ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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何か雑になってる気がする…なるべく丁寧に書いているつもりなんですが。

15話です。


15話『第二の事件』

57層マーテンの宿屋の一室に、変わらずヨルコはいた。話を聞きたい、と言って聞いたはいいが、目新しい情報は得られない。どうしたものか、と考えると、メッセージが届いた。宛先はアスナ。

 

「…ヨルコさん。シュミット…が会いたいらしいんだが。」

「…はい。大丈夫と伝えてください。」

 

突然の提案に驚いた様子はあったものの、ひとまず了承を得たことをそのままキーボードで打ち込んで送信する。十数分後、ドアがコンコンとノックされた。

 

『キリトです』

「はい、どうぞ」

 

ヨルコの声にドアが開かれ、キリトとアスナ、そして大男がいた。彼がどうやらシュミットだろう。攻略で何度か見た…ような気がする。

キリトが先に入り、シュミットとヨルコに向けて話し出した。

 

「ええと…まず安全のために確認しておくけど、二人とも武器は装備しないこと、そしてウィンドウを開かないことを守ってほしい。」

 

先日の事件があっての提案だろう。二人が了承し、シュミットとアスナが中に入った。ドアの前で止まったアスナが、俺に視線を向けた。次いで、何やら手でサインを送ってきた。

 

(…見張ってろってことか)

 

そう解釈すると、シュミットとヨルコが挨拶を交わし、向かい合って座る。東側にキリト、西側に俺。ドアの前に立つアスナは侵入者の警戒と部屋全体を見渡す形だろう。

俺はまずシュミットを見た。カインズよりグレードが高いフルプレートアーマー。攻略組でもある彼が、生半可な攻撃で倒れることは無いだろう。

次いでヨルコを見る。詳しい装備は見えづらいが、どうやら防具を着込んではいるようだ。シュミットほどでは無いにしろ、防御力はそれなりにはあるだろう。

しばらくはシュミットをヨルコが褒めるような穏やかなやり取りが続いていたが、緊張気味に座っていたシュミットが鎧を鳴らしながら身を乗り出した。

 

「何で…何で今更カインズが殺されるんだ!?あいつが…指輪を奪ったのか?GAのリーダーを殺したのはあいつだったのか!?」

 

GA…Golden Apple、〈黄金林檎〉というギルドの略称で、指輪は恐らく以前聞いたレアアイテムのことだろう。それを聞いたヨルコの顔から、笑顔が消え、睨むようにシュミットを見ていた。

 

「そんなわけない。指輪の売却に反対したのは、コルに変えて無駄遣いするよりもギルドの戦力として有効利用すべきだと思ったからよ。ほんとはリーダーだってそうしたかったはずだわ」

「それは…オレだってそうだったさ。俺も売却には反対したんだ。だいたい…反対派だけじゃない。売却派にも、売り上げを独占したいと思った奴がいたかもしれないじゃないか!なのに…グリムロックはどうして今更カインズを…売却に反対した3人を…オレやお前も殺す気なのか!?」

 

シュミットの声、表情、仕草。どれを取っても演技には見えない。恐らくだが、この男は無関係だろうと俺は思った。そこへ、ヨルコが言葉を投げ掛ける。

 

「まだ、グリムロックがカインズを殺したと決まった訳じゃないわ。他のメンバーの仕業かもしれないし、もしかしたら──リーダー自信の復讐なのかもしれないじゃない?圏内で人を殺すなんて、普通のプレイヤーにできるわけないんだし」

 

ゾクッと少し寒気が走った。俺とは視線が合ってないのにこれなのだから、正面のシュミットはどれだけぞっとしているのだろうか。ヨルコは立ち上がり、歩きながら話し続けた。

 

「私、ゆうべ、寝ないで考えた。リーダーを殺したのはギルメンの誰かでありメンバー全員でもあるのよ。指輪がドロップしたとき、投票なんかせずにリーダーの指示に任せれば…ううん、リーダーが装備すれば良かったのよ。でも、私たちは皆自分の欲を捨てられずに、自分を強くしたがったの。グリムロックさんだけはギルドのことを考えて、リーダーに任せると言ったわ。だから、私たちをリーダーの敵として討つ権利がある…」

 

そこまでの長い言葉を言うと、ヨルコは窓枠に腰かけた。窓は空いており、そこから吹く風がヨルコの濃紺の髪を揺らす。シュミットはというと、俯き、フルプレートアーマーをかたかたと鳴らせている。

 

「……冗談じゃない、冗談じゃないぞ!今更、半年も経ってから…!お前はそれでいいのかよ、ヨルコ!今まで頑張って生き抜いてきたのに、こんな、わけも解らない方法で殺されていいのか!?」

 

シュミットの声が響くと、俺たちの視線はヨルコに集まった。その瞬間。

とん、と軽い音が響いた。次いでヨルコの体ががくりと揺れ、ヨルコは窓枠に手をついた。

何が起きたのか分からなかったが、ヨルコの背中に流れる髪が風でなびくと、ようやく頭が追い付いた。ヨルコの背中に刺さった…スローイング・ダガー。

 

「あっ…!」

 

ヨルコの体が窓の奥へと傾いたのを見たアスナの声に、キリトが飛び出す。しかし、ヨルコの体は戻ってくることは無かった。

 

「ヨルコさん!!」

 

キリトの叫びのすぐ後に。ばしゃっという破砕音が聞こえた。今の、音は──

俺も窓に近寄ろうとした瞬間、キリトの後ろから、それを見た。遠くの、同じ高さの建物の屋根に、黒い人影を。キリトも顔を上げて、目視する。

 

「野郎っ…!!」

「ばっ…!」

 

俺が制止しようにもコンマ何秒速くキリトは窓から飛び出してしまった。しかし、些か敏捷性が足りなかったのか、向かいの屋根にぶら下がるようになったが、すぐに屋根に飛び乗って人影を追い始めた。

 

「…無闇に突っ込むんじゃねえバカ野郎!…悪いアスナ!あのバカ連れ戻してくる!」

 

そう言って、俺も窓枠から跳ぶ。筋力寄りのキリトと違って、俺は敏捷寄りのステータス。敏捷姓がギリギリ足りたようで、何とか向かいの屋根に跳び移ると、猛然とダッシュを始めた。

ヨルコの防具を貫き、HPを全損させたならば、オレやキリトのような、軽装で盾無し片手剣使いのHPは全損は免れない。

 

「キリトくん、アキヤくん!ダメよ!」

 

アスナの制止も俺と同様の物だろう。しかし、仮に俺が止まってもキリトは止まらない。舌打ちをしながら猛然とキリトを追跡する。

 

「…キリト!無闇に近寄るなよ!」

「…分かってる!」

 

前方を走るキリトに声をかけると、どうやらキリトも分かってはいたようだ。斜め前を走る問題の人影は、懐からあるものを取り出した。ダガーでも抜くのかと思い背中から剣を抜いたが、男が取り出したのは、青く光る結晶…転移結晶。

だったら、と転移先を聞こうとしたのかもしれないが、キリトは少しだけ距離を詰めた。まだスローイング・ダガーが飛んできても対応できる距離だとは思うが…

 

「…!!しまった…!!」

 

突如として、マーテン全体に鐘が鳴り響いた。それを狙っていたのか、人影は転移結晶を高く掲げた。

 

「くそっ…!」

 

キリトが角度を変え、犯人との距離を猛然と詰める。が、そのまま突きだした剣は空しくも数秒前に人影が立っていた空間を突くだけに終わった。

 

 

 

「ばかっ、無茶しないでよ!」

 

宿屋に戻った俺とキリトがまず受けたのはアスナの叱責。明らかに俺よりもキリトを見て言っていたのは、キリトが明らかに先行したからか、それとも。

 

「…奴はテレポートで逃げた。顔や声などの情報は得られなかった。グリムロックだと言うなら男なんだろうが…」

 

俺が言うと、ソファーの方でかたかたと鎧を鳴らしていたシュミットが、短く答えた。

 

「…違う。グリムロックはもっと背が高かった。それに、あのフード付きローブは…GAのリーダーの物だ。さっきのあれは…彼女だ。あれはリーダーの幽霊だ。」

 

はは、ははははと不気味にシュミットが笑う。それに収まらず、ヒステリックを起こしたのか、笑いながら更に続ける。

 

「幽霊なら何でもありだ。圏内でPKするなんて楽勝だし、いっそリーダーにSAOのラスボスを倒してもらえばいいんだ。最初からHPが無きゃ死なないんだから」

 

尚も笑い続けるシュミットの前に、キリトはあるものを投げた。それは…先程ヨルコの背中に刺さったダガー。それを見て、シュミットの笑い声は止まった。キリトが抑えた声で話し出す。

 

「幽霊じゃないよ。そのダガーは実在するオブジェクトだ。SAOのサーバーに書き込まれた、何行かのプログラムコードだ。あんたのストレージに入ったままのショートスピアと同じく。信じられなきゃ、それも持っていって調べるといい」

「い、いらない!槍も返す!」

 

シュミットは慌てながらも、黒いスピアをダガーの横に転がした。そんな時に、俺の視界左上にメッセージアイコンが点滅した。

 

「…すまん、ちょっとだけ外す」

 

なるべくシュミットを刺激しないよう抑えた声で、物音も最小限に外に出る。メッセージの宛先を確認すると、そこには。

 

「クライン…?」

 

内容は簡潔。最前線にいないようだが何かあったのか、という内容だった。彼の中では俺は最前線から数日姿を消すだけでも心配事になるらしい。

俺は少しやることがあって外している、何かあったら協力してくれるか、というメッセージを返信すると、任せろ!というクラインらしいメッセージが返ってきた。

そこで一区切りつけて中に戻ると、キリト、アスナ、シュミットが立ち上がっていた。

 

「今からこいつをDDA本部まで送っていくんだけど…アキヤ、これ。」

「何だこれ?」

 

キリトから手渡されたのは、一枚の羊皮紙。紙には、何人かの名前が書かれているようだ。

 

「ギルド〈黄金林檎〉の名簿だよ。俺とアスナはDDA本部の後、グリムロックの行きつけの20層の店に張り込んでみるから…」

「…ああ、〈生命の碑〉で確認してこいってことか」

「そういうこと。しっかりよろしくね」

 

アスナに念押しされるように頼まれると、ひとまず俺も転移門広場までは一緒に行くことになった。怯えるシュミットが、あんたも行けるところまででいいから来てくれ、と言ったからだったが。

3人を見送ると、俺も一層に降りることにした。

 

 

 

「んーと…gの欄…」

 

第一層、黒鉄宮の〈生命の碑〉の前で、俺はキリトから貰ったメモを元に、一人一人の名前を探していた。頭文字から探しても、元の数は一万。探すのは少々手間取る。

 

「グリセルダ…死亡。グリムロック…生存。シュミット…生存…カインズ…」

 

順に死亡と生存を振り分け、先日死亡したカインズを探す。しかし。俺が見つけた〈カインズ〉は横線は引かれていなかった。

 

「なっ…カインズは、確かにあの時…」

 

メモにあるカインズ──〈Caynz〉には線は引かれていない。今日が4月の23日だから、カインズの欄には〈サクラの月22日〉と記され、横線が引かれているはずだが…

暫く考えた後、俺は名前を順に見ていく。すると、〈Kains〉の文字が目に入った。横線が引かれ、〈サクラの月22日〉の文字。次いでそのまま探すと、〈ヨルコ〉にも線は引かれていなかった。

 

「圏内殺人で、人は死んでない…?反映されてないって線はないだろうし、生きてるのか…?」

 

暫く悩んでいたが、ひとまずキリトにメッセージを送る。『カインズもヨルコも死んでいない』と送ると、後ろからいきなりばしゃっと音が響いた。まさか、と思い振り向くと、初期装備のプレイヤーが話していた。

 

「びっくりしたー…何で俺のパンいきなり消えたんだよ」

「おまえ、耐久値見てなかったろー。切れるとあんな風にポリゴンになっちまうんだよ」

 

その声に、俺の思考はフルスロットルで回り始めた。耐久値という言葉に、俺はとある結論を見出だす。

 

「まさか…あのポリゴンはHPじゃなくて、防具の耐久値切れ?体は…転移結晶でも隠し持ってれば飛ばせるか。今までの考えよりは遥かに楽だけど…そんなことをやる意味…それが、〈黄金林檎〉の事件が関係している…?」

 

その時、先程のメッセージの返信が来た。キリトからのメッセージは。『19層の丘に、GAのリーダーの墓がありそうだ。シュミットやヨルコがそこにいるだろう。レッドプレイヤーもそこに向かってるかもしれない。俺はすぐに向かう。』

 

「レッドプレイヤー…そうか!確かGAのリーダーは〈睡眠PK〉で殺されたって…!」

 

素早くメッセージを閉じると、俺は走り出した。転移門に半ば飛び込むように、19層の街の名前を叫んだ。

 

「転移!〈ラーベルグ〉!」

 


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