俺は、人間が嫌いだ。
人間は当たり前のように人を裏切る。
他人を平気で傷つける。
まるで自分が悪くないように正当化する。
俺は――――――…絶望したんだ。
ここで一つ言えるなら、俺は裏切られた。
直接、裏切られた訳じゃない……ただ、信頼していた心を裏切られた。
俺には心から大切だと言える友人三人がいた。
彼/彼女達と過ごした日々は眩しくて大事だと言えるものだった。
このまま、ずっと続いていくものなんだと…どこかで勘違いをしていたくらいだ。
だが、結局は幻想だ。
彼が俺ら四人の絆を壊した。
恋心なんてあやふやなモノに現を抜かしたからである。
好きなんて言っておきながら結局は、嘘ついて楽な方へ逃げたあいつを俺は許せない。
同時にあいつに傷つけられたあの子が…泣きそうに無理な笑顔を見せた言葉が今でも忘れらない。
“気にすることないよ。私が哀れなだけだもん”
その言葉が俺の中にあった何かを壊した。
哀れってなんだよ…。
なんでそんなこと言うんだよ…。
なんで笑っていられるんだよ…。
俺には理解できなかった。
女の子が悲しんでいるのに笑っているのが分からなかった。
自分自身を罵る姿が見たくなかった。
それを機に、俺は誰とも深く接することをやめた。
人間が嫌いになった。
もう、自分が傷つくのは嫌だから。
もう、誰も傷つく姿が見たくないから。
俺は、人間が嫌いになった。
そして、その一部である自分も大嫌いになった。
そう思っていたのに……。
◆◆◆◆
運命ってのは残酷だ。
――――――――――――――。
町を絶望しながら歩いていると、俺の目の前には常識が逸脱したモノがあった。
白銀の鎧に身を包み…。
矛と盾を持った…。
鎧と同じように白銀の長い髪を腰まで伸ばした…。
神々しく光を放つ聖女が……そこにいた。
柄にもなく。その美しい姿に見惚れていると、あることに気付いた。
この聖女は肩がまるで切られたように傷を負っており、傷口からは鮮血が流れており。
また鎧も所々が傷だらけだった。
「はぁ…はぁ…っ。貴方は!?」
俺の存在に気が付いたのか、大変驚いた顔でこちらを見てきた。
なぜ、こんなところに…と言わんばかりの表情だ―――――――――――――…何をそんなに焦っているのだろう?
そんな風に思っていると、彼女の前にいる”モノ”を見つけてしまった。
暗闇に身を包み姿形が判別しない異形―――――――
見えないのにこの世の物とは思えない程、恐怖を感じてしまう―――――――――――――
姿こそ見せないが暗闇から、うっすらとこちらを捉え――――――――――
異形は口を悪魔のように釣り上げて嗤った。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
鼓動が早くなる分、脳内は逃避の一択を選択する。
だが、何故か体は動かない…!!
動け動け動けと体に命令するが、体が電池が切れたかのように動いてくれない。
俺が四苦八苦している内に、異形は俺に手を翳す。
「!?、いけないッ…逃げてください!!」
白銀の聖女が俺に叫ぶが。
反応する前に、俺の肩から鮮血が吹いた。
あ…れ…?
斬られた…?
見えなかったぞ…。
身体が地面に崩れ落ちる。
血は肩から、なおも流れ続ける。
意識が遠のいていく。
視界が暗く闇に堕ちていく…。
ああ、死ぬのか。
あっけないな。
でも、いいか。
“こんな世界”で生きていくより、死んだ方がいい。
「死なないでッ!!」
…?
誰だ…?
霞む視界の前に、白銀が現れる。
その正体は…さきほどの聖女。
彼女は傷の痛みを耐えながら、庇うように俺の目の前に立つ。
何で…。
「貴方は…死んではいけませんッ。生きて…!!」
俺は…死にたいのに。
何で、助けようとするんだ…!
俺はもう…他人も自分も信じれない…。
人間なんか嫌いなんだ…。
こんな世界で生きようなんて――――――…もう…。
「…人間に絶望しているのですね。貴方の心からは深い悲しみと…激しい怒り。
そして――――…それらをぶつける場所がない虚無感を感じます。」
まるで、心を呼んだかのように語る聖女。
俺は、見事心内を全て見透かされたが…そんな事は気にも留めなかった。
それよりも…彼女が何故、こんなにも悲しそうな顔をするのかが気になった。
「貴方の心の、痛みが、苦しみが、怒りが、私に伝わってきます。
辛かったでしょう。貴方は信じていた者に裏切られ…守りたかった者からは蔑まれた。
貴方がこの世界に絶望するのも…無理はありません。」
ですが…と彼女は言葉を紡ぐ。
「それでも…貴方は生きてください。
例え、どんなに世界に絶望しようと、どれだけ人間が憎くても、自分を嫌おうとも――――…
私は………貴方に生きていて欲しいんです!」
―――――――ああ…。
なんなんだよ。
何でそんな風に…
ギラギラして、真っ直ぐな想い。
眩しいくらい輝かしい“ソレ”に…俺は――――…
聖女を目の前で吹っ飛ばされるのを目撃した。
「…え?」
その声は、聖女のものなのか。
はたまた、俺のものなのか。
そんなことさえ分からないまま……
銀色の聖女は地に伏した。
聖女は地に伏せ、沈黙をする。
彼女を傷つけた異形は、この上ないほどに歓喜した。
その光景を見た俺は――――――――…
俺は……
おれ……は…ッ!!
【良いのですか?】
頭に響く、見知らぬ男の声。
その澄んだ声に不思議と嫌悪感などを感じない。
聖人のように心が洗われるような気がした。
【このままで良いのですか?、貴方は何もしないまま…ただ、聖女が消えてしまうのを見ているだけですか?】
頭に響く声…その声音はどこか呆れているように感じた。
【また、何も出来ないままで良いのですか?】
そして、俺を試しているかのような。
【黙って指をくわえているだけでいいのですか?】
それが、無性にイライラする。
全てがいい当てられて、否定できない自分が。
……とっっっっても、ムカつく!!
【最後まで足掻こうとはしないのですか?】
「うるせええええッ!!」
叫びと共に俺は立ち上がる。
怒りのままに、軋む体を気にせずに動かす。
燻っていた心に火が灯る…止まっていた心臓に血が回るようだった。
案外、まだ自分が人間らしい事を再認識した。
嫌いなモノと同じな事に、正直。吐き気が出そうだが―――――――…今は感謝しているくらいだ。
俺は…まだ、諦めたくないんだと気付けたからな。
◆◆◆◆
『…バカナ。アレダケノキズヲオッテイルノニ、シンデナイトハ。』
立ちあがった俺に異形が、驚いたように初めて言葉を発した。
俺は、一瞬その濁ったような化け物の声に驚くが、怯むことはなかった。
そのまま、異形を睨んだまま急いで聖女の前へ立つ。
…彼女の肩が上下ヘ小刻みだが動いている。良かった、生きている。
息を吐いて安堵する。
しかし、すぐに意識を目の前に切り替える。
…異形は妖しい笑みを受かべて、不気味に微笑んでいる。
『ニンゲンゴトキガ、ワレニタチフサガルカ…オロカナ。』
異形はカカカ…とバカにしたように嗤う。
『タダノニンゲンガ…イキガルナヨ…アノママ、シンデオケバイイモノノ。』
…あー。
…なんつーか、こいつ。
『ナゼアキラメイ?、ナゼソノキズデタチアガル?、ナゼ――――――――…』
「ああ、ごちゃごちゃうるせえな!!
いい加減、お喋りやめろよ!?傷に響くだろうが!」
イライラが限界が来て、叫ぶ…シリアスムードだったが、気にはしない。
だって、こいつ喋り過ぎなんだもん!!
異形は、姿こそ見えないが青筋を立てているように見える。
その証拠にピクピク…と体が震えているように感じた。
『…イイダロウ。オノゾミドオリコロシテヤル…!!』
周りの雰囲気が変わった。
空気が重く感じる…まるで押しつぶされるかのようだ。
これが…あの異形の本気――――――――!!
「う、うーん……わ、わたし…は――――――ッ!?」
後ろから声が聞こえた。
どうやら、聖女が起きたようだ……まぁ、あれだけ騒げば、そりゃ目覚めるわ。
心の中で軽口を叩く―――――…割りと冷静だな俺。
「に、逃げてください!!人間では“アレ”に絶対に勝てません!!」
聖女が焦りながら言ってくる。
だが、俺は引く気は無い。
逃げも、隠れも、諦める事も絶対にしない。
「お願い…逃げて!!」
「嫌だね。」
必死の願いを一蹴する。
「どうして…!!、わたしは貴方に死んでほしくない…!!」
聖女の声が悲しみに変わる。
嗚咽の様なものも微かに聞こえる。
――――――…あー。そんなつもりじゃなかったんだけどな…。
「悪い…悲しませるつもりはなかった。だけど、ここは譲れねぇよ。
こんな俺に、生きて欲しいって言ったアンタが――…
俺は生きて欲しいから…守るんだ、俺が!今度こそ!!」
もう、無くさないように。
もう、見失わないように。
今度こそ、俺は守ると誓った。
聖女からは声が聞こえなくなった。
驚いているのだろうか?…視線の様なものは感じるが…少しこそばゆいな。
ああもう、こんな綺麗な女の子に見られてちゃ緊張しちゃうぞ。
それにさっきまで、あんなに無様な姿さらしといてカッコつけてるなんてダッセェよ…うわ、やっぱり死にたくなってきたかも。
『グオオオ…!!』
なんて、ふざけた思考をしている間にも命の危機は現在進行形で迫っていた。
さーて、遊びはここまでだ……どうするかな。
威勢良く啖呵切ったのはいいけど、この後の事までは考えていなかった。
聖女いわく、人間じゃアレに絶対に勝てないという。
じゃあどうすればいい…。
何か手はないのか―――――――…。
【しかたありませんね……私が力を貸してあげましょう。】
また、声が響く。
それと同時にどくんと胸が高鳴り、体に熱が籠る。
力が溢れてくる…まるで自分じゃなくなったような。
そんな事を考えていると、肩から手首まで三本光の線が浮かび上がった!
なんじゃこりゃあ!?
「あ、貴方は……そ、それは…一体…!?」
聖女が驚いたように声を上げる。
一番驚いているのは俺だよ!!なにがどうなってんだよ!?
【落ち着いてください…今から私の力を送ります…!
それを、どうかこの世界に“具現化”してください…!!】
声がそう言うと同時に、頭の中にイメージが流れ込む。
それは剣――――――――…。
太古の昔…多くの凶悪な竜種を屠ってきた聖剣。
ああ、これがあれば…アイツを倒せる。
俺はそう確信した。
その為には、あと一歩足りない。
それを埋める為に、俺は自分の中にあるスイッチを入れる為。
ある言葉を紡ぐ。
俺が大好きだった架空の物語のあの力を使う為の言葉を。
「
ブアアアアアッ!!と風が腕から舞い上がる。
手に剣の様なモノが形成されていく。
『ナ、ナンダコレハ!?』
「こ、これは…!!」
驚く二つの言葉。
かくいう俺も驚きの連続だ。
けど、これで異形を倒せる。
この聖剣の名は――――――――――。
「
叫びと共に聖剣が出現する。
これが、数多の竜を屠ってきた祝福の聖剣。
一見すれば、ただの西洋の剣。
しかし、一度持てば分かる…ただならぬ、神秘の力の様なモノを感じる。
ただの人間が持つには、余り余る。
『バカナ!!“アスカロン”ダト!?』
驚く異形に向かって、俺は聖剣の切っ先を向ける。
すると、そこから神秘の力が溢れだし。異形の真の姿を曝け出す。
それは、歪な姿をした蛇竜だった。
『ナ、ナニ…!!ワガ“礼装”ガ…!?』
「その姿…もしや「サマエル」!?{バルクの黙示録}に出てくるあの堕天使の…」
両者とも驚いたように事を進めているが、俺はてんでわからん。
名前くらいは聞いたことがある、「サマエル」―――――…邪竜、死を司る天使とも聞く。
ゲームやファンタジー系のラノベ小説で、割りとよく出てくるキャラだった。
それが、今俺の目の前にいる。
そして、俺はこの聖剣であいつを倒す。
そこまで思考を戻したら、その場から一気に駆けだす。
『コシャクナッ!!』
サマエルは近付けんとばかりに、口から毒々しい煙を吐く。
もう見る限り人体に悪影響を及ぼす煙だと分かる。
犬○又の瘴気みたいな感じか―――――――…っと!?思っている間に目の前に瘴気が!?
「やっべ――――――――!?」
それをモロに喰らった。
「そ、そんな…!!」
『フハハハ!!ショセンハ、カトウナニンゲンヨ…コノ「サマエル」にカテルハズガナイノダ!!』
高笑いをして高圧な言葉を出すサマエル。
ヤツの言う通り、人間がこんな化け物に勝てるはずがない―――――――――…
“なんて思う訳ねぇだろ!!”
「うおりゃあああああああッ!!!」
聖剣を持って、瘴気の中を切り抜けてきた俺をサマエルと聖女は驚いたように見る。
安心しろ、俺もビックリしている。
まさか、瘴気が俺から離れるように霧散していったなんて思いもしなかったしネ!
どうやら、この『アスカロン』のおかげらしい……加護みたいなの働いてんのかね。
『ソ、ソンナバカナ!!ニンゲンゴトキガ!?』
「くらええええええええええええッ!!」
そのまま、アスカロンを驚愕しているサマエルの太い喉元に突き刺した!!
ザシュッ!!という嫌な音と、刃が肉に入り込む感触を剣の柄から伝わってくる。
一生、手に残りそうな…そして永遠に慣れる事の無い感触を我慢しながら…俺は――――――…
「うおおおおおおおおッ!!」
剣を引きぬき――――――――。
『ガ…ッ!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ…!!』
サマエルにとどめを刺すように…真っ二つに切り裂いた。
◆◆◆◆
邪竜の姿が光の粒子となって消えていく。
今の一撃には手応えの様なモノを感じた…あいつにとって致命傷だったらしい。
どうやら、今ので終わったらしい。
その証拠に持っていたアスカロンも、パキン…ッ!とガラスが割れるように消え失せてしまった。
まるで夢から覚めたかのように跡形もなく消え失せた。
腕の光の線もいつのまにか、光を失って見えなくなっていた。
「やった…のか……?」
本来ならフラグだが、終わったとしか思えないので呟いても大丈夫だろう。
身体にとてつもない倦怠感が襲ってくる…傷の痛みも今さらながら感じてきた。
そういえば、肩を切り裂かれたのを思い出した…痛え~。
同時に、久しぶりの達成感を覚えた。
「あ、あの…!」
声が聞こえ、聖女の方へ体と視線を向ける。
…彼女もボロボロだが、無事そうだ。
良かった…。
俺、今度こそ守る事が出来たんだ。
大切なものを守る事が出来た事に歓喜した。
守りたいものを守る事が出来た。
なりたかった自分に、少し近づけた気がした。
それが今……たまらなく、嬉しい。
嬉しさを噛みしめ、俺は彼女に頬笑みかける。
それを見た聖女は、初めは呆気に取られていたがやがて美しい笑顔を向けた。
聞きたい事は山ほどある、さぁこのまま彼女のもとへ―――――歩み寄った瞬間。
“俺の体が弾け飛んだ”
何が起きたのか分からなかった。
これで終わったと思った途端、体の中から何かが爆発したようだった。
血が吹き出す。
鮮血の飛沫が球となって散弾する。
何故……俺は勝ったはずなのに。
ふと、聖剣を握っていた手を見る。
既に人としての原型を成していない手だったが、それを見た思考にある事が思い浮かんだ。
『投影魔術』…先ほど俺が成し遂げた架空の物語の力。
本来なら現実で使う事などあり得ない力。
声の主の力を借りて、起こした奇跡。
不意に、いつの日か映画で見た時の言葉を思い出した。
“奇跡には、常に大きな代償が付きまとう”
そんな…ありふれた――――。
それでいて、とても胸に響く言葉……今の俺の姿にピッタリだ。
――――ああ、死ぬのか…。
実感が湧かないのか、不思議と恐怖心はなかった。
あるのは…満足感と達成感―――――…。
ただ、一つだけ後悔があるとすれば。
視線を向けた先にこちらに悲痛な表情を浮かべている聖女。
俺に向かって何かを叫んでいる彼女。
あの子に……死を見せてしまったこと――――何か背負わせるような事をしてしまった事が…。
唯一の、心残りだ。
急激に視界が暗くなっていく。
…ああ、こんなクソッタレな世界だったけど。
(まぁ、こんな最後だったら…いいか。)
人生最後の瞬間に―――――
俺はとびっきりの笑みを浮かべて―――――
静かに目を閉じた――――――
この日、俺……「 」は死んだ。
◆◆◆◆
嫌…嫌―――ッ!!
死んでは駄目―――…!!
こんなにも優しい貴方が…!!
人間を嫌いだと言って、こんなにも誰かの為に一生懸命な貴方が―――…。
死んでしまうなんて絶対にダメ!!
駄目…ダメ!!
死なせない!!
このまま、貴方を死なせるなんて絶対に嫌!!
あなたを死なせはしません!!
◆◆◆◆
人間の死とは非常にあっけないものである。
そして、意識の切れる瞬間はどこか就寝した時と似ている。
実際に、死体を見たときに人は「まるで、眠っているみたいだ」とか言うのをよく聞くがその通りだと思う。
死を実際に体験した俺が言うんだ。間違いない。
まぁ…そんなことより―――――。
要するに俺が何を言いたいかと言えばだな…
「俺って本当に死んだのか?」
改めて声に出してみるとすごくバカっぽい。
みなさんご覧のとおり、今の声は“俺”こと先ほど死んだばかりの男です。
皆に言いたい事がある……俺は今、死から目覚めた。
そして―――…現在、俺は戦争の真っ只中にいる!!
……。
………。
何言ってんだコイツ?と言いたいだろう。
わかる。何故なら俺が一番そう思っているからなっ!
まぁ、要するにだな?ジョ○ョ風に言うとだな―――…
あ…ありのまま起こった事を話すぜ!
“俺はさっき…聖女の前で突然、体が弾け飛んで死んだと思ったら、急に目が覚めてこの戦争区域にいた…”。
な…何を言っているのか、わからねーと思うが。
俺も何が起こったのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか夢オチだとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねぇ。
もっと恐ろしいものの片鱗を、味わったぜ…。
「と、いうわけなんだ。」
なんだコレ。
自分で言ってて分かんなくなってきた…。
だって、俺も混乱してんだもん!仕方ないだろ!?
さっきまで死んだと自覚したのに、目ぇ開けたら第何次なんちゃら戦争勃発中ってなんじゃそらだぞ!?
分かったことはただ一つ。
人は死後、輪廻転生するとか天国やら地獄やらに行くと聞くが、否であったと!!
人は―――――――――――死んだら戦争へ行くんだ!!(意味不明)
「…それよりも、言いたい事がある。」
思考を区切り、後ろを振り向いて叫ぶ―――――。
「何で…俺は、こんな…化け物に追われてんだああああああああッ!!!」
絶叫が大空へ木霊するように、後ろからの圧も半端じゃない。
俺の後ろにいるのは、顔面蒼白で体の至る所が腐り果てているにも関わらず。
眼を赤く輝かせるゾンビみたいに「ウオオオ…」とか「アアアアア…ッ!!」とか唸りながら、迫って来やがるおっそろしい化け物だった。
事の経緯はこうだ。
目が覚めて、突然の出来事に呆然としている俺を見るなりこいつら集団で襲いかかって来やがった。
その時の様子は、美味そうな餌を見つけた野獣のようだった。
唸り声を上げながらゆっくりと迫ってくるコレに当然、俺もじっとしてるわけがない。
すぐさま立ち上がり逃げ出す。
火事場の馬鹿力っていうのかね…その時の俺の動きはまさに疾風のようだったと言わざるを得ないだろう…いやマジで怖かった。
そして、今に至るまで走りまわっていたという訳だ…さっきの流れは現実逃避によるものだ。許せ。
「だけど…今までの事の後に、この状況はあまりにも理不尽過ぎるだろぉ…。」
思いっきり泣き叫びたいが、今は弱音を吐きながら逃げるのが精一杯だ。
何とか捲く事が出来るまで逃げなければ……!
こつん☆
「あっ…」
そう思っていたら、落ちてた瓦礫に躓いてしまった。
やっちまったぜ☆テヘペロ☆
「どわああああああああッ!!」
盛大に転げ回る俺。
ゴロゴロと行き、やがてどんがらがっしゃーん!と瓦礫の山に突っ込む。
ゾンビ達はそれ見て好機といわんばかりに迫る!
あっ、これ死んだわー…
ハハハ…と乾いた笑みを浮かべてしまう。
どうやら、案外早く二回目の死が来たようだ。
「ここまでか…」
目を閉じる。
すると―――――――…
こんな声が聞こえた――――――――…
“いいえ、あなたを死なせたりしません…”
――――――ザシュ!!
…あれ?
――――――――ザシュ!!ボウ!!
…痛みが襲ってこない?
不自然に思い。
恐る恐る目を開けると…。
俺の目の前にコートを着込み、剣を持った老戦士がゾンビ共を薙ぎ払っていた。
「無事か?」
とても威厳のある声で俺に語りかけてくる老戦士。
彼の眼は孤高の狼のように鋭く、そして弱きものを守らんとする戦士の眼のようだった。
手には、ゾンビ共を切ったと思われる赤黒い血の付いた剣が握られていた。
「あんたは…一体―――――?」
何者なんだ…?と声を出す前に老戦士は笑みを浮かべて答えた。
「私の名前は「ジェラル」―――…“魔法使い”さ、。」
「“魔法使い”……?」
彼の言葉に俺は首を傾げるも、「そして…」と老戦士は言葉をつなげた。
「君を“英雄”にさせるためにやって来た者だ。」
「……ヘ?」
真剣な顔で俺は彼にそう言われた。
ジェラルとの出会いを経たこの瞬間―――――…。
この俺……後に「黒帝の破壊者」と呼ばれる男の物語が―――――――…今、始まった。
Fate/SnowScene Einzbern
序章、end
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