ソードアート・オンライン -sight another- 作:紫光
戦闘描写って難しいですね…
それでもだいぶ少ないとは思いますが。
GGO編のゲームが発売されるそうで、やるかどうか悩んでおります。
それでは良かったらお読みください。
ボス戦へと向かう44人は粒揃いのメンバーだろう。中でも、それを束ねるディアベルの指揮能力には舌を巻くほどだ。事実、このボス部屋までは全員がほぼノーダメージで切り抜けてきた。
「_行くぞ!」
ディアベルの言葉と共に、扉が押し開かれる。中は暗闇で何も見えない…と思った直後、ボス部屋の左右の松明が灯る。段々と松明が灯る数が増え、奥の異形を明らかにする。〈イルファング・ザ・コボルドロード〉。第一層のボスだ。
直後、ディアベルが掲げた直剣を前に倒した。それを合図としたかのように、44人のプレイヤーが声を上げて部屋へとなだれ込む。先頭を大きめの盾を持ったハンマー使いが率いるA隊。同じくタンク隊の俺たちB隊はその左後ろにつく。直後、ボスが戦斧を高く掲げ、A隊の盾にぶつかった。
2022年12月4日。SAO正式サービス開始から4週間経った日に、第一層ボス戦は火花と共に始まりを告げた。
「B隊はA隊とスイッチ!D隊はC隊と連携して攻撃!」
ディアベルの指揮の元、ボス戦は順調に進んでいた。ダメージを負うものこそいるものの、適切なPOTローテでそこまで問題視するダメージを受けるものはいない。このままだったら押しきれるだろうと思った反面、俺は1つの疑念を抱えていた。
(ここまでβと同じ…デスゲームを仕掛ける奴がβと全く同じボスを用意するのか?)
俺だったら答えはNOだ。俺がデスゲームを仕掛けるなら絶対に何かを変える。もちろん変わら無いのが何よりなのだが。
そんな疑念を一時押し殺し、目の前のボスに視線を向けると、HPは残り少なくなっていた。盾と斧を放り投げ、腰に手を回していた。情報通りならここから湾刀〈タルワール〉が…
「湾刀…じゃない!」
コボルドロードが引き抜いたのは、湾刀ではなく、更に細く、鋭利な刃物…野太刀。分類上は〈カタナ〉に分類される武器だ。俺はコンマ数秒ほど目の前のその武器に体を強張らせた。
「…よし、俺が出る!」
「─────!!」
ディアベルが走り、誰かが何かを叫んだような気がしたが、ポスのソードスキルの発生音がそれを遮った。俺はボスが振り上げた野太刀を睨み付け、声を張り上げた。
「…全員、後退!距離を取れ!!」
事前に打ち合わせをしていたB隊は俺の言葉に反応し、驚きながらも素早く距離を取った。しかし、他の隊は別だ。ボスは垂直に高く飛び、C隊へとその刃を振るおうとする。カタナ全範囲ソードスキル〈旋車〉。まともに食らったC隊はHPを半分ほど減らし、倒れこむ。ボスはそのまま、先頭を走っていたディアベルへ猛進する。〈浮舟〉、〈緋扇〉と叩き込まれたディアベルは吹き飛んでいった。
「くそ…!」
思わず舌打ちをする。C隊…中でもディアベルは少し突出していた。しかし、それでも。ディアベルの指揮でここまで来たのは確かだ。ディアベルの元にキリトが駆け寄る。少なくともディアベルが復帰するまでは戦線を維持しなければ──
その時、甲高い破砕音が響いた。モンスターが爆散する音ではない。それは…プレイヤーがHPを全損した時の音だ。振り返ると、騎士ディアベルの姿は何処にも見受けられなかった。
最悪の事態が、訪れてしまった。リーダーの死。それも、ここまで戦闘を導いてきた、騎士ディアベルという絶大なリーダーの死は、ボス部屋の皆をパニックに陥れるには十分だった。しかし、ここで更に人員を死なせてしまっては、ここまで皆を引っ張ってきたディアベルに合わせる顔がない上に、どうしても撤退せざるをえない。俺は決死の思いで声を出した。
「…ダメージを受けた奴は下がれ!それ以外も出口方向に数歩退避!取り囲まなければ今の攻撃は来ない!」
後で考えればこの発言は俺があのスキルを知っていると暴露したと言っても同様だが、そんなことは気にしている余裕すら無かった。これ以上死者を出してられない。その思いで必死に声を張り上げる。
「A、D隊はC隊の救援を急げ!E隊は湧出するセンチネルを確実に仕留めろ!…急げ!」
撤退するにしても、続行するにしても、最低限のことはしておかねばならない。指示を受けたメンバーがのろのろと動き出すと同時に、キリトがこちらに向かってきた。
「…ディアベルの最期の言葉は〈血戦〉だ。あいつを倒す。」
「…分かった。」
俺も走り出す。隣にアスナも並び、3人がボスへと向かう。キリトが、俺たちに向かって声を出した。
「アキヤ、俺たちで弾くぞ!アスナ、手順はセンチネルと同じだ!俺が弾いたらアキヤも攻撃頼んだ!」
「「了解!」」
返事をすると、ボスを見る。太刀を左腰に引いた。あの構えは…。カタナソードスキル〈辻風〉。それと同時に、キリトも上体をぐっと下げる。片手剣ソードスキル〈レイジスパイク〉。ボスのカタナと、キリトの剣が激しい音を立ててぶつかる。その瞬間、俺は足を踏み込んだ。
「スイッチ!」
キリトの声と同時に、俺とアスナが踏み込む。片手剣ソードスキル〈ホリゾンタル〉と、細剣ソードスキル〈リニアー〉がボスのHPを抉る。
「…よし!次だ!」
確かな感覚と共に声を出す。しかし、この戦法の危うさは俺も、恐らくキリトも把握していた。元々俺もキリトもダメージディーラー、攻撃特化職であり、防御面に関して言えば高いとは全く言えない。つまり、俺かキリトが攻撃を弾き損ねた時、戦線は再び崩壊しかねる。
そして、その時は訪れた。ボスのカタナソードスキル〈幻月〉。上下ランダムに振るわれるソードスキルに、キリトは上と読んだのか、〈バーチカル〉のソードスキルを発動した。
「…違う!下だ!」
「…!」
俺の声にキリトはソードスキルをキャンセルしたが、下から振るわれたカタナはキリトを捉えた。キリトのHPがぐいっと減る。俺はキリトに駆け寄った。
「キリト!」
「ダメだアキヤ!アスナを…」
その言葉に、辺りを見ると、アスナは勇敢にもボスへと向かっていた。それに対して、ボスは獰猛な笑みを浮かばせ、そのカタナを赤く染めた。ディアベルを殺めたカタナソードスキル…〈緋扇〉。この位置からアスナまでは多少ある。俺が最も射程が長いソードスキル〈レイジスパイク〉を発動させても…間に合わない。そう思った瞬間、大柄な男がアスナの目の前で斧を振り上げた。
「おお…おおお!」
両手斧ソードスキル〈ワールウィンド〉がボスのカタナと衝突し、ボスは盛大にノックバックした。
斧の持ち主…エギルはニッと太い笑みを浮かべた。
「ダメージディーラーにいつまでもタンクやらせてられねえからな。F隊のあんたが回復するまでは俺たちが引き受ける。…B隊!タンク用意!」
バリトンの声が張り上げられると、B隊は各々の武器や防具を持ってボスの周辺に陣取った。俺はポーションを飲んだキリトに伝えた。
「ボスの攻撃の軌道をここから伝えられるか。俺は援護に行く。」
「…分かった。アスナのことも気にかけてやってくれ。そっちの指示は頼んだ」
それを聞くと、俺は走りながら、B隊に指示を出す。
「ガード優先!指示を聞いて、無理に弾こうとするな!アスナは隙があれば攻撃!盾持ちは攻撃してる奴等にタゲを移さないように!」
「了解!」
B隊とアスナの声が聞こえると、俺はアスナの方に走る。ボスを取り囲まないようにするのもあるが、キリトに言われたこともある。時折放たれる〈リニアー〉からは、ホントにMMO初心者かと疑うほど。この女性のセンスを、キリトは開かせたいのだろうか。
しばらく危うい戦線が続いた。俺とアスナが徐々にHPを削り、エギル含むB隊がキリトの指示を元にボスの攻撃を受け流す。しかし、その戦線も終わりを告げた。B隊の一人がボスの後ろに回って足をもつれさせた。
「…!」
「…早く動け!」
キリトの声が響いたが、ボスは高く飛んだ。先程C隊のHPをゴッソリと削ったカタナ範囲ソードスキル〈旋車〉。ボスのカタナが上空で光を放とうとした。その瞬間、俺は跳んだ。
「「と…どけえー!!」」
俺と、同じく跳んだキリトの剣に光が灯る。片手剣ソードスキル〈ソニックリープ〉。黄緑色の光がボスの両脇腹を抉り、ボスが体勢を崩して落ちていく。両手足をバタバタとさせた〈転倒〉状態になった。
「全員──フルアタック!囲んでいい!」
「う…おおおーー!!」
キリトの声に、エギルたちB隊が武器をボスに降り下ろす。元々両手斧など火力の高い武器だ。ボスのHPは瞬く間に削りきれ…無かった。わずか数ドットを残して、ボスは再び立ち上がり、跳んだ。その瞬間。俺は走った。後ろに付いてくる二人の足跡を聞くと、その二人…キリトとアスナに言った。
「俺が弾く!最後決めろよ、二人とも!」
そういうと、空中のボスの挙動に目を向ける。あの構えは…三度目ともなるソードスキル、〈旋車〉。一度はディアベルたちのHPを大きく削り、一度は俺とキリトの攻撃によって阻まれた。威力は分かっての通りで、普通なら回避する道を選ぶが、あいにく回りにはエギルたちB隊とF隊のキリトとアスナがいる。それならばと、俺は弾く道を選ぶ。
─見ろ。ギリギリまで。
ここで、俺の目はボスのカタナを見据えた。振るわれるのは全範囲とはいえ、それを発生させるカタナは1本。そこに当てさえすればと、片手剣ソードスキル〈ソニックリープ〉をもう一度発動させる。
「…ここだ!」
剣を振るうと、ボスのカタナと衝突し、互いにノックバックする。後ろから二人が走り込む。
「…はああぁっ!」
気合いのこもった声と共に、アスナの〈リニアー〉はボスに深々と突き刺さる。そこへキリトがソードスキルを発動。
「お…おおあああー!」
高々と上から放った上段斬りはボスの肩から胸へと降り下ろされた。しかし、まだボスは死なない。その瞬間。ボスとキリトが共に笑みを浮かべた。キリトの剣は斬り下ろしから、斬り上げへと変わる。片手剣二連撃ソードスキル〈バーチカル・アーク〉──
ボスが吠える。そして、ゆっくりと倒れ…不自然な角度で停止すると、その体は大量のポリゴン片となった。
「…勝っ…た」
直後、E隊などが相手していた辺りのセンチネルもポリゴン片へと変わり、暫しの静寂が訪れた。誰も、口を開きはしなかった。キリトが振り上げていたままだった剣をアスナが声をかけて下ろす。その瞬間。目の前にシステムウインドウが現れた。獲得経験値やコルなどが浮かび上がると、辺りは一斉に歓声に包まれた。
次回はあの蔑称についてです。
アキヤがどうするのか、という点がポイントになると思っています。
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