ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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昨日に続いての投稿です。
気まぐれ投稿としていますが、なるべく間隔が空きすぎないよう努力していきたいと思ってます。

評価して下さった方、ありがとうございます!

第2話です。主要キャラが続々と登場します。
良ければご覧ください


2話『攻略会議』

「よう」

 

目の前を歩いていた人物に声をかけると、フードを被った人物はゆっくりと振り向いた。3本の書かれた髭が特徴的な女性…〈鼠のアルゴ〉。アインクラッド初の〈情報屋〉でもある。

 

「よオ、アッキー。何か欲しい情報でもあるのカ?」

「あいにく逆だ。情報の提供だよ。頼まれてたもんだ」

 

アルゴに何枚かの紙を渡すと、受け取ったアルゴはニャハハと猫のような笑い声を出した。

 

「ありがとヨ。ちょっと敵の攻撃パターンとかはオレっちだけじゃきつくてネ。」

「こんくらいならやってやるよ。そこまできつい内容じゃなければな。」

 

頼まれていたのは敵モンスターの攻撃パターンの調査など。敏捷性ほぼ全振りのアルゴでは耐久力に不安があるのだろう。彼女は早々に俺がβテスターだと確信し、情報屋と攻略プレイヤーして互いに情報を売ったりしている。とは言っても俺は殆ど情報は買っていないが。

毎度、というアルゴとの話に区切りを付けると、現在時刻を確認する。まだ四時まで時間はありそうだ。

 

「…その様子だとやっぱり会議には出るみたいだナ」

「そうじゃなきゃわざわざ迷宮区からこの時間に戻っても来ねえよ。まあもうレベル上げもかなりきついんだけどな…会議、どこでやるんだっけな…」

 

現在のレベルは15。この段階では恐らくトップクラスだろう。俺一人だけ上がっても一人でボスに挑む気もないのだが、状況が状況だから上げといて損ということも無い。俺の様子を見て、アルゴは1つため息を付いてからボソリと言った。

 

「…同じテスターのよしみでタダで教えてやるヨ。〈トールバーナ〉の噴水で四時からダ。」

「サンキュ。今度は何か情報買いに来る」

 

アルゴに別れを告げ、俺は〈トールバーナ〉へと足を向けた。

 

 

約40人が集まっているトールバーナの噴水に着くと、辺りを見渡す。人数は少ない方だろう。勝てるかどうかは微妙…としか答えられない。石段をひょいひょいと降りると、大柄な色黒の男の横が空いていた。

 

「隣、いいか?」

「ああ。」

 

低いバリトンの声が答えると、隣に腰かける。会議までは約5分程あり、何をしようか、と考えながらメニューを開いてあれやこれやと操作した時、隣から再び太いバリトンの声が飛んできた。

 

「お前さん、その慣れようにさっきの身のこなし…もしかしたらだが…βテスターだろ?」

 

その声に一瞬固まった。確かに他よりステータスは高いだろう。ビギナーが俺よりレベルが高い、ということはあまり現実味を持たない。俺はこのデスゲームが始まった日から欠かさずと言ってレベリングは行ってきたのだ。

ゆっくりと隣の顔を見る。しかし、隣の大柄な男はどちらかと言えばそのインパクト満載な顔に笑みを浮かべていた。俺は男に答えた。

 

「…まあな。ニュービーを見捨てたって罵られても文句は言えない立場なのは分かってる。」

 

実際その通りなのだから、どんな糾弾を受けても、致し方無いだろう。俺が右も左も分からないニュービーを見捨てて一路ホルンカに向かったのはどんなに理屈を立てても結果としては自身強化のためでしかないのだから。

 

「なに、別に俺はβテスター全員を罵ろうとは思ってない。実際こう言った攻略本に情報を出してるのはβテスターなんだろうし、全てが全て悪いわけじゃないだろう」

 

そう言った男が持っているのは、〈鼠〉印の攻略本。確か無料で販売するとかアルゴは言ってたか。俺が黙っていると、目の前の大柄な男は太い笑みを浮かべた。

 

「あんただって、こうして話してみれば普通に話せるやつだ。俺はエギル。もし何かあったら力になるぜ?」

「…アキヤだ。エギル、ね。覚えとくぜ。」

 

それでいい、と言わんばかりにエギルは前を向いた。どうやら会議が始まるらしく、目の前の噴水に青髪の片手剣装備の男が飛び乗り、パン、パンと手を叩いた。

 

「はーい!それじゃ、5分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に…あと三歩くらいこっち来ようか!」

 

顔立ちが整った、まるで〈アバター〉なんじゃないかと疑いたくなる男だ。隣のエギルもある意味、アバターのような見た目をしているが。

 

「今日はオレの呼び掛けに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!オレは〈ディアベル〉、職業は…気持ち的に〈ナイト〉やってます!」

 

近くから笑いが起こる。話し方といい、リーダーとしては元々向いているのか、ロールプレイが得意なのか。もしSAOに職業があったなら、〈ナイト〉も似合いそうだ。

いずれにせよ、このディアベルがリーダーという点は間違いではないだろう。

 

「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は言わずもがなだと思うけど…今日、オレたちのパーティーが、あの搭の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。第一層の…ボス部屋に!」

 

周囲からどよめきが聞こえる。俺が潜っていたのは主に20階ある内の17階辺りなので、そこまで進んでいたとは驚きだ。20階まで行ったことがないわけではないが、俺一人が到着しても意味はない。少なくともボス攻略のレイドが組めるほどの戦力が無ければ。

 

「一ヶ月…ここまでかかったけど、それでもオレたちは示さなきゃならない。ボスを倒し、このデスゲームもいつかクリア出来るって、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それがトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

ディアベルのその声に、辺りから喝采。見事なリーダーシップには俺も拍手を送りたいほどだ。実際拍手している者もいる。しかし、その喝采も、ピタリと止まった。

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

その声の方向を向くと、茶色の髪をサボテンのように尖らせた、片手剣使いが前に出てきた。

 

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

 

ディアベルは突然の乱入者に、余裕の表情を浮かべて声を出した。

 

「こいつっていうのは何かな?まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するなら一応名乗って貰いたいな。」

「フン、わいは〈キバオウ〉ってもんや。こん中に五人か十人、ワビ入れなあかん奴らがおるはずや」

「詫び?誰にだい?」

 

何とも〈騎士〉らしき振る舞いで訪ねたディアベルの問いに、キバオウは吐き捨てた。

 

「はっ、決まっとるやろ。今まで死んでった二千人に、や!何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!」

 

…なるほど。この言葉に、この男の言わんとしてることは把握できた。この男の標的は…俺たちだ。

 

「_キバオウさん。君の言う〈奴ら〉とはつまり…元ベータテスターの人たちのこと、かな?」

 

ディアベルが訊ねると、キバオウはディアベルを一瞥してから話し出した。

 

「決まっとるやろ。…ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。右も左も判らん九千何百人のビギナーを見捨てて、な。奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独り占めして、後はずーっと知らんぷりや。…こん中にもおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる小狡い奴らが。そいつらに土下座さして、貯め込んだ金やアイテムをこん作戦のために軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして闘えんと、わいはそう言うとるんや!」

 

名前そのままに、牙を剥き出したような糾弾が終わると、辺りは静まり返った。当然と言えば当然だろう。ここでβテスターでしたと出ていけば目の前のキバオウを含む反βテスター派からの糾弾の嵐に晒されに行くようなものだ。しかし。

 

「…悪いけど、その意見には賛成しかねるな」

 

周囲の視線が一気に俺に集まる。ディアベルが俺を見ると、俺はゆっくりと立ち上がり、噴水のキバオウから少し離れた位置に立った。

 

「えっと、発言の際には名乗るんだったか。俺はアキヤって言うんだけど…キバオウさんの怒りや欲求はまあ分かった。βテスターへの憤慨を抱えている人もまあ、他にもいるだろうな。」

「せやったら、何で反対なんや?ジブンがβテスターだから、とか言うんやないやろな?」

 

キバオウの言葉に一瞬ギクリとするが、例え俺がβテスターじゃなくても反対はしただろう。俺は辺りを見渡して、静かに続けた。

 

「俺がβテスターかは置いといて…仮にだ。キバオウさんの要求をβテスターが呑んで、その通りにしたとしよう。だけど…その穴は誰が埋めるんだ?」

 

そう言うと、再びの静けさ。その静けさを数秒過ごすと、俺は腕を組んで続けて話し始める。

 

「ここには40と少しくらい人がいるんだろうけど…βテスターが金やアイテムを軒並み吐き出したら間違いなくそいつはボス戦には出れないだろうな。…βテスターを批判、糾弾するのは勝手だけど、目指すのはこのゲームのクリアじゃないのか?だとしたら、貴重な戦力を削ぐのはどうなんだ?」

「…戦力を削いだのはβテスターとて同じやろ!奴らが見捨てたんやから、他のMMOじゃトップ張ってたベテランが二千人も死んどるんやぞ!」

 

キバオウの言葉に、俺はふう、と1つため息を吐いた。反論はいくらでもある。死者の中にテスターがいない訳では無いだろう。さらに、βテストからほんの少しでも変わってる点があれば、テスターも命を落とす危険は変わりない。どれを言おうか、と思っていたとき。

 

「発言、いいか」

 

後ろから張りのあるバリトンが聞こえた。立ち上がったエギルの身長に少し驚きつつも、俺は立ち位置を譲る。俺の顔を見たエギルは、キバオウからは見えないように、ほんの少しだけ口角を上げてみせた。そのまま、他のプレイヤーに軽く頭を下げ、キバオウに向き直った。

 

「オレの名前はエギルだ。今の少年を擁護する、という訳じゃあ無いが…βテスターがオレたちを完璧に見捨てていたか、と言われると、そうでもない気がしてな。」

 

そう言ったエギルが取り出したのは、先程俺にも見せた、〈鼠〉印の攻略本。

 

「このガイドブック、新しい村や町に着くと、必ず道具屋で無料配布されていた。情報がやけに早いと思ったんだが…そこから導かれるのは、ここに載ってるデータを情報屋に提供したのは、元ベータテスターたち以外にはあり得ないってことだ。」

 

周囲が騒然とする。キバオウもエギルの言葉に面食らったような顔をしている。エギルはその様子に、更にその声を張り上げた。

 

「いいか、情報はあったんだ。なのに、沢山のプレイヤーが死んだ。その理由は、ベテランのMMOプレイヤーが他のMMOとSAOを同様に考えて引くべきポイントを見誤ったからだと俺は考えている。だが今は、その責任を追求してる場合じゃないだろ。オレたち自身がそうなるかどうか、それがこの会議で左右されるとオレは思っているんだがな」

 

エギルが堂々と言うと、キバオウはエギルを睨み付けるだけに留まった。その様子を終始見ていたディアベルが、長髪を揺らして頷いた。

 

「キバオウさんの言うことも理解できる。でも、エギルさんの言う通り、今は前を見るときだろ?アキヤくんの言った、βテスターを排除して攻略失敗しました、じゃ話にならない。それぞれ思うところがあると思うけど、今は皆が第一層を突破するのに力を合わせて欲しい。どうしてもテスターとは戦えないって人は残念だけど抜けてくれ。ボス戦ではチームワークが大事だから。」

 

ディアベルの言葉に、キバオウは悔しそうに最前列まで引き下がった。俺もエギルと共に最前列まで戻って、そのまま会議は順調に進んでお開きとなった。

 

「…あの時のお前の勇気に助けられたテスターもいるだろう、そこはGJだ。」

 

隣にしばらく座っていたエギルが小さく言うと、俺も小さい声で返した。

 

「そっちこそ、早速力になってくれたな。GJはこっちの台詞だ。」

 

そう言って互いに笑みを浮かべると、エギルは立ち上がった。

 

「さて、ボス戦は知り合いとタンク隊を組もうと思ってるんだが…お前も組むか?もう一人空きがあるんでな。アタッカーも一人はいて欲しかったんだ」

「…ああ、頼む。アタッカーなら役に立てると思うぜ。」

 

エギルと握手を交わして、ボス戦では頼む、と言うエギルと別れると、視界の端に、灰色のコートを着た少年と、赤いフードを被った人物が見えた。




考えを文字に起こすとなると大変ですね。

評価・感想お待ちしております。

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