ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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20話到達。凄まじく書く速度が遅いですが少しずつ進めていこうと思います。


20話『悪魔と振るう剣』

翌日、74層迷宮区へと足を運ぶ。出てくるモンスターはトカゲ男だったり、昨日のような骸骨だったりと、種類は様々だ。戦闘を何度かこなすと、迷宮区に所々点在する安全地帯に足を踏み入れた。

 

「よう、アキヤ。お前ェも久しぶりじゃねーか。」

「クライン?お前ェもって…」

 

入った瞬間に俺に声をかけたのは、攻略組の中では少数精鋭として名高いギルド、〈風林火山〉のリーダー、クライン。この男ともまあ長い付き合いになってきた。

お前も、と言ったクラインの後ろを覗くと、そこには〈風林火山〉の頼もしい連中が集まっている。そして、その後ろに見えた、黒づくめと、白と赤の騎士装。

 

「ああ、なるほど…あいつらもいるわけか」

「まあな。オレたちも今会ったばっかなんだけどよ」

 

そう言うクラインや、〈風林火山〉の連中と挨拶を交わしながら奥に進むと、二人も俺に気付いたようで、片手を上げてひらひらと振った。

 

「お、アキヤ。昨日ぶり。」

「アキヤくん。昨日はありがとうね。」

 

キリトとアスナ。昨日も会ったが、今日も一緒だということは、どちらかが誘った…恐らくはアスナか。

 

「よ、キリトに〈アスナ〉。相変わらず仲が良いことで。」

「…そ、そう?あ、でもしばらくパーティー組むことにしたのよ。しばらくぶりに。」

 

思えば、面と向かってアスナの名前を呼んだのは久しぶりだったかも知れない…と思い返す。目の前のアスナが嬉しそうなのは、キリトとパーティーを組めたのが嬉しいのもあるだろうが。

横のキリトが今日だけじゃないのか…と溢していたのは聞かなかったことにしよう。

 

「ま、良いんじゃねえか。ソロプレイよりは安全だしよ」

「お前に言われてもなあ…」

「うるせえ」

 

キリトの文句をピシャリと断ち切る。俺がソロプレイを選んで既に2年近くになるが、パーティープレイはボス戦以外には殆ど組んでいない。誘われることもあまりないのがあるのだが。

 

「で、ここで何やってんだよ?」

「ああ、〈軍〉の連中がさっきここに来たんだけど…何か無茶な感じがしてさ。様子を見に行くかどうか話してたんだけど…」

「…〈軍〉?」

 

キリトの話に出てきた、〈軍〉とプレイヤーに称される、正式名はアインクラッド解放軍。現在は低層フロアの治安維持に務めている。かつてはボス戦にも出ることもあったが、25層のボス戦で人員を大きく減らしたのをきっかけに、現在の形を取るようになった。

 

「何で今さら…まあ、様子は見に行っても良いんじゃねえか?無茶そうだったんだろ?」

「よし、じゃあ行くとしようぜ。もちろん、アキヤも行くだろ?」

「…まあ、いいけど」

 

クラインの声に、陣列を組む。先頭にキリト、真ん中辺りにクラインとアスナ、最後尾に俺が陣取る。装備を整えて前を見ると、クラインがアスナに話しかけてるのが見えた。

 

「あー、そのぉ…アスナさん。ええっとですな…アイツの、キリトのこと、宜しく頼んます。口下手で、無愛想で、戦闘マニアのバカタレですが」

「な、何を言っとるんだお前は!」

 

キリトが猛然とバックダッシュして、クラインのバンダナの後ろを掴んだ。クラインは首を傾けたまま、顎の髭を擦りながらキリトに答えた。

 

「だ、だってよう。おめぇがまた誰かとコンビ組むなんてよう。たとえ美人の色香に惑ったにしても大した進歩だからよう…」

「ま、惑ってない!」

 

キリトがぐるりと回って、上階へと続く通路へと歩き出すと、アスナが任されました、と言ってるのが聞こえた。それを聞いたクラインは後ろの俺に声をかけてきた。

 

「羨ましいねぇ。なあ、アキヤよ。お前もそのままソロプレイはきつくなるだろ?誰かとコンビ組むなりパーティー組むなりした方がいいぜ?アテが無かったらウチのギルドにいつでも来いよ」

「…まあ、考えとく。てか早く歩けよ。」

 

クラインが後ろを向きながら歩いているせいで、キリトとの距離が開き始めている。おっと、と歩調を早めたクラインの後ろを続けて歩く。

 

(コンビ、ねえ…想像できねえなあ)

 

ソロプレイがきつくなるのは事実だが、想像できないものを考えてもしょうがない。一旦思考を目の前の事柄のみにシフトし、前の背中を追った。

 

 

 

 

 

 

敵の群れに当たって、最上階に着いたのは30分後だった。クラインが辺りを見渡しながらおどけたような声を出した。

 

「ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃねえ?」

「…なら良いけどな…」

 

俺が不安そうに溢した理由。それは、モンスターの量。先程の群れ以外、目立ったモンスターと遭遇していない。つまり…誰かが通った可能性があるのだ。

長い回廊を進んでいると、回廊内に音が響いた。その、音は。

 

「あぁぁぁぁ…」

 

かすかにしか聞こえかったが、それは確かに…悲鳴だった。キリトとアスナが走り出す。俺もクラインを抜き去って、前の二人を追随する。

目の前に見えたのは、大きな扉。ボス部屋の証とも言える扉は大きく開いていた。その奥で松明に照らされる異形が見て取れた。

 

「バカッ…!」

 

かすかに聞こえたアスナの声。その声とほぼ同時に、前の二人がスピードを上げる。俺も同様に加速すると、一気にキリトの横まで駆ける。

3人が並んで扉の手前で減速をかけ、扉の入り口ギリギリで何とか停止した。

 

「おい!大丈夫か!」

 

キリトが叫ぶと同時に、俺は中を見た。地獄絵図と称するのが正しいのだろう。中では、悪魔とも言うべきボスが〈軍〉の連中を蹂躙している様が見て取れた。俺は中のプレイヤーのHPが残り僅かなのを見て、声を張り上げた。

 

「…早く転移して逃げろ!」

「だめだ…!く…クリスタルが使えない!」

 

その男が答えたのは、俺達から言葉を奪うには充分だった。〈結晶無効化空間〉と呼ばれる、転移、回復などの結晶が使えない空間。ボス部屋の中がそれと言うと言うのは今までかつてない。

 

「何を言うか…!我々解放軍に撤退の2文字はあり得ない!戦え!戦うんだ!…全員、突撃!」

「何言ってやがるんだあの野郎…!」

 

誰が見ても、今の状態で戦うべきではないのは明らか。助けに行こうにも、〈結晶無効化空間〉では死者が出る可能性はある。

クラインたちが追い付いてきた。今日の〈風林火山〉はクラインを含めて6人。俺とキリト、アスナを含めてもたったの9人だ。とても助けに入れる状況ではない。

あれやこれやと案が探すも、どれも実行には移しがたい…その時だった。ボスの斬馬刀らしき武器が、一人のプレイヤーをこちらまで飛ばしてきた。体格からして、先程突撃を命令したプレイヤーか。

 

──あり得ない。

 

それがそのプレイヤーの最後だった。無音とも言える呟きを言うと、そのプレイヤーの体は無数のポリゴン片となって四散した。

 

「だめ…だめよ…」

 

震える声はキリトの向こう側、アスナのものだった。細剣の柄に向けてだんだんと手が登ってゆく。俺は右隣のキリトに声を出した。

 

「キリト!アスナを…!」

「…っ!」

 

言葉の途中でキリトも気付いたのか、アスナに手を伸ばした。しかし、一瞬だけ、遅かった。

 

「だめ───ッ!」

「アスナッ!」

 

絶叫と共に、アスナは駆け出した。それに続くようにして、キリトも中へと駆け出す。

 

「くっ…!」

「どうとでもなりやがれ!」

 

俺とクラインも抜刀して続いた。アスナは空中から、ボスの背中に一撃を放った。しかし、ボスのHPはあまり減っていない。さらに、タゲがアスナに移ったのか、アスナ目掛けて斬馬刀を降り下ろした。避けたアスナだが、体勢を崩し、倒れ込む。そこへ、もう一度斬馬刀は振るわれる。

 

「アスナ───ッ!」

 

間一髪、キリトが間に飛び込み、僅かに軌道を逸らした。アスナのすぐそばに斬馬刀が孔を穿つ。その間に、俺はボスを回り込むように走る。

 

「…はあっ!」

 

キリトたちとも、〈軍〉の連中とも離れた地点な陣取った俺は、短い気合いと共に、俺はソードスキルを叩き込む。片手剣ソードスキル〈サベージ・フルクラム〉。四連撃をボスに叩き込むと、HPが多少減った。そして。

 

「…今度は俺か!」

 

タゲはどうやら俺に移ったのか、ボスはこちらを向いた。振るわれる斬馬刀を紙一重で避けると、近くの地面に先程と同じ孔が穿たれ、仮想の冷や汗を流す。

 

「アキヤ!十秒持ちこたえてくれ!」

「…くそっ!…十秒だけだぞ!アスナとクラインはタゲが移らない程度に攻撃してくれ!」

 

キリトの言葉に何とか返すと、俺はボスの斬馬刀を見据えた。元々回避やパリィは得意だが、ここまでギリギリなのはやりたくないもの。しかし、俺より細い武器を使っているアスナやクラインにやらせるのは更に酷というものだろう。

 

「グアアァァッ!!」

「やべっ…!」

 

ボスが振り上げた両手剣が横に振るわれる。その行動に俺が取った行動は…勢い良く前に走った。直立しているボスに肉薄すると、通常攻撃で数発打ち込む。

次いで、左手が俺を掴もうと迫る。それを俺はボスの体を蹴って宙返りの要領で離れて避ける。

まだか、と思いながら唸るボスの両手剣を何とか捌くと、後ろから声が聞こえた。

 

「いいぞ!」

「このっ…!スイッチ!」

 

悪魔の剣を無理矢理に弾くと、キリトが前に出る。右手にはいつもの黒い剣。そして…背中に、白い剣を背負って。

ボスのHPを削ったのは…その、二本目の剣だった。右手に黒、左手に白の剣を持ったキリトが、堂々と立っていた。

 

「グォォォオ!!」

 

ボスが振りかぶった剣に、キリトは動かなかった。両手の剣でしっかりと受け止め、弾き返した。そして。

 

「うぉぉぉあああ!!」

 

絶叫と共に、キリトの二本の剣が空間を焼くように振るわれる。見たことのないソードスキル。

 

「何だよあれ…っておいアキヤ!?危ねえぞ!」

 

クラインの制止も意にも介さず、俺は走り出す。確かに、キリトの二本の剣が振るわれる空間に入るのは無謀だと思うだろう。

俺もそれは重々承知していた。目の前で高速に振るわれる剣技にはとても参入する気にはなれない。だから。

 

「…やらせる、かあぁあ!」

 

俺が狙っているのは、ボスの両手剣。ボスが振り上げ、光を灯す──その一瞬。

その瞬間、俺は跳ぶ。敏捷ステータス全開で、高々と。そして、些か不安定ではあるものの、空中でソードスキルを発動。片手剣ソードスキル〈ヴォーパル・ストライク〉。ボスの両手剣と盛大な音を立てて衝突すると、ボスの両手剣の光を消し去った。

 

「…らぁぁあああ!」

 

俺が空中で聞いたキリトの声の後、ボスの体は大きくのけぞった。直後、大量のポリゴンを撒き散らして、74層ボス…〈The Greameyes〉は四散した。

 

「勝った…のか」

 

HPを確認すると、黄色の光を保っていた。青いポリゴンを掻き分けるように着地し、振り向くと、そこに見えたのは。

二刀を持ったまま倒れ伏したキリトにアスナが駆け寄る所だった。


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