ソードアート・オンライン -sight another- 作:紫光
今回オリジナル展開が入ります。
一層の物語が漸く終結へと向かいます。
アインクラッド編だけでもかなりの話数になりそうです…
これからも更新頑張りたいと思います。
お気に入り登録してくださった方、感想を下さった方、ありがとうございます!
一層ボス部屋には、しばらく歓声が響いていた。1ヶ月もの期間をかけて攻略されたのだから、その感動は大きいだろう。キリトにアスナ、エギルらが周りに集まってきていた。
「アキヤ、お疲れ」
「お疲れさま、アキヤくん」
キリトとアスナの声に、軽く手を挙げて答えると二人の後ろからエギルが声をかけてきた。
「…見事な指揮だったな、アキヤ。それに、F隊のあんたらも見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんたらのものだ」
その言葉に、俺は3人に何て言うか考えた。辺りの騒ぎもあるし、後で言おうかな、とも思った。しかし、突如として叫ばれた声に、辺りは一気に静寂と化した。
「──何でだよ!何で、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!」
そう泣くように叫んだシミター使いを俺はしばらく見ていた。確かC隊だったか。ディアベルの仲間だったはず。
「見殺し…?」
キリトの呟きに、シミター使いは血を吐くように叫んだ。
「そうだろ!!だって…だってアンタらは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!!アンタが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」
その言葉に、辺りはざわめいた。そして、ある一人の男が、俺とキリトの間を指差して叫んだ。
「オレ…オレ知ってる!!こいつらは、元ベータテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか、全部知ってるんだ!!知ってて隠してるんだ!!」
その言葉を聞いても、騒ぎ立てる輩はいなかった。キリトは初見であるはずのボスの攻撃を弾いているし、俺はそれ以前の指揮を一時した。その段階で、俺たちがベータテスターであるとは察しがつくだろう。
俺たちを見据えたシミター使いが一層憎々しい、という目を俺たちに向け、口を開こうとしたとき、後ろから声が聞こえた。
「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だ、って書いてあったろ?彼らが本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃないか?」
声の主は、エギルと共にタンクを務めていたメイス使いの男だった。その声に、俺たちを指差した男は押し黙ったが、目の前のシミター使いは憎しみに溢れる言葉を発した。
「あの攻略本が、ウソだったんだ。アルゴって情報屋がウソを売りつけたんだ。あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんか教えるわけなかったんだ」
その言葉に、俺は言葉を失った。このままで行けば、アルゴを含むテスター全員がこの憎しみの対象になり、テスター全員が発覚次第糾弾されることになるだろう。それが為されてしまえば、テスターとビギナーの軋轢は深まり、結果ゲームの攻略は進まなくなるだろう。
──そうは、させてはならない。
後ろで何やら声を発そうとしたエギルとアスナ。しかし、その声は発せられることはなく、キリトが前に出た。
「元ベータテスター、だって?…俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」
キリトの声に、辺りは静まり返った。キリトは感情が無いような声で続けた。
「いいか、よく思い出せよ。SAOのCBT…クローズドベータテストはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。千人のうち、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う。ほとんどはレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のあんたらの方がまだしもマシさ。──でも、俺はあんな奴らとは違う」
その声に、俺はキリトが何をしようとしたかようやく察しが付いた。この男は…ベータテスターを2つに分けようとしているのだ。〈単なる素人上がりのテスター〉と、〈情報を独占するテスター〉に。そして、後者は…自分一人だと。
「俺がカタナスキルを知ってたのは、ずっと上の層でカタナを使うMobと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ、アルゴなんか問題にならないくらいな」
キリトの言葉に、何人かが口を開こうとした。しかし、その声は現実にならなかった。
「く…くく…くっくっ…」
全員が静まり返って俺を見ていた。先程の弁舌を振るっていたキリトでさえ。俺が笑っているのを見て。俺はゆっくり顔を上げると、辺りを見渡してから、横のキリトに向き直った。
「悪い悪い。お人好しのベータテスターが悪役ぶってるのを見てたら笑えてきてさ。…やっぱ流石だねえ、キリト。ビギナーに情報を提供してただけのことはある。」
その言葉に、キリトの驚きの目は俺に向けられた。辺りは再び騒然とし始める。
「あいつが…情報を?」
エギルの声に、俺は乾いた笑みを浮かべた。先程のキリトとは逆に、嘲るように続ける。
「ああ。アルゴにこの層の情報を提供してたのはこいつだろ。攻略の速度や他の情報とかも合わせると、他のやつとは考えにくいしな。」
1拍置くと、周りを見渡す。今憎しみの対象は恐らくキリトだろう。
──ごめんな、キリト。一回、今だけお前を利用することを許してくれ。
「…お前はさぞや俺を恨んでるだろうな。何で、ベータの時…いや、始まってからでも、もっと詳しくカタナスキルを教えてくれなかったんだ、そうしたらディアベルを救えたのに、って」
「なっ…!」
キリトの目が見開かれ、辺りの目が一斉に俺に向く。先程までキリトを恨めしい目で見ていたシミター使いも、俺に視線を移した。それを横目で確認してから、俺は再び話し始める。
「さっきこいつが言ってたのも嘘じゃない。実際に上の層にカタナを使う敵はいた。でも、こいつが闘ったのは1、2体だろ。それも、俺がかなり雑なレクチャーしてやってな。…情報を提供出来ないのも当たり前だよな、かなり不確実な内容しか教えてないもんな」
「…じゃあ、あんたは知ってたって言うのかよ」
シミター使いの言葉に、俺は周りを嘲るように声を発した。
「ああ。俺はただ一人、最前線にいた男だからな。情報屋や、こいつなんて生温いね。」
「そんなの…ベータテスターどころじゃねえじゃんか…もうチートだろ、チーターだろそんなの!」
先程俺たちを指差した男の声を筆頭に、辺りからは声が沸き上がる。ベータのチーターだ、という声はやがて混ざり合い、〈ビーター〉という声を作り出した。
「〈ビーター〉ね…悪くはないな。まあ、素人テスターと一緒にされねえだけマシか。…そうだよ、俺が〈ビーター〉だ。」
黒いジャケットを翻して、出口を目指す。何も言う気は無かったが、振り替えると、辺りの憎悪の視線が俺に突き刺さるように向けられていた。
「…2層の転移門はアクティベートしといてやるよ。初見のMobに殺されたくなかったら、大人しく転移門から来るといいぜ。勝手に2層に上がって死んでも俺は知らねえけどな」
それだけ言うと、俺は螺旋階段を登り始めた。様々な嘘を織り混ぜた弁論でも、俺へと悪意は向かっただろう。キリトの方が、オレよりもMMOに関しては詳しいし、俺の弁論を信じたなら、あいつは〈ビギナーの味方のベータテスター〉になる。
こう言う役回りなら、俺一人で充分だ。
「…悪いな、キリト…みんな。」
俺の身勝手に利用したことに届くわけもない謝罪をポツリと溢す。キリト、エギル、アスナ。彼らに今後向き合う機会があるのだろうか。
それでも、前を向く。もうこのデスゲームではパーティーを組む機会は殆ど無いだろう。一人で、進むだけ。あと99層の、この巨城を。
「…〈あれ〉、取りに行くか。身を隠すにも都合はいいだろ。あればいいけどな…」
2層は何が変わっているのかは分からない。幸いフレンド登録もまだ誰もしていないので、メッセージが届くこともない。2層のフィールドに、俺は一歩を踏み出した。
次回は完全オリジナルの予定です。
多少不安もありますが、頑張って書き上げたいと思います。
次回もよろしくお願いします!