ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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12侘、今回から圏内事件編です。

圏内事件って結構ボリュームが凄まじい…

頑張って自分なりに書いていこうかと思います。


12話『圏内』

…一体何をやってるんだ、こいつらは。

昼前の59層転移門近くの低い丘で、二人の人物を見つけた。片方は攻略組屈指のソロプレイヤー、〈黒の剣士〉キリト。もう片方は…ギルド〈血盟騎士団〉サブリーダー、〈閃光〉と称される細剣使い──アスナ。

別に二人が一緒にいて問題があるわけではない。低層では一緒に攻略していたのだし、最近はあまり仲が良いように見えない二人が再び共に攻略でもしてれば俺も暖かい目で見送るのだが。

 

「…寝てるんだよな」

 

目の前の丘で、56層の攻略会議の対立はどこへやら、と二人は並んで寝ている。確かに天候は晴れだし、心地よい風も吹いている。眠気が来るのも分かるが、何もわざわざこんなところで寝なくても。

 

「はあ…一応見張るか…ん、と。この辺りなら鳴らねえか」

 

俺が見張ると言ったのは──アスナに関してはハラスメント行為もあるが──PKの可能性があるためである。

寝ているプレイヤーの指を勝手に動かして勝手にデュエルを申し込んで殺される行為などがかつて〈殺人者〉の手口とあったSAOでは、〈圏内〉と言えども──圏外は論外だが──睡眠前に多少なりとも警戒手段を取る。

その内の一つとして、〈索敵〉スキルの接近アラームがある。プレイヤーが近付くとシステムがプレイヤーに警告を告げるものだ。アスナは知らないが、キリトは恐らく使っているだろう。俺は範囲に入らない所の木に寄っ掛かって見張ることにした。

先に起きたのはキリトで20分ほどで起きた。どうやら熟睡はしていなかったらしく、すんなりと起きた。次いで、隣を見て驚愕、近くの俺を見てまた驚愕、というコンボを見せてくれた。

 

「…何であいつが俺の横で寝てるんだよ!?」

 

アスナを気遣ってか、俺に素早く近づいて小声で話したキリトに、俺は肩をすくめて話した。

 

「さあ。俺が来たときには二人並んで寝てたけどな。…起きたんならあとは見張り頼む。俺は迷宮区に行くから。」

 

そう言って立ち上がると、左腕を掴まれた。何だ、と腕を掴んでいるキリトを見下ろすと。

 

「…あいつが起きるまで一緒にいてくれないか。」

 

その言葉に、俺はまだ寝ているアスナを見た。寝顔は安らかで、デルタ波は出まくっているだろう。当分起きそうにないアスナに、俺をすがるように見るキリト。

 

「…分かったよ。」

 

上げきった腰を再び下ろす。俺も逆の立場だったらそうするだろう…いや、キリトに押し付けて自分は攻略に行くだろう。何せ、俺とこの副団長の仲は悪くは無いが、ある原因で良くもないのだ。

再び樹に寄りかかり、上を見ると、心地よい気候と共に、梢から眩しい光が漏れているのが見て取れた。

 

 

 

浮遊城が段々とオレンジ色に染まる。夕焼け…なのだが。目下で寝ている副団長はまだ起きない。実に俺がここに座ってから八時間も経った。こりゃ今日の攻略は明日に回すか…と考えた時、小さなくしゃみの音が聞こえた。音の方を向くと、のろのろとアスナが上体を起こしている所だった。

 

「うにゅ…」

 

何だか分からない言葉を発したアスナは、少しの間呆けて辺りを見渡していたが、近くのキリトを見ると、顔を赤、青、赤と目まぐるしく変化させた。

 

「おはよう。よく眠れた?」

 

笑顔で言うキリトに、アスナは右手を閃かせ…かけた。俺はその様子を眺めながら、重い腰をゆっくりと上げて、とりあえず何か言われる前に帰ろうかと思った…のだが、〈黒の剣士〉はそれをよしとしなかった。

 

「あ、おい!どこ行くんだよ?」

 

そう言うキリトに、俺は1つ伸びをした後、はあ、と溜め息を付いてから言った。

 

「帰るんだよ。今から攻略しても戻ってくるだけになるし、お前の言ってたことも終わったろ。」

 

『アスナが起きるまで一緒にいてくれ』という何とも簡単に見えたクエストが、八時間近くも続くとは思わなかった。キリトがクエストNPCだとしたら、俺は報酬に転移結晶でも寄越せと言いたい程に。

そんな訳でもう何処かで飯を食って帰って寝ようとしたのを止めたのは、今度はキリトではなく──もう一人、アスナの声だった。

 

「待って!……ゴハン、何でも幾らでも一回君たちにおごる。それでチャラ。どう」

 

アスナがそう言うのは、俺やキリトが何故ここにいるかを寝起きの頭で理解したからだろう。起こしもせず、ただ側にいて、寝られるだけ寝かせて、尚且つ圏内PK行為のガードを行っていたことを。アスナのそういった直接的なやり方はまどろっこしいよりは嫌いではない。

 

「…俺は構わないけど、キリトは?」

 

俺自身借りを作るのは好きではないし、貸しを作るのもそこまで得意じゃない人間としては清算が速くて助かるし、どちらにせよこれから飯を食おうかと思ってたところだ。

 

「俺もOK。57層の主街区に、NPCレストランにしてはイケる店があるから、そこでいいか?」

 

俺とアスナが頷くと、アスナとキリトが立ち上がり、アスナはまるで夕焼けを吸い込むかのような伸びをした。

 

 

 

最前線より2層下の57層主街区〈マーテン〉に転移門を通して出ると、周囲の視線が一斉に向いた。〈閃光〉アスナに、〈黒の剣士〉キリト。それに、〈雷剣〉と最近呼ばれる俺の攻略組が一同に会す機会は攻略会議とボス戦を除いて殆どない。周囲の目を受け流しながら、キリトについていくと、およそ五分ほどでキリトは止まった。道の右側に、大きめのレストランがある。

 

「ここ?」

「そ。お薦めは肉より魚」

 

キリトを筆頭に、店の中の奥まったテーブルへと進む。その途中でも、こちらへと向かう視線は数多い。流石に少し疲れてきたのだが、今更帰るといったら提案したアスナに睨まれるのは必死。大人しくすることを決めた。

キリトがフルコースらしき注文をすると、アスナは正面に並んだ俺とキリトがギリギリ聞こえる位の声をだした。

 

「ま…なんていうか、今日は…ありがと」

「へっ!?」

 

隣のキリトが驚いたように声を出すと、アスナはジロリとキリトを見てから、再度口を開いた。

 

「ありがとう、って言ったの。ガードしてくれて。」

「…どういたしまして」

 

俺が言う声が若干いつもと異なった。その理由としては、目の前の人物──アスナが、普段の攻略会議では前衛がああだ、攻略がこうだという話題で尚且つ強気で話す様しか見たことがないからだった。低層でも不機嫌な様子しか見ていないが。アスナは穏やかな目を宙に向けて呟いた。

 

「なんだか、あんなにたっぷり寝たの、ここに来てから初めてかもしれない…普段は長くても三時間くらいで目が醒めちゃうから…」

「目覚まし…アラームで?」

 

俺の問いに、アスナは首を振った。

 

「ううん、不眠症って程じゃないけど…怖い夢見て、飛び起きたりしちゃうのよ」

「…そっか」

 

キリトはそう言って一瞬俯いたが、次の瞬間再び口を開いた。

 

「えー…あーっと…なんだ、その、また昼寝したくなったら言えよ。」

「そうね、また同じくらいの最高の天候設定の日がきたら、お願いするわ。」

 

にこりと微笑むアスナと、言葉を無くしたキリト。本当に帰ろうかなあ、と思うのだが、立ったら立ったでめんどくさそうだなあとか思っていると、NPCがサラダの皿を持ってきた。色とりどりの野菜──見た目は謎──が並んでいるのを見ると、隣の食いしん坊は既に謎のドレッシングをかけてばりばりと頬張っていた。

 

「…生野菜ねえ。まあ、まずくはねえけど…」

「えー、美味しいじゃない」

 

アスナが野菜を頬張りながら俺の意見とズレるとも言わない食い違いを見せると、キリトはまた違った意見を出した。

 

「んー、まあせめてマヨネーズくらいあればなあ」

「それ言うなら揚げ物にソースだろ」

「んー、それならケチャップも欲しいかなー、あと…」

 

各々の要望を口にすると、1拍の間が空き、次いで全員が口を開いた。

 

「「「醤油!」」」

 

3人が完璧に同じタイミングで同じものを叫んだ。その事に、3人が同時に吹き出した瞬間──。

 

「…きゃあああああ!」

 

突如として聞こえた悲鳴に、思わず立ち上がって剣の柄に手を伸ばした。同様にしたキリトとアスナも立ち上がった。

 

「店の外だわ!」

 

直後、3人が店の外に椅子を蹴飛ばしながら駆け出す。通りに出ると、再びの悲鳴。3人は視線をちらと合わせると、駆け出す。この先の円形広場からか、と検討をつけて広場でブーツから火花を飛ばして止まった。

原因は、見れば明らかだった。そして、それが──この事件の始まりだった。

 




圏内事件をどう進めようか、悩み所です。

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