ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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毎日更新してますが、時間は気まぐれの紫光です。

今回は一層では最後の主要キャラのあの人が登場します。

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3話『ボス戦前日』

翌日。迷宮区20階が踏破され、再び攻略会議が開かれた。その近くの露店で〈鼠〉の攻略本が発売されており、それを全員で読んだ後、レイドメンバーを組むようディアベルから指示が飛んだ。

 

「約束通り頼むぜ、アキヤ」

「ああ。こっちこそ」

 

昨日言っていた通り、エギルとパーティーを組んだ。そこにまた見るからにタンク向きの重装備のメンバーが加わり、見るからに一人軽装な俺が浮くかと思われた。ディアベルは一度俺を見て少し考えたが。

 

「…タンク隊にも一人はアタッカーがいるといざというとき助かるかもしれないし、タンクもこれ以上はいないからこのままで良いだろう。もしかしたらCと合同でアタッカーやってもらうかもしれないけどね。その時はアキヤくん、よろしく頼むよ。」

 

そう言って、俺はエギルをリーダーとするB隊になった。元々エギルの知り合いらしく多少の説明は通っていたようで、B隊の面々には俺がβテスターだと言うことは伝わっていた。エギルがやや厳めしい面で俺に小さな声で訊ねた。

 

「…なあアキヤ。ホントにβと変わりはねえのか?」

「ああ。情報はβと変わりない。本当にそのままならディアベルが言った通り死者0も可能だ。ただ…」

 

そこで1拍切ると、俺は静かな声でB班に言った。

 

「逆に言えば、βから変化がある可能性もある。それが一番怖い展開だな…」

「でもよ、ディアベルが一回見た限りだとそのままだって話だよな。他に変えるところあんのか?」

 

パーティーメンバーの一人が疑問を口に出した。俺は少し考えてから様々な可能性を列挙する。

 

「ディアベルは正面から拝んだだけって言ってた。俺が考えられるだけでも、背中に武器をもう一個増やしたり、取り巻きの湧出の回数を増やしたり…可能性は捨てきれないな」

「…じゃあ、そんときはアキヤが指示を出してくれ。オレより的確だろ。皆もそれでいいか?それ以外は一応オレが指示するけど、基本はディアベルの指示に従おう」

 

エギルの言葉に全員が頷くと、B隊は明日の決戦に向けて早めに解散となった。

 

 

 

インスタンス・メッセージが届いた。差出人は…アルゴ。内容は、キリトの所に行くが来てくれないか、という内容だった。不思議に思いながら行く旨を伝えると、数分後、俺の前にフードを被った小柄な人影は現れた。

 

「よオ、アッキー。キー坊にちょっと用があるんだけどナ、アッキーにもちょっと知ってはおいて欲しいって思ってサ」

「ああ、まあいいけど…あいつ女連れてたからなかなか話しかけにくいんだよな…」

 

そう言うと、アルゴは驚いたように俺の顔を見た。

 

「…アッキー、アーちゃんと知り合いだったのカ?そうじゃなかったラ、よく女だって分かったナ?」

「…あのなあ、スカート履いてたし、何より立ち居振舞いが完璧に女子だったろ。あいつがオカマに捕まったんなら話は別だが」

「ニャハハ、キー坊の顔ならあり得ない話じゃあ無いナ」

 

そんな話をしながらトールバーナの東に進むと、とある農家に着いた。一目散に二階に上がると、不規則なリズムでアルゴがノックする。ドアが開けられると、キリトが姿を現した。

 

「珍しいな、あんたがわざわざ部屋まで来るなんて…と、アキヤ!?」

「…おう、久しぶり。」

 

目の前の剣士とは〈森の秘薬〉のクエスト以来話していない。おおよそ1か月ぶりに話をするのだが、何やら慌てているのは何だろうか。

 

「アッキーはオレっちが連れてきたのサ。例の件でクライアントが、どうしても今日中に返事を聞いてこいっていうもんだからサ。アッキーにも聞いては貰いたいしネ」

 

アルゴが平然と中に入り、ソファに座る。俺も中に入ると、俺はソファの近くに立った。キリトが俺にミルクを2つ手渡し、片方をアルゴに渡す。すると、アルゴはにやっと笑った。

 

「キー坊にしては気が利くナ。ひょっとして眠り毒入りカ?」

「…ありゃプレイヤーには原理的に無効だろう。だいたい、圏内で眠らせたところで何もできないし」

 

キリトの指摘に軽く頷くと、ミルクを口に運ぶ。軽く甘めのミルクはなかなかの味だ。

 

「俺もβで一回だけここ入ったけど結構旨いんだよな。外で五分経つと耐久値全損してゲキマズにならなきゃ持って歩くんだが…」

「ほー、知らなかっタ。今度攻略本にでも書いておくヨ」

 

俺の言葉に感心を寄せたアルゴの言葉に、キリトはテーブルの上のアルゴの攻略本を叩いた。

 

「そういえばこれ。俺この本500コル出して買ってたんだけど…タダで配布してたのか?」

「そりゃ、キー坊たちフロントランナーが初版を買ってくれた売り上げで無料版を増刷してるんだからナ。初版はアルゴ様の直筆サイン入りダ」

 

その言葉に、俺は500コル払ってない…というよりも、毎度アルゴから手渡しで貰っていたのだが。そう思うと、アルゴは俺の方を向いた。

 

「ああ、アッキーは特別だヨ。情報提供して何も買っていかないから、そこをまけてるのサ」

「なるほど。まあ役に立ってるようで何より」

 

そう答えると、アルゴはキリトの方を向いた。どうやら、これからが本題らしい。

 

「例のキー坊の剣を買いたいって話…今日中なら、三万九千八百コル出すそーダ」

 

俺はその言葉に思わず口をポカンと開けた。俺が使っている〈アニールブレード+6(4S2D)〉でも、三万と少しで今は作れるだろう。キリトも同様の考えを述べてから、アルゴに付け足した。

 

「…アルゴ、クライアントの名前に千五百コル出す。それ以上積み返すか、先方に確認してくれ」

 

アルゴがウインドウを操作してからおよそ一分。戻ってきた返事に、アルゴは肩をすくめた。

 

「教えて構わないそーダ。…キー坊はもう、ソイツの顔と名前を知ってるヨ。昨日の会議でアッキーとバトルして目立ってるからナ。」

「…キバオウ、だったか。キリト、知り合いなのか?」

 

俺の言葉にアルゴは頷き、逆にキリトは首を振った。

 

「確かにあいつは俺と同じ片手直剣を持ってたけど、昨日が初対面のはずだ。しかも、この話は一週間前から来てるんだよ」

 

その言葉に、俺は思わず首を傾げた。ここに来て名前を出した理由。殆ど同じ剣を持っていてなおキリトの剣を欲しがる理由。βテスターでもないのにキリトを知っている理由…。

様々な理由を考えている最中、メッセージの到来を告げる音が鳴った。宛先を見れば、エギルから。明日のことについて連絡してきたらしい。

 

「…ちょっとすまん。メッセージ打つから寝室借りるぞ。」

「ああ…」

 

半ば考え半分のキリトの了承を得て、寝室に入る。二人の前で打っても良かったのだが、心理的に目の前で打つのは少し憚られたので、寝室に入った。主に確認事項だったので、目を通して了解の旨の返信を送る。数秒後。

 

「…きゃあああああ!!」

「うああっ!?」

 

屋敷が震えるような悲鳴に、思わず跳びかけた。女の悲鳴…だが、アルゴではないだろう。考えた先に出てきたのは…

 

「…あの女、だよなあ…」

 

攻略会議で、キリトの横に座っていた、フードを被っていた人物。立ち居振舞いから女だと断定していたが…どうやら合っていたようで。恐らくバスルームにでもいたのか。SAOのドアは防音に関しては問題ないが、叫び声は通るようになっているのがこの結果。

 

「出ちゃ…まずいか?」

 

あれだけの悲鳴があったから何かあったのが確実なのだが、何か分からないだけに無闇に出ていけない。仕方なく俺は外でもないのにドアをノックした。

何度かノックして数分後、ドアは開かれ、ものすごく不機嫌そうな女性プレイヤーが現れた。栗色のロングヘアに、はしばみいろの瞳。背は俺やキリトと同じくらいで、白の服に赤いスカートを履いている。俺を見ると、不機嫌から不思議そうな顔に変わった。

 

「あなた…何でここに?」

 

そういえば昨日の会議で彼女は俺を知っているのだと理解し、俺は今の状況を簡潔に述べた。

 

「俺はキリトと知り合いなんだ。アルゴと一緒にここに来て、メッセージ打ちたかったからここを借りた。とりあえず出たいんだが…出て大丈夫か?」

「…ええ。」

 

寝室から無事の脱出を遂げると、キリトとアルゴの姿は見当たらなかった。アルゴは恐らく出ていったのだろう。今度はキリトがバスルームでも入っているのか…と思ったが、もしアルゴの場合は俺が牢獄送りになる可能性も否めないのでひとまず思考から外す。

 

「あなた…アキヤくん…だったわよね」

「ああ…ていうか、何でここにいるんだ?」

 

俺の前に立つ女性は…何とも美人ではあるものの、刺々しい印象だ。ジロリとした目が鋭い。俺が聞いたが、顔を背けた所を見ると、聞いてはいけない話題だったか。

 

「まあいいや…あんたは確かずっとフード被ってたよな。キリトの横で」

「あんたじゃないわ。アスナよ。…そう。普段はフード付きのケープ被ってるわ。」

 

アスナと名乗る女性がフードを被っているのは、顔を隠すためか。キリトとの出会い等はまあ置いておくとして…俺はとりあえず、明日のボス戦の仲間に挨拶しておくことにした。

 

「そうか。明日はよろしくな。俺は一応B隊になってる。エギルの所で、タンク隊だ。」

「…よろしく。私はF隊。取り巻きの相手をしてるわ。」

 

いかにも不服そうな顔で言うのは、役割に満足していないのか。確かこのフェンサー、なかなか技のキレが凄まじいとか。キリトもいるし、F隊は二人ながら侮れない戦力になりそうだ。

 

「そうか。あんたたちがいるなら俺たちも安心して動けそうだよ」

「…いいわよね、ボスに攻撃できて。私たちは〈センチネル〉の相手だし…」

 

なおも不服そうなアスナに、俺は役割の大事さを伝えることにした。

 

「まあ直接的なダメージは無いけど…明日のボス戦、E、F隊がキーを握ってるんだぜ?アスナたちがいなかったら明日は全滅もあり得るんだから」

「…別に、数が少ない班だから割り当てられただけでしょ。すいっち?だかぽっと…だかも出来ないらしいし」

 

ここまで来て、俺はこの女性がMMO…ゲーム初心者だと分かった。どうにもゲーム用語が少ないのはそのせいか。俺は順に説明することにした。

 

「…いいか?明日のボス戦…ボスにダメージを与えるのはもちろんだけど、問題なのは取り巻き…〈センチネル〉なんだよ。タンク隊や攻撃部隊の後ろを突かれたりしたら大惨事は確定だ。タンクがダメージ食らって倒れたりしたら戦線は崩壊するし、攻撃部隊が襲われたらボスにダメージを与えられない。でも、ボスを倒さないといけないから、そこまで人間を割けない。だから、センチネル担当には、個々の技量が試されるんだ。だから、センチネルを上手く潰してくれれば、明日の勝率はぐっと上がる。」

 

その俺の説明を受けて、アスナは一応納得したのか、一度頷いた。

 

「そこまで言うなら、あなたも大事な役目でしょ。タンク隊が潰れたら戦線が崩壊するんなら」

「もちろん。明日は頑張るさ…じゃあ、俺はこの辺りで。キリトにもよろしく言っといてくれ」

 

結局どこにいたのか分からないキリトに心の中で挨拶をして、部屋を去った。

 

 




自分なりの解釈で書いてる部分がありますので、もし気になる点などありましたらご指摘お願いします。

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