ソードアート・オンライン -sight another- 作:紫光
アイデアはあるんですが打ち込むのが遅い上に私事の事情が重なり…書ける限り書いていければと思っております
「うーん…」
巨人の棍棒を避けながら、俺は考えていた。巨人の攻撃はかなりのオーバーモーションで、避けるには全く苦労しない。連撃を加えてあっという間に巨人のHPはレッドゾーン、なのだが。
「…アキヤー!早く倒しちゃいなさいよ!」
「…いや、倒したいんだけどな…」
リズの声に曖昧な返事を返す。攻撃の合間を縫って、ソードスキルを起動。片手剣ソードスキル〈ヴォーパル・ストライク〉。ジェットエンジンのような音を立てて巨人に突き刺さるが…
「やっぱり…減らない」
巨人のHPはレッドゾーンから一向に動かない。この状態になってから早5分。いい加減頭を使わないとクリアは難しそうだ。
ここまで来るのにフラグのようなものはなし、この部屋にもなにもなし。奥の部屋に行こうにも巨人が退かないので何もできない。
「何なんだよこのクエ…?」
そこまで言って、ある言葉を思い出す。それは、クエスト受注後に、リズが言った言葉──鍛冶スキルが必須。あれはクエスト起動のためのものだと思っていたが、まさかここでも…?
「…リズ!ちょっと一発こいつにぶちかましてくれ!」
「分かったわ!タゲよろしく!」
そう言うと、リズも部屋の中に踏み込んだ。俺がいる方向と反対方向に走り、巨人の背後へと移動する。
「…せいやあっ!」
片手棍ソードスキル〈パワー・ストライク〉が巨人に見舞われると、巨人のHPは瞬く間に無くなり…大量のポリゴンを散らした。俺は剣を背中に納めると、はあ、と一息ついた。
「まさか鍛冶スキルがここでも必須とは…めんどくさいクエスト作るもんだな」
「もしかしたら鍛冶屋を放置してクエストをクリアさせないための仕組みかもね。報酬の独占とかを防ぐ意味で」
そう言うと、リズは奥の台座にあるハンマーへと向かった。きらびやかでは無いものの、物としてのクオリティーが高いのは見て解るほどだ。
「えーと…〈グリース・ハンマー〉?グリースって…油だっけ?」
「何で油なんだよ…どれ?」
リズが手に取った報酬であろうハンマーは…〈Greece Hammer〉。確かにグリースと読むのだろうが…
「…多分だけど、これ綴りが違う。このGreeceってのは…英語のギリシャ、じゃなかったかな」
「へえ、ギリシャのハンマー…何か神の加護でもあれば良いわね。」
そう言った瞬間、インスタンスマップが消えたのか、洞窟の中から外へと戻った。
「さて、じゃあ打ってもらおうか。例の鉱石をさ。」
「任しときなさい!ランダムパラメータに多少は左右はされるけど…良いもの、打って見せるわ」
そう言い張ったリズと、リズベット武具店、その工場へ戻ると、何よりも早く、俺は鉱石を、リズは炉に火を入れた。
さて、どんなものが出来るか。あとはリズに任せるとしよう。このアインクラッドで会った中で、最上の鍛冶屋に。
「ふーっ…よし!」
息を1つ吐いてから、リズはハンマーを振り下ろした。カン、カンという音が、規則的にその音を響かせる。
それが何十回、何百回と繰り返され、漸くその時は来た。徐々に形を変えた鉱石は、細長い剣へと姿を変える。
「…出来たわ。」
「お疲れ。」
リズを労うと、剣をよくよくと見る。両刃のやや細身の直剣で、色は黒紫色。鍔の部分はやや刀身に向かって曲がっており、握りも同色、柄頭はダイヤのような菱形だ。特徴として、シノギの部分に一直線に白く線が入っている。
リズはその剣を手に取ると、剣をタップした。
「銘は…〈Abyssal light〉ね。深淵の光…ってところかしら。一点モノだと思うわ。はい。」
手に持ってみると、細身の剣で、敏捷寄りの俺には中々使い勝手は良さそうだ。振ってみると、重さによって体がブレることも、軽すぎることもない。
「…サンキュ。良い剣だな。お代は…」
「お代ならもらってるわ。これ。」
そう言ってリズが俺に見せたのは、先程のハンマー。どうやらなかなか気に入っているようだった。そこから鞘も買って、工場から店の方に戻る。
店に戻って装備して入り口に向かおうとしたとき、木造のドアが開かれた。お客さんだな、と思っていると…
「リズさん、メンテお願いしまーす…って、あ…アキヤさん!?」
「…シリカ?」
ドアから入ってきたのはシリカ。47層の思い出の丘以降会っていなかったが、どうやらここの客だったらしい。リズがドアの前で驚いていたシリカに声をかけた。
「あら、シリカじゃない。アキヤと知り合いだったの?」
「え、ええ。前にキリトさんと一緒に助けてくれたんです。お礼を言いに行こうと思ってたんですけど、どこにいるか分からなくて…」
「悪い、あらかた攻略に行ってたり素材集めに行ってたりしてたから…」
そう言うと、リズがなーんだ、と腰に手を当てて言った。
「じゃ、ここでフレンド登録しときましょうよ。そうすればメッセージはいつでも飛ばせるでしょ?あたしもアキヤとはフレンドになっておきたかったし。」
「あ、そうですね!お願いします!」
目の前にフレンド申請のウィンドウが2つ現れる。リズの申請に○ボタンを押そうとして…手が一瞬止まった。それを見て、リズは。
「…大丈夫よ、あんたが〈ビーター〉とかって呼ばれてたことは知ってたわ。」
「…知ってたのか」
「そりゃあね。一層の時とかは噂もあったし、ここに攻略組も来ない訳じゃあないしね。でも、あんたが何と呼ばれてようと、関係ない。…ごめんね、あたしもアキヤをちょっと試した。どんな人か知りたかったから。それも踏まえて、フレンドになりたいって言ったの」
横を見れば、シリカもうんうんと頷いている。それを聞いて、二人の目を見て。俺はゆっくりと○ボタンを押した。
「…ま、それにお得意様になってもらえれば全然。鞘代くらいはサービスするわよ」
「…へえ。じゃあ今度はメンテ頼みに来るか」
俺がそう言うと、シリカが俺の顔を見てコソリと言った。
「…気を付けて下さいね。リズさん、時々ぼったくりみたいな金額取りますから」
「聞こえてるわよー、シリカ。メンテ代ちょっと値上げしようかしら?」
「ふぇっ!?す、すみませーん!」
どうしようかなー、というリズと、お願いします!と頼み込むシリカ。その光景は、デスゲームとはとても思えなくて。俺は僅かに微笑むと、店のドアに向かった。
「じゃあな、二人とも。何かあったらメッセくれ。」
「また来なさいよ、アキヤ。メンテでも鉱石でも持ってきなさい」
「アキヤさん、攻略頑張って下さい!」
リズとシリカの声にもちろん、と返して、俺は静かにドアを開いて外に出た。
「さて、試し斬りといきますか。」
65層突破に向けて、俺は背中の新しい剣の柄をそっと撫でた。