ソードアート・オンライン -sight another- 作:紫光
投稿頻度は遅くなりますが、引き続き投稿していきたいと思っております。
※ソードスキルに関しては一部ゲームより引用しております
「どうするかな、これ」
俺は手の中に光る鉱石を見つめてボソリと呟いた。妖しく黒く光る鉱石は、その輝きからもレア物だと解るほど。最前線…65層のバカでかい竜からドロップしたのは良いのだが。
「鍛冶屋…かあ。知り合いにいねえんだよな…」
俺の知り合いと言えば。屈指のソロプレイヤーに、超有名ギルドのサブマス。少数精鋭ギルドのギルマス、商人とタンクのハイブリッド、情報屋…鍛冶屋の知り合いはいない。
NPCの鍛冶屋に頼むのも手だが、こういったレア鉱石の成功率は軒並み低い。折角手に入れたのだから、出来れば武器として使いたいものだ。
「…よう、アキヤ。どうした?」
俺に声をかけてきたのは、先程の知り合いの中ではかなり仲が良い…キリト。俺は率直に聞いた。
「ああ、キリトか。いい鍛冶屋知らないか?」
「鍛冶屋、か。だったらあそこだな。俺から話通しておくよ。良い鍛冶屋なのは間違いないからな」
キリトに教えられたのは、48層〈リンダース〉の水車がある鍛冶屋…〈リズベット武具店〉。情報を頼りに辿り着くと、ドアを押し開ける。
「いらっしゃいませー!リズベット武具店へようこそ!」
幸いか否か、店内は客らしき人はいなかった。いるのは、カウンター奥に店主と思われる人物のみ。
その店主も頭も目もピンク色に、フリルのエプロンドレスのような格好だ。女性だから違和感は無いが、男性だったら俺はすぐに扉を閉めてキリトの人となりを疑うだろう。
「えーと…キリトの紹介で来たんだけど…」
「あ、じゃああんたがアキヤね!あたしはリズベット。リズでいいわ。」
ハキハキと答えるリズベットは商人としては向いているだろう。しかし、俺の頭はこの人の腕前は如何に、という疑問で覆われている。何せ、鍛冶屋というより喫茶店のウェイトレスの方がまだしっくり来るような格好だ。
「で、今日は何で来たの?メンテ?それともオーダーメイド?」
「…とりあえずメンテで。」
「…了解。じゃあ、武器お預かりします」
急に敬語になったリズに、俺は背中の剣を渡す。本来の目的は違うのだが、まずは鍛冶屋としてどうなのかを見たかった。
リズは奥の工場らしき場所へと向かい始めた。そのリズに向けて、俺は声を出した。
「悪いリズ、作業風景見ていいか?」
「別にいいわよー。邪魔だけはしないでね。」
本人の許可を得て、工場に入ると、中は様々な工具が並び、設備も見た中では中々いい。後は…腕と、その他諸々だ。
「ふーっ…」
リズは大きく息を吐くと、剣を回転砥石にゆっくりと近付けた。火花を散らしながら、剣は砥石の上をゆっくりと滑っていく。やがて剣が砥石から離れると、剣は新品のようにピカピカになっていた。
「…随分真面目にやるんだな。」
「ん?あー…確かに研ぎ上げは砥石に当ててれば終わるんだけど…やっぱり、適当にはやれないわよ。皆これで戦ってるんだもの。」
そう言って、リズは俺に剣を差し出した。俺は剣を受け取って、ようやく合点がいった。
このリズを、キリトが『いい鍛冶屋』と言う理由が。剣にしっかりと向き合う、鍛冶屋としては最上の人だと。
「…悪い、リズ。少しだけ、試すような真似をした。どんな鍛冶屋なのか知りたかったんだ」
「…まあ、そんなことだろうと思ったわ。メンテだったらその辺のNPC鍛冶屋でも失敗しないもの。紹介で来てメンテってそりゃないもんね」
どうやら魂胆は筒抜けだったようで、リズは肩をすくめて俺を見た。本当の依頼は、と目で言うように。
「今日来た理由はオーダーメイドを頼みに来たんだ。片手直剣、敏捷寄りの…」
「…あー…」
リズが曖昧な返事をした。何かまずいことを言ったのだろうか、と考えていると、リズは工房から店の方を見た。
「この前までそこに1つあったんだけど…」
「…売れちゃったか?」
「キリトがへし折ってくれちゃったわ」
…あいつは本当に話題には事欠かないやつだ。リズは苦笑い、俺は溜め息をつく。
「と、言うわけで、今手元には無いのよ。金属があれば打てるけど、最近は相場も高いのよね」
「…これ、打てるか」
そう言うと、俺は目の前に例の鉱石をオブジェクト化させる。リズは興味津々にその石を覗いていた。
「…初めて見る石。レア鉱石…ね、どう見ても。どこで採ったの?」
「…65層の大型モンスターからドロップした。もう2度と戦いたくねえけどな」
この鉱石をドロップしたのは竜、なのだが。恐ろしく固かった。攻撃は回避出来るものだったからほぼほぼ回避したものの、ダメージが通らないので、30分以上ソードスキルを叩き込んで漸く倒せた。
その言葉に、リズは俺をまじまじと見た。
「あ、あんた…攻略組なの?」
「…まあ、そうだけど。」
一応一層から攻略組としてはいるが、〈ビーター〉と蔑まれ、なおかつここまで殆どソロ攻略。チームワークには難ありの攻略組だろう。
「…ねえ、ちょっと手伝って欲しいんだけど、時間ある?」
「あるけど…どこか行くのか?」
「そう。58層にね」
「鍛冶神の加護を受けし鎚、汝らが巨人を討ちし時その力を分け与えん…ね。初めて知ったな、このクエスト」
「鍛冶スキルが必須で、この階層だからね。中々知ってる人もいないし、知ってても手を出さない人も多いわ」
58層の寂れたNPC鍛冶屋のクエストなのだが、報酬はどうやらハンマーらしい。鍛冶屋として良いハンマーが欲しいのだろう。
「しっかし、キリトは真っ黒だったけど…アキヤは紺色なのね。髪だけ焦げ茶だけど」
「〈隠蔽〉ボーナスが付くから暗い色ばっかりなんだよな。そういうリズはピンクだろ」
「これはアスナがカスタマイズしたのよ!」
あのアスナがねえ、と感心した所で、クエストの洞窟に着いた。俺が攻略したときに無かったことを考えると、どうやらインスタンス・マップらしい。
「俺が前衛で前に出るから、リズは後ろから来てくれ。一体戦ってみて、大丈夫そうだったらリズも戦うか?それとも後ろで見てる?」
「大丈夫そうだったら一応戦うわ。もし少しでも危険があると思ったら止めて。キリトと行ったときはちょっと酷い目にあったからね」
「おう…了解。じゃあ行くぞ」
背中から剣を抜いて、目の前の洞窟へと足を踏み入れた。
「…リズ、スイッチ行くぞ!」
「オッケー!」
俺が振り下ろされる斧を弾くと、リズが目の前に出て、メイスを振るう。片手棍重攻撃ソードスキル〈ストライク・ハート〉。斧を戻す間もなく、オーク型モンスターは高々と打ち上げられ、空中でポリゴンと化した。
「…ねえ。あたしさっきからトドメしかさしてないんだけど…あんた経験値いらないの?」
リズがそういうのは、SAOの経験値システムのことだろう。パーティーでは戦闘での様々な行動に応じて経験値の分配が異なる。中でも一番分配が多いのはトドメをさした時だ。
俺は剣をしまって、はっきりと答えた。
「この辺のモンスターじゃ何百体狩ってもレベルは上がらないから、リズが貰ってけよ」
「そんなにレベル高いって…あんたってもしかして…あの〈雷剣〉?」
「…まあ、そうも呼ばれてる」
攻略組の現状、有名人は〈黒の剣士〉キリト、〈閃光〉アスナ、〈神聖剣〉ヒースクリフなどなど。その中に〈雷剣〉も含まれてはいるらしいのだが、〈雷剣〉=アキヤというのは案外知られていないらしい。
それを言うと、リズはピタリと止まった後、再び俺をまじまじと見ていた。
「へえ~…もっとゴリゴリの人かと思ってたわ。エギルみたいな」
「エギル知ってるのか…にしてもあれだと思われるのは嫌だな。」
彼もまた攻略組では有名人ではあるが…いや、インパクトが強すぎて忘れられないのだろう。そう結論付けて、前へ進む。
「と、言うわけでだ。ドンドントドメさしていいから、とっとと終わらせようぜ」
「はいはい」
そのまましばらく進むと、何やら広い部屋があるのに気付いた。その奥にまた部屋があるようで、そこに台座のようなものがある。
「あ、きっとあそこね。」
そう言って進みかけたリズを、俺は左手で止めた。何するのよ、と喚くリズに、俺は。
「…まだ〈巨人〉が出てない。出るとしたらその部屋だろう。俺が先に様子を見るから、俺が合図したらリズも入ってきてくれ」
そう言ってから、広い部屋に踏み込むと、そこはまるでアインクラッドのボス部屋のような広さだった。辺りを見渡しながら中央付近まで歩くと、ズン、と言う音が聞こえた。次第に大きくなる音に、その方向を見ると…
「巨人…だな。確かに。」
現れたのは、五メートルはあるであろうオーク。斧ではなく棍棒を持ち、中央に大きな目。HPバーが表示され、次いで名前も表示される。
「〈Cyclops〉…えーと…サイクロプス、かな。単眼の巨人だよな、どのゲームでも」
名前を呼んだことで俺を認識したのか、棍棒を振り上げた巨人に向け、俺は剣を抜いた。
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