン「いやあ良く描けていたね。特に最後のページなどは―――」

ガレスちゃん「にいさんたちのばかーーっ!!」





その6???


???「王子様を助ける為なら私は何度でもやり直す。
記憶がすり減ろうと、魂がすり減ろうと、何度だって何度だってやり直すっ!!
もう一度、あのお方のお声が聞こえるのなら、何度だって。
不可能なんてない。私だって魔女の娘だもの」



その7?????

王子様「何処かであった事があるかな?
君とは初めて会った気がしないんだ。ああ、君が麗しいからと言って口説いているわけじゃない」

???「いえ、王子様にご拝謁を承けるのはこの度が初めてです」

王子様「そうか。ガウェイン卿に似ていたからその関係筋なのかと思ったよ。
きっと、彼の妹が成長したら君の様に…いや、関係ない女性の話を持ち出すのは失礼だったね」

???「いえ、構いませんわ。王子様。それよりも―――――」


モードレッド「ガレ…似てるようだが違ったか。まあいい。
それにしてもいい身分だな王子様。
市井には他の騎士たちと違って女性に優しくとも弱くないと御評判の王子様が、会議の前に女と密会してるなんて――――何だ、随分睨んでくるじゃねえか。
只者じゃねえ殺気だ。テメェ何者だ」

???「何者でもいいでしょう。
父親が誰であるかも主張できない何処かの誰かよりは」

モードレッド「テメェ…ッ!!」

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