フランドールと一週間のお友達   作:星影 翔

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 この作品を見にきてくださってありがとうございます。駄文ながらも頑張りますので、よろしくお願いします。


本編
1日目 地下で会ったのは可愛い少女でした


 ……僕の名前は宮岡 俊、今年で十八歳になる。でも、そんな事どうでも良い…。僕の余命はあと僅かなんだから。

 

「じゃあね、また明日」

 

 そう言って、母が僕の病室の扉をゆっくりと閉める。死期が迫ってだんだんと閉鎖気味になっていく僕の心を少しでも和らげようと、このところ毎日のように来てくれている。来てくれているだけありがたいのだが、やっぱりもうすぐ死ぬとなると明るく振る舞うのは難しい。

 

「母さん、いつもありがとう。ごめん」

 

 静まり返った孤独の部屋の中で小さく呟いた。

いや、もうやめよう。こんな事を考えている時間が無駄だし。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…ここは?」

 

 程なくして僕は目を覚ました。

しかし、目の前に広がっていたのはいつもの病室の白い壁ではなかった。

言い表すならば………

 

 その壁は…紅かった。

 

 床も壁も天井までも僕の目が充血しそうなくらいに紅い世界、その中で天井に吊るされたシャンデリアが唯一、上下の感覚を僕に意識させてくれる。

 

「え?何だここ?」

 

 一体、僕の身に何が起きたんだ?もしかして予定よりも早く死んだのか?

 もし、そうだとしたら家族に感謝の一言も言えなかったのは辛いな。

 それにしても、仮に死んだとして何で僕はこんな薄暗い廊下のようなところに立っているのだろう。天国でも地獄でもこんなに薄暗いのは色々な意味でおかしいと思う。それとも僕のイメージ違いだろうか。

 何でも良いや、とりあえず何か行動を起こさないと、と思い、その薄暗く気味の悪い廊下を歩き始める。

 よく目を凝らすと、三つか四つくらいの部屋へと続く扉と一番奥には上へと続く螺旋状の階段が伸びていた。

 しかし、不思議なことに階段へ行こうにも、途中で壁のようなものに阻まれて先へと進めなかった。正確にいえば壁は無いのだが、透明な何かによって先は進入禁止状態だった。

 

 渋々、他の部屋を当たる。生まれた時から余り冒険はしない方なのだが、この場合は冒険せざるを得ないのは分かりきっていることだった。

 

 息を呑んで一つ目の扉のドアノブへと手を掛ける。

 鬼が出るか悪魔が出るか、とドアノブを回し、体重をかける。

 

ガチャ、ガチガチ

 

「カギがかかっているようだ」

 

 唐突に思い出したとあるRPGゲームのセリフを口にだす。よくやったなぁ、と感慨に浸ると共に孤独という寂しさが一気に込み上げてきて涙が浮かんだ。

 

 合計四つあった部屋の中で三つがそんなやりとりに終わる。恐怖と好奇心。そして、開かなかった時のがっかり感と安心感をたっぷり味わったあと、ようやく最後の部屋へと足を進めた。

 

 四つめともなると、もはや開ける前の躊躇(ちゅうちょ)がなくなっており、いつもの家の扉を開くような感覚でドアノブを回した。

 

 ガチャ、というあって当たり前の音にものすごく驚いた。べっ、別にさっきまでドアが開かなかったからとか、そういうのじゃ、決してないからな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 中はさっきの廊下よりもずっと暗く、同じ人間なら部屋に入るのを躊躇しかねないようなくらい闇の深い空間が広がっていた。

 ここで、僕は改めて余計なことをしたことに気がついた。誰もが分かるように今更なのだか…。

 数秒くらい、部屋の前で立ち往生していた僕も、ついに意を決して中に突入する。

 さっきも言ったが、僕は余り冒険しないのである。なので、未知なものに興味を持とうとも思わないし、会ってみたいなんてかけらも思わない。けれど、状況を全然飲み込めてない今は嫌でもそうしないといけないのは分かりきっていた。

 

 中にはいると、一寸先も見えず、辺りがまるで闇そのものだった。足元がおぼつかず、足が色々な物に当たる。そして、見えないながらも何とか奥まで進むと、ベッドのようなものが足元に見えた。その瞬間、どうしたわけかベッドの存在が余りに僕の心を安堵させ、僕は思わずそのベッドへ身を投げた。ふわふわで最高の寝心地であるそのベッドは、より僕の心に安らぎを与えていく。

 

 あぁ、もういいや。とりあえずはここで寝かせてもらって、後のことは次に起きたときに考えよう。

 そうして、僕はベッドの奥の方へと這い上がっていく……。

 

 

 あれ?何か柔らかい感触が…。

 

 これは…足か…?

 

「ひゃあ…⁉︎」

 

 聞き慣れない悲鳴が聞こえたのも束の間、パッと部屋に眩いばかり光が入る。一瞬目が眩んだほどの光もだんだんと慣れてくるとそこには一人の少女がこちらを少し怯えたような目で見ていた。

 

「あなた、誰?」

 

 布団にくるまって身を隠しながらこちらを覗く少女の姿はひどく幼かった。

 まぁ、現時点では顔と髪型しか分かんないから何も言えないけど、見た目がものすごく幼いのは分かる。

 なんだかよく分かんないけど、怖がらせてしまったようだ。

 

「大丈夫?ごめん、怖がらせて」

 

 手を彼女に向けて伸ばすのだが、彼女は僕の手を握るどころかさらに離れていってしまう…。

 あれ、もしかして警戒されてる?

 僕が近づいていくにつれてどんどん彼女も離れていってしまう。

 

 僕が進む。彼女が後ずさる。

 

 進む。後ずさる。

 

 進む。後ずさる。

 

 これを数回繰り返した後、あまりに不毛なので、僕は諦めてポケットに入っていたスマホを取り出していじることにした。

 通信圏外…って本当にどこに来たんだろうか。てか、なんでスマホが入ってんだろう。

 取り敢えず、音楽アプリを開いて適当に音楽をつける。イヤホンが運良くスマホにつけたままだったので、片耳だけつけると、人のベッドながら勝手に大の字で寝かせて頂いた。さっきも言ったがこのベッドの寝心地は抜群で、ちょっとでも気を抜いてしまえば一瞬で意識が飛んでしまいそうだ。

 

 そんな素晴らしいベッドを勝手に堪能していると、さっきまで明かりのせいで赤かったはずの視界がふっと黒くなった。

 

 目を開くとさっきまで怯えていたはずの彼女が僕を興味深そうに覗き込んでいた。

 彼女としばらく見つめ合う状態になって固まっていると、彼女の指が僕の頬に触れる。

 

「ふふっ、柔らかい」

 

 一度触れたことをいいことに彼女の指がどんどんと僕の顔をいじりはじめる。ツンツンと頬をつついて。さっきまでまるでゾンビでも見るような恐怖に満ちた表情でみていたくせに…。

 

「そろそろやめてくれ、くすぐったくてしょうがない」

 

 僕がそう言うと、彼女は少し惜しそうな顔をしながら手を引っ込める。再び彼女に目を向けると、気づけばお互いに笑っていた。

 

「あなたは何ていう名前なの?」

 

「僕?僕は俊、宮岡 俊だよ。よろしく」

 

「私はフランドール、フランドール•スカーレットよ。よろしくね」

 

 彼女はベッドから降りると、こちらに振り返っていっぱいに笑ってみせた。その笑顔は初めて友達ができたような、純粋で無垢な笑顔だった。そんな笑顔を見せられた僕自身も嬉しい気持ちを顔に出さずにはいられなかった。

 

 改めて彼女の容姿を見てみる。その幼い顔に似合って体つきも幼かったところまでは良かったのだが、よく見ると、その背中に何やら歪な翼が覗いている。人間の姿をしていて背中に翼がついてるってことは、恐らく彼女は吸血鬼か何かなのだろう。取り敢えず絶対に人間ではない。しかし、そこで彼女のその翼に疑問がいった。一般的な吸血鬼の翼は蝙蝠(コウモリ)の羽なのだが、彼女の場合、翼の翼膜がなく、代わりに宝石のようなものがぶら下がるようにしてくっついている。まぁ、まず翼が覗いている時点で間違いなく人間ではないけれど…。僕が今まで絵本なんかで見てきた吸血鬼とはまた違った見た目だった。

 

「フランドール…ちゃん?その背中についてるやつって…もしかして、翼?」

 

 僕がその歪な翼を指さして問うと、彼女は後ろにひっついているその翼を見やったあと、再び僕の方を向いて気まずげに答えた。

 

「そう…よ」

「私ね、吸血鬼なの…」

 

 その瞬間、今までの笑顔もその自信なさげなその顔に流され、いつの間にか彼女の顔には新しく出会った友達を失くしてしまうのではないかという不安の様なものが見てとれる。

 不思議と彼女の告白を信じることができた。普通に考えたら吸血鬼なんている訳ないし、背中についてる翼だってコスプレで作ったと見ることだってできる。実際に翼に触れたこともない訳だし。

 でも、彼女の言うことは何故か信じられた。理論も何もないただの直感。

 だけど、だからって僕は彼女から離れようとは思わない。彼女は寂しいんだ。孤独に生きるのが嫌なんだ。さっきの階段が通れないことを考えても、恐らく彼女はここに閉じ込められているからなのだろう。

 悲しげに俯く彼女を見ているのは思った以上に悲しく、胸が痛くなった。

 だから、僕は言うんだ。

 

「それが?それを聞いたから僕が()()になったばかりの君を見捨てると?」

 

「とも…だち……?」

 

 彼女が驚いた表情で再び僕の顔を伺ってくる。そしてその数秒後、彼女の顔にもう一度笑顔が戻ってくる。

 

「ともだち…、友達。うん‼︎」

 

 彼女の頬に赤みが帯びる。

 僕もベッドから降り、彼女の前に右手を差し出した。

 

「あらためて、よろしくね、フランドールちゃん」

 

「フランでいいよ。みんなそう呼んでるから」

 

「分かった。よろしくね、フラン」

 

「こっちこそ、よろしくね、俊」

 

 彼女の方も、その小さな右手で僕の手を握ってくれた。

 あと一週間という短い人生。楽しく過ごすことを諦めていた僕だけれど、彼女という存在は僕にとって大切なものになる気がする。生涯で最期に作った友達というのも良いじゃないか。

 まだここがどこなのか、という戸惑いはあるものの、住めば都という言葉がある様に、きっと慣れてくるに違いない。それよりも、今は少しでも彼女の心のよりどころになれればいいなと思う。

 

 彼女のベッドの上でそんな事を考えていた。

 

 そして、僕はそのまま意識を暗闇の底へと落としていった…。




 どうだったでしょうか。あまりに拙い文章ですが、喜んでいただけたら幸いです。この後、彼等はどうなっていくのか。実はあまり考えていません。なので、こんな感じにして欲しいとか、こうしたらどうかな、というのがありましたら是非ご意見お願いします。
 あと、諸事情により、9月に入ってからはなかなか投稿が出来ないので、そのところはご了承下さい。

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