ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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第9話、前回の続きです。

どのような展開にするかは悩みました。

UA1000突破しました!ありがとうございます!
これからも頑張ります!


9話『背教者と友人』

35層迷いの森。そこにある捻れた巨木に〈背教者ニコラス〉は現れるはずだ──とキリトはそういった。キリトからこうして情報を得たのは、先日キリトに言った言葉だった。

 

『なあ、キリト。1つ、お前の頼みを何でも聞いてやる。他を足止めしろというならする。一緒に戦ってアイテムを寄越せというならそうする。どうだ?』

 

その言葉にキリトが頷き、24日夜。俺は35層にいた。とは言っても、転移門や街にはいない。既にフィールドに出ていた。俺は追跡されることを逃れるために、34層から迷宮区を通って35層に来ていた。

 

「あとは…あいつの頼み次第か」

 

キリトに頼み事を1つ聞くと言ったが、当のキリトは頼み事を言っていない。どんなことを言われるんだろうかと若干ヒヤヒヤしている。

23:30を過ぎた辺りで迷いの森に入り、目的地の1つ手前で止まる。少しすると、キリトが姿を現した。

 

「…よお」

「…」

 

キリトは何も答えなかった。協力体制を敷いているとはいえ、俺もボスへの単独参加はどちらかと言えば反対派だ。ここでキリトという人物を失いたくはない。

そんな考えをしていると、後ろから十人程のパーティーが姿を現した。〈風林火山〉。恐らくキリトを尾けてきたのか。先頭のクラインはつかつかとこちらに歩み寄って来る。キリトは俺に小さな声で言った。

 

「…アキヤ。例の事だ。『戻ってくるまで誰もここを通さないでくれ』」

「…了解」

 

途端、キリトは走ってワープゾーンに入り、俺はその前に立つ。

 

「…何のつもりだ、アキヤ」

 

クラインの静かな声に、俺は口に軽い笑みを溢して答えた。俺もこいつと対峙するのは御免だが…

 

「あいにく、あいつには借りがあるんでね。ここを通るんなら…俺を倒すんだな」

 

まるでラスボスさながらに立ち塞がる俺に、〈風林火山〉の面々が顔を見合わせる中。更に後ろにここにいる数の3倍はいるであろうパーティーが現れる。中には見覚えのある顔もいるが。クラインはその数に驚いてか声を出した。

 

「あいつらは…!?」

「DDA…〈聖竜連合〉、だろ」

 

攻略組の中でも最大規模を誇るギルドで、一時オレンジになることも厭わないというギルド。〈血盟騎士団〉とは何かと衝突しがちなギルドだ。個々の力は俺より下だろうが、この数を相手にするとなると中々骨が折れる。

 

「…まあ、約束だし、やってやるか」

 

スラリ、と背中から片手剣を抜くと、隣でクラインも刀を抜いた。

 

「オレも、オメーとは敵対したくねえ。ワープゾーンの守りくらいはやるぜ」

「…ワープしたら追っかけてぶっ殺すぞ」

 

そう告げると、クライン含め〈風林火山〉は少し怖がるように頷いた。人がいい奴らだ。頷いたからには俺が言ったようなリスクを取ってまで行こうとはしないだろう。〈風林火山〉が横に並ぶと、俺は〈聖竜連合〉に向けて声を出した。

 

「寒い中ご苦労様。悪いけど、ここは通せないんだ。どうしてもっていうならデュエルでも何でも応じてやるから…俺を、倒してってくれるか」

 

──キリト、死ぬなよ。お前は『戻ってくる』って言ったんだからな。だから。お前が戻ってくるまで。それを信じて。

 

「守りきってやるよ…このくらい。」

 

 

 

「…次」

 

デュエルの申し込みは何人目だったか。恐らく20人は超えただろう。〈半減決着モード〉で半数以上を相手にして、〈聖竜連合〉に動きが見えた。

 

「…撤退しよう。撤退!」

 

誰かがそう叫んで、〈聖竜連合〉はぞろぞろと撤退していき、残ったのは俺と、〈風林火山〉の面々。剣を背中にしまったその時、ワープゾーンが光り、キリトが姿を現した。

 

「…キリト」

 

クラインが声を出したが、すぐにその声もすぼんだ。キリトはクラインにアイテムを投げた。

 

「それが蘇生アイテムだ。過去に死んだやつには使えなかった。次にお前の目の前で死んだやつに使ってやってくれ。」

 

そう言って、キリトは立ち去ろうとした。そのコートをクラインが掴んだ。クラインは…泣いていた。

 

「キリト…キリトよぉ…お前ェは生きろよ…もしお前ェ以外の全員が死んでも、お前ェは最後まで生きろよぉ…」

 

クラインが涙ながらに語るが、当のキリトはコートを引き抜き、じゃあな、と言って歩き出す。俺の横を通りすぎても、キリトは何も言わなかった。

キリトがワープゾーンを通り抜けると、俺は緊張の糸が切れるのを感じ、座ろうとした。が。

 

「あれ…」

 

視界が回った。ふと見ると、最後に見えたのは木の梢だった。

 

「…アキヤ!」

 

クラインの声が聞こえたが、返す余裕もなく、俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 

「っ…まぶし…」

 

光りに目を覚ます。最後の記憶が迷いの森だから、ここはまだ迷いの森か…と思っていたが、上に天井があることでその可能性は消えた。その事に、思わず飛び起きた。辺りは恐らく昼頃かと思われる光で照らされていた

 

「どこだ…ここ…」

 

見渡すと、簡素な部屋だった。寝ているのがベッドであるから恐らくは〈圏内〉ではあるだろうが、記憶の中にこんな場所は存在しない。ベッドから降りようとしたとき、近くのドアが開いた。反射的に背中の剣に手を伸ばす。幸い剣はあった。

 

「おう、起きたか。…何も攻撃しやしねえよ。ここは〈圏内〉だしな。」

「…どこだ、ここ」

 

入ってきたのはクラインだった。少し掠れた声で訊ねると、クラインはガリガリと頭を掻きながら答えた。

 

「ここは35層の宿屋だ。悪いけど〈担架〉アイテムで運ばせてもらったぜ。急に倒れるからそれ以外方法が思い付かなかった。」

 

そう言いながら近くの椅子に腰かけたクラインは、じろりと俺を見据えた。その瞳は以前見たキリトと少しだけ似ていて、鋭かった。

 

「…何であんなことやりやがった。下手したらキリトが死んでたんだぞ。それを分かってんだろうな。」

「…ああ、分かってる。今回は、一層の借りを返しただけだ。次似たようなことがあればぶっ飛ばしても止めるさ」

 

そう言うと、クラインは微妙な分からない、という表情を浮かべた。俺は続けて話し出す。

 

「…そんな顔するなよ。どっちにしろ俺じゃキリトは止められなかったさ。あいつは何を言ってもソロでいく道しか選ばない。俺が力ずくで止めても納得はしない。なら、あいつの生存率が高まるように、障害を取り除くことにしたんだ。だから足止めは買って出た」

「…お前ェも考えてなかった訳じゃねえのか…じゃあもう一個の件だ。お前ェ…今レベルいくつだ?」

 

俺はギクリとした。つい先日70だと答えたばかりなので、そのまま70と言えば良いものを、詰まってしまった。

 

「7…1だ。」

 

今更嘘をついてもどうせ看破されるだろう。そう思った俺は正直に答えた。すると、クラインは、盛大に溜めた息を吐き出した。

 

「はあ…だろうと思ったぜ。お前ェもキリト程とは言わねえけど馬鹿げたレベリングやってんだろうな、ってよ。」

 

それを言われると痛いが、馬鹿げたレベリングは元からだ。一年間もの間、攻略組の中でもトップクラスを走り続けて来た意地のようなもので続けてきたのだ。

 

「…分かってるよ、無茶してるってことは。これからはそれなりのペースでやるつもりだ。」

「分かってんならいいけどよ…お前ェもキリトも、俺にとっちゃかけがえのねえダチなんだ。もし次があったらそんときゃオレンジになってでもぶっ飛ばすからな!」

 

拳を握っていうクラインに、俺は軽く笑った。この男は何ともいい男だ。その時があったなら、言葉通り俺は恐らく五メートルは吹き飛ばされるだろう。

 

「んじゃ、吹っ飛ばされないようにしなきゃな。…世話になった。今度は一緒に攻略しようぜ」

 

そう言って、俺は宿屋のドアを開いた。後ろに残るクラインに笑みを浮かべると、一言だけ声を出した。

 

「…ありがとよ」

 

それだけ言って、俺は再び最前線へと戻る。いつか、再びあの黒づくめと共に闘う日が来ることを信じ、それまで最前線を戦い抜くと心に決めて。




次回は2つ結びのあの子の登場予定です。

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