夜の空母寮の廊下を赤城が歩いている。
「陸奥さん、嬉しそうだったな……」
赤城はさきほどの食堂でのことを思い出す。長門が着任して、陸奥は楽しそうに世話を焼いていた。姉妹艦が見つかったことは、欠けていたものがぴったりと嵌ったような感じなのだろうか。赤城の姉妹艦である天城はこの世に生まれてこなかったので分からない。しかし同じくらいに大事に思う存在ならば。
廊下に光が漏れていて、数人の笑い声話し声が聞こえていた。
何故かドアが開いている軽空母
「あー赤城さんじゃらいですかー! ちょうど良いところにぃ! 良い日本酒あるんすよー一緒にどうですか!」
多少呂律の回っていない声で呼び止められる。まさか通りかかった者全員に声をかけているのだろうか。部屋を覗くと酩酊した軽空母飛鷹、
「うぇ、もう……ダメ……」
あれは明日に持ち越すだろう……。
「んー……今日はちょっと。また今度誘って下さい」
そう赤城が断ると、隼鷹が一升瓶を片手に振る。
「めったに手に入らないやつなんすよー! ここで断るなんて赤城さんらしくない!」
「と言われましてもー」
「もう一声! もうひとこ……んぐっ!」
後ろから飛鷹の手が隼鷹の口を押さえた。
「ほら隼鷹、赤城さん困ってるじゃない。それにう・る・さ・い。ここ私の部屋なんだから」
二人もまた姉妹艦で、隼鷹型航空母艦。片方がもう片方のストッパー役としていつも機能しているようで、平時では飛鷹が冷静に見えるが、戦闘では飛鷹が無理に攻撃に出るのを、隼鷹が大局を見て制止するところを赤城は見たことがあった。良いコンビということなのだろう。
「赤城さん、明日任務入ってますもんね」と、飛鷹。
「そうなんです。ごめんなさいね」
「いえ、無理に誘うわけにはいきませんから」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
赤城はその場を後にする。
「……うーむ、もう少しだったのになー。ま、今日はこのメンツでいっか。よーしじゃんじゃん行こうぜー! あっ、ちょっと瑞鳳なに寝てんのよ!」
ぐえーという叫び声。続くドアの閉まる音に、赤城は宴の参加者一同に色々と同情した。
「夜はまだまだこれからだじぇえ!」
赤城は階段を上がる。一歩ごとに喧騒が遠のいて、正規空母たちが生活している二階の廊下はしんと静かになっていく。
彼女は起きているだろうか。
起きていたら、長門が着任したことを教えてあげよう。あなたと同じ《ドロップ艦》なのだと伝えよう。同じ境遇同士でないと分かち合えない思いもあるはずで、その一報で少しでも安心してくれるなら嬉しい。
そして赤城は自分の部屋の隣をノックした。
「
返事がない。
ノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。ゆっくりとドアを開けると、部屋の明かりが漏れてくる。
「―あ、赤城さん。今ちょうど月見をしていたところなんです。中秋ですから。下の宴会に混ざるのもやっぱり苦手で……えっと、何か用事でもありましたか?」
そんないつも通りの言葉が返ってくるのを赤城は期待していた。ただ少し話していこうと思って。
部屋の中心では正規空母加賀が、血溜まりに染まって冷たく倒れ伏していた。
傍らにはグラスに注がれたアルコールと――死。