Fate/SnowScene Einzbern   作:アテン

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投稿時刻を大幅に遅れてしまい申し訳ありません。
次回からは、このようなことがないようになるべく時刻に合わせるようにします。


それではどうぞ。


第六夜 初戦開幕

穂村原学園でのイベントをモニタリングしていた俺は、現在…新都にある言峰教会ならぬ『冬木教会』へ来ている。

あの後、マスターであるイリヤと共に学園内での出来事を確認しつつ、聖杯戦争の参加者でもある「遠坂凛」の動向を観測する事に成功。

遠坂のサーヴァントが、あのアーチャーであることも分かりランサーも原作通りに学園内に出現した。

屋上から飛び降りた遠坂は校舎内にランサーを誘き出し、アーチャーの技量を確認していたが…。

 

そこに、我らが主人公である「衛宮士郎」が偶然にも通りかかりサーヴァントの戦闘を目撃してしまい…ランサーに目を付けられてしまう。

士郎は学園内に逃げ込むが、たかが一人の高校生がサーヴァントから逃げられるわけがなく、あっけなく殺されてしまう。

その後、あとを追いかけてきた遠坂によって士郎は蘇生されて助かる…何事もなく家に帰った士郎はランサーにまた襲撃されてなんやかんやでセイバー召喚。

家にやってきた遠坂凛と合流して聖杯戦争について聞かされる。もっと詳しく聞くために遠坂の兄弟子?がいる教会へ行く。

 

 

 

というのが、原作の序盤だったな。

 

 

 

まぁ、それでも懸念材料は多々ある。

 

士郎が、“誰のルート”へ行くのかも現時点では判断付かないからな。

 

本音を言えばHFルート以外で行ってほしいけどな…あれ、色々とめんどくさいし…ラスボス系ヒロインがいるし…。

 

 

 

間桐桜には悪いが、HFだけは避けたいところだ。

 

原作では、製作者がこれでもかというくらいに熱を入れてたけど…“アレら”は色々と相性が悪い。

 

特に、間桐桜が扱う魔術の属性自体が俺にとってはかなり厄介だ。

 

“見えない”上に概念すらあるのかも分かんないからな。出来るなら、戦いたくはないな。

 

士郎には何としてでもHFルート以外のルートで進んで欲しい。

 

 

 

 

最も、俺という存在のせいで全く知らない未来が待っている可能性もあるんだがな…。

 

 

 

 

ま、詳しい話はまた追々していこう。

それよりも、モニタリングの後にイリヤを宥めるのが大変だったわ。

どうやら、ランサーに士郎を殺されたのを相当根に持っているようだ…。

ここへ来る間にも隣で「ランサー殺すランサー殺すブツブツ…」と言っていた姿はあまりにも恐怖…!!

 

怖ぇぇよウチのマスター…。

弟をやられたっていう弟思いの姉として傍から見れば微笑ましいんだろうけど…決してそんな純粋なものじゃない…。

日常的で言うなら弟をいじめた近所のいじめっ子に怒りを燃やす、お姉ちゃんのようにも見えるが…。

きっと、そんな微笑ましいものじゃないだろう…きっと。

 

 

 

 

とまぁ、そんな感じで俺達は冬木教会へやってきた訳だが…。

 

 

 

 

現在、俺とイリヤは教会の前にある門の陰に身を潜めて様子を見ていた。

理由は無論、原作通りに士郎と遠坂に奇襲を仕掛けるためだ。

物語の序盤を完成させるために、これはどうしても仕方がないからな…どうあっても、このタイミングで二人と戦う必要があった。

ある意味、士郎が俺と戦う事は魔術師としての初めての戦闘みたいなもんだからな。

あいつのためにも手加減一切しないし、本気で戦うつもりだ…まぁ、倒すつもりはないんだが。

 

それと…一応、俺は士郎と会っちまったんで礼装の形を変えることにした。

形は裾が膝元まである黒いロングパーカーのようにし、素性がバレないようにフードを深めに被っている。

これならまぁ、バレようなことは無いだろう―――――…たぶん。

ま、これで準備は整ったな。後は、教会の中にいる士郎と遠坂が来たらドンパチ仕掛けるまでだ。

 

 

 

チラッと門の陰から顔を出して様子を見てみる。

 

 

 

門の前に黄色いカッパを被った奴が居るな…たぶん、士郎が召喚したセイバーだろう。

…ちゃんと召喚できたみたいだな。ということは、士郎の中には原作通り『アヴァロン』が入っているんだな。

もしかしたら、アルトリア以外のセイバーが来るかもしれないと少しビビってたが。

今のところ、バタフライエフェクトによる改変は見られないから良かった…まだ安心はできないがな。

 

屋根の方にも視線を移すと、アーチャーが辺りを警戒していた。

あの鷹の眼に見つからんように慎重に行動しなきゃな…。

バレないように魔術でジャミングして、コソコソしてんだから、これでバレたら色々とめんどくさい…。

下手な行動をして、アーチャーが俺の考えに気付く危険性がある…あれ?超厄介じゃないかあいつ…?

まぁ、それでも負ける気がしないし、諦めるつもりもないから関係ないんだけどな!

 

 

「あっ―――――…」

 

 

隣でイリヤの声が聴こえた。

教会の扉から士郎と遠坂が出てきた…ふーむ、話が終わったみたいだな。

 

 

「出てきたな。どうやら、話は終わったみたいだぜ。マスター?」

 

「……」

 

 

マスター?

返事がないから、二人から視線を外して主の方に視線を向ける。

ぎゅっと門の壁にかけてある手に力を込めて、複雑な表情で士郎を見ていた。

アインツベルンでモニタリングしていたときと同じ顔だ。やっぱり、どこか憎みきれないところもあるのか?

原作ではイリヤ視点がほぼないから、切嗣への憎しみと士郎への愛憎しか分かんなかったんだけど…。

 

 

(さっきのアインツベルン城での態度を見る限り、完全に士郎を憎み切れてない様にも見えるんだよな…。)

 

 

この世界のイリヤは原作よりも殺意みたいなのをあんまり感じない。

ゲームだと、別名“士郎キラー”と呼ばれるくらいイリヤのdead end が多い。

それくらい、士郎に対しての負の感情があった描写が多々あったのだが――――…

少なからず、ヘラクレスから俺に変わったことで何らかの改変が起きたということか。

 

 

(しかしまぁ、こんな状態で戦えんのかな…?)

 

 

意気消沈しているところ悪いんだが、我が主様には戦ってもらわなきゃならん。

これから始まる戦いはとても重要なモノだ。俺にとっても…イリヤにとってもな。

それに相手はセイバーとアーチャー…三騎士クラスの二体を相手にしなきゃいけないんだぞ。

絶対に負けないと思いますけど、油断してるとやられかねんほどの実力をもつ二体だからな。

戦闘に身が入らないで魔力供給が十分に行き渡ってこないで負けるなんて勘弁してほしい。

 

 

「…ねぇ、バーサーカー。」

 

「は、はいっ?」

 

 

急に呼ばれたから変な声でちまった…。

真剣に考え事をした為か、周りに対して気が回ってなかったようだ。

我ながらに恥ずかしい失敗だな…。ここんとこ、らしくない行動ばかり目立つ。

浮かれ過ぎだな…もう少し自重した行動を心がけなければ。

 

 

「ど、どうした?我が主様よ…?」

 

「…もし、もしね、私が…シロウと戦いたくないって言ったらどうする?」

 

 

 

おうふ。すっげぇカミングアウトやな!!

 

 

 

思わず二度見しちまったぜ。すんごいびっくりした。

まさか、イリヤから戦いを放棄するような言葉を聞くとは思わなかった。

ゲームで見せたような、無垢で残酷な面が嘘だったかのようだ。

今のイリヤの姿は、生前の記憶にあるイメージの欠片すら見せない。そう…なんていうか。

 

 

(あぁ…そうだな。イリヤだって、普通の女の子なんだ。)

 

 

例え、ホムンクルスだったとしても。

今回の聖杯戦争では、最強のマスターと謳われても。

イリヤは普通の女の子なんだ…本当なら、戦いとは無縁の所にいるべきなんだ。

アハト翁が吹き込んだせいで、切嗣に対しての誤解もあって士郎の事を憎んでいたとしても…心の底では、やっぱり戦いたくないハズだ。

 

イリヤの目に視線を合わせる。

不安そうな、悲しそうな、それでいて自分の在り方が正しいのかと―――――…答えを求めている、縋っているようにも感じ取れる。

俺は…なんて答えてあげたらいいんだろうか。

 

 

「…なにも言ってくれないのね。」

 

「言わないんじゃなくて、言えないんだよ。自分のやりたい事なんて人に求めるもんじゃないだろ。

 他人に答えなんか聞くな、そんなもの何の価値もねぇよ。言葉だけで手に入れた答えなんて嘘っぱちだよ。」

 

「…じゃあ、どうしたらいいの?どうすれば、“答え”が手に入るの?」

 

「さぁな。ただ、一つだけ言える事がある。」

 

「なに?」

 

「自分の目で見て、心で感じたモノだけが“真実”だ。それを見て、自分がどうしたいのか…何をしなければならないのか。

 それが分かった時、“答え”が見つかるって事だ。それまでは戦え。戦って……戦いの中で探していけ。

 お前が答えが見つかるまで、俺がずっと守ってやる。最強のマスターを守る最強のサーヴァントとしてな。」

 

 

 

だから立ち止まるなマスター。

 

歩みを止めるな、あんたは止まっちゃいけない――――…その先にある“真実”を手に入れるまで。

 

俺が導いてやる。最後まで…聖杯までな。

 

 

 

胸の内で想いを綴ってから、我が主様へ笑みを浮かべる。

それに対し、イリヤは何も答えずぼうっと呆けた顔で、それでいて頬を少しだけ赤くして俺を見つめていた。

…な、なんすか、その表情は?何か変な事でも言いましたかね。私めは…?

 

 

「い、イリヤ?」

 

 

視線に耐えきれなくなって、思わず声をかけると我が主様はハッと現実へ戻って来たようだ。

そして、次の瞬間…ボッと爆発したように顔を真っ赤にして、俺に連続パンチを繰り出してきたいたた。

 

 

「か、顔が近いのよ!!離れなさい!!ばかばか!バーカーカー!!」

 

「待て!今、たいへん不名誉な名前を呼ばれた気がするんですけどッ!?」

 

 

知らないわよ!!といって、俺から背を向けてそっぽを向く主様。

どうやら、知らないうちに墓穴を掘っていたようだ…一体何が失敗だったのか分かんないけど。

なんだか、何が正しかったのか分からんくなって来た…俺も答えを見つけ切れてないようだ…はぁ。

 

 

「…そうよね。真実を見るまで、答えを見つけるまで、探さなきゃね。」

 

「ん?何か言ったか、我が主様よ?」

 

「…なんでもないわ。」

 

 

あれ?なんか、すっきりしてる?

少しだけ、安らいだ顔になっているのは気のせいだろうか?

 

 

「行くわよ。バーサーカー。セイバーとアーチャーと戦うわよ。」

 

「“答え”の話は、もういいのか?」

 

 

わざとらしく笑みを浮かべて言ってみる。

それに対し、イリヤも不敵に笑みを浮かべて答えた。

 

 

「ええ。“探し”に行くんでしょ?――――…これから!」

 

 

…っ!!

いいねいいね!!そうこなくっちゃ!!

我が主様の言葉を聞き、自分の胸の内の昂ぶりを感じた。

今のイリヤこそ、俺のずっと抱き続けているスタンスと同じだ。

 

 

 

“自分の置かれた状況を一つの過程として全力で楽しむ”

 

 

 

イリヤの姿がその言葉を体現したかのように俺には思えた。

そして、俺は彼女の横に立ち。肩を並べ守っていこうと心から誓った。

 

 

「よし、じゃあ行くか!!」

 

「ええ!!」

 

 

 

 

 

 

例え誰が相手でも―――――…

 

 

俺はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを守り通し、勝利する!

 

 

『黒帝の破壊者』の初陣だ!

 

 

 

 

 

「こんばんわ。お兄ちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ――――…派手にやるぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

家でランサーからの襲撃に合い、そこで遠坂と合流した俺、衛宮士郎は冬木教会で聖杯戦争について話を聞き。

この馬鹿げた人殺しのゲームを終わらせるために、セイバーと共に参加することを決める。

そこで、遠坂からここで一度、別れることを切り出される。今まで、遠坂には色々と助けられたな…感謝しないと。

それに遠坂はとっても良い奴だ。何も知らない俺にここまで親身になってくれたからな。

俺は素直に、遠坂に礼を言うと何故か顔を赤くして顔を逸らされてしまった……おかしいな、俺なんかしたかな?

 

 

「こんばんわ。お兄ちゃん。」

 

 

 

 

そのとき―――――…門の方から声が聞こえて視線をそちらへ向けた。

 

 

 

 

そこには、白い髪の赤い目の女の子が俺たちの前に立っていた。

その女の子の隣には黒い恰好をして、フードを目元まで深く被っている男が立っていた。

 

 

「こうして会うのはこれで二度目だね。」

 

 

紫色のコートを着て、白銀の髪を揺らしているその姿に目を奪われてしまう。

瞳は真っ赤なルビー色で、綺麗な宝石の表面のように俺たちを映し出している。

そして、女の子の表情はどこか冷たく、しかして楽しげにこちらに笑みを浮かべている。

 

対して、その横にいる男の印象は“黒”しか感じさせないくらいに漆黒で夜空よりも濃い。

まるで全てを包み込む蠢く影のように膝まである裾を風に揺らし、無言でこちらを見ているようにも感じた。

その不気味さと、どことなく身の危険性を感じさせる…威圧感のようなものを放っているため、俺は思わず固唾を飲み込んだ。

 

 

 

こいつらは一体――――――?

 

 

 

それに、あの子は俺に“お兄ちゃん”って…?

 

 

 

 

「衛宮くんの知り合いかしら?」

 

 

「いやえっと…女の子のほうは昨日知り合ったけど……男のほうは―――――――…知らない…ハズだ?」

 

 

 

あれ、何かあったことあるような気もする…?

今、初めて見るハズなのに…なんだろう、これ…モヤがかかったような気分だ。

 

 

「ハッキリしないわね。」

 

「そう言われてもな…。」

 

 

確かに見たこともないハズなんだ。

なのに、なんだこの感じ……気持ちが悪いな。

 

 

「まぁ、あの黒いのは置いておくとして――…あの子は一体。」

 

「初めましてリン。私はイリヤ…イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えば分かるわよね?」

 

 

 

白銀の女の子…イリヤの名を聞くと遠坂は急に血相を変え始めた。

 

 

 

「アインツベルン…ですって。」

 

 

どうやら、遠坂はあの子について何か知っているようだ。

“アインツベルン”というのが相当、重要な名前らしい…気のせいかもしれないが、セイバーもどこか驚いているようにも見える。

一体、何なんだ…?その“アインツベルン”ってのが、俺たちに何の用なんだよ。

 

 

「まさか、その“黒いの”は…っ!?」

 

 

遠坂が急にイリヤの隣にいる黒いヤツに視線を向けた。

セイバーも、ハッとしたのち…一瞬に表情を険しいものに変えて、敵意を剥き出しにしている。

何がどうなっているのか、話の流れについていけない俺は黙ってその場を見守るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

だが…そんな俺でも、心のどこか分かっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「挨拶はもういいよね?どうせ、みんなここで―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争は既に始まっていて…。

 

 

 

 

 

 

 

「死んじゃうんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

そして、遠坂や俺以外にも参加者がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なら、こいつらは―――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっちゃえ…『バーサーカー』!!」

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちの“敵”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ッ!!シロウ!!」

 

 

セイバーの俺の叫ぶ声で、ハッと我に返った。まずい、少しの間呆けていたみたいだ…!!

遠坂の表情が強張るのと、セイバーが急いでこちらへ向かってくるのが分かる。

そして何より、イリヤの隣にいた黒い男が今までいた場所から姿を消して、こちらへと猛スピードで向かって来ている!

 

 

「シロウ、下がってください!!」

 

 

急いでやってきたセイバーが、俺たちの目の前に立って迎え撃つ。

レインコートを脱ぎ捨て、青いドレスの上に鎧を着こんだ姿に戻り。あのとき、ランサーと戦ったときに見せた“透明な剣”を持って。

その様子を見た男は、どこか“楽しげにニヤリと口元を釣り上げて嗤う”と虚空から何かを取り出した。

 

 

 

 

「来い――――…『アスラ(悪魔)』。」

 

 

 

 

それは銀色の少しだけ長い銃身の拳銃……リボルバーのようなモノだった。

 

 

どこか近代的だが、何故かそれは俺にとって神聖的なモノに感じた。

人間が触れちゃいけないような…そう、神様の武器みたいなものと例えたらいいのだろうか。

そんなモノのように感じた。そして、それに容易く触れて振りかざすあいつに畏怖を覚えた。

あんなに軽々しく扱うあいつが、少しだけ俺は恐ろしい。

 

 

ガキンッ!!と男の銃の銃身とセイバーの剣がぶつかり合う。

 

 

「貴様…!!」

 

「やっぱり、こいつもサーヴァント――――!?」

 

 

サーヴァント!?この黒い奴が!?

確かにさっき、イリヤがバーサーカーと呼んでいた…ッ!

バーサーカーは「ふん」と鼻を鳴らして、銃身でセイバーの剣を払って腹をめがけて蹴りを入れてきた。

セイバーは何とか蹴りを避けて距離を一気に詰めて切りかかるが、バーサーカーは何ともなさそうに容易にかわし、そのままバク転でイリヤの方へ戻った。

 

 

「セイバー!大丈夫か。」

 

「…ええ。なんともありません…ですが――――…」

 

「相手の力量が未知数―――…加えて、使っている宝具が能力さえ謎めいている…と言ったところかしらセイバー?」

 

 

 

不満げに言葉を募らせるセイバーの代弁をするように遠坂が口を開く。

 

 

 

「ええその通りです。あのサーヴァントの詳細は今のところ掴みかねます。サーヴァントとはいえ、異常なまでの身のこなし方。

 状況を判断し、勝負するところを分かっているかのような立ち振る舞い。」

 

「厄介なほど強敵ね。ここはもう少し様子見をすべきか……。

 …アーチャー。分かっているわね?ここは貴方の“本来の戦い方”で―――…って、アーチャー?」

 

 

遠坂が自分のサーヴァントであるアーチャーに声をかけるも、アーチャーから返答が返ってこない。

怪訝そうに遠坂が声をかけ続けていると、何もない場所から霊体化を解いたアーチャーの姿が現れた。

 

 

「アーチャーどうしたのよ。声をかけたら一回で返事をしなさい。今の状況を分かって――――…」

 

「凛。ここは、アーチャーのクラス本来の戦い方でやらせてもらうぞ。」

 

 

愚痴を言う遠坂の言葉を遮るようにアーチャーは言葉を発した。

突然の自分のサーヴァントの発言に遠坂は驚いた顔をした。かくいう俺も、今のアーチャーの態度が少し変な感じがした。

何だろう、あのバーサーカーを睨んでいる目が何だか気になる…まるで、有り得ないものでも見たかのような、なんだか動揺しているようにも見える。

 

 

「それでいいな。凛。あのバーサーカーの詳細を知りたいのだろう?」

 

「え、ええ…それでいいわ。」

 

「では。」

 

 

それだけ言うと、アーチャーはどこかへ飛び去ってしまった。

“本来の戦い方”って言ってたけど、何のことを言ってたんだろうな…?

 

 

「マスター!相手が来ます!下がってください!!」

 

 

気になることがいっぱいあるけど…!

今は、この状況を何とかするほうが先か――――!!

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

何故だ―――――!?

 

 

何故、あいつがここにいる―――――!?

 

 

 

こんなバカげたことがあるものか!!

 

 

 

あいつは確かに“オレ”がこの手で殺したハズだ!!

 

 

 

それなのに何故―――――…!!

 

 

 

 

お前は“そこ”にいる!?

 

何故、バーサーカーとしてこの聖杯戦争にいるんだ!?

 

 

 

ヤツだけは―――――…

 

 

ヤツだけは――――――…

 

 

 

この手でもう一度―――――…殺さねばならない!!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

遠坂と何かを話していたアーチャーは、そこからどっかへ飛んでいった。

俺は、飛んでいくその姿を目で追いながらもどこかやるせない気持ちになっていた。

あいつ…驚いただろうな。見てわかるほど血相を変えてやがったし。

まぁ、マスターから離れてどっかにいった意味は既に分かっている。あいつのクラスであるアーチャー本来の戦いをするためだろう。

簡単に言うと、遠くから離れて矢を撃ち込んでくるってこと。つまり、俺はあいつの矢をかわしつつセイバーと戦わなきゃならん。

 

 

(まぁ、別に大したことないんだけどね。)

 

「アーチャーが離れたわね。矢を撃ってくる気よ。」

 

 

 

胸の内でそんなことを考えていたら、我が主様からの戦術予報が届いた。

 

 

 

「そのようだな。まぁ、どうってことないから安心しな。」

 

「ええ。別に心配なんてしてないわ――――…でも、気を付けてね。」

 

 

主様の気遣いに「あいよ。」と返答し、俺は思いっきり地面を蹴ってセイバーに向かっていく。

俺を迎え撃たんと、透明な剣が振るわれるが俺もアスラの銃身で剣をいなす。

セイバーの鮮やかな剣撃が猛威を振るうが、アスラで一つ一ついなしていく…やっぱり、凄いなセイバーの剣捌きは。

決して一つの無駄もない、全ての一撃一撃が致命傷を狙った攻撃だ。

うっかりしていると、一瞬にして斬り刻まれちまうだろう…まぁ、うっかりしてるとだけど。

 

 

「ふっ!!」

 

「ぐっ…!」

 

 

こっちもボチボチ攻撃でも仕掛けますかね。

アスラを振り回しながら、トリッキーな動きでセイバーに蹴りを繰り出していく。

女だろうが、手加減はしないつもりだ。顔や鳩尾、腹といった急所を狙うが、セイバーはそれをひょいひょいとかわしていく。

…よくかわすなぁ。結構、一発のスピードが速いはずなんだけどな。

これが『直感』(A)の実力なのか!!って思わず言いたくなっちまうぜ。

 

 

 

でも―――――――!!

 

 

 

(足元がお留守だぜ?)

 

「なっ!?」

 

 

アスラで殴るフリをして、俺はガードが空いていたセイバーの足を払った。

さすがにこれは対処しきれなかったのか、払われて両足が中に浮いた。

貰った!!これは確実にいける!このまま、セイバーの腹に向かって蹴りを―――――…

 

 

 

「…ぐっ!!なんの!」

 

 

繰り出そうとした瞬間、セイバーは自身の剣を地面に突き刺して、そのまま半球を描くように体を態勢を腕の力だけで空中で整えて着地しやがった。

ウゾダドンドコドーン!!あいつマジかよ!!変態みてぇな挙動しやがったぞ!!

あいつ、きっと剣さえあれば色んな曲芸できると思うぞ。いや、まじでびっくりした。

 

 

「貰った!!」

 

 

驚きのあまり動きの止まった俺の隙を、セイバーが見逃すはずもなく剣を振るってきた。

あ、やべ。完全にやられた―――――…これはかわせないわ。

呆然とする俺に勝利を確信したのか、セイバーの顔に笑みが浮かぶ。

遠坂がよし!とガッツポーズを取っている。士郎も安心したような顔だ…誰もが、俺の敗北する姿を想像しているようだ。

なすすべがない……そう思った俺は、諦めたように目を閉じた―――――。

 

 

 

 

 

 

 

なんてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?馬鹿な!?」

 

 

「嘘…ッ!?」

 

 

「なっ―――――!?」

 

 

 

俺はセイバーに斬られることは無かった。

 

何故ならば、セイバーの剣を防いでいる俺の左手には。

 

 

 

 

 

 

 

もう一つの“銀色の銃”が握られているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「よく来たな―――――――『ディーヴァ(歌姫)』。」

 

 

この銃の名前は『ディーヴァ』。右手にある『アスラ』とは双子の片割れとも言える存在だ。

これが俺の武器であり、宝具でもある『非対種の双子銃(アスラ&ディーヴァ)』である。

この二つの銃は、俺がジェラルのもとへ初めて弟子入りした時に彼から手渡されたものだ。

何でも、アスラとディーヴァは“俺にしか”扱えないらしく、ジェラルでさえも使えなかったほどだ。

師匠のジェラル曰く、「これは常にお前が持っておくべき。」だとか。よくわかんないけど、英雄時代から今に至るまでずっと使ってきたから、宝具として扱えるのは嬉しいな。

 

 

(また、一緒に戦おうぜ。“相棒達”。)

 

 

心の中で、再び逢えたことを嬉しく思いながら告げると。

それに答えるかのように、二つの銃が一筋の光を帯びたように見えた。

 

 

「ふッ―――――…ラアアアアアッ!!」

 

 

驚いているセイバーの不意を突いて、俺はディーヴァで剣を跳ね返す。

そして、地面に着地したセイバーを休ませることなく距離を詰めてアスラを振るう。

『直感』のスキルで対処してくるセイバー。いいぜ。もっと食らわせてやるよ!バーサーカーらしく暴れてな!

俺は地面を蹴って、側宙しながらアスラとディーヴァをセイバーに叩き込んでいく。

セイバーは一瞬驚いたようだが、防御の姿勢を崩すことなく俺の猛攻を防いだ。

 

 

いいぜセイバー!

 

 

なら、これはどうだ!!

 

 

 

「はぁぁぁぁぉぁッ!!」

 

 

側宙からの切り替えしでサマーソルトを繰り出す。

狙いは剣の柄を持っている手―――…蹴りを使ってセイバーの防御を抉じ開けてやる!

見事、俺のサマーソルトは狙い通りにセイバーの手に直撃して剣を持っている手が上に弾かれた。

その隙を見逃さない、俺はガラ空きになったボディーをフロントキック…処遇、ヤクザ蹴り繰り出してセイバーの体をふっ飛ばした。

 

 

「ぐわあああああッ…!!」

 

 

 

体をくの字に曲げてセイバーは地面に転げ落ちた。

 

 

 

「セイバー!!」

 

「駄目よ衛宮くん!!」

 

 

セイバーに駆け寄ろうとした士郎だったが、すぐさま遠坂に止められた。

あいつ、自分が来ても何もならないのに……というか、来たらセイバーの足を引っ張ることを考えてないのか?

やれやれと、内心呆れてしまうも、それが衛宮士郎という人間だということを思い出してフッと笑ってしまう。

そうだ、こいつは“こういう男”だ。なら、俺がしてやれることは―――――――…

 

 

 

そんなことを考えながら、俺は剣を杖にしながら苦悶に満ちた顔で立ち上がるセイバーに向かって走り出す!

 

 

 

 

なッ!?と息を飲む声が、士郎たちの方から聞こえた。

 

 

さぁ、どうする主人公よ!?

 

 

こんなとき、お前なら―――――――!

 

 

 

「セイバァァァァァ!!!」

 

 

士郎の悲痛の声が聞こえる。

それが、少しばかりか俺の胸に突き刺さるも…俺はアスラをセイバーに振るおうと手を挙げ――――…

 

 

(あっ…)

 

 

…る、ところで嫌な気配がしたからすぐにその場から離れた。

すると、俺の居たところに無数の矢が地面を抉るように降り注いできた!!

考えるまでもない、遠方からのアーチャーの攻撃だろう。

 

 

忘れてたぁ……そういえば、あいついたやん。

 

 

セイバーと戦うことで、士郎がこの先どうすれば良いのかを、考えさせるための行動を見事に邪魔された。

あんにゃろー!覚えとけよ!今から目に物を見せてやるからな!

具体的に、どんなものを見せるのか?と聞かれたらそれはそれで、困るんだがな!

…とか考えつつ、アーチャーの矢を避け続けてやっと矢が止まった。

ふぃー…一息つくとしよう――――…なんて、してらんねぇな。

 

 

(早いとこ、アーチャー何とかしないとな。『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』飛んでくる前に。)

 

 

それだけ考えて、俺はアスラの銃口をある一つビルの屋上へと向ける。

アーチャーの居るところなんて既に分かっている。あそこに“すんげぇ”のぶち込んでやる。

だから、いいよな?と言いたげに俺はイリヤの方を向く。

イリヤは微笑んだまま、コクリと頷いた。

よし、主様から許可が出たんだし、派手にやるぜぇ!

 

 

 

 

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は暴れ狂う)

 

 

 

 

 

詠唱と共にアスラの銃口に魔力が集まっていく。

これが、俺の切り札の一つ――――――…。

アーチャーの螺旋剣に匹敵する、神々の最強の槍の一つ。

 

 

 

 

 

 

「『穿たれる死翔の槍(ブリューナク)』」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

遠くの方から、セイバーに追撃しようとしていたバーサーカーを矢で射殺そうと放つが、この程度ではヤツを殺せないみたいだ。

私ことアーチャーは、相変わらずのヤツの厄介さに改めて呆れたようにため息をついてしまう。

ヤツは、いつも厄介なことしかしでかさないヤツだ。いつも私の前に現れては邪魔ばかりしてくるからな。

サーヴァントになる前の私が唯一、何度も取り逃した存在でもあるあいつ……バーサーカーはサーヴァントになっても私の手を焼かせるようだ。

全くと…思いつつ。ふと、あいつとの戦った記憶を無意識に思い出して、懐かしんでいることにハッと気づいて頭を振った。

 

 

自分の馬鹿な思考を止めよう。

 

 

 

とにかく、ヤツは確実にここで殺さねばなるまい。

 

 

 

 

“オレ”はそれだけ考え、螺旋剣を投影しようとする。

 

 

 

 

 

そのとき―――――…遠くの方から魔力の高まりと共に“何か”が飛んでこようとしているのが分かった。

 

 

 

 

 

 

「なっ!?あれは―――――――!!」

 

 

 

私の記憶と解析が正しければ、あれは確か『穿たれる死翔の槍(ブリューナク)』。

奴め!!あんなものを軽々しく撃ってくるとはな!!

 

 

「チィッ!!」

 

 

これは防ぎようがない。

螺旋剣の投影を諦めて、その場から退避することにした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

やりすぎた!

アーチャーがいたビルの屋上が崩壊していく光景を見ながら、俺は反省した。(もう遅い)

いやー、だって“久しぶり”に撃ったからさぁ!!仕方ないでしょ!?

加減の仕方とか、忘れちゃったよ!

 

 

「なにしてんのよ!!さすがにあれはやりすぎよ!!」

 

 

我が主様も怒っていらっしゃる!

いや、ほんとにマジで悪い――――…反省してます。もう遅いけど!

そういえば、英雄時代にブリューナクを撃とうとしたとき、仲間たちから「それは使うな!!」と止められてたなぁ。

そんなことを思いだして、ふと士郎たちの方を見ると、顔が真っ青になって壊れたビルの方を眺めていた。

 

 

「こ、こほん!きょ、今日のところは見逃してあげるわ!お兄ちゃん!

 これで分かったわね!私のバーサーカーは強いんだから、いつでも貴方たちを殺せるんだから!」

 

 

なんか、小物臭漂うぞその台詞。

そう言おうとしたとき、イリヤが踵を返して帰り道を歩き出した―――――――…え、ほんとに帰るの?

と、とりあえず、呆然として言葉を失っている士郎たちに心の中で謝りながらイリヤの後を追いかけることにした。

 

 

 

 

 

 

次から、ブリューナク使うことはやめようかな…。

 

 

 

 

 

 

 




誤字報告をしてくれた方、ありがとうございます。
これからは、なるべく誤字がないように投稿したいと思っています。
もし、また誤字等がありましたら、すぐに修正するのでご連絡くださると助かります。


それでは、次回もまたよろしくお願いします。

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