我思う、故に我有り   作:黒山羊

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大風呂敷を広げる

 さて、チルドレン達の覚醒から1時間語。あの後目を覚ましたユイとキョウコに関しても同様に使徒化プロセスの解説を行い、漸くやるべき事が一段落したために、サキエルは現在チルドレン、および科学者2人からの質問に回答していた。

 

 今回は相談無しの独断専行で突っ走ったため、チルドレン達からすれば訊きたいことは山ほどあるのである。そのために開催された質問大会。その記念すべき最初の質問はシンジからの問いだった。

 

「そもそもサキエルが言ってた『計画』ってなんなのさ? エヴァを食べたのは何で? というか何で月に?」

 

 取り敢えず基礎から突っ込んで行こうという腹積もりらしいシンジの問いはそもそもサキエルは今回の騒動で何がしたかったのか、と問いかけるものだった。確かにそれはこの現状を説明する上で欠かせない要素であるため、サキエルもそれなりに真面目に回答する。

 

「私の今回の目的か。そうだね、まず今回私が立てた計画に置ける目標は4つある。エヴァ四機の補食、N2の入手、MAGIコピーの入手、月への移住。この4つだ。まぁ、N2の入手は月への移住に必要だっただけだから3つと言っても良いがね」

 

 そう前置きしてからサキエルはまずは一つと言うように人差し指をピンと立てる。

 

「まず、エヴァの補食から話そうか。……これはまぁ単純なんだが、アダムとリリスの細胞を吸収するためだ。ユイ君は知っているだろうが、エヴァ零号機と初号機はリリスから、弐号機以降はアダムから採取された細胞を使用した人造使徒となっている。これらを捕食する事で、私は間接的にではあるがアダムとリリスに融合した状態になり、使徒としてワンランク上の存在になった訳だ。具体的に言えば、アンチATフィールドが出せて、ロンギヌスの槍の召喚権限を得た」

「アンチATフィールドとロンギヌスの槍がよく解らないんだけど、重要なモノなの?」

「ああ、非常に重要だ。まずアンチATフィールドだが、これはATフィールドで構成された存在を問答無用でLCLに還元できる。威力を調整すれば2人の人間を融合させて1人にしたりも出来る。ちなみにネルフの裏に居るゼーレという悪の秘密結社が立てている人類補完計画という計画は、このアンチATフィールドで人類を融合させて第十八使徒リリンになるのが目標らしい。まぁ、リリンなら既に4人もいるがね」

「……使徒になりたいの? 何で?」

「それはまぁ、不老長寿の為じゃないか? ヒトの心はシトである私には理解しがたいので確証は無いんだがね。……さて、次はロンギヌスだったかな? ロンギヌスの槍は言わば制御棒の様なものだ。基本的には自分か相手に突き刺して使う、といってもわかりにくいか。実物がコレだ。召喚機能があるから武器としても優秀と言える」

 

 そう言ってサキエルが手を頭上に掲げると、地球から赤い稲妻の如きスピードで一本の捻れた槍が飛来する。その槍を月面にサクッと突き刺してから、サキエルは依り詳しい解説を開始した。正直に言えば使徒化から始まった超展開の連続でシンジ達の脳はショート寸前なのだが、サキエルはお構い無しらしい。

 

「コレの召喚権限はリリスとアダムのどちらか、或いは両方の細胞を所持する事で手に入る。後は一瞬でも良いからアンチATフィールドを展開すれば反応してすっ飛んで来る。実にお利口な槍だ。……因みに、この槍の使い道なのだが、ゲームでいうMODやチートコードに近い。突き刺した対象の機能を増幅したり追加したり消滅させたり出来る。使い方は簡単で『こうなれば良いな』と念じながら槍で刺すだけ。例えば、『死ね』と思いながら突き刺せば使徒だろうが何だろうが消し飛ばせるし、突き刺した対象の再生を緩やかにしたり、遺伝子を新たに追加したりATフィールドやアンチATフィールドを増幅したりと結構自由自在に色々出来る。何しろ神様の道具だから、自重も何も無いんだ。ちなみに今のところ権限を持っているのは私とカヲル、そしてリリスだね」

「……よく解らないけど、取り敢えず凄い武器なんだね」

「……ああ、済まない、少々小難しく成ってしまったか。何でも出来る魔法の道具だと思ってくれれば大体合っているよ」

 

 と、此処で流石に知恵熱一歩手前なシンジに気付いたらしいサキエルは「少し休憩した方が良い」と提案し、シンジを休ませる。その代理として生贄……もといサキエルの解説を受ける担当に就任したのは何やら興味ありげな様子でソワソワしていた碇ユイ博士。サキエルに驚くより先にロンギヌスの槍をペチペチ触っている辺り、かなりの変人であるのは間違いなさそうである。

 

「……ではユイ君、MAGIコピーの確保か月への移住か、どちらから先に訊きたいかね?」

「……死海文書に記述されていない知恵ある使徒。……やはり死海文書の解読に問題が? ……いえ、そもそも死海文書の記述は絶対的なモノでは無いという事かしら。現に私の肉体はリリンへと覚醒している。……補完に使徒を用いる事で儀式のプロセスを簡略化…………人類が生命の実を手に入れるが如く使徒もまた知恵の実を手にしうる? ……ゲヒルンのE計画……人類の保存と補完的…………むむむ」

「いや、何が『むむむ』だ。……おい、ユイ君、戻って来たまえ」

「ん? あらごめんなさい、ついつい考え事をしてたら夢中になっちゃって。怒らないでねサッキーちゃん」

「サッキーちゃん…………? あだ名にちゃん付けは些か不自然な気が……。いや、落ち着け、落ち着きたまえ、私。そんな事は今はどうでも良いのだから」

「所でサッキーちゃん、どうやって月に来たのか教えてくれるんじゃなかったのかしら? 話が脱線しているわよ?」

「……主に君のせいで話がこじれた気がするのだが。……まぁいい」

 

 どことなくレイに通じるゴーイングマイウェイっぷりとシンジによく似た思考の海に溺れる悪癖をフルに発揮するユイに完全に無視されたことでガクリとペースをみだされたサキエルは、天然をマトモに相手にしても実りはないとMAGIを取り込んだ事でランクアップした頭で判断し、1つ咳払いしてから本題へと移行する。

 

「月に到達した方法だが、これは先程シンジ君にも言ったように入手したN2を使用した。いわゆる熱核ジェット推進に近い方法で、南極を打ち上げ地点にしたのは周囲の生態系への影響を考えての事だ。 幸いにも細菌一匹居ない死の世界だったから遠慮なく飛び立たせて貰ったよ」

「成る程ね。……じゃあ、何故月に来たのかとMAGIコピーの強奪について教えてくれるかしら?」

「MAGIは単純に自身の演算能力の向上のためだね。私は自身の進化には妥協しない。……で、月に来た理由だが、私が手に入れた能力をフルに活用するためだね。此処からならばある程度自由に行動出来るし、月はどこの国のモノでもない。……要するに、私の目的にはうってつけな場所なのだよ。いやはや、私はリアリストを標榜していたのだが、どうやらロマンチストだったらしい。恥ずかしながらそのロマンを実現するための計画こそが、今回の騒動なのだ」

 

 そう言ってもったいぶるサキエルだが、キョウコとの親子の語らいを終えてサキエルの話を聞いていたらしいアスカにボソッと「意外とガキっぽいわね」と評された事で結構ヘコんだのか、もったいぶるのを止めて普通に説明する。

 

「あー、いや、何だ。私の目的は比較的単純でね。……この月に国家を作ろうと思う」

 

 

 その発言は、まぁ確かにロマンチストと言っても過言ではない程に荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい。だが、その発言を聞いた七人の内で最もサキエルと触れ合った月日が長いシンジは漠然と「意味不明だけどサッキーならやりかねないなぁ」と根拠のない予感を感じていた。

 

 ある意味で歴史の転換点であるその発言はその時点では六人の冷たい視線と一人の悟りきった表情で以て華麗にスルーされ、サキエルをしょんぼりとさせる結果に終わる。

 

 だがしかし、サキエルの野望は着々と実現に向けて突き進み、やがて衝撃をもって世界に認知される事となる。

 

 

 その脅威は、静かに、そして着実に人類の頭上を侵蝕し、やがて月を覆い尽くすことになる。だが、人類の大多数は今はまだ、仮初めの平和な日常を謳歌する。一般人にとってネルフと使徒の戦いは非常に遠い世界であり、先日発生したサキエルの大暴れですら、音速で移動したサキエルを目撃した人物が居ないのを良いことに、ネルフと日本政府、そしてゼーレの全力の根回しによって「突如発生した巨大竜巻による天災」と報道されているのである。

 

 だが、その裏でサキエルによる生き残り戦術は、今日この日、その第二段階へと確実に移行したのだった。

 


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