ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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22話『激突、違和感』

「…何でそうなったんだ?」

 

75層主街区〈コリニア〉の転移門前。そこには大きなコロシアムがあるのだが。そこはお祭り騒ぎとなっていた。近場のプレイヤーに聞いた所に寄ると、キリトとヒースクリフのデュエルが行われるらしい。

 

「まあ、話すだけで終わるとは思ってなかったけどな…」

「まあまあ。今回は私からの提案なのだ。キリトくんに非はないさ。こうなっているとは知らなかったがね」

 

声に振り返ると、まるで魔法使いかと思わせる、ローブを纏った格好のヒースクリフがそこに立っていた。

 

「…俺に何か用があるのか?」

「ほう。話が速くて助かる。少しお茶でもどうだい、アキヤくん。少しばかり着くのが早すぎたようでね」

 

この男の魂胆というのは元々分からないが、今日に限ってはこの男の考えは少しだけ分かるような気がした。

 

「…いいだろう」

「それでは、その辺りのNPCの喫茶店でも入ろう。なに、お代は私が負担しよう。提案したのは私なのだし」

 

喫茶店に入ると、中は無人だった。目の前でお祭りなのに喫茶店に入るやつも少ないというところか。

目の前の男は真鍮色の瞳を俺にじっと向けていた。お前から誘ってきたのにお前が話さないのか、と思うのだが。しょうがなく俺から切り出すことにした。

 

「…俺に話、だったか?あらかた予想はつくが、一応聞こうか。何の用だ?」

「ふむ。簡単な話だ。〈血盟騎士団〉へのスカウトと言えば話は速い」

 

大方の予想通りの質問だが、俺は1つ息を吐いて、小さく聞いた。

 

「…理由が無ければスカウトとは言えないぜ、ヒースクリフ。理由をお聞かせ願おうか」

「理由か。第1に、単純に強さだ。攻略組の中でもトップクラスと言っていい片手剣使いの君が我がギルドに入れば、戦力の増強になるのが1つ。第2に、これからの攻略に向かって、君という人材を失うのはとても痛い。そこで、我がギルドでパーティーを組んでもらえば安全というのは多少確保できるだろう。パーティーは君の希望をある程度通すつもりだ。」

 

そう言って、届いたコーヒー…のようなものをヒースクリフは口に運ぶと、再び俺を見据えた。返事はどうなんだ、と言わんばかりに。

 

「なるほど。言ってることはごもっともだが…あいにくギルドに入るつもりはさらさらない。」

「ならばさっきの君の言葉を借りよう。断るなら理由が必要。そうではないかね?」

 

俺の言葉を使って俺に理由を迫るヒースクリフ。どうにもやはり腹の奥が見えないような感覚はあまり好きではない。俺はしょうがなく答えることにした。

 

「…俺がギルドに入るとしたら、確実に起こることがあるくらい分かってんだろ?」

「ふむ、内部分裂ということかな」

「分かってんなら話は速い。俺は〈血盟騎士団〉とも〈聖竜連合〉とも仲は良くない。どっちに入っても、俺を擁護するか、批判するかっていうのは出てくる。そんな中にぶちこもうって方が頭おかしいだろ。ギルドの分裂を誘いたいなら話は別だが、そんなギルマスがいるギルドには入りたくねえな」

 

俺の話を聞くと、ヒースクリフはふむ、と再び唸った。

 

「なるほど。君の言うこともごもっともだが、それらは推測論でしかない。そうなるという証拠はどこにもないがね。」

「だったら逆にそうならない証拠でも提出願いたいね。実際に、俺はこの前KoBの団員に〈ビーター〉って罵られたばっかりだ。」

 

それを聞くと、ヒースクリフは一瞬だけ苦い顔を浮かべた…ような気がした。次いで、目を閉じてフッと笑みをこぼした。

 

「残念だ。しかし、気が変わったらいつでもグランザムに来てくれたまえ。…さて、そろそろ向かうとするか。キリト君を〈血盟騎士団〉に迎え入れないといけない」

「…なるほど。騒ぎはそれか。俺はあんたとデュエルなんてごめんだけどな。」

 

そう言うと、ヒースクリフは再び笑みを浮かべ、俺に言い放った。

 

「君も参加するかね、アキヤくん。負けたら〈血盟騎士団〉に入ってもらうが」

「あんたもしつこいな。それに、そのデュエルには俺のメリットが何もない。受ける意味がないね」

 

そう言うと、ヒースクリフはコロシアムに向け去っていった。俺も喫茶店を後にすると、近場のKoBの隊員に声をかけた。

 

「…なあ、キリトはどこだ?」

「お、アキヤはんやないですか。キリトはんやったら控え室ですわ。言うても関係者以外立ち入り禁止で…」

「…3倍で、どうだ?」

 

そう言うと、関西人らしきKoBの隊員はすらすらと場所を答えた。何とも現金なやつだな、と思いながら教えられた場所に向かうと、キリトはいた。傍らにはアスナもいる。

 

「よ、キリト。」

「アキヤ…?お前どうやってここに?」

「3倍払ったら入れてくれた」

 

その言葉に、キリトとアスナは苦笑いだった。先程の隊員は経理のダイゼンというらしい。

 

「はあ…団長といい経理といいちゃっかりしてやがるな…」

「団長?」

 

アスナの疑問に、先程のヒースクリフとの問答を教えると、アスナは驚いたような顔を浮かべた。

 

「アキヤくんもかあ…もし入ったら私とキリトくんとパーティー組めば最強になりそうだね」

「まあ入らないけどな。それに、お前らと組むのかよ…」

 

理由については自覚がないのか、アスナもキリトも首を傾げたが、それは今は追及する暇もなく、アナウンスが流れた。

 

「いよいよか…見させてもらうぜ。お前らのデュエル」

「ああ。」

 

短く答えたキリトに続いて、控え室を後にすると、俺は闘技場の入り口にもたれかかって中を覗く。

キリトとヒースクリフが向き合う。〈二刀流〉と〈神聖剣〉。ユニークスキル同士の闘い。それが今、始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

一進一退の攻防とも呼ぶべきデュエルは徐々に終わりへと近づいていく。双方のHPは段々と減っていき、五割を少し上回る所まで減っていた。

 

「らあああああ!!」

 

キリトが吼える。両手の剣を、上下左右からヒースクリフに畳み掛ける。何撃目か分からないが、ヒースクリフの盾が振られ、キリトの剣がヒースクリフに迫る。その瞬間だった。

 

「…っ!?」

 

ヒースクリフの盾がキリトの剣を弾いた。しかし。スピードが凄まじかった。奴の左手が一瞬だけブレて見えるほどに。

 

「キリト君!!」

 

アスナが近くから駆け寄っていく。その間も、俺はヒースクリフから目を離さなかった。しかし、真鍮色の瞳は、俺とは目が合うことなく、その姿を向かいの控え室の闇に消えていった。

 

 

 

それから3日。75層の攻略をしていた俺は、久しぶりにエギルの店に立ち寄った。

 

「おう、アキヤ。キリトとアスナならだいぶ前に出てったぜ。キリトも今日からKoBだとよ」

「あいつがねえ…まあ、問題なきゃいいんだが…」

 

フレンド欄を開くと、どうやらキリトもアスナも55層にいるようだ。55層といえばグランザムがある層だが…

 

「…フィールドにいる、のか。二人とも。」

「…それがどうかしたか?」

「いや…何でもない」

 

エギルに買い取り頼む、と言って、何やら気にかかったのは気のせいか、と頭からその思考を断ち切った。

 


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