Fate/SnowScene Einzbern   作:アテン

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お、お気に入り件数188件だと…!?
長いこと投稿期間が開いていたのにも関わらず、以前よりも倍に増えていることに驚きを隠せないのと、嬉しい気持ちでいっぱいです。


これからも、休止することなく続ける予定なので見守っていただけると幸いです。


それでは、第十夜どうぞ!


第十夜 連なる問題、繋がる運命

キャスターとの戦闘をひと先ず終えた俺ことバーサーカー。

『加速』の魔術を駆使したスピードで、奴を翻弄し裏を掻くことに成功。

後方からの不意打ちの一夫多妻去勢拳―――――…ならぬ、伝家の宝刀ことライダーキックでヤツを無力化したんだが…。

 

 

 

どうやら、当たり所が悪かったようだ。

 

 

 

キャスターは大の字のまま、一向に目を覚ますことはなかった。

こちらが何度、呼びかけてもウンともスンとも返事を返すことのない状況。

もしかすると、やっちまったかなと思ったが基本、サーヴァントは『死』という概念があやふやだ。

聖杯戦争から脱落する場合は、姿を粒子のようにボロボロと崩れて文字通り消滅する。

つまり、基本的に俺たちサーヴァントの死ってのは、世界から消えてしまうってわけだ。

 

 

 

見たところ、キャスターにはそんな状態は見られない。

 

 

 

つーことは、キャスターはまだ生きている。

霊基も、損傷しているわけでもなさそうだし…まぁ、そのうち目が覚めるだろ。

そんな風に考えつつ、俺はキャスターの体を抱えた。

 

 

 

 

…えっ?何をするつもりかって?

 

 

 

手当てするつもりなんですけど!

 

 

 

百歩譲っても拉致するなんていう考えなんてしてませんからね?

 

 

 

 

 

本当だかんな!!

 

 

 

 

 

キャスターの女性らしい華奢な体を抱えて、柳洞寺の住職さんのいる場所を目指す。

このまま、放置するなんてマネできないし…そもそも、俺はキャスターと同盟を結ぶために来たんだし!

とりあえず、ここじゃ休めるもんも休めないだろうと柳洞寺の一室を借りることを考えた。

あそこなら、布団とかあるだろうし…そもそも、こいつの拠点だし。ゆっくりできるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ったんだが―――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、姐さん!?キャスターの姐さん!!どうしたんですかい!?」

 

「姐さん!!姐さん!!どうか、目を覚ましてください!!」

 

「だ、だめだ…ッ!完全に気を失ってやがる!!」

 

「お、おい!!おめぇら!姐さんが、姐さんが!!」

 

 

 

 

『『『姐さん姐さん姐さん!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

なんだこれは…。

これが原作で、日常場面がそこまで表記されなかった柳洞寺の実態なのか…?

それとも、俺がいるこの世界が“そういう世界線”なのか…。

 

 

 

 

いずれにしても、どうして柳洞寺の坊さん達はこんな風に丁稚みたいな感じになっているんだ?

 

 

 

 

しかもうるせぇし!

お坊さんってのは、物静かで達観しているようなイメージが強いんだが、俺の偏見だったのか…?

俺が思い描いていた光景とは、まったく違うものだと分かった。

 

 

「そこの若い兄さん!姐さんは一体どうしてこうなったんですかい!?」

 

「まさか、何か良からぬ事件に巻き込まれたとか!?」

 

「だ、だめだ…ッ!!体に傷は無ぇのに一向に目が覚めねぇ!!」

 

「お、おいッ!!おめぇら!姐さんが、姐さんが!」

 

 

 

 

『『『姐さん姐さん姐さん!!』』』

 

 

 

 

 

 

「うるっせえええええええええッ!!」

 

 

 

蒸し暑い、うるさい、話が進まない…。

こいつらとは初対面だけど、流石にこうも迫られると不快かつ、イライラしてしまう。

これでは、お坊さんというより丁稚と呼んだ方が正しいのではないだろうか…。

 

 

 

 

――――…まぁ、どのみち。このままじゃ何もできねぇな…。

 

 

 

 

苦い顔をしながら、困惑していると坊主たちの集団をかき分けるように真ん中から誰かがやってくるのが分かった。。

おいおい、今度は誰だ…?これ以上、話が分からない奴のせいで話が進まないのは勘弁してほし――――…

 

 

「むっ?騒がしいな…お前たち、何をしているんだ。」

 

 

 

 

話の分かる奴が来た。

 

 

 

 

少なくとも、ここにいる誰よりも理解してくれるだろう人物が。

現れたのは眼鏡をかけ、衛宮士郎と同じ穂群原学園の制服を着た、見るからにクラスの学級委員長みたいな青年。

この青年のことは知っている。士郎の友人にして、ここ柳洞寺の住職の息子の「柳洞一成」だ。

柳洞一成が現れると、さっきまで騒がしかった丁稚坊主たちは一斉に黙り、端っこによって二列に並び。

 

 

 

 

『おかえりなさいです、一成殿。』

 

 

 

声を揃えて一斉に頭を下げだした!

なんだ、こいつら!さっきまでと打って変わって礼儀正しい坊さんになったぞ!?

 

 

「うむ。今、帰った。」

 

 

それに対し、柳洞一成は何でもないように手を挙げて丁稚坊主たちへ声をかける。

…おかしいな。俺が変なのか…なんとなくこの光景が変だとしか思えない。

丁稚坊主たちの華麗な変わり身に呆けていると、俺に気付いたのか視線をこちらへ向け……すぐにギョッとした表情をした。

 

 

「むっ!?キャスター殿!?いかがなされた!?」

 

 

俺が担いでるキャスターに気付いた一成は血相を変えて動揺し始めた。

まぁ、そうなるわな普通……というか、気付くのが少々遅いんじゃないですかねぇ…。

そんな邪推をしていると、一成の疑心に満ちた視線が俺の方へと向けられてきた……おいおい。

なんだか、俺が悪い空気になっているんだが…ここいらで、説明したほうが良いみたいだ。

 

 

「ああ、君がここの住職の息子さん?たまたま、下を通りかかったら、この女性が倒れていてね…。

もしかしたら、この寺の人かなと考えたら放っておけなくて…悪かっただろうか。」

 

 

ああ、なんて流暢に流れていくカバーストーリーなんだ。

なんだか、サーヴァントになってからっつーか――――…英雄時代を生き抜いてから、色々と達観したって思うなぁ。

自分で言うのもなんだが…生前とか、ジェラルのところで修行してた時とか、独立してからの俺って、こんな感じじゃなかった気がする。

今みたいな「俺、アクティブ!」みたいなテンションじゃなくて、「あ、俺…インドアっす…。」みたいな感じだったぞ。

知らなかったと思うけど…もっと、大人しいやつだったんだよ俺って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、鼻で笑った人がいるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、それは……今、モニターの前に君だぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと…そうだったのですか…!それは、大変お世話になりました。すぐに寝室へご案内します!!」

 

 

そんなくだらないことを考えていたら、一成がハッと表情を変えて後ろにいる丁稚坊主達に指示をし始めた。

すると、丁稚坊主は先ほどのようなグダグダ具合が嘘だったかのように行動し始めた。

 

 

 

――――…一成マジ有能。つか、丁稚共…そんな風に動けんなら最初からそうしろよ…。

 

 

 

さっきまでの茶番は何だったんだよ…。

あー、なんだか、すごい時間を無駄にしてたような気がする……。

軽くショックを受けていたら、準備が終わったようで一成が再び俺のところまで戻ってきた。

 

 

 

「お待たせしました。では、こちらへどうぞ。」

 

「え?あっ、わ、わかった…。」

 

 

 

君たちがキャスターを持ってくれないのか。そのまま、俺が抱えていくのね……。

お客人&恩人(嘘)の俺を行使するスタイルに驚きを隠せないが…まぁ、一応信用されている……うん。ということにしとくか。

 

 

 

 

なんだか、微妙な気分になったが…。

 

 

今は、キャスターを休ませるのが先か…とりあえず、一成についていこう。

 

 

 

 

 

「おめぇら!キャスターの姐さんが通るぞッ!」

 

「邪魔だ邪魔だ!どきなおめぇら!」

 

「あぁ…姐さん!なんでこんなことに…!!」

 

「悲しいことに…姐さんは未だ目覚める様子がねぇ…姐さん、どうか目を覚ましてくれぇ!!」

 

 

 

 

『『姐さん姐さん姐さんッ!!』』

 

 

 

 

もういいよ、お前らは…。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「ふぅ、ざっと必要なものは買い終えたか。」

 

 

買い物を終えてスーパーから出てきた俺こと衛宮士郎は、小さく息を吐きながら買い物袋の中にある戦利品を眺める。

中には新鮮な野菜や精肉といった食材たちが顔を覗かせている……うん、まぁ、これだけあれば“一週間くらい”大丈夫かな?

 

 

「セイバーは何を作ったら喜ぶかな…そういえば、あいつの好きなもの知らなかったな。」

 

 

あの後、屋敷の道場で俺はセイバーと共に自分の在り方に誓いを立てた後に早速、剣の稽古をつけてもらうことにした。

稽古の内容は至ってシンプルだ。竹刀を持って俺がセイバーに突撃する…これだけである。

…いや、もっと詳しく言うと竹刀でセイバーに向かって打ち込んでいくっていうべきか。

 

 

 

どっちも同じか……とりあえず、セイバーから一本取れるように何度も突撃しに行くって感じの内容だ。

 

 

 

セイバーが言うには、俺は戦い云々よりも最初に自分の力量を知ることらしい。

どうも、セイバーから見た俺は自分の限界を知らない、どんな強敵にもとりあえず突っ込んでいくような自殺願望者に見えたらしい。

いや…自分がまだまだ未熟だっていうのは、常々痛感してたけど……まさか、そんな風な評価をされるとは思わなかったよ…。

 

 

 

だから、まず敵との立ち回りから始めるというわけだ。

 

 

 

相手との距離、動き、強さ……それらすべての事柄を予測し、素早く行動に移せるようにしなければならない。

そういった、考えで生まれたのがこの方法である。まぁ、何戦も行っているが今のところ一度もセイバーに攻撃を当てられていない。

というより、掠りさえもしていない…このままで大丈夫かな俺…。

さっきいった、立ち回り方とかはなんとなくだが、だいたい掴めてきたけど肝心の攻撃がさっぱりだと流石に不安になってくる。

 

 

 

一方、セイバーはというと…やっぱりというべきか、当然というべきか涼しい顔で俺の攻撃を避ける。

 

 

 

俺がいくら必死に振り回しても避け続け、最後には一本取ってくる――――…それが何度も続くから、こっちの戦意も削られるんだが…。

この程度で音を上げるのも何だか嫌なんで、俺は何度も何度も打たれては立ち上がって切りかかっていくことにした。

まぁ、それでもやられてしまうんだけどな。でも、この程度で諦めたくない…まだ、始まったばかりだし。

とりあえず、これからも続けてみようと思う。そのうち、何か見えてくるかもしれない。

 

 

 

んで、打ち込み始めて数時間経ち。流石の俺も疲れ果てて、道場の床に倒れこんだ。

 

 

 

気が付くと、窓から指していた陽光はすっかりと失せていて、外は既に夜になる兆しを見せていた。

そこでやっと、身体が疲労を自覚したのか、腹からエネルギー不足を訴える音が聞こえた。

腹の虫を鳴らしたのは俺だったらしい。それを聞いたセイバーは微笑したところで今日の稽古は終了となった。

そろそろ、飯にしようかと疲れた体に鞭を打って立ち上がり、今夜のおかずの買出しにいくことをセイバーに伝える。

彼女は頷き、了承したかのようにスッと立ち上がって、道場を後にした――――…たぶん、屋敷の方へ向かったのだろう。

 

 

 

 

しかし、俺は気付いてしまった。

 

 

 

 

食材を買ってくる……そういった途端、セイバーの目がキラキラと輝いていたことを。

道場を去る姿が、どことなく楽し気で軽い足通りだったことに…!

 

 

 

 

そんな彼女の姿を見たら、気張らない訳にいかないじゃないか…。

 

 

 

 

彼女がどんな英雄だったのかは分からないけど、きっと彼女が過ごした時代は食文化はよろしくなかったのだと思う。

じゃなきゃ、あんな顔をしないはずだ――――…よっぽど酷かったんだろうな。

玄関から出る直前に「お待ちしていますシロウ。どうかご健闘を。」と力強い言葉をかけてもらったほどだ……一体、スーパーで何と戦うんだ俺は。

 

 

というわけで、今はその帰りだ。

 

 

買い物は済ませたし、さっさと帰路へ着くとしよう。

あそこまで楽しみにしているセイバーをいつまでも待たせるのも嫌だしな。

 

 

 

その途中で、俺はあるものが目に映った。

 

 

 

「ん?あれは……」

 

 

帰り際、俺が目にしたのは行きつけであるたい焼き屋。

そこから漂ってくる良い香りは腹の虫をさらに刺激してくる。

 

 

「そういえば――――…あいつ、どうしたかな?」

 

 

たい焼きの香りで脳裏に浮かんだのは、あの黒い服に身を包んだ男。

飄々とした雰囲気を出し、かつ人を惹きつけるような…あの男のことを思い出した。

あれ以来、会ってないけど……一体、今何をしているのだろうか…。

 

 

「…俺、あいつの名前も知らないんだよなぁ。」

 

 

黒い男は自分自身について何も言わなかった。

それどころか、名前すら教えなかった……俺からは名前を聞いたのに少し不公平な気がする。

…なんて言っても、仕方ないか。今、俺ができるのは、ただひたすらに信じた道を進むしかないからな。

 

 

 

「…たい焼き。買ってくかな。」

 

 

 

 

食後のデザートとしてセイバーと一緒に食べるのも良いかもしれない。

 

 

そう思い、俺はポケットから財布を取り出した―――――……

 

 

 

 

「こんばんわ。お兄ちゃん。」

 

 

 

――――…その時、後ろから聞いたことがある声に体をぞくりと震わせた。

 

 

声の主には覚えがある。最近……それも、昨夜に会ったはずだ。

 

 

俺は、この後に起こる最悪の状況を想像しつつ…冷や汗を掻きながら振り向く。

 

 

 

 

 

そこにいたのは…

 

 

 

 

 

「イリヤスフィール…。」

 

 

「こんばんわ。また、会ったねお兄ちゃん。」

 

 

 

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが俺の後ろに立っていた。

 

昨夜、見たあの無邪気な笑みを浮かべながら…。

 

綺麗な銀髪の長い髪を風に靡かせながら…。

 

 

 

 

 

 

赤い瞳が……俺を映していた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

一成に案内されて柳洞宅に足を運んだ俺ことバーサーカーは一室へとやってきた。

寺ということもあってか、部屋は和室かな?と思っていたが想像通りだったな。

…ここで、あえて洋室が出てきたらどんな気持ちだろうか。まぁ、それもそれで見てみたい気もするが…。

 

 

「この部屋を自由に使ってください。ここならば、ゆっくり休めることができるでしょう。」

 

「ああ、分かった――――…ところで、この部屋は普段、誰かが使っているのか?」

 

「?…いえ、ここはただの客室です。たまに他の住職殿がご宿泊になられるときに貸しているのですよ。」

 

 

 

なるほど…となると、ここはキャスターの部屋じゃないんだな。

 

 

 

まぁ、それもそうか…。

いくら、キャスターを休ませるといっても、見知らぬ男を女の部屋に上がりこませる訳ないよな…。

…べ、別にキャスターの部屋を見たかったわけじゃないぞ!?ただ、彼女がゆっくり休める場所と考えたら自動的に連想しただけだ。

よ、欲を一つ言えば…神代の魔術師の工房をちょーっとだけ見てみたかったなぁと思ったりはしたけど…。

 

 

 

そんな不埒な事を考えている俺を外に、一成は用意した布団にキャスターを寝かせていた。

 

 

 

うーむ…全然、目覚める様子がないな。

本格的に当たり所が悪かったようだ……一切合切、目覚める様子がない。

これは、ちっとばかりかまずいな…キャスターが目覚めてくれないと話が進まないどころか、話にすらならない。

当初の計画通りに進まないのは仕方のないことだが、万が一にでもキャスターが脱落するような事があれば、そこでアウトだ。

そこからの進行はかなり難しいだろうな……一刻も早く、彼女が現実へと復帰してくれるのを待つしかない。

 

 

「今、お茶をお持ちするのでここで少し待っていてください。」

 

「え、ああ、お構いなく――――…」

 

 

今思ったんだけど、ここで言う「お構いなく」ってお茶貰う前提のやり取りだよな…。

大抵、人様の家に上がり込んでからこう言っても頑なに貰わない姿勢を見せない限りは、お茶出すぜ日本人って…。

一成が部屋を出て行ってから、俺と寝ているキャスターだけ取り残された。

 

 

「……」

 

 

…暇だな。

キャスターは目を覚まさないし……日を改めて今日は帰ったほうがいいかなぁ。

――――…いや、まて。今ここで帰ったらキャスターと同盟を結ぶ事できなくなるんじゃないか?

 

 

 

今日の俺って、結界をぶち破って土足で陣地に上がり込み…。

 

 

交渉決裂したら、魔術を使って後方から不意打ちキックして気絶させただけじゃん。

 

 

 

 

ここで帰ったら完全に宣戦布告しに来たと思われる!!

 

 

 

 

だ、だめだ…帰れない。

ただでさえ、イリヤにはたくさん迷惑かけてんのに…。

 

 

 

 

勝手にキャスターと会ってきてドンパチしてきたぜ!!

 

 

 

 

なんて結果だけを残して帰ってきたらどんな顔するだろう。

きっと、いや確実に良い顔はしないだろう……うん、絶対に怒られるな。

半目でじっとこちらを睨みつけるイリヤの表情が容易に目に浮かび上がり、少しばかりか体を震わせる。

 

 

 

 

よし、なんとしてでもキャスターを味方にしよう。

 

 

 

 

粘るぞ。起きるまで待つぞ…。

例え台風が来ようと、嵐が吹き荒れようとも、ゴ〇ラやモ〇ラといった大怪獣が襲来しても俺は待ち続けるぞ!!

 

 

「んん……こ、ここは――――?」

 

 

 

そんなことをしていると、布団で寝ていたキャスターがゆっくりと瞼を開けた。

 

 

 

「ここは……家の中…?、確か私は境内でバーサーカーと――――…ッ!!そうよ、バーサーカーは!?」

 

 

ギョッとした顔で、ガバッと跳ねるように起き上がったキャスター。

それから、周りをキョロキョロとしたあとにすぐさま俺の姿を発見し、さらに目を見開いた状態の顔になる。

 

 

 

やーーーーっと起きましたか、キャスターさんよ!こちとら、あんさんが起きるまで色々あって――――…

 

 

 

 

「い、いやあああああああああッ!?」

 

 

 

えぇ……。

 

 

いや――――…流石にそれはないでしょう…。

 

 

 

キャスターが目覚めて束の間の俺に贈られたのは、まさかの女性の悲鳴ときた。

 

男性として、これ以上のメンタルを削られるようなことはありますかね!いや、ないね!

 

 

 

 

倒れている(原因は自分)女性を助けたら、悲鳴を上げられました。

 

 

 

 

 

理不尽!!

 

 

 

 

 

そんな下らない心の叫びは置いといて、困ったことが起きた。

今の彼女の悲鳴で部屋の外が騒がしくなった気がする…。

ドタドタドタッって物凄い数の走ってくる音が聞こえる――――…ああ、これはまずい。

 

 

 

「姐さん大丈夫ですか!!」

 

「何かあったんですか!?」

 

「あっ、この小僧ですか!!この小僧が姐さんに良からぬ事をしたんですね!!」

 

「小僧!!てめぇは俺たちを怒らせたぁぁぁぁ!!」

 

 

 

『姐さん!姐さん!姐さん!!』

 

 

 

 

お前らかよ!!

 

 

 

いや、お前らも来そうだなとは薄々考えていたが、最初に来るのはてっきり一成かと思ったわ!

 

それに、この部屋は丁稚坊主達がいるところから結構離れている場所に位置する。

 

あの距離から、こいつらは10秒未満で走ってきたぞ?

 

 

 

 

柳洞寺の坊主どもは化け物かッ!!

 

 

 

 

…それよりも、この坊主どもの今にも襲って来そうな殺気はどうしたらいいものか。

 

 

 

 

『ぐるるるるっ!!』

 

 

 

獣のような唸り声をあげ、血走った眼光をこちらに突き付けてくる。

おまけに、その手には何処から出したのか角材くらいの長さの棍棒が握られている…おいまて、ホントに何処から出した。

その物騒なものでいったい何をする気なんでしょうねぇ~?

 

 

 

 

…まぁ、なんだ。

 

 

 

 

今の状況を一言で言い表すなら――――…

 

 

 

 

「最悪だ……」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

振り向いた先にあった衝撃的な光景に俺は身体を硬直させる。

そこにいたのは、昨夜俺たちに襲い掛かってきた輝かしい銀髪が特徴的な女の子。

ルビーのような赤い無垢な瞳は俺の姿を映しており、それだけでも俺は蛇に睨まれた蛙のような気分になる。

 

 

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

 

 

なぜここにいるんだ…!?

 

 

 

「こんばんわお兄ちゃん。こんなところで会えるなんて奇遇ね。」

 

 

 

今夜はセイバーを連れてきてないのかしら?と陽気に話しかけてくるイリヤ。

 

 

 

 

…まずい。これは非常にまずい状況だ。

 

 

 

 

今はセイバーを連れてきてはいない……。

加えて、今いる場所は商店街のド真ん中。遅い時間帯とは言え、まだ小規模ながら人通りがある。

…ここで戦えば確実に大勢の人間を巻き込むことになる――――…そんなマネはできない。

一体、どうする…!?せめて、ここから離れられるように出来ればいいが――――…!!

 

 

 

さまざまな思考を巡り漁っていると、ふとイリヤは俺のことを見ながら思案顔になる。

 

 

 

どこか不思議そうに首を傾げ始めた――――…なんだ?一体、どうしたのだろうか?

 

 

 

 

「…ああ、なるほどね。」

 

 

 

すると、今度は納得したように笑みを浮かべた。

 

 

んん?どういうことだ?こっちは全然納得できてないんだが…。

 

 

困惑している俺をそっちのけで、イリヤは笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

 

 

 

「大丈夫よお兄ちゃん。今日は戦いに来たわけじゃないから、そんなに強張った顔しないで。」

 

「えっ?はっ?」

 

 

 

 

戦いに来たわけじゃない?、じゃあ、一体何の用で――――…?

 

 

 

 

「一度、じっくりお兄ちゃんとお話してみたかったの。だからバーサーカーも今日は連れてきていないわ。ねぇ、お話しましょ!」

 

「えーっと…。」

 

 

警戒した様子も殺気とかもなく、イリヤは無邪気な笑顔で俺に近づいてくる。

…見た感じ、どうやら本当に戦う気は無いようだ。

けど、それでもどうして俺と話したいと思ったのだろうか?

そして、俺は彼女の願いを聞き入れるべきだろうか…戦いはしないといっているものの、気を許しても良いものか…。

 

 

 

くぅ~。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

今の音は?

俺の腹からじゃないな…ということは自動的に――――…。

 

 

「えへへ。お腹すいちゃった。」

 

 

自分の腹部を抑えながら、「ここはいい匂いするから」と照れくさそうに言うイリヤ。

彼女の視線の先に目を移してみると、たい焼き屋の屋台があった。

確かにここは、いい匂いがする……空腹時には辛いな。腹の虫が鳴くのも無理はない。

 

 

 

そこまで考えが至ると、なんだか気を張っていた自分がバカバカしくなった。

 

 

 

無意識に苦笑した俺は屋台へと赴いて、いつものあんこのたい焼きを三つ買ってイリヤの方へ戻る。

 

 

 

「話があるなら、落ち着ける場所にでも行こうぜ。」

 

「お話してくれるの!?」

 

 

ぱぁっと顔を明るくする彼女に俺は頷いた。

すると、嬉しそうにイリヤは「やったぁ!」と喜んだように両腕を上げて、その後、俺の隣まで来て腕を組むようにくっついた。

 

 

「じゃあ、公園に行こ!、近くに公園があるからそこでお話しましょ!」

 

「わかった。わかった。だから、あまり引っ張らないでくれよ。」

 

 

 

 

俺の腕を引きながら、はしゃいだ様子のイリや。

 

 

この姿を見る限り、普通の女の子にしか見えない…あの時のような殺意を感じられない。

 

 

そう思ったからこそ、俺は疑問に思った――――…どうして、イリヤは聖杯戦争に参加しようと思ったのか。

 

 

 

 

 

どうして――――…あの時、俺達を殺そうとしたのか…。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、早く行こーよー!」

 

 

 

物思いに耽っているとイリヤの催促する声が耳に入り、俺は「悪い悪い。」と笑みをこぼす。

 

 

彼女のその姿を見ながら、俺は少しの間だけ聖杯戦争のことや敵対関係のこと忘れることができそうだった。

 

 

 

 




近いうちに続けて次話を投稿します。
どうか、お楽しみに!

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