Fate/SnowScene Einzbern   作:アテン

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※H30 6/30 「時計塔」→「魔術協会」に訂正しました。


第一夜 黒き英雄、参る

死から目覚めて、四年くらいの月日が経った。

あれから、俺は「ジェラル」という老戦士に弟子入りする事になって、彼のもとで修業する事になった。

初めは、自分を“魔法使い”と称する胡散臭くて、痛い設定を設けたおっさんだと思って、とても不安だったんだが…。

 

だけど、いざ接してみると意外と面倒見がよくて、何も知らない俺を親身に世話してくれた。

この世界の今の情勢を教えてくれたりしてくれた。

その中で分かったことなんだが…どうやら、この世界は「Fate」の世界らしい。

 

「Fate」っていやあ、現代に残った『魔術師』が願いを叶えるために英雄を召喚してバトルロワイヤルするってアニメの話だ。

何でも願いを叶えてくれる万能機「聖杯」――――…それを景品にして殺し合いをするイカレたゲーム。

魔術師は歴史に名を残した英雄…『サーヴァント(従者)』を召喚して聖杯を求めて戦い。

最後に残った魔術師とサーヴァントを願いをかなえる事が出来る。

 

 

…んで、この世界は、「Fate」では第五次聖杯戦争から十数年経っている事が判明した。

 

 

その頃には、第五次の舞台となった『冬木市』の聖杯は解体されてしまっていた模様。

生前、型月作品が大好きだった俺にとって…「Fate」の世界に来られたことは、気持ち悪いくらいテンションあがってたが…。

アニメや物語の醍醐味が当の昔に終わっていて、かなりショックを受けていたのは今でも新しい記憶だ。

…まぁ、それでも来てしまったからには、二度目の人生を必死に生きていこうと頑張る事にした。

 

とりあえず、俺はジェラルに“生き抜くために必要なモノ”は全て教えてもらった。

「武術」や「剣術」…あと「様々な武器の扱い方」や「知識」、「生きる為に他者を殺す覚悟」など。

あっ、あと「魔術」も教えてもらった!どうやら、俺にはそっちの才能もあったらしい。

 

 

生前から物覚えが悪い俺だが、ジェラルの教え方が上手かった為かスポンジの様にすぐ覚えていった。

 

 

あのゾンビ…ここでは死徒っていう、吸血鬼モドキも倒せるようになるまで、時間はあまり掛からなかった。

…最初は、死徒がもともと人間だったと知って、倒すのを躊躇していたけど…生きる為には殺るしかないんだと実感した。

死徒だけじゃない…戦争をする奴らや盗賊共も、俺は、生きるためにたくさん殺した。

初めの内は、戦闘後に殺した瞬間をフラッシュバックで思い出して陰で吐いたり…。

殺した死体から家族写真を出てきた日の夜には、ジェラルから隠れて罪悪感の中で泣いたりしてた。

 

ジェラルは、そんな俺を見てとても悲しそうな顔をしてたのも覚えてる。

けど、それでも――――…生きる為には他者を傷つける覚悟がいるってのを受け止めるしかなかった。

その分、盗賊や戦争に巻き込まれていた人を救えた事も何度かあった。

助けた人たちから感謝されたり、ありがとうと礼を言われた事もあったっけ…それが、すげぇ嬉しかったんだよなぁ。

 

 

俺でも、また誰かの力になる事が出来たんだと思えてさ。

 

同時にもっと力になれたらなって、願望も抱いちまった。

 

 

その時からだった…俺は“戦争を終わらせて、誰も殺し合う事の無い世界を作りたい”という願いが出来た。

ジェラルに願いが出来たことを教えると、凄く嬉しそうに「応援する」と言ってくれたのは感激したし…。

本気でその願いを叶えたくて、必死になって今までよりも頑張った。

結果、貧弱だった身体も、戦う為に鍛え抜かれた肉体に変わり…ジェラルから学んだことを全てマスターする事ができた。

その頃になると、スペック的にもう人間じゃなくなっていた。

魔術師が何人束になって、襲ってこよーが一人で片付けるまでの化け物になっていたのは、自分でもドン引きだけど…な。

 

 

 

 

 

そして…ジェラルから「教えることは、もう何もなくなった。」と言われた時―――…

 

 

 

 

 

俺は…彼のもとから離れることを決意した。

 

 

 

 

 

“戦争を根絶する”その願いをかなえるために…一人立ちをする事にした。

そう進言するとジェラルは「そうか…」と少し悲しそうに…それでいて嬉しそうに、認めてくれた。

彼と別れるのは、俺も辛かったけど夢を叶えるためには仕方無かった。

別れの際、ジェラルは“黒い礼装”――――…『黒帝礼装』を俺にプレゼントしてくれた。

 

「大事な弟子の一人立ち」という事でくれると言っていた。

俺は、その礼装を大事にしようと思い…肌身離さず着ていることにした。

 

 

 

ジェラルとの大事な思い出として――――…彼の弟子である誇りとして。

 

 

 

彼のもとから離れて以来、俺は様々な戦争に介入しては潰していった。

 

 

 

ジェラルに弟子入りした時に貰った、非対種の銃器を両手に――――…

 

黒き礼装を身に纏って、戦争の中を暴れまわるその姿を――…

 

 

 

他の人間は、俺のことを「黒帝の破壊者」と呼んで畏怖していたらしい。

 

 

 

自分じゃ実感沸かないんだけど…他の人から見て俺は“とってもヤバい奴”らしい。

…あ、いや、人格的や情緒的の意味でのヤバい奴じゃあ無くてだな…「魔術協会」の魔術師達が焦るほどの危険人物らしい。

様々な魔術使ったり、謎の作りをした魔的な銃を使って戦争を潰しているのが、奴らにとってやんばいらしくって俺はすぐに目を付けられた。

何度も追われ続けて、その度に返り討ちにするんだけど…正直言っていい迷惑だ。

しかも、こっちは殺さないように仏心を構えているのに、奴らは血眼になって捕獲しようとしたり殺そうとしてくるんだぜ?

 

 

抵抗するなら抹殺も厭わない!って感じで吐き気がするぜ。

 

ま、それでも負ける事はないんだけどね。

 

 

その後も俺は色んな人や仲間と出会ったり、そいつらと一緒に凶悪な戦争屋どもの陰謀をぶち壊したり。

人間に害がある化け物を討伐しまくったり、戦争根絶の組織の頭領になったり…。

厄介事に首を突っ込んでは敵と戦ったりして…

何度も死にかけては、強くなって“特別な力”にも目覚めたりした。

今、思えば…よく生き残れてたよなぁ~と自分に呆れながらも感服してる。言っておくがナルシストじゃないぞ?

 

 

 

 

 

あ、そういえば…戦いの中で“アイツ”とも出会った。

 

 

アイツとは何度も戦ったな……時に“たった一回の短い期間”だけど、共闘関係も結ぶなんてこともあったな。

 

 

何度も何度も戦って……もはや因縁と言わざるを得ないだろうな。アレは…。

 

 

 

 

 

 

まぁ、なんやてんやあって俺は英雄時代を生き抜いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――…アイツと最後に…殺し合いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「…ぐ…ふ…ごほっ…」

 

 

 

あまりに突発的で、非常に申し訳なく思うのだが…。

 

現在、俺…「黒帝の破壊者」は二度目の死を迎えようとしている。

 

 

 

身体のあちこちからは重症とも言える切り傷が多々刻まれており。

胸には剣が突き刺さってたと認識できる斬り口と…

そこから、なおも血が溢れ出ており。この上ないほど形容しがたい激痛が襲ってくる。

痛いのは慣れているので、絶叫する事はないが…これだけは分かる…“俺はここで死ぬ”。

 

 

これを見ている人は、何でこうなった?と混乱するだろうな。

 

 

まぁ、経緯を話すと長くなっちまうから短く答える。

長く因縁を持っていたあいつと殺し合いをしたからである。

あいつ強ぇーよやっぱり……うぬぼれじゃないが、俺が全力を出さなきゃ倒せなかった相手だった。

それでもまぁ…結果的にこうなっちまったんだが…。

 

 

 

あ、言っておくが負けた訳じゃないぞ?

勝ったわけでもないが。

 

 

端的に言えば、最後の一撃で互いに致命傷を受けて相討ちしたってことだ。

 

 

アイツの剣は俺の心臓を突き刺し、俺はアイツの“点”を確かに突いた。

 

 

 

どちらとも言えない終わり方だが…俺には悔いはない。これでもいいかって感じ。

もう立つことさえできない俺は、その場に大の字に倒れて死ぬのを待っていた。

…そういえば、アイツどうしたかな?、最後の力を振り絞って視線を移す――――。

 

 

「…いねぇー、し…。」

 

 

姿がない。

確かに手ごたえを感じていたのだが…。

仕留め切れてないって事はないのは確実だが……確かに、俺は“存在を完全に殺した”という手応えを感じた。

なら、アイツが最後の力を使って移動したという事だろう。

 

 

「“点”、突いて…まだ、動ける、とか……やっぱ…あいつ、すげーわ。」

 

 

ハハハ…と乾いた笑みを浮かべざるを得ない。

さすがに常識外れにも程がある…あれ喰らっといてそりゃねぇですわ。

フツーなら、突かれた時点で死ぬハズなんだけど…。

まぁ、それも時間の問題だ…遅かれ早かれあいつも死ぬことは確定してるからな。

 

 

ぼすっ…と脱力するように上げていた首を下して倒れる。

 

 

視界が霞んでいく…もう時間のようだ。

心臓突き刺されて、ここまで意識があったなんて俺も大概化けモンだな…。

 

 

瞼を閉じる。

 

すると、この世界に来てからの記憶が蘇ってくる。

 

 

コレが“走馬灯”ってやつなんだろうな。

大半が戦いしかないのは悲しい気もするが、まぁ仕方ないよな。

“奪っちまった”もんもあったけど…“守れた”もんもたくさんあったんだ。

 

 

「…満足だ。」

 

 

最初の死ぬ時よりも一生満足している。

やりたい事をやれて死ねる…完全燃焼って言う奴だ。

“戦争根絶”っていう夢は―――…果たせなかったのは残念だが、やれるだけの事はやったし、それなりに規模は小さくなったと思う。

後は、誰かが継いでくれる事を祈るだけである。

 

 

 

 

 

ああ、意識が遠のいで行く――――――…

 

 

次、目ぇ覚める時は――――――…

 

 

あの時の…聖女さんに会いてぇな―――――…

 

 

 

 

 

そんな淡い期待を抱きながら。

 

 

 

俺は――――…二度目の死を迎えた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

―――――――……さい。

 

――――――――…ください。

 

 

声…が…聞こえる?

それも、優しくて温かい…。

 

 

―――――――きてください。

 

 

でも、どこかで聞いた様な…?

 

 

――――――もしもーし。

 

 

はて、何処だっけ…?

こんな美声で中身も外見も美人そうな声の主は…。

どっかで会った気もする…。

 

 

「もしもーし。目を開けてくださーい。」

 

 

今度は声がハッキリ聞こえた。

ゆっくり目を開けると――――…眩しい光が。

 

 

「あっ…起きた。」

 

 

そして…眩しい光よりも輝いて見える。

銀色の鎧を着たあの時の……聖女が目の前にいた。

 

 

「……」

 

 

絶句。

あ、いや、さっき死ぬ時…「聖女さんに会いてぇなぁ~。」とは確かに思ったけど!

実際に会えてうれしいけどよ!まさか、願いが叶うとは思わんだろーよ!?

 

 

「あっ、えっと…その…」

 

 

こちらを見下ろす形で見ている聖女さん。

何コレ?どういう状況…?そして、この後頭部にあるふにふにの感触は―――――?

 

 

 

 

ま、まさか…こ、これは…!?

 

 

せ、聖女さんの膝枕ッスか!?

 

 

 

 

「俺のアヴァロン(理想郷)はここにあったか!!!」

 

「きゃ!?」

 

 

くわっ!と叫ぶ俺に聖女さんは驚いたように声を上げた。

あ、つい、やっべやっちまった…。

 

 

「あっ、ええええっと!!悪い!!驚かすつもりはなかった!」

 

 

一先ず聖女さんの膝から頭を(大変名残惜しいが!)離して立ち上がる。

 

 

「もう…大丈夫なのですか?、疲れていたらまだ横になったままでも―――――…」

 

 

優しく気遣ってくれる聖女さん。

めっちゃ優しいなこの人…けど、これ以上好意に甘える訳にゃいかん。

 

 

「ああ、大丈夫だ……また、世話になったな。」

 

 

そう言って、言葉を紡ぐ。

 

 

「えっと…その…――――久しぶり?に、なるのかな?俺のこと覚えてる?」

 

 

かれこれ彼女とは体感時間的に四年半ぶりの再開である。

大分時間が空いていたけど……覚えているかな?、結構、俺変わっちまったと思うし。

もしかしたら、すっかり俺の事を忘れているのかもしれない。

それはそれで凄い悲しいが――――…。

 

 

「はい。覚えていますよ。」

 

 

にっこりと笑顔を向けて答えてくれた。

覚えていてもらった!めちゃくちゃうれしい!!

嬉しさの余り飛び上がりそうになったが、心を落ち着かせて冷静になる。

 

 

「そ、そうか…よかった……」

 

「貴方も、私の事を覚えていてくれてよかったです……忘れていたら、どうしようかと思っていました。」

 

 

そう、小さく舌を出して言う聖女さん。

俺は慌てて、返答を返した。

 

 

「わ、忘れたりしねーよ!―――…君には、ずっと言いたかったことがあったんだ。」

 

「えっ…?」

 

 

きょとんとした顔になる聖女さん。

二度目の人生――――――――…英雄時代を生きていた頃から、ずっと告げたい想いがあった。

それを今、彼女に伝えよう…声にして、ハッキリと。

 

 

「あの時――――…俺を、守ってくれてありがとう。

 

 命の大切さを…………教えてくれて――――…ありがとう。」

 

 

「っ。」

 

 

ずっと…彼女に言いたかった感謝の言葉を彼女へ向ける。

俺は、彼女と出会ったあの日から…生きているまでの間、ずっと胸に抱き続けていた。

彼女に一言、いや……一言だけじゃ埋まらない感謝の想いを伝えたかった。

 

 

「君のおかげで……俺は、なりたい自分になる事が出来た。

 あの時…あの言葉があったから……俺は、叶えたい願いが出来た。

 君のおかげで、俺は英雄に――――!!」

 

 

ぽすっ…と、胸のあたりに小さな重みを感じた。

視線を向けてみると……銀色の兜と、そこから伸びる銀色の髪が…って!?

 

 

「えっ!?お、おいおいおい…?!」

 

 

聖女さんに抱き付かれました。

な、何だこの展開!何がどうすればこうなるんだ!?

待て待て待て待て!ど、どどどどうすりゃあいいんだよこの場合!!

生前、女性と“そういう関係”で付き合いをした事が無い俺が!こんな美人な女の子に抱き付かれるなんて!!

 

 

胸がバクバクバク…と高鳴る。

 

 

うわー…すっげえ良い匂いする。

女子って何であんな甘い匂いすんだろ……おい、今、変態って言ったやつ前に出ろ。

…って、そんな事より!

この状況、どうしたらええんや!?誰かタシテケクレー!!

 

 

「…ごめん…なさい。」

 

 

……あ?

 

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

聖女さんは俺の胸に顔を埋めたまま、謝っている。

なんで―――――…この人、謝ってんだろ。

あと、心なしか嗚咽みたいなのが小さく聞こえる……泣いて、る?

 

 

「ど、どうした…んだ?、何か、俺…マズイ事でも…言った?」

 

「違うの!…違うの…貴方は……私のせいで…死んでしまった。」

 

 

“私のせい”?

もしかして、最初の死か…?

 

 

「いや!あれは君のせいじゃ――――――…」

 

「いえ、あの時のあれは…私のせいです。私の浅はかさによる行動であなたを死なせてしまった…。

 それだけじゃない――――――――…私の自分勝手な願いで、また貴方に…悲しい思いや人殺しなんてさせてしまった。」

 

 

もしかしたら、彼女は英雄時代の事を言っているのか?

だとしたら…俺の二度目の人生で英雄になるきっかけを作ったのは…あの世界へ俺を連れて来たのは―――…

 

 

「私、なんです…貴方を、あの世界へ連れて来たのは……」

 

 

ぽつり、ぽつりと彼女は自らの罪を告白していく。

 

 

「あの時…目の前で死んでしまった貴方を、私は死なせたくなかった…。

 何としてでも生きていて欲しかった…だけど、肉体は目の前で崩壊してしまい。

 既に修復不可能まで陥っていた。残ったのは魂だけ…そしてその魂も、間もなく消滅しようとしていました。」

 

 

 

 

 

 

“だから、私は…せめて魂だけでも――…転生させたのです。”

 

 

 

 

 

 

 

魂を……転生…?

 

 

 

それは一体どういう事だ?

“魂だけ”という事は、“肉体”は一体どうしたのだろうか?

英雄時代から、今まで至る自分のこの姿は生前から何一つ変わっていない。

声も顔も姿形全て同じだというのに魂だけとはいったい――――…

 

 

「今の貴方の体は、私が“貴方の記憶から作った複製の体”…本物の貴方の体は…。」

 

「……」

 

 

どうやら、この体は複製で…偽物だったらしい。

あの世界で目覚めた時に傷が、何一つ無くなっていたのは…それが理由か。

 

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくる彼女。

 

彼女の、胸の内にあるのは…押しつぶすほどの罪悪感。

 

罪の意識があまりにも大きくて、自分自身が憎くてたまらないと言った方が正しいだろうか。

 

彼女の悲痛な声が、悲しみを含んだその姿が……俺の胸に突き刺さる。

 

彼女の言う通り、聖女さんのせいで俺は死を迎え、英雄として過酷な戦いをしなければならなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

でも…それでも――――。

 

 

 

 

 

 

「君は……間違っていないよ。」

 

「え…?」

 

 

驚く彼女の声が聞こえる。

俺は、そっと手を彼女の背に回して優しく抱きしめて言った。

 

 

「俺がここに立っているのは、俺自身で選んだからだ。

 

 誰がどうこうじゃない…俺の意思で戦ってきた。

 

 自分で望んで―――――英雄になったんだ。

 

 だから……俺は後悔もしないし、悩んだりもしない…君を恨んだりもしないんだ。」

 

 

 

 

だから…と言い続ける。

 

 

 

「もう、自分を責めたりしないでくれ。

 俺は、君に救われたんだ…人間が嫌いで、自分が嫌いで、世界そのものを嫌いになった俺に――――…

 君は…命の大切さを教えてくれたんだ。君がいたから……俺は、頑張れたんだよ。」

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

その言葉で胸がいっぱいになる。

彼女には感謝の気持ちがあれど、憎む気持ちは何一つ無い。

例え、彼女が原因で俺が死ぬ事になってしまったとしても。

俺の心には、そういう負の感情が何一つ無かった。

 

 

「俺は気にしてねーんだ!だから、もう謝んなくていい。

 自分を……傷つけなくても、いいんだ。」

 

「…っ。」

 

 

聖女さんは声を枯らしたように胸に顔を埋めてくる。

体が小刻みに揺れて、泣いている事が見てとれる。

俺は、彼女が落ち着くまで、その華奢な体に手を回して優しく…抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

くぅ…めっちゃ、恥ずかしいけど耐えねば。

 

頑張れ、俺の理性……!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「すいません…みっともない姿をお見せしました。」

 

 

しばらくして、泣きやんだ聖女さんは俺の胸から頭を離した。

目尻が赤くなっているけど、様子を見る限り大丈夫そうだ。

少し名残惜しい気もするが、落ち着いてくれたようで良かった。

彼女に「大丈夫なのか?」と言いたげに視線を向けると、聖女さんは笑みを浮かべる。

 

 

「貴方には何度も迷惑をかけていますね…。」

 

「気にすんな。俺は全然そんな風に感じないし。」

 

 

 

 

というか、もっと俺を頼ってくれ!

 

 

 

 

…なんて事を実際に目の前で言えたらなぁ。

戦う事に慣れた俺だったが、女性を口説いたりカッコイイ事を言える度胸は無い…というか、出来ないと思う。

英雄時代じゃ、仲間に女の子が結構いたと思うけどそんな間柄じゃなかったし、関係を持とうとも考えなかった。

生前は…まぁ、それなりに接する機会は多かったと思うけど…そんな甘い話は無かったな。

 

待て?俺、二度目の人生貰えたのに甘い話が一個もないぞ…

あっちへ行ってから修行ばっかでジェラルとしかいなかったし。

一人立ちしてからは紛争潰しで戦いに明け暮れ……。

組織で頭領になってからは、部下を引っ張り異能力者達との激戦の毎日―――――…

 

 

 

 

 

 

あれ…俺、あんまり人生エンジョイ出来てない?

 

 

 

 

 

 

「あの…お話したい事があるのですが…」

 

 

そんな事を考えていたら、聖女さんが声をかけてきた。

おっと…考えに耽っていたか…いけない、いけない。

 

 

「話って?」

 

「貴方の今の状態についてです。」

 

 

俺の今の状態…?

首を傾げるが、真剣な面立ちで答える聖女さん。

とても重要な話っぽい…話について行けるようにちゃんと聞いていよう!!

 

 

「今の貴方は複製された体から切り放たれ…魂の状態としてここに限界しています。」

 

 

どーん!と衝撃事実という名の爆弾を投下された。

…既に話について行けなくなったが、とりあえず黙って聞いていよう。

 

 

「先ほどいた世界で貴方は二度目の死を迎えました。

 複製された体は個としての機能を果たされなくなり、消滅しました。

 しかし、魂だけは消滅せずに残ったままここへやってきたのです。」

 

「魂だけ?何でだ?」

 

 

彼女が転生を施したのは最初の死だけ。

なら、俺は今度こそ消えてなくなるだけじゃないのだろうか?

不可解な考えが浮かぶ中、アテナは重々しく口を開く。

 

 

「えっと…その…大変申し訳ないのですが…私が…その…。」

 

 

もじもじとした風に聖女さんは言葉を紡ぐ。

…くっそー!かわいいじゃねぇか…じゃなくて!

 

 

「あー。うん。そう言う事ね。」

 

 

察してあげた。

多分、俺の魂を彼女がここに呼びだしたんだろう。

その様子が分かったようで、「ごめんなさいぃ…」と、消えそうな声で言ってきたかわいい。

 

 

「でも、何で俺を呼びだしたんだ?俺の役目は終わったハズだと思うんだけど…」

 

「……貴方をここに呼びだしたのは他にあるのです。」

 

 

俺の言葉を聞くと、真剣な顔に変えた。

その姿に俺も身を引き締まるように姿勢を正した。

これから、何が告げられるのだろうか…?

 

 

「黒帝の破壊者…貴方にお願いがあります。」

 

 

ごくり。と唾が喉を通る。

緊張が走る…彼女が口をゆっくりと開く。

 

 

「私…戦女神「アテナ」の“神剣”(みつるぎ)になってくれませんか?」

 

 

………。

どこから、言ったらいいんだろう。

まぁ、とりあえず……俺が言いたい事が一つある。

 

 

 

 

速報:かわいい聖女さんは女神だった!!

 

 

 

 

「えっと…どういうことかな…?」

 

 

“ごめんなさい…こんな時、どんな顔をすればいいのか分からないの…。”

 

 

と、言いたげな顔で俺は女神…もとい、アテナに言う。

その悲痛(嘘)な姿を見てアテナは、「笑えばいいと思うよ。」……とは言わず、真剣な顔をした。

 

 

「“神剣”とは、我々…神々に仕え、仕えた神を守り。

 時には崩壊する世界の変革となる可能性として存在する――――――…」

 

「すんません。良く分かりません。」

 

 

彼女なりに細かく教えてくれたのだろう。

しかし、俺の脳筋じゃ理解できないっす!もっとバカにも分かりやすい言葉で説明してください。

 

 

「つまり、私の…騎士というか…ボディガードになってほしいのです。」

 

「ああ、そういうことね!」

 

 

なるほど!分かりやすいぜ!!と言わんばかりの表情で手を打つ。

しかし、そこで俺はふと言葉を遮る。

 

 

「…でも、俺なんかでいいのか?もっと他にいい奴が――――――…」

 

「そんな事っ…!私は貴方がいいんです!!」

 

 

いるんじゃないか?と言う前に彼女に距離を詰められて言われる。

距離が近い近い近い役得だけど!俺の心臓が張り裂けて死にそうだから離れてくれええええ!

これだから耐性のない童貞野郎は……自分で言ってて、泣けてきたちくしょう。

あー、そうだよ!俺は童貞だよ!悪いか!!

 

 

「っ!?ご、ごめんなさい…!つい…」

 

 

ハッと正気に戻ったアテナは頬を赤らめて離れる。

なんだこの可愛い生き物はよ!!

やばい、血吐くはこれは…戦っていないのに大ダメージ受けるとはッ……アテナ、なんて恐ろしい子…いや、女神か。

しかし、おまいらこの可愛さを実際に目の前で見てみろよ――――――――…

持って帰りたくなるぜ!!……持って帰ってもいいのかな?!

 

 

 

…すいません。調子乗りました。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

今ので少し気まずくなって二人とも黙り込んでしまう。

…沈黙が痛いよぉ~!誰か助けてよぉ。

甘酸っぱい空気感も少なからず感じるが、あいにく俺にこのラブコメめいた空気をいなすほど主人公力はない!

 

 

「え、えっと…じゃ、じゃあ、その“神剣”は何をすればいいのかな?」

 

 

“神剣”をやってくれと言われたが、どんな事をすればいいのか全く聞かされていなかった。

いや、話の路線がズレたのは俺のせいなんだけどね…。

俺が聞くと、アテナはハッと気付いた様に「そうでした…」と呟いた。

表情がどこか嬉しそうなのは、さっきの沈黙の空気が同じく気まずさを感じていたからだろう。

俺の方から声をかけたのが効いたのかな…。

 

 

「こほん。“神剣”は使える神々を守る他に重要な使命を持っています。」

 

 

重要な使命。

その言葉を言った途端、アテナの発する空気が変わるのを感じた。

ごくりと思わず喉を震わす。

 

 

「世界を崩壊させる悪しき存在―――――――…“邪神”を討伐すること。

 それが、“神剣”に課せられた重要な使命です。」

 

 

「“邪神”――――…?」

 

 

聞き慣れない言葉に俺は首を傾げた。

それを見て、アテナは目元を少しばかりか細めて言った。

 

 

「覚えていませんか?、私と貴方が初めて出会ったあの日―――…。

 私が追っていた邪神…『堕天竜サマエル』を。」

 

 

「サマ…エル…」

 

 

その名前を聞いた途端―――――――…

頭の中を抉るように様々な記憶が呼び起こされていく。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

あれは、確か……。

 

 

まだ、夏の残暑が残る秋の夜……。

 

 

俺は、全てに絶望して…アテもなく、放浪していたら…。

 

 

 

 

『死なないでッ!!』

 

 

 

 

『…イイダロウ。オノゾミドオリコロシテヤル…!!』

 

 

 

 

【しかたありませんね……私が力を貸してあげましょう。】

 

 

 

 

『力屠る祝福の剣(アスカロン)!!』

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

思い出した。

 

あの時、俺の運命を大きく歪ませた存在。

 

アテナを傷つけ、俺が死ぬ原因を作った怪物。

 

 

「あいつ…か。」

 

 

「思い出しましたか?…そう…邪神の一角である「堕天竜サマエル」。

 私を…戦いの神を退け、貴方を英雄にするキッカケを作った存在。」

 

 

アテナの言葉で全てが思い出した。

今思えば、とても痛烈な印象が残っている。

俺のターニングポイント――――――――…といってもいいんじゃないかな。

まぁ、悪い意味でもあり良い意味でもな。

それでも、死ぬ原因を作ったあいつを思い出すのは、あまり良い気分ではない。

 

 

「邪神はサマエルだけではないのです…数々な異世界に邪神が潜み。

 理を破壊し、その世界での歴史を崩壊させて支配せんと目論んでいるのです……。

 邪神を倒す為に“神剣”は異世界に行き、その世界を正しい方向へ導かなければならないのです。」

 

 

「……。」

 

 

…おいおい。

話がどんどん、深くなってきたぞぉ~。

手がつけられなくなってきたぞぉ。

 

 

 

思考が現実逃避しつつあったので、ふと気になったことを告げた。

 

 

 

「…あのさ、君たち神様が倒しに行くってのはないの?」

 

「私たちは様々な世界の観測したり、崩壊しないように調律したりと使命がありまして…」

 

 

 

……なるほどねぇ。

 

 

 

「“邪神”を野放しにしたら…世界が崩壊してしまいます。

 たくさんの人が犠牲になり、悲しみに包まれてしまいます。」

 

 

きゅっと、手を握り。

アテナは悲しみに満ちた表情を浮かべた。

…前から思っていたけど、やっぱりこの人は他人の事をとっても気遣っているんだよな。

何で、そんなに他人なんかにそこまで思えるんだろう。

俺が出会ってきた中で、こんなに優しい人みたことないよ。

 

 

「…貴方には、たくさん私のわがままを押しつけてしまいました。

 たくさん、苦しい思いをさせてしまいました…危険に戦いに巻き込んでしまいました。

 何度…お詫びしていいか分かりません…ですが…貴方にしか、救えないたくさんの命があるんです…!

 こんな事は本来ならば言えた事ではないのは分かっています…それでも…どうか、また力を貸してもらえないでしょうか…」

 

 

「……」

 

 

ふと、俺は自分の手を見つめる。

 

 

俺は…この手でたくさんに人を傷つけてきた。

 

 

同時に、多くの人を救えたかもしれない。

 

 

俺が戦った事で幸せになった人がいたかもしれない。

 

 

俺が戦ったせいで不幸になった人がいたかもしれない。

 

 

俺について来たせいで、死んでいった仲間たちがいた。

 

 

それでも、俺の事を心配してくれた“あいつら”がいた。

 

 

 

 

『たとえ、全世界の人間が君の敵になっても…僕は絶対に君の味方でいる!!』

 

 

 

 

『この命は…あんたに奪われたんだ……だから、妹共々最後まで使ってくれよ。

 

 それが、俺の――――――――…俺達の望みなんだよ…頭領!』

 

 

 

 

『貴方のおかげで私たちは束の間の夢を見れました。

 

 楽しい楽しい…少し辛いこともあったけど……かけがえのない。人間らしい夢を―――…』

 

 

 

 

『頭領…あんたは、俺が生きていた中で一番の手にかかる人間だと思う。

 

 でも…そんなあんただから、皆は着いて行くんだと思う…最後までお供させてくれ。』

 

 

 

 

『貴方は本当に成長した…私の手が届かないところまで……でも、その力……誰かの為に使いなさい。

 

 貴方の事を本当に愛してるわ――――――――…いつしか、貴方の事を息子のように思っていたのね。私は…。」

 

 

 

 

 

『私のもとにいる間…お前は、たくさんの事を学んだだろう。

 

 戦い方、生きる力、魔術、情勢…戦争の虚しさ、人を殺める怖さ、命を奪った悲しみ…。

 

 様々な事を学び…時に苦しく、悲しく、辛かっただろう。

 

 だが、それでお前は強くなれただろう…何が大切か分かっただろう。

 

 迷わずに行け。そして―――…お前を必要としている人の為に、この歪み狂った世界を壊せ…!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お願い…必ず帰って来て。

 

 貴方が帰ってこれるように…ここで待っているから――――!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「英雄時代」に出会ってきた仲間達の姿が脳内にリフレインしていく。

それぞれ、皆…俺にとって大切でかけがえのない存在だ。

彼らとの過ごしたあの日々は―――…絶対に忘れられない。

あいつらがいたからこそ――――…今の俺がある。

 

 

 

 

 

だからこそ――――――――――…あいつらが欲していた俺のままでありたい。

 

 

 

 

 

「…はっ、俺も変わったもんだな……生きてた頃はこんな風に考えたりしなかったんだがな。」

 

 

一人でに呟く。

本当に自分は変わったと。

だが、どこかこんな自分も悪くないとも思っている。

ふと顔を上げると、そんな俺の姿を見てアテナは首を傾げていた。(かわいい)

 

 

「アテナ。」

 

「は、はい。何でしょう…」

 

 

びくりと体を震わすアテナ。

…距離感を考えずに呼び捨てにしたのは、やはりまずかったか。

くっそー…これでも、割と恋愛要素のあったゲームはしてたはずなんだけどなぁ。

途中からどうでもいい事を考えつつ、俺はこほんと咳払いをして言葉を紡ぐ。

 

 

「俺を貴女の“神剣”にしてほしい。

 貴女の為に…世界の為に、多くの人の為に…。

 この身はかけがえのない命を守るために戦い続けよう。」

 

 

すっ…と彼女の前で片膝を着いて頭を下げて言った。

なんか、この部分だけ見ていると兵士が女王に忠誠を誓っているようにも見えるけど。

だ、大丈夫…だよね?

 

 

…………。

 

 

…えっ。俺、間違ってないよね?

アテナからの反応が全然返ってこないんだけど…まて、俺はもしかしてやらかしたか…!?

『は?』みたいな感じに取られてんのかな!?『なにそれ?』みたいに思われてんのかな!?

被害妄想が進んでいき、思わずパッと顔を上げると……。

 

予想を斜め上を行く結果だった。

アテナはきょとんとしていた…え、なにその表情(かお)は?

そんな変な事言ったかな…?

 

 

「くすっ。」

 

 

わ、笑われた!?

人の人生における最大の誓いのシーンを「くすっ」て!

おいおい、流石の俺もこれは心が折れるって……もう、あかん。立ち上がれへんわ~。

 

 

「すいませんっ。ですが、少しおかしくって。」

 

 

はいはいどもども、笑ってもらえてうれしゅうございますー。

もはや、俺は完全に拗ねたからな!なに言っても無駄だかんなぁー!!

 

 

「でも…嬉しかったです。また、貴方にそんな風に思って頂いて。」

 

 

………お?

 

 

「貴方とまた一緒に戦える…こんなに嬉しい事はありません。

 これから、よろしくおねがいします!」

 

 

とびっきりの笑顔で彼女はそう言った。

…参ったなぁ。そんな笑顔で言われるとなぁ。

自惚れではないが、割りと自分はオールマイティな方だと思っていたが…やはり勘違いだった。

どうやら、『黒帝の破壊者』の弱点は女神様の笑顔であった模様。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

その後、俺はアテナと“神剣”になる儀式みたいなのをした。

まぁ、儀式っつーても彼女の手を握って片膝着いて―――――…

「我、戦女神アテナの“神剣”になる事を誓う」的な事を言っただけなんだけど。

そしたら、周りに青白い光が溢れてとっても幻想的だったなぁ…。

全部が終わった時には、どこかアテナとパスを通しているような感じがした。

 

これもたぶん、“神剣”になったからなのだろうか。

考えに耽っていると、彼女と目があって微笑まれた。

笑っている顔、超かわええこの女神…。

 

 

まぁ、そんなこともしつつ、そろそろ本題に入りたいと思っていた時。

 

アテナの方から「こほん」と咳払いが聞こえた。

 

 

「では、これで貴方は“神剣”になった訳ですが……先ほど言った役目に関しては大丈夫ですか?」

 

「ああ、異世界に潜む邪神の調査、及びそいつを倒すこと――――…んでもって、世界を正しい方向へ導くことだったな。」

 

 

先ほど聞いた事だからバッチリ覚えている。

 

 

「あ、あと、俺が介入する時点で、オリジナルを模った全く違う“平行世界線”になるから…

 “本来の歴史”とは違った結末を作っても問題ないだったよな?」

 

「正確には少し違うのですが、そのような認識で構いません。」

 

 

よし、目的確認終了。

じゃあ、次はお待ちかねの!

 

 

「なぁ、俺はどこの異世界へ行くんだ?」

 

 

一番気になっていた事を口にした。

いや、だってさ!異世界だぜ異世界!!

自分の世界じゃ見られない物をたくさん見れるかもしれないじゃんか!

なんだか、ワクワクするんだよな~!

 

 

「ふふっ、気になりますか?」

 

「そりゃ、もちろん!で、どこどこ!?」

 

 

たぶん、今の俺は傍から見たら目を輝かせているように見えるのだろう。

子どもっぽいと思うかもしれんが、あの「英雄時代」で生き抜いて昨今まで至る俺のスタンスはこれだ。

 

 

“自分に置かれた現在の状況を一つの過程として全力で楽しむこと”

 

 

これが、俺の信条だ。

これナシで考えるのは流石に無理だね!

やるなら、全力で楽しまないと!!

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えていると、アテナから最初の行き先を告げられる。

 

 

 

 

 

 

「これから、行く世界は貴方が数年間戦いぬいた…いわゆる英雄になった時代から十数年前。

 

 魔術が現代に織り成す舞台の物語……『Fate/stay night』です!」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 

 祖には我が大師シュバインオーグ。

 

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、

 

 王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」

 

 

薄暗く、そこらかしらにある柱からろうそくの灯りがある城の一室。

周りには誰もおらず、あるのは広く虚な空間と地面に刻まれた魔術の陣…。

そして、その陣の端を囲むように設置してある媒体。

その前に立っているのが――――…

 

 

 

私…イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、そこにいた。

 

 

 

今、私が行おうとしているのは“聖杯戦争”を共に戦う『英雄』を召喚だ。

聖杯戦争とは、文字通りその聖杯をかけて争う大規模な儀式のことだ。

 

 

『あらゆる願いを叶える事が出来る、万能の願望機』

 

 

それを巡って七人の魔術師がそれぞれ召喚した『英霊』…サーヴァントと共に戦う。

サーヴァントには7つのクラスがある。

 

 

 

剣士のクラス「セイバー」

 

 

弓兵のクラス「アーチャー」

 

 

槍兵のクラス「ランサー」

 

 

騎兵のクラス「ライダー」

 

 

狂戦士のクラス「バーサーカー」

 

 

暗殺者のクラス「アサシン」

 

 

魔術師のクラス「キャスター」

 

 

 

魔術師(マスター)は、その中でクラスを一つ選んで召喚する。

サーヴァントを召喚した魔術師は聖杯戦争へ参加する事ができる。

万能の願望機『聖杯』を手に入れる為に七人の魔術師は殺し合うデスゲーム…それが聖杯戦争。

無論、私もそれに参加するつもりだ。

 

 

陣の傍にある大きな剣に視界に入れる。

 

 

これが今回の召喚する英霊の媒体となる。

聖杯戦争の英霊召喚システムは基本的にランダムであるのだが、特別な例もある。

 

 

それは、召喚したい英雄に関係がある物を儀式の際に媒体として使う事。

それが召喚したい英雄になじみ深いものなら確率が上がる。

 

 

だが、英雄にも強さの強弱がある。

 

 

強さの基準は英雄そのものの強さと知名度となる。

召喚できたサーヴァントで聖杯戦争の勝敗が決まると言っても過言ではない。

故に、サーヴァントの召喚には慎重に行わなければらない。

 

 

 

その中で私が召喚しようとしているクラスは「バーサーカー」である。

 

 

 

サーヴァントには、自分のスキルの他にクラス特有の専用のスキルがある。

バーサーカークラスの専用のスキルの名は……「狂化」。

理性と知性を捨て去ることで、他の能力を向上させる事が出来る最凶の能力。

ただ、その反面、扱いが難しいという欠点がある。

 

理性がないために命令を聞かず、敵味方関係なく暴れまわるという危険性もある。

さらに、バーサーカーは魔力の燃費が悪い。

並半跏なマスターだと、召喚した瞬間に全ての魔力を奪われ聖杯戦争が始まる前に脱落する、何て事もある。

 

 

 

そして、私が召喚する英雄の名前は「ヘラクレス」。

 

 

 

この大剣の持ち主であり、かの有名なギリシャ神話の大英雄。

伝記上では半神半人の英雄…“十二の試練”はあまりにも有名だ。

私は、そのヘラクレスをバーサーカーとして召喚する。

彼の“十二の試練”…加えてバーサーカークラスの「狂化」を合わせれば間違いなく最凶の使い魔となるだろう。

 

バーサーカーの扱いづらさは、もちろん熟知している。

けど、そんな事に振り回されるほど自分は弱くない。

完全に扱いきってみせる自信がある。

 

 

 

私はバーサーカーを召喚して、この聖杯戦争を絶対に勝ち抜く。

 

 

絶対に…!

 

 

お母様の無念を晴らすためにも――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイリスフィールは失敗だった。』

 

 

 

『お前の父である衛宮切嗣が裏切った。』

 

 

 

『聖杯をもってこず、行方をくらませたのが何よりの証拠だろう…』

 

 

 

『お前は奴に捨てられたんだ。』

 

 

 

『お前を捨て、奴は日本に養子を作ってのうのうと暮らしておるんだ。』

 

 

 

『イリヤスフィールよ、アインツベルンの本懐を遂げよ…。』

 

 

 

『今度こそ聖杯を…聖杯を…聖杯を―――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だ!

 

キリツグが私を裏切っただなんて…!

 

信じられない…!

 

 

 

…どうして?

 

 

どうしてなのキリツグ…?

 

 

なんで、私の前から消えたの?

 

 

どうして、迎えに来てくれないの…?

 

 

 

私は…負けない。

 

貴方みたいに逃げたりしない。

 

 

 

お母様の死を無駄にはしない!!

 

 

邪魔する奴は許さない!!

 

 

全部―――――…!!

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

そこで、私は自分の失態に気付いた。

 

 

今、“何を考えた”?

 

 

間違いでは無かったら、私は今…「全部、壊すモノ」を想像してしまった。

 

 

 

パキン――――ッ!!

 

 

 

私の感情と思考が反映してしまったのか、媒体であるヘラクレスの大剣が壊れた。

まるでガラスが割れたように吹き飛んでしまった。

さらに不幸が続くように魔方陣から光が部屋を包むように溢れだした。

 

 

「いけない…ッ!、魔力の暴走が―――!?」

 

 

私らしくない失敗だった。

ここまで完璧に運んでいたのに、最後の大事なとこで失敗した…!

維持していた魔力の形が歪んでいくイメージが刻まれる。

そこまでいってしまったら、もはや私でもどうしようもなかった。

 

 

 

バゴオンッ!!

 

 

 

“何かが落ちてくる”ような凄まじい音と突風が一斉に襲ってくる。

 

 

思わず腕を交差し、目を瞑ってしまう。

間もなくして突風は止んだが、失敗してしまったという事実が頭から離れない。

が、それでもサーヴァントは召喚できたような感じはした。

だが、失敗は失敗だ…何かイレギュラーを引き起こしてしまったかもしれない。

自分の間抜けさに嫌気がさしてしまう。

 

 

恐る恐る目を開けると、魔法陣の中央に人影が。

 

 

サーヴァントは…上手く召喚できたみたい。

 

 

だが、どうも想像していたイメージと違うような…?

 

私は上手くヘラクレスを召喚できたのかな…?

 

 

色々と考えに耽ってしまうが、近寄ってみた。

ちゃんとヘラクレスを引き当てたのだろうか―――…?

 

 

 

「俺、参上!!」

 

 

 

……なぁにこれぇ。

 

 

 

 

 




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