ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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第6話、オリジナルの話です。

今回の話は暗めとなっております。
そして、軽くヒロインとの関係性が分かる一話となっております。

疑問点や不可解な点など出るかと思いますが、感想欄で答えたり、今後の更新でしっかりと解明していきたいと思います。

それでは、良かったらお読みください。


6話『罪と記憶』

あれから数ヵ月。アインクラッドの攻略はつつがなく進んでいた。特に問題視する点も無く進んでいる点に反して、俺は1つ疑念を抱いていた。

 

「…流石に厳しいか」

 

背中から抜いた直剣を見て、俺はそう呟いた。何層か前の層で手に入れた直剣で、性能も悪くはない。しかし、最前線で闘うにしては、若干ステータスが物足りない。

 

「何か良い武器手に入れるクエでもあったかな…剣…そういや、この下の層だかに良い鉱石が取れる所があるとかって話があったな…」

 

鉱石も採って鍛冶屋に依頼すれば、剣を打ってくれる。良い鉱石ならそれなりの剣ができるだろう。俺はその鉱石を手に入れるため、攻略を中断し、転移門がある主街区に足を向けた。

この時の俺は、この後起こることを予想することが出来たらどんなに良かったか、と無いものをねだる羽目になる。

 

 

 

「えーと…こっちか。」

 

既に踏破済みの層であり、人は少ない。いてもレベリングを行うブレイヤーくらいで、俺のように鉱石を求めて動いてる人は殆どいないだろう。踏破済みとは言えど、敵のレベルも決して低い方ではない。

目的地を目指して森に入って数分。深い森を抜ければ目的地…というところで、前方からフードを被ったプレイヤーが走ってきた。道を譲ると、プレイヤーが凄まじい速度で走り抜ける。

 

「何だ…急ぐようなことあったか?」

 

時間制限のあるクエストでもやっていたのか、と仮定を浮かべたその時、もう一人プレイヤーが前方から走ってきた。今度のプレイヤーは俺を見ると、速度を緩めた。そこで、俺はプレイヤーをみて、気付いた。そのプレイヤーが…犯罪者であることに。

 

「…オレンジ、プレイヤー」

 

アインクラッドでは、視界に入った物の情報をカーソルで表示する。プレイヤーは緑、NPCは黄色、モンスターはピンクから黒にレベルの差によって変わる赤。その中で、犯罪を犯したプレイヤーはカーソルがオレンジとなり、システム上主街区を含む一部の街に入れないなど様々な制限が課される。

 

「獲物、はっけーん。」

 

カラカラと笑う声は不気味で、俺は思わず半歩引いた。ボサボサとした髪に、ニヤリと笑う口元、大きく開かれた目は、仮装のものと言えど若干恐怖だ。

オレンジプレイヤーなら逃げるべし、と退却のタイミングを計っていると、オレンジプレイヤーは…突如として俺に飛びかかってきた。

 

「んなっ…」

 

地面を蹴って避けると、先程まで俺がいた場所には、短剣が突き立てられていた。見ただけだが、そこまで弱くも強くもない武器だろう。

 

「あり、避けるか。いいね、逃げろよ。どうせ殺すんだからな、そっちの方が面白い。」

 

そういうと、再びオレンジプレイヤーは動き出す。短剣を使うシーフ型…なのだろうが。

 

(…速い!)

 

恐らくAGI極振り型の短剣を何とか避けると、カラカラと笑いながらオレンジプレイヤーは話し出した。

 

「さっきのプレイヤーも殺そうとしたんだけどよー、メイスのスキルで〈行動不能〉貰っちゃってよ。逃げられちまった。まあいいか、獲物は変わったけど、殺ることには変わりねーし?」

「…あんた、殺人者〈レッド〉か」

 

オレンジプレイヤーの中でも、殺人を好んで行う者をレッドプレイヤーと呼ぶ。そう訊ねると、俺に短剣の切っ先を向けてきた。そして、答えの代わりに言ったのは。

 

「…この短剣いいだろ?麻痺効果つきだから、STRがあんまない俺でも相手の動きを止めて殺せるんだよ。死にたくなかったら、しっかりと避けろよ?まあ殺すから無意味だけどな。」

 

そう言うと、再度飛び上がるプレイヤー。俺は背中の剣に手を伸ばして、その短剣とプレイヤーごと弾き返した。

 

「…まだ、殺されるわけにはいかねえんだよ。」

 

そう言って、俺は今までと逆方向に走り出した。街まで走り抜ければ、オレンジプレイヤーは入ってこれない。そこまで戻れば…

 

「…逃がさねえよおお!」

 

声に振り向くと、先程のプレイヤーが後ろに迫っている。何と言う速度なのだろうか。AGI極振りと思える速度で、防具も最小限。あの装備では俺の攻撃次第では、HPを大きく削る可能性もある。迂闊に手は出せない。

しばらくは似たような攻防が続いた。相手の短剣を俺が弾き、俺が逃げて相手が追い付く。俺はHPこそほぼ減っていないものの、相手は徐々にHPを減らす。イエロー手前まで削れた時に、俺は声を出した。

 

「…お前!そのままだとHP削れて死ぬぞ!」

「俺が死ぬだぁ?…死ぬのはテメーだろうがあ!」

 

俺が逃げて弾いてを繰り返しているせいか、相手は苛立ちで最早狂気に陥ったようにしか見えない。こちらも森の中なので思うように走れず苛立ってはいるのだが。

再び似たような攻防を繰り返すと、十数回目に奴の攻撃を迎え撃とうとしたとき、木の根に足を取られ、体勢を崩した。

 

「しまっ…」

「…もらったあああ!」

 

目の前に狂気の短剣が迫る。それを食らった時にもし麻痺にかかれば、そこからはこいつが俺を滅多刺しにして殺すだろう。

──嫌だ、死にたくない。

無我夢中で、片手剣を振るう。短剣を弾ければ、まだ逃げる可能性は残る。しかし、俺は体勢を崩し、相手はしっかりと俺を見定めて短剣を突き出す。それまでとの様々な違いに、俺の剣は僅かに逸れた。短剣の僅か下を通った剣は…相手の体に突き刺さった。

 

「あ…」

「ああ…?」

 

互いに固まった。俺の剣はしっかりと相手の胸に突き刺さっており、相手の短剣は俺の目の前で制止した。相手の顔はゆっくりと自分の胸に突き刺さった俺の剣を見ていた。俺はその顔を見ると、横のバー…HPバーが無いことに気付いた。

直後、男はその体を甲高い破砕音と共に爆散させた。

 

「あ…あ…」

 

しばらくの間、俺は何も出来なかった。呆けたように突きだしていた片手剣こそ自らの脇に下ろしたものの、その場に座り込んで、何もできなかった。

──俺が、殺した…

先程まで目の前にいたプレイヤーの命を、俺が、この手で奪った。その事実に、俺は吐きそうになった。仮装世界であろうと、全て吐き出してしまいたかった。カーソルがオレンジにはならなかったが、何故ならないんだと憤慨しかけた。

事実、命を絶つことも考えた。片手剣を鞘に戻して、一路迷宮区へ行って、ボスに一人で挑んでそのまま死ぬ道もあった。〈ビーター〉と蔑まれた俺なら、死んでもこの世界に悲しむ人もいないだろうと。

そうしよう、と片手剣をしまって、迷宮区へ向かおうとゆらりと立ち上がる。そのまま最前線の街まで戻ると、見慣れたフードが目に入った。

 

「よオ、アッキー…何だ、元気がないナ。どうかしたのカ?」

 

普段だったら何と返したろう。何でもない、とでも返しただろうか。しかし、今の俺には何もかも煩わしかった。早くこいつと離れたかった。

 

「…あいにく売るものも買うものもねえ。じゃあな」

 

その声にアルゴは何も言わなかった。そのまま右横を通りすぎようとすると、左の腕を掴まれた。

 

「…離せ」

「オネーサンとっておきの情報を聞くなら離してやるヨ。話し終わったら離してやるかラ」

 

つまり聞くまで離さないということか。まあ、最期になるかもしれない話くらい聞いといてやろうと足を止めると、アルゴはこちらを向かずに話し始めた。

 

「…人の死ってのは嫌なもんだよナ。この前も、情報をよく買ってくれたやつが死んじまったんダ。もう買いに来ないかと思うと、なかなかクる物があル。」

 

何故その話題をチョイスしたのかは尋ねなかった。いや、情報を聞いてるだけだから俺はそのまま聞くことを望んだ。このあと死ぬことに関しては特に変わりようもないだろうと。

 

「アッキーに何があったかは知らないし、聞かないヨ。ただ、気にはかけるシ、心配もするサ。オネーサンが今こうしていれるのは、アッキーのお陰なんだからナ。第一層ボス部屋の話は聞いタ。」

 

つまり、俺が〈ビーター〉の汚名を請け負ったことを知っているのだろう。あれは俺が勝手にしたこと、だが、ベータテスターへの悪意は実質的に俺に向いたはずだ。

 

「…ただ、これだけは言っておくヨ。アッキーがこれから先死んだら悲しむ奴等がいるってことをナ。オレっちだけじゃない。キー坊だって、アーちゃんだって悲しム。現実にもいるだロ。今のアッキーが攻略に行っても死ぬ未来しか見えなイ。」

 

そこまで言って、漸くアルゴは俺を見た。まっすぐ、その目で見据えた。

 

「死ぬなヨ、アッキー。どんなことでも乗り越えるのが人間ってもんなんダ。辛いことや悲しいことがあってもまず立ち向かってからだロ。それでダメなら回りに手を伸ばセ。オネーサンでもキー坊でも、必ず力になるかラ」

 

そう言うと、アルゴはようやく手を離した。そして、俺を見て、照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「…情報屋らしくなかったナ。オレっちは通常営業に戻るヨ。今回はサービスしとくヨ。アッキーも攻略、頑張れヨ!」

 

そう言うと、アルゴは手を振りながらスタスタと歩いていった。俺はしばらくその場に立っていた。

 

「…簡単じゃねえこと言うな。死んで悲しむ人、か。」

 

アルゴが何もかもお見通しかのようにしか言ってった言葉。死ぬな、立ち向かえと。俺に当てはまることを言ったのは偶然か故意か。

俺が死んで悲しむ人。キリトや、アルゴ、エギル、アスナ。彼らはは悲しんでくれるだろうか。それに加え、現実。両親は悲しんでくれるだろう。しかし、他の人は──

 

『──また、会おうね、アキヤ!絶対だよ!』

『こら、アキヤじゃなくてコウヤでしょ。…またね。晃夜』

『ああ、またな──』

 

その瞬間。まるで電撃にでも打たれたかのように鮮やかに記憶は蘇った。夕暮れ時に最後に挨拶を交わしたのはもう半年以上前だろう。その名前は…

 

「木綿季に…藍子…」

 

そうだ。幼馴染みとして10年程家族ぐるみの仲だったあの二人に、俺は。また、会おうと言った。その約束を、俺は…果たしたい。

 

「あいつらに…会いたい。」

 

現実世界のどこかに、きっといるはずだ。どこかに引っ越したあいつらに、俺は…もう一度。会いたいと強く願った。

 

「…悪い。俺は…まだ死にたくない。」

 

謝罪をしても、死者が還る訳でもないし、俺の罪が消えるものでもない。俺に罪が償えるのかは分からない。それでも。

 

「明日から…もう一回。頑張ってみる」

 

今日は休んで、明日から。進めるかは分からないが、それでも、小さくてもいいから一歩を踏み出そうと、俺は向かう方向を変えて、宿を目指した。




描写が難しい上に、何とも暗い…
そしてアルゴの話し方が分かりにくい…

次回もオリジナルですが、いよいよあの方が登場です。個人的には好きなキャラですが、上手く書けるかは不安です。

それでは、また次回もよろしくお願いします。

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