ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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お久しぶりです。前回投稿からおよそ3年経ちました。皆さんどうお過ごしでしたでしょうか。

自分はバックアップしていたストックが消滅したり、そのせいでやる気が皆無になったり、気が向いたときにぼちぼち書いたり、ゲームに逃避したり…

何とか前回の続きを書けたので、投稿させていただきます。
これからも超が付くほどの不定期投稿ですが、書ける限り書いていきたいと思います。

よろしくお願いします


26話【最強の正体】

75層のボス戦を表すならば、まさに死闘だった。一時間の間に甲高い破裂音は何度響いたかわからない。最後にボスが倒れても、誰も歓声を上げず、ただ倒れ伏すだけが殆どだった。俺も地面にしゃがみ、肩で息をしていた。

 

「何人、やられた…?」

 

クラインの声に、しばらく誰も返さなかった。その後少し間が空いてから、キリトが答えた。

 

「──十三人、死んだ」

 

うそだろ、とエギルがこぼす。全員が似たような反応だった。座ったり、倒れたりして、ボス部屋から誰一人動かなかった。──一人を除いては。俺は、その人物に視線を向ける。

ヒースクリフ。あの骸骨の鎌を、最後まで受け止めた人物。そのHPはギリギリグリーンを保っている。あれだけの攻撃を受け止めてなお、膝をつくことなく立ち、周りのKoBメンバーを労っている様子が見えた。

 

(すげえな…)

 

〈神聖剣〉の防御力がどれくらいかは分からないが、最後まで前線に居座り、なおグリーンの防御力。更には、死闘が終わっても尚立っていられ、周りを労う余裕。どこからそんな余裕が生まれるのか。なんで…そう考えて…止まった。

何故、と思えば思うほど、その理由に説明がつかない。これまでの言動、行動…それらが頭の中で疑念を生む。俺達…キリトやアスナたちと違う何か。それを最後に決定付けたもの、それは、先日のキリトとのデュエル。しかし、それなら…

 

(キリトも…気付いてるはず…)

 

視線を動かしてキリトを見る。そして、キリトもこちらを見ていた。そういえば、あのときのデュエルも今くらいのHPだった。なら…!

俺とキリトが地面を蹴ったのはほぼ同時だった。俺もキリトもいたのはヒースクリフの側面。そして、互いに選んだソードスキルは〈レイジスパイク〉。

 

(──なら、俺はここだ!)

 

ヒースクリフの盾が迫る。俺は、敢えてそこに打ち込んだ。元々盾が破れるなんて思ってない。俺の攻撃を防ぐ位置に盾があるなら、キリトの攻撃を塞ぐことは実質不可能だ。

ガイイイィィン!!と大きな音を立てて、俺はノックバックした。そのおかげか、視界の端に見えた。ヒースクリフの前で散る、キリトの剣が光らせる紫色の光。そして、〈Immortal Object〉のシステムメッセージ。

 

「キリトくん、アキヤくん!何を──、…システム的不死…?…って、どういうことですか、団長…?」

 

アスナが下がったキリトの隣に並ぶ。俺が体制を立て直して、話し出す。

 

「この世界で、不死属性を持つのはNPC。それ以外にはいないと思ってたよ。システム管理者でもないとな。そんなやついないと思ってたけど…一人、いたよな」

 

その続きを、自然にキリトが繋ぐ。

 

「この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった…あいつは今、どこからこの世界を調整してるんだろう、ってな。でも俺は単純な心理を忘れてたよ。どんな子供でも知ってることさ」

 

俺とキリトの視線が一瞬交錯する。俺が先に言葉を発した。

 

「〈他人のやってるRPGを傍から眺めるほどつまらないことはない〉、だろ?」

「ああ、そうだろう、茅場晶彦」

 

辺りにしんとした空気が張り詰める。そんな静寂を、目の前の男はいつもと変わらない声で言った。

 

「…何故気付いたのか参考までに教えてもらえるかな…?」

 

ヒースクリフが俺を見る。俺は皮肉を込めて言い放った。

 

「決定的なのはキリトとのデュエル、最後の交錯のときのモーション。あんたの言葉を借りるなら、タンクであの速さをするのであれば、レベルが200あっても足りないね」

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨だった。キリトくんの動きに圧倒されてシステムのオーバーアシストを使ってしまった」

 

少しの間。そして、ヒースクリフは…笑った。苦笑の表情を浮かべながら、堂々と話した。

 

「予定では95層に達するまで明かさないつもりだったのだがな。──確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

茅場の宣言に、キリトは堂々と応える。

 

「趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか」

「なかなかいいシナリオだろう?まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな」

 

そこで浮かべたヒースクリフの笑みに、俺はどこかで見覚えがあった。そうだ、かつて現実世界で…テレビで見た茅場のインタビューの時に浮かべた、薄い笑み。その笑みを浮かべながら、茅場は続けた。

 

「最終的に私の前に立つのはキリトくん、君だと予想していた。全十種存在するユニークスキルのうち、〈二刀流〉スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つものに与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担うはずだった。が…」

 

そこで、茅場の瞳が俺に向いた。真鍮色の瞳に見据えられると、俺はじり、と下がりたい気持ちになったが、それを何とか堪える。

 

「アキヤくんの存在は本当にイレギュラーでしかなかった、キリトくんとのコンビネーションや立ち回りは目を見張るものでしかなった。もしユニークスキルを取っていたらもしかしたら二人が最上層で今のように並んでいたかもしれないな」

 

淡々と話す茅場。その後ろで、一人の男が動いた。確か血盟騎士団の幹部だったか。大きな斧槍を握ると。

 

「貴様が…貴様が…俺達の忠誠──希望を…よくも…よくも────ッ!!」

 

絶叫と共に地を蹴った。全員が、それを見ていた。男と、茅場を。だから、茅場が左手を振った、ということに、俺は理解が一瞬追いつかなかった。

左手に出現したウィンドウを、茅場は操作する。すると、男は音を立てて、地面に崩れた。

 

(〈麻痺〉…!?)

 

男のHPバーの横にあるのは、麻痺状態を示すアイコン。茅場が操作するたび、辺りに麻痺状態のプレイヤーが、増えていく。アスナも倒れ、残ったのは俺とキリトだけになった。

 

「…どうするんだ?この場の全員殺して隠蔽するのか?」

「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ。…こうなっては致し方ない。予定を早めて、私は最上階の《紅玉宮》にて君たちの訪れを待つことにするよ。90層以上の強力なモンスター群に対抗し得る力として育ててきた血盟騎士団、攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちならきっとたどり着けるさ。だが、その前に…」

 

茅場は俺達を見た。剣を構える俺と、倒れたアスナを

支えるキリトを交互に見ると、右手の剣を床に突き立て、左の盾をガシャリと鳴らす。その音だけが、広いボス部屋に響いた。

 

「君たちには私の正体を看破したリワード…報奨を与えなくてはな。チャンスを上げよう。キリトくんは〈勇者〉として私の相手を、アキヤくんには100層のボス相当の…つまり私と同等に近い相手と戦うチャンスを。無論、君たちプレイヤーと同様の条件だ。二人が勝てば…厳密にはキリトくんが勝てば、だが。ゲームはクリアされ、全プレイヤーがログアウトできる。…どうかな?」

 

その言葉に、キリトの奥にいるアスナの声が聞こえた。

 

「だめよ!キリト君、アキヤ君…!あなた達を排除する気だわ…今は…今は引きましょう…!」

 

アスナの言っていることはもっともだ。このチャンスはハイリスクハイリターン。成功すればそれで終わり、だが。失敗…つまり、キリトが負けるとするならば…攻略組は致命的な戦力不足に陥ることは必死だ。

ユニークスキルを持っている二人の内片方はラスボスへと変貌し、もう一人も消えるとなれば…攻略のペースは凄まじく落ちるのは目に見えているし、何より…最上階までたどり着けるかも怪しくなる。

だが、ここで決めるのは俺ではないだろう。俺は一歩引くことで、決定権を譲ることを示した。隣の、黒の剣士に。

 

「ふざけるな…。いいだろう、決着をつけよう」

「…だろうと思ったぜ」

 

再度剣を構える。キリトと並び、茅場に剣を向けると、茅場は左手を動かした。

 

「よろしい。では、アキヤ君には相応しい舞台に移動して…」

 

その手がウィンドウに触れるか触れないか、と言うとき。俺は見た。視界にかかった、赤黒いノイズを。そのノイズが俺の剣に触れると…剣が、ポリゴンへと爆散した。

 

「何だと…?」

 

その時の茅場の顔は驚愕に満ちていた。しかし、振った指は直前で止まることを許さず、ウィンドウをタップした。その瞬間、俺の視界を、青い光が塗り潰した。

 




一部本編外要素を含みます。

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