フランドールと一週間のお友達   作:星影 翔

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今回はレミリアとの会話になりました。


6日目 全ては彼女の笑顔の為に

「……うがぁ、っ!」

 

 ずっと水中にいた状態からようやく息ができるようになったような具合で僕はまず大きく息を吸い込んだ。そしてそれから一瞬遅れて目が開く。同時にはっきりと意識も戻った。ぼんやりとしていた視界も段々と鮮明になっていく。

 

「目は覚めた?」

 

 そして、その視界に一人の人影が映っているのが分かる。しかし、それはあのフランの姿ではなかった。確かに似ているが、青い髪に蝙蝠に似た翼がある人物を僕の脳内に浮かび上がらせる。

 

「…フランの…お姉さん?」

 

 僕が掠れた声で呼ぶと、彼女は微笑んで応えた。

 

「そうよ、お帰りなさい、フランのお友達さん」

 

 …そうか、僕は帰ってきたんだ。フランの為に、フランと最期まで一緒にいる為に。

 

「…お姉さん」

 

「私の名前はレミリアよ。覚えときなさい」

 

「……レミリアさん、僕は…幻想郷に帰ってこれたんですか?」

 

 まだこの場が幻想郷だと俄かに信じられなかった僕は思わず彼女に問いを投げた。

 彼女はクスクスと小馬鹿にするように僕を笑う。

 

「フフッ、何言ってるの、当たり前でしょ?誰のお陰でこうやって蘇ったと思ってるの」

 

「誰って…、僕は確か紫さんに生き返らせてもらって…」

 

 僕は目の前で起きたことをそのまま伝えた筈なのだが、なぜか彼女の笑顔が悪戯が成功したかのように劣悪なものになっていく。

 

「貴方を助けたのは(ババア)ではないわ。私が貴方を助けたの、運命を操ってね」

 

 少し自慢げに胸を張る彼女、対して未だによく状況を理解できていない自分、二人の間にひどく温度差があるのは誰もが見て理解できる。あと人のことババアって…。思うだけならまだしも口にするなんていないと思うな…(苦笑)。

 そんな中、彼女の方が仕切り直すように咳き込む。

 

「そうね…。まず貴方は私の能力を知らないものね。そうなるのも無理ないか」

 

「私の能力は『運命を操る程度の能力』。私にかかればどんな運命も私の思い通りになる。それがたとえ世界を滅ぼすことであっても、私には造作もないことなのよ」

 

 運命を操る。俄かには信じ難いが、確かにそうだとすれば納得はいく。僕がこうしてこの場にいること、紫さんが僕の我儘をわざわざ聞いてくれたことだって彼女が運命を操って根回ししてくれればこうなっていてもおかしくない。

 しかし、僕はあまり紫さんが彼女に操られて僕を蘇らせたとは考えられなかった。紫さんの雰囲気からなんとなくだが、同情のようなものが感じられたからだ。まぁ、僕がどれだけ思案しても意味なんて無いんだからこの際これ以上考えないでいよう。

 それよりも、もっと謎なことがある。

 

「何故です?何故僕の為にそんなことを…?」

 

 何故僕の命を助けたのか…。僕にはそれが不思議でしかなかった。僕ごとき、いえばたかが一人の人間の命なんて彼女にとってはどうでもいいはずなのに…。

 けれど、彼女の口から出てきた言葉はそんな僕の考えとは全く異なっていた。

 

「私には…いえ、私達には貴方がいなければいけないの」

 

「えっ……」

 

 彼女の言葉に思わず声が漏れる。

 

「フランは貴方を信用している。今や貴方以外にあの子に近づける人なんていないわ。貴方を失うというのはあの子とのパイプを失うことにもなるのよ。それに…」

 

「姉として、妹が悲しむ姿なんて見たくないでしょう?」

 

 どこまでも妹を想う彼女はいつもの彼女の姿とはまた違った一面を見せてくれる。普段はどこか上品で気高いところがあるが、フランのことになれば寄り添うような優しさを見せてくれる。その行動がまた妹への愛情の深さを僕に感じさせてくれる。

 そもそも愛そのものに束縛などありはしない。人を愛せばそれが愛になる。きっと友情も家族の絆もお互いを大切にし、お互いが愛した結果得られるものなのだ。

 

「心から愛してるんだね。フランの事を」

 

「えぇ、もちろんよ。大切なたった一人の私の妹ですもの」

 

 どこか誇らしげにそう言う彼女を見ていると僕もなんだか微笑ましくなる。フランは自分の知らないところでこんなに愛されているんだ。彼女に会ったらこの事を教えてあげよう。君のお姉さんは君を嫌ってなんていない、むしろ君を愛して止まない大切な人だと。

 

「…さて、行きますか」

 

「何処へ行こうというの?」

 

 すると、彼女は起き上がろうとする僕を無理やりベットに寝かせる。

 

「貴方を行かせる訳にはいかないわ」

 

「……どうして?」

 

 あまりに場違いな言葉に唖然としてしまった僕がやっとの思いで振り絞れた言葉がこれだった。

 改めて彼女の表情を伺ってみると、いつのまにか彼女の顔付きは優しげなものから僕を何かしら言及しようとする厳しいものになっていた。

 

「この私が気づかないとでも思っていたの?」

 

「貴方の身体はもう限界なのでしょう?見ていれば分かるわ」

 

「………気づいてたんですね」

 

 彼女の優れた観察力に僕は内心で感服した。気づかれまいと懸命に繕ってきたはずなのに、ましてやさほど頻繁に会っているわけでもないのに彼女は僕のこの状態を見破ってみせたのだ。

 

「なぜ僕の身体が危険だと分かったんです?」

 

「貴方と初めて出会った時、私より先に咲夜が貴方の元にいた。あの時、咲夜を止めて貴方を助けた時に貴方の首筋に触れさせてもらったの。その時に脈拍を測らせてもらったというわけよ。あの時は他の人間とほとんど変わらなかった」

 

「けれど、今の貴方は違う。今の貴方は酷く衰弱してる。貴方の全身へ血を巡らすための心臓が弱ってるのよ」

 

 そうだったのか…、もうそこまで迫ってきているのか…。

 でも、だからこそ僕は彼女の元に行かなければならない。行って彼女にさようならを言わなければならない。そして、今の僕の気持ちとレミリアへの誤解を解くこともしなければ…。きっとこれこそが僕の今の使命なのだと思う。

 

「どいて下さい、レミリアさん。僕はフランの元に行ってあげないといけないんです。たとえ、僕の命がそこで散ったとしても、僕は最後まで彼女の傍にいます」

 

「……相変わらずね。…いいわ、行ってきなさい。それが貴方の望むことなら叶えてあげようじゃない」

 

「…ありがとうございます」

 

 僕は一言彼女に礼と会釈をすると、ベッドから起き上がった。そのまま、壁にもたれながらなんとか歩き始める。他人から見ればこれほど弱々しく見えるものなんてないだろう。そんな時、なんとつい先日まで僕を殺そうとしたあのメイドさんが僕を補助しようと側まで来てくれる。しかし、有難いながらも僕はその善意を掌を見せて断った。

 

「ちょっと待ってっ!」

 

 すると、レミリアさんはこちらに近づいてきたと思えば、僕の右手をとって何かを握らせた。見てみれば、そこにはさっきまで彼女が身につけていた青い輝きを放つブローチがあった。

 

「お礼よ。ここまで私達の為にしてくれたこと、感謝するわ」

 

「本当に…『ありがとう』」

 

 僕は頷いて返すだけだったが、彼女はまるで僕をどこかの旅にでも行かせるかのような遠くも優しげな眼差しで見つめている。

 改めて彼女から貰ったブローチに目を向け、ぎゅっと力を込めると、彼女に背を向けて平衡感覚が曖昧ながらも確かな一歩を踏み出した。

 

 そして同時に1日の終わりを告げる十二時の鐘が辺りに鳴り響くのだった。




やっぱり文章力がないのが悩みですね…。もっと語彙力をあげないとなぁ…。

次でいよいよラストです。下手ながらも一つの区切り目にたどり着くことができました。本当にありがとうございます。良かったら最後まで読んでいってくださると嬉しいです。

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