文芸Brand New Days!   作:片倉政実

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政実「どうも、初めての方は初めまして、他作品を読んで頂いている方はいつもありがとうございます。
作者の片倉政実です。
のんびりとした投稿にはなっていくと思いますが、楽しんで読んで頂けたらとても嬉しいです。
これからよろしくお願いします」
愛「そしてっ、 この作品の主人公の魚江愛ですっ! 皆さん、これからよろしくお願いします!」
政実「ふふっ、最初から凄く明るいね、愛」
愛「うんっ。やっぱり最初から明るい方が良いと思うからね♪」
政実「確かにそうかもしれないね。さてと……前書きはとりあえずここまでにして、そろそろ始めていくよ」
愛「おー!」
政実・愛「それでは、第1話をどうぞ」


第1話 新たな学校生活の始まり

『んぅ……?』

 突然漂い始めた甘い香りを感じ、私はゆっくりと目を開いた。すると、私の目の前にはふわふわとした綿菓子みたいな霧が一面に広がっていた。

『わぁ……スゴく美味しそう……!』

 そして、その霧から漂ってくる香りとその見た目から、ちょっとだけ(かじ)り付きたくなったけど、奥の方から更に強い香りがする気がしたので、私は目の前の霧をどうにか我慢して、そのままトコトコと進んだ。そしてそのまま歩いて行った先に見えてきたのは──。

『わぁっ……! す、スッゴい……!』

 色とりどりのスイーツの山々とそれに合いそうな飲み物の湖や川。そのどれもがとても美味しそうな香りを漂わせていて、まるで私の事を誘っているかのようだった。

 ……うん、これはもう食べちゃうしか無いよねっ……!

 私はニッコリと笑ってから、それらを食べる為にゆっくりと近付いた。ところがその時、近くに置かれていたイチゴのショートケーキの形の時計がけたたましい音を辺りに響かせ始めた。

 うぅ……な、何……? この『目覚まし時計』みたいな音は……?

 そんな事を思った瞬間、私の目の前にあった物が徐々に薄れていくと、それに比例して音が徐々に大きくなっていった。

 

 

 

 

「うむぅ……」

 私はそんな声を上げながら、まだ聞こえてくる音の出所を手を伸ばしてごそごそと探った。そして何か固く丸い物に手が触れた時、私はそれを強く押した。すると、さっきまで聞こえていた音はすぐに消えて、シーンとした静寂が私に訪れた。

 ふぅ、ようやく静かになった……。

 その事に少しだけ嬉しさを感じた私は、すぐにまた眠ろうと思い、ゆっくりと目を閉じた。けれど、さっきの目覚まし時計の音のせいか、中々眠れる様子は無く、むしろどんどん目が冴えていく一方だった。

 むぅ……もう少し寝てたいのにぃ……。

 そんな事を思いながら少しだけむくれた後、私は渋々目を開け、ゆっくりとベッドから体を起こし、静かに周りを見回した。部屋の中にはいつものように私の小物や姿見などの物が置かれていて、タンスの上には小さい頃から大事にしているクマのぬいぐるみがちょこんと座っていた。正直な事を言うと、窓をカーテンで覆っているから、部屋の中は少しだけ薄暗かったけど、それでも外の光が少しでも入ってきているから、部屋の中を見るだけなら今でも十分な明るさだと私は思う。

「……でも朝だし、やっぱりカーテンを開けちゃった方が良いよね」

 私はベッドから出た後、窓の方までゆっくりと歩き、カーテンに手を掛けた。そして勢い良くカーテンを開けると、さっきまで(さえぎ)られていた分の太陽の光が一瞬で射し込み、部屋の中が一気に明るくなった。

「うんうん、やっぱり明るい方が良いよね♪」

 明るくなった部屋とその様子を見ながらそんな事を独り言ちていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。そしてガチャッという音を立てながらドアがゆっくりと開くと、そこには妹の魚江初(うおえうい)がニコニコと笑いながら立っていたので、私はニコッと笑いながら朝の挨拶をした。

「初! おはよっ!」

「うん、おはよう、お姉ちゃん♪」

「初が来たって事は……もしかして、もう朝ご飯が出来てる頃なのかな?」

「ううん、まだだよ。でも、お母さんがそろそろ出来そうだから起こしてきてって言ってたから、早く下に降りた方が良いかもよ?」

「そっかぁ……うん、分かった」

 私はそう答えた後、初と一緒に部屋を出て、キッチンやリビングがある一階へと降りていった。妹の初は私の二個下の中学二年生で、普段から黒いショートヘアーに黄色い満月の髪留めを付けているいつも笑顔の眩しい子だ。そして、小さい頃から大体のことは何でも出来ちゃうという自慢の妹なんだけど、どうやら他の子よりも背が小さいのが悩みの種らしく、毎朝牛乳を飲んでみたり、帰ってきてからランニングに出掛けたりと陰で様々な努力をしている。私個人としては、今の背丈でも充分良いと思うんだけど、本人が頑張っている所に水を差すわけにもいかないので、そういう事は普段から言わないようにしていた。

 そして一階へと降り終え、リビングのドアを開けると、そこには朝ご飯をテーブルの上に並べているお母さんと椅子に座ってコーヒーを飲みながら朝刊を読んでいるお父さんがいた。私は初と一緒にリビングに入った後、お母さん達に挨拶をした。

「おはよっ、お母さん、お父さん」

「うん、おはよう、愛」

「おはよう、愛。その様子だと……どうやら昨夜はしっかりと眠れたようだね」

「ふふっ、まあね。今日は文月(ふみつき)高校の入学式だし、眠そうなままで行ったら流石に恥ずかしいもんね 」

「ふふっ、それくらいは流石の愛でも分かってるみたいね」

「もぅ……お母さんったら……」

 お母さんの言葉に少しだけ頬を膨らませていると、突然私の膨らんだ頬が誰かに軽く(つつ)かれた。それを不思議に思いながら突かれた方を見てみると、初がニコニコとしながら右手の人差し指をピンッと立てていた。私はその事に小さく息をついた後、小さく笑いながら声を掛けた。

「もう……どうしたの、初?」

「ふふ、お姉ちゃんの頬がぷくっと膨らんでたから、何だかちょっと突いてみたくなっちゃった♪」

「……ふふっ、そっか」

「うん♪」

 私達が顔を見合せて笑っていると、お母さんがニコニコとしながら声を掛けてきた。

「二人とも、朝から仲が良いのはとっても良いけど、朝ご飯が出来たから早く食べちゃいましょ」

「はーい」

「はーい♪」

 私達は声を揃えて返事をした後、いつも通り並んで椅子に座った。そしてお母さん達とも声を揃えていただきますの挨拶をした後、私達は目の前に並んだ朝ご飯を食べ始めた。

 

 

 

「ごちそうさまでした!」

 朝ご飯を食べ終えた後、私はしっかりと手を合わせながら大きな声でそう言い、自分の分の食器をシンクへと運んでから洗面所へ向かった。そして少し冷たい水で顔を洗ったり、寝癖をちょちょいと直したりした後、用意されていた自分の顔ふきタオルで顔を拭き、そのまま自分の部屋へと戻った。着替えと学校に行く準備を始め、十数分後にはそれもすっかり済んでいた。

「……うん、これでバッチリだね!」

 姿見には今日から通う文月高校の制服を着た私、魚江愛(うおえあい)の姿が映っており、少し体が動く度に緑色のヘアゴムでまとめたポニーテールと首に掛かっている小さな青いペンダントがゆらゆらと揺れている。

 今日から通う文月高校はアクセサリーとかについてはちょっと緩いらしく、派手な物じゃなければ大体は許されるみたいなんだ。私には他の子とか初みたいなファッションとか小物のセンスなんて無いから、せめてこういう細かい所だけでもオシャレにしてみたいんだよね。

「……まあ、私には可愛い格好なんてあまり似合わないと思うんだけどね」

 小さく苦笑いを浮かべながらそんな事をポツリと呟いた後、私は机の上に置いていた学校用のカバンに手を伸ばした。そしてカバンの持ち手を肩に掛けた後、私はそのまま部屋を出た。

 

 

 

 

「それじゃあ……行ってきまーす!」

 家の中にいるお母さん達に声を掛けてから私は玄関を開け、勢い良く外へと出た。

 さーてと、学校がある方向は……うん、こっちだね。

 そして、学校がある方に向かって鼻歌交じりで歩き始めた。季節が春なのもあってか、気温はとてもポカポカとしていて、気が緩んだら思わず寝てしまうかもしれない程だったけど、高校生活へのワクワクの方が勝っていたため、私の気持ちはとても弾んでいた。

「うーん……! 入学式の日にこんなに良い天気だとやっぱり気持ちが良いなぁ……!」

 そんな事を独り言ちながら体を上に向かってグーッと伸ばしたり、道の途中で気持ち良さそうに寝ている猫を眺めたり、と様々な事をしながら学校に向かって歩き続けていたその時、後ろからふと足音みたいなのが聞こえてきた。

 足音……だよね、これ……。それにだいぶ急いでるようだけど……?

 不思議に思って後ろを振り向いてみると、少し離れたところに誰かがこっちへ向かって走ってくる姿が見えた。そして、それから程なくその誰かは私と同じ文月高校の制服を着た茶色の髪の毛の女の子だという事が分かった。

 ……って事は、もしかしたら私と同じ新入生かな? よし、ちょっと声を掛けてみよう!

 その女の子に興味を惹かれた私は、とりあえず声を掛けてみることにした。

「あのー! すいませーん!」

「……ん?」

 どうやらしっかりと私の声が聞こえたらしく、女の子は私の隣でピタッと止まると、息を整えながら少し不思議そうに話し掛けてきた。

「はぁっ、はぁっ……。ふぅ……アタシを呼んだのは……もしかしてアンタ?」

「うん。何だか急いで走ってる様子だったから、ちょっと気になっちゃって」

「……ああ、なるほど。そういう事」

 その子は、私の言葉に納得してくれたらしく、息を整えつつニッと笑ってくれた。そして、すぐに私が同じ制服を着ている事に気付くと、少し嬉しそうに話し掛けてきた。

「その制服……!って事は、もしかしてアンタも文月高校の新入生なのかい?」

「うんっ!あ、私は魚江愛だよ、よろしくね」

「愛だな。アタシは筧菊香(かけいきくか)、よろしくな」

「うん、よろしくね、菊香ちゃん」

「ああ!」

 そして、握手を交わそうとした時、菊花ちゃんは「……あ」と言ってから軽く汗ばんでいた手を制服の袖で拭い、拭えた事を確認してからしっかりと握手をしてくれた。

 えへへっ、高校初日から友達になれそうな子に出会えるなんて……何だかとってもツイてるかも♪

 そんな事を思った後、私はある事を思い出した。

「そういえば……菊香ちゃんは何であんなに急いでたの?」

「あー……それなんだけどさ……」

「うんうん」

「実は……起きたのがついさっきでさ。それでヤバいと思ってすぐに準備して、急いで走ってきてたんだよ」

「あ、なるほど。だから、ところどころ髪が跳ねちゃってるんだね?」

 私がそれを指摘すると、菊香ちゃんは少し寝癖になっている部分を気にしながら答えた。

「……まあな。それに、いざとなったら学校でコッソリ直そうと思ってたからさ」

「それなら……私が直したげよっか?」

「直すって……本当に良いのか?」

「うんっ。カバンの中には櫛とかがあるから、ちょちょいのちょいで直してあげられるよ」

「そりゃあ、助かるよ。サンキューな、愛」

「ふっふっふ……こんな美少女に入学式から恥ずかしい思いをさせるわけにはいきませんからなぁ♪」

「……何だか色々とツッコミどころはある気がするけど……まあ、良いや。とりあえず頼むよ、愛」

「アイアイサー♪」

 元気良く返事をした後、私は言葉通りちょちょいのちょいで菊香ちゃんの寝癖を直してあげた。そして、カバンの中に入れていた手鏡で出来映えを見せてあげると、菊香ちゃんの顔がぱあっと明るくなった。

「おぉっ……! さっきまであった寝癖が影も形も無くなってる……! ありがとうな、愛!」

「えへへ、どういたしまして。実は、私も昔から寝癖には悩まされてたから、早く直せる方法なんかを色々考えてたんだよね」

「ふーん、そっか」

「うん」

 答えながら櫛とかをカバンにしまった後、私はニコッと笑いながら菊香ちゃんに声を掛けた。

「……さてさて、それじゃあそろそろ学校に行こっか。まだ少し時間はあるみたいだけど、のんびりしてると本当に遅刻しちゃいそうだしね」

「ん、そうだな」

 菊香ちゃんの返事を聞いた後、私達は色々な話をしながら、学校に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

「……ですので、皆さんには学生として……」

 入学式の最中、私は校長先生の話をぼんやりと聞いていた。

 うーん……やっぱり校長先生の話って長いよねぇ……。あ……何だか……段々、眠くなって……来たような……。

 うつらうつらとし始めた時、背中をつんつんと突かれたような気がして、後ろをコッソリと振り向いてみた。すると、菊香ちゃんが少し呆れたような顔で私の事を見ていた。

 あはは……これはお恥ずかしいところを見せちゃったなぁ……。

 お礼の言葉の代わりに小さくペコッと頭を下げた後、私はまた前に体を向けた。

 いけないいけない……これ以上菊香ちゃんに迷惑をかけられないし、ちゃんと話は聞かないと……。

 拳を小さく固めて自分にそう言い聞かせた後、襲ってくる睡魔とのバトルを繰り広げながら、私は校長先生の話を頑張って聞き始めた。そして、どうにか校長先生の話を聞き終え、上級生からの歓迎の言葉や他の先生からの簡単な校則の紹介が終わり、各クラスの担任の先生の発表が始まると、次々と先生達が生徒達の目の前へと立ち始めた。

 さてさて……私達の担任の先生は、一体どんな人なのかな~?

 そして、そんなワクワク感で心が満ちていたその時、目の前に立った人の顔を見て思わず「え……?」と小さな声を上げてしまった。けれど、その先生は私の姿に驚くでも無く、軽くウインクをしたかと思うと、人差し指を口元へと当てた。

 静かにって……まあ、式の途中だからもちろん静かにはするけど、本音を言うなら今すぐにでも色々と訊きたいところなんだけどなぁ……。

 私はこのまさかの展開に驚いていたけれど、今はとりあえず大人しくそれに従う事にし、式の方へと意識を向けた。

 

 

 

 

「はあ……ようやく終わったぁ……」

 入学式が終わった後、周りから聞こえてくるガヤガヤとした話し声を聞きながらずっしりとのし掛かってくる疲れを感じていると、後ろの席に座っている菊花ちゃんが呆れた様子で話し掛けてきた。

「愛……その気持ちは分かるけど、少なくとも帰る時まではシャキッとしときな?」

「あはは……そうしたいのはやまやまなんだけど、ちょっと思ってたよりも疲れちゃって……」

「まったく……」

 私の苦笑いに対して菊花ちゃんがやれやれといった様子を見せていたその時、「……あ、そういえば……」と何かを思い出した様子で両手をパンッと軽く打ちあわせた。

「愛、さっき担任の()()()()の顔を見てスゴく驚いてたけど、もしかして愛の親戚かなにかなの?」

「うん、そうだよ。魚江先生──青一(あおい)伯父さんは、私のお父さんのお兄さんで、学校の先生をやってるっていうのは前に聞いてたんだけど、ここの先生だっていう話は聞いた事が無かったかな……」

「そっか。でも、親戚が担任である以上、授業中の居眠りや宿題のうっかり忘れなんかは本当に出来なくなったんじゃない?」

「う……そうだよね。はあ……そう考えると、ちょっと憂鬱かもしれない……」

「……まあ、その気持ちは分かるけどね。あ、それと……まさかアンタが校長の話で寝ようとするなんて本当に驚きだったよ」

「あはは……その節はとんだご迷惑をおかけしまして……」

 呆れたような菊香ちゃんの言葉に私は小さく笑いながら答えると、菊香ちゃんは小さく息をついてからそれに答えてくれた。

「別に迷惑なんて思っちゃいないよ。ただ、そういう風に見えないから意外だったってだけさ」

「あはは……ジッと話を聞いてるのは、ちょっと苦手なんだよね」

「それは……まあ、分からなくもないけどさ。でも、授業とかは真面目に聞いてるんだろ?」

「一応は……ね。ただ、今回みたいに窓際に近いとちょっと危険かも……」

 私は頬をポリポリと掻きながら答えた。

 出席番号の関係上、私と菊香ちゃんの席は窓から数えて二番目の列にあるから、窓から射し込んでくる暖かい光がかなりの危険物になっちゃうんだよね……。

 すると、菊香ちゃんはそんな私の様子を見てクスリと笑った。

「……分かった。その時はアタシがしっかりと起こしてやるよ」

「え、でも……良いの?」

「ああ。愛とダチになったのも何かの縁だと思うし、席が近い間はどうにかしてやるよ」

「菊香ちゃん……! うんっ、ありがとう!」

「どういたしまして」

 私の言葉に菊香ちゃんはニカッと笑いながら答え、私もそれに対してニコリと笑い返した。

 でも、いつまでも菊香ちゃんに迷惑をかけられないし、どうにか授業中を乗り切る方法を後で初と一緒に考えてみようかなぁ……。

 そんな事を考えていたその時、教室のドアがガラリと開き、担任の魚江先生がゆっくりと教室へ入ってきた。

 ……でもまずは、こっちに集中しようっと。伯父さんが担任である以上、生徒である私が迷惑を掛けるわけにはいかないし、かっこ悪いところは見せられないからね。

 クスリと笑いながらそんな事を思った後、私はしっかりと前へ向き直った。

 

 

 

 

「ん~……! ようやく終わったぁ~……!」

 帰り道、私が体を空に向かってグーッと伸ばしながらそう独り言ちていると、菊花ちゃんはそんな私の様子を見て苦笑いを浮かべた。

「教室ではだるーんとしてたのに、学校が終わった途端、急に元気になったね」

「あはは……まあ、ね。でも、学校自体は嫌いじゃないよ? 」

 んが何かを思い出したように声を上げた。

「そういや……ねえ、愛って弟か妹っている?」

「うん、妹が一人いるけど……それがどうかしたの?」

「いやさ、朝の愛の手際の良さとか面倒見の良さみたいなのを見てて、そうなのかなと思ってな」

「あー……なるほどね。でも、実際は妹の方がしっかりとしてるかもしれないなぁ……。私と違って勉強とかも出来るし……」

「そうは言うけどさ……別に愛だって勉強が出来ないわけじゃないんだろ? 文月高校はそこそこ頭の良い奴らが集まる学校らしいしさ?」

「うーん……確かにそこそこ出来る方だとは思うんだけど、一個だけまったく出来ない教科があるんだよね……」

 私がそう言うと、菊香ちゃんは意外そうな表情を浮かべた。

「へー……そうなのか。それで、何の教科が出来ないんだ?」

「それはね……」

 私は大きくため息をついた後、天を仰ぎながら言葉を続けた。

「『国語』なの……」

「『国語』って……現代文とか古文とかある奴……だよな? そんなに出来ないのか?」

「うん……漢字とか言葉とかは分かるんだけど、登場人物の気持ちを答えなさいとかみたいなのがちょっと苦手なんだよね……」

「あぁ……なるほど。確かに作品の中のキャラクターの気持ちになれって言ったって、んなの分かんねぇよってなるよなぁ……」

「あはは……そこまでは言わないけどね。でもそのせいで、今回の入試の点数もちょっとギリギリだったんだよね。合計点も国語でダメだった分を他の教科でカバーしたみたいな感じだったし……」

「ふーん……」

「因みに菊香ちゃんは何か苦手な教科とかはある?」

「アタシか? アタシは……そもそも勉強がそんなに好きじゃないから、どの教科が得意とかは無いな」

「あれ、そうなんだね?」

 校長先生の話とかを真面目に聞いてたし、てっきり見た目とは違って、勉強とかは好きなのかなと思ってたんだけど……。

 すると、それが私の顔に出ていたのか、菊香ちゃんは笑いながら答えてくれた。

「意外かもしれないけど、アタシは校長とか先公の話はしっかりと聴くタチなんだよ。ああいう話ってのは、しっかりと聴いとかないと後から困ったりするからな」

「へぇー……そうなんだぁ……」

「まっ、全部が全部そうってわけじゃねぇけど、年上の話は聴いてみるのも良いってくらいに考えとけば良いさ」

「ふふっ、そうだね」

 菊香ちゃんの言葉に小さく笑いながら答えていると、私達はいつの間にか私の家の近所にある十字路へと着いていた。

 あれ、もうここまで着いちゃったんだ……。

 その事に少しだけ残念な気持ちを抱いた後、私は菊香ちゃんに声を掛けた。

「私の家、この近くだからここでお別れだね」

「ん、そうなのか。んじゃ、アタシはこっちだから」

 そう言うと、菊香ちゃんは私の家の方とは別の方に体を向けた。でも、すぐに何かを思い出したような顔になると、制服のポケットから赤い携帯電話を取りだし、ニカッと笑いながら私に声を掛けた。

「せっかくだし、連絡先の交換しとこうよ。今日に限らず、愛にはこれから何かと世話になりそうだからさ」

「ふふっ、もちろん良いよ。もっとも、私こそ色々とお世話になっちゃう気がするけどね♪」

「あははっ、それこそ入学式の時みたいな感じにな」

「う……ま、まあそんな感じだね」

 菊香ちゃんの言葉に私は少しだけ目を逸らしながら答えた後、制服のポケットから緑色の携帯電話を取りだし、ニコッと笑いながら菊香ちゃんに声を掛けた。

「それじゃあ早速……」

「ああ、交換といこうか!」

 そして私達は笑い合いながらお互いの連絡先を交換した。

 ふふっ、高校生活初日から何だかとっても良い感じだなぁ♪

 少し幸せな気持ちで携帯電話をしまっていると、菊香ちゃんが何かを思い付いたように手をポンッと叩きながら声を掛けてきた。

「なあ、愛。今日の午後とか暇か?」

「うん」

「なら、昼食ったらどっかにでも行かないか? 愛みたいな奴とつるんだ事ないから、どういう所行ったりするのかちょっと興味があるからさ」

「うんっ、もちろん良いよ!」

「よっし、決まりだな!」

 菊香ちゃんはとても嬉しそうに言った後、菊香ちゃんの家がある方へと体を向けた。

「それじゃあ準備できたら携帯に連絡するから、うっかり寝てたりするなよ?」

「むぅ……そんなに何度も何度も寝たりしないよぉ……」

「あははっ、悪ぃ悪ぃ。……んじゃ、また後でな、愛」

「うん、また後でねー」

 私が手を振りながら言うと、菊香ちゃんを手を振りながら歩いていった。そして道の向こうに菊香ちゃんの姿が消えた後、私も家がある方へと体を向けた。

 さーて♪ 私も早く帰ろっと♪

 午後からの予定に胸を膨らませながら、私は少し急ぎ気味に家へと帰った。

 

 

 

 

「ふんふんふふ~ん♪」

 その日の夜、私は好きな曲を鼻歌で歌いながら小学校の頃から続けている日課の日記を書いていた。そして書き終えた後、日記を机の端にある棚へと片付けていると、ベッドの上に置いていた携帯電話がブルブルと震えだした。

 これは……メールだね。

 私は欠伸をしながらベッドに近付き、携帯電話の画面を確認した。すると、表示されていたのは菊香ちゃんの名前だった。メールを確認してみると、そこには今日の午後の事、そして明日から一緒に登校してみないかとか色々な事が書かれていた。

 菊香ちゃんと一緒に登校かぁ……! うん、断る理由は無いね。

 私は返信をした後、携帯電話を充電器に繋いで、部屋の電気のスイッチを押しに行った。そしてしっかりと電気を消した後、私はベッドに入り、毛布を掛けてから静かに目を閉じた。

 高校生活の初日から楽しかった事も驚く事もあったし、明日もそんな風に色々な事がある日になると良いなぁ……。

 そんな事を思いながら、私は強くなっていく眠気に身を委ね、静かに眠りについた。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
愛「最初は入学式の話みたいだけど、部活動の話とかは次回からなのかな?」
政実「そのつもりだよ」
愛「アイアイサー♪ そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです! どうぞよろしくお願いします!」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていくよ」
愛「うん♪」
政実・愛「それでは、また次回」

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