ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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24話です。そんなに進んでませんが、スルーできない話なので。


少しずつですが進めていきたいと思います。

タイトルがそのままなのは考えてないわけではないです。はい。


24話『朝露の少女』

キリトとアスナが引っ越してからおよそ1週間。そろそろ行ってみようかと思っていたときに、俺は逆にキリトに呼び出された。

 

「『相談したいことがある』って言われてもなあ…何かあったか?」

 

攻略は順調だし、つい先日フィールドボスも何とか二人抜きでも撃破した。迷宮区の攻略を始めようとしていたときにこのメッセージが届いていたことで、朝も早くから俺は22層のログハウスを目指している訳なのだが。

 

「…ここか」

 

フレンド位置から推測して、この家で間違いないだろう。武装を解き、ドアをコンコン、とノックする。少し経つと、ドアが開き、アスナが姿を現した。

 

「よ、アスナ。1週間…かそれくらいぶりか?」

「あ、アキヤくん。急に呼び出しちゃってゴメンね。…あと、家のことは本当にありがとう。」

「気にすんなよ。それで、キリトは?」

 

アスナに通され、中に入る。リビングらしき所に通されると、そこにキリトはいた。声をかけようとしたとき、その隣にいる少女に気が付いた。

白いワンピースに、あどけない顔。黒の長髪。しかし、問題は。どうにもこの少女がキリトにも、アスナにも似ているように見えること。

 

「えーっと…子育てだったら俺に聞かないで欲しいんだけど…?」

「ま、待て待て!誤解だ!話を聞いてくれ!」

 

キリトの話によると、昨日、アスナと森に行った際、この少女が倒れ、保護したことを説明された。その際に気付いた違和感について俺に相談したいらしい。

 

「…?」

「…なるほど、確かに出ないな」

 

俺が少女に視線を向けても、あるものが出ない。それは…カーソル。プレイヤーだろうとNPCだろうと、強いてはモンスターさえ出るカーソルが、この子には出ない。少女は不思議そうに俺を見つめるだけだが。

 

「…おにい、ちゃん、だれ?」

 

たどたどしい言葉で尋ねる少女に、俺はなるべくゆっくりと話すことにした。

 

「俺はアキヤ。キリトの、友達だよ」

「あ…きゃ?きぃとの、とも、だち?」

 

どうにも発音がたどたどしい…というよりは、あまり話せていない。そんな少女を見て、キリトは優しく話しかけた。

 

「そう。俺の友達だよ、ユイ。呼びにくかったら好きに呼べばいいさ。」

「ぱぱの、ともだち…」

 

キリトをパパ、と呼ぶのは恐らくだが似たような会話をしたのだろう。少女…ユイは俺をじっくりと見たあと、しばし考えたのか、少しだけ俯いてから顔を上げて元気に答えた。

 

「…にぃに!」

「にぃに、って…」

 

何とか直すように諭そうと考えたが、ユイはにぃに、と呼んで聞かない。その内に、俺が折れた。

 

「まあ、いいや。よろしく、ユイ。…キリト、ちょっといいか。アスナ、ここ任せる」

「はーい。ユイちゃん、ママの方においでー」

 

その場を一旦アスナに任せ、俺はキリトを連れてリビングから出た。二人とも出ると、キリトは俺に聞いた。

 

「…どう思う、あの子。」

「…最悪一歩手前、もしくは通りすぎたって所だろ。カーソルが出ないのはバグとしても…パッと見の容姿は8~10才くらい…明らかに逆行してる。精神的に何か異常をきたしたんじゃないか」

 

俺がそう言うと、キリトも同様の考えを持っていたようで、何も言わず暗い顔を浮かべ、俯いた。そして、ポツリと溢した。

 

「俺は今…迷ってる。ユイみたいな子を早く解放してあげるには戦線に戻るのが一番だと思う。でも、だからと言ってユイをここに放置してはいけない…」

「…バーカ」

 

俺の言葉に、キリトは頭を上げた。俺は腕を組むと、壁に寄っ掛かり外からリビングをチラリと見て言った。。

 

「確かにお前の言うことも間違えてないさ。でも、あの子にとっては今はお前らしか頼る人がいないんだろ。だったら側にいてやれよ。子供ってのは親に甘えたがるんだから。攻略は俺たちに任せとけ。」

「…ああ、分かった。すまんが、そっちは任せる」

 

ゴツン、と拳を軽くぶつけてからリビングに戻ると、ユイは眠ってしまったらしい。何でも、昨日は寝たきりで、今日の朝覚醒したとか。キリトはユイを見ながら言った。

 

「ひとまずは、はじまりの街に、この子、もしくは親とか兄弟を知ってる人を探しに行こうと思うんだが…」

「ああ。それで問題ないだろ。それは一緒には行けねえかもだけど…」

「問題ないよ。私たちで探すから。」

 

アスナに悪いな、と断ると、しばらく3人で話し出す。途中でアスナは、ユイをキリトに頼み、すたすたと台所に向かう。

 

「お昼の用意しなくちゃ。アキヤくんも食べてく?」

「あ、いや俺は…」

「まあ食ってってくれよ。最前線の話も聞きたいし。」

 

断ろうとした所をキリトに被せられ、俺は言葉を失った。そのまま押し切られ、結局は一緒に食べることになった。

 

「簡単なサンドイッチだけどねー。味は保証するよ。」

「ああ…そういや、料理スキルカンストしたんだっけ?」

「そうだよー。よく覚えてるね」

 

50層のエギルの店であそこまで自慢気に言っていれば覚えているだろう。と、俺はもうひとつ、ついでに思い出した。

 

「ああ、じゃあそれで〈チャラ〉でいいよ」

「〈チャラ〉…?」

 

アスナだけでなく、キリトも考える。しばらく考えているので、俺は当時の本人のセリフを復唱してみる。

 

「…『ゴハン、何でも幾らでも君たちに奢る。それでチャラ。どう。』…だったかな」

「…あ…もしかして…59層の?言ってよー。何で言わないの?」

「いや、俺も今の今まで忘れてたんだが」

 

どうやら思い出したようだが、何故か軽く叱られた。そうは言っても、忘れたものを思い出す方が奇跡的なのだが。

 

「うーん…」

「…お、起きたか。」

 

キリトがベッドの脇まで行くのを見送る。寝起きでもそこまで不機嫌でないところを見ると、寝起きはいいのだろうか。ユイはキリトに抱えられ、椅子に腰を下ろした。

ユイには恐らく甘めのパイか何かだろう。俺にはキリトと似たようなのサンドイッチが二つ、キリトから渡された。

 

「…なあ、見てるぞ」

 

ユイがじーっとキリトの手…というかサンドイッチを見ている。俺の声に気付いたのか、キリトはユイにそれをよくよく見せるように目の前に差し出した。俺は自分の口に運ぶ。

直後、口の中に物凄い違和感を感じた。思わずむせそうになるのを何とか抑え、噛んで飲み込むが、口と喉にヒリヒリとした感覚が残っている。

 

「ユイ、これはな。すごーく辛いぞ?」

「…確かに、ケホッ…めっちゃくちゃ辛い」

 

俺の言葉に、キリトは俺を見て、次いでアスナを見た。アスナはジロッとキリトを見た。

 

「ちょっと辛めにはしたよ?…キリトくんが間違えたんでしょ。それキリトくんのだよ」

「…お前味覚どうかしてるぞ」

「うっ…すまん。もう半分は貰うから」

 

キリトの言葉に口をつけていない1つをキリトから貰い、俺はキリトに1つ渡す。が、ユイの視線はキリトの手元から動かない。

 

「うーっ…ばぱとにぃにとおんなじ、からいのがいい…!」

「そうか。そこまでの覚悟なら俺は止めん。何事も経験だ」

 

キリトはそう言って、ユイに辛いサンドイッチを差し出した。ユイは一口食べると…難しい顔でモグモグと口を動かして、一言。

 

「おいしい」

「すげえな…」

 

感嘆の一言しか出なかった。俺よりも遥かに小さな少女が激辛サンドイッチを難しい顔とはいえ弱音を吐かず食べていることに。

 

「にぃにも、おいしい?」

「ああ…うん、美味しいよ」

 

聞いてきたユイにそう返したものの、内心スゴく否定したかった。キリトが好きな辛さは尋常ではないと言うことを頭に叩き込むと、キリトはユイの頭を撫でていた。

 

「夕食は激辛フルコースにしような」

「もう!調子に乗らないの!そんなもの作らないからね!」

 

アスナが怒り、キリトとユイがふふ、と笑う。この時に、俺は。決して血の繋がりも何もないけれど、本物の〈家族〉を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

「…悪いな、約束がなければ俺も付き合うんだけど…それに、力にもなれてねえし…」

 

ログハウスの前で、キリト、アスナ、ユイと別れることにした。俺が一層に行けない理由。それは、昨日エギルに『勘を取り戻しておきたいから攻略付き合ってくれ』と言われたからだった。散々世話になった奴の約束には応えてやりたい、とキリトに伝えると。

 

「いや、お前のお陰でちょっとは進めそうだよ。こっちこそ攻略任せきりだし…」

「んじゃ、それはお互いさまってことでいいだろ。」

 

そう言うと、俺はキリトの側に立つユイに視線を向けた。丸く大きな目が、俺をじっと見ている。

 

「にぃに、いっちゃう…?」

「ああ…また会おうぜ、ユイ。パパとママの言うことよく聞いてな。」

 

もしかしたら、もう会えないかもしれない。もし一層でユイの親なりが見つかれば、22層にはもう来ないかもしれないのだ。

しかし、短い間でも、俺を慕ってくれたこの子には。最後だろうと、また会おうと言おう。悲しみを抱えて別れることはしない。いつか、また会えると信じて。

 

「…じゃあな、頑張れよ──転移、〈コルニア〉」

 

そう告げて、俺は最前線へと戻る。がんばってね、にぃに。と微かに聞こえたような声は、確かに俺の背中を押した気がした。

 


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