ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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第10話まで来ました。今回はあのキャラクターの登場です。




10話『仇討ち』

「…お願いだ!仇を討ってくれ!」

 

最前線の街で、転移門前に男が泣きながら周りに叫んでいた。そこで俺が立ち止まったのは、男と目が合ったのと、たまたま近場にいたからだった。

 

「あんた!話だけでも聞いてくれないか!…そこのあんたも!話だけでもいい!」

 

その男が俺と、目の前にいた男に声をかけた。目の前の男をゆっくりと見ると…

 

「…キリト」

「…アキヤ」

 

目の前にいたのは、最近〈黒の剣士〉と称されるキリトだった。

 

 

 

近場の喫茶店に場所を移し、俺とキリトは男の話を聞くことにした。が、その前に、俺は男に声をかけた。

 

「…仇を討ってくれ、って言ってたけど、俺たちはその…殺すとかいうのは勘弁したいんだが。」

「大丈夫です。方法も情報もあります。ただ、実行に移すには俺じゃ力が無くて…」

「…まあ、事情をまず聞こう。話はそれからだろ」

 

キリトの言葉に、男は話し始めた。男は〈シルバーフラグス〉というギルドのリーダーらしいが、そのギルドは5日程前に、38層で自分を除いて全滅した。原因は、ロザリアという女率いる〈タイタンズハンド〉というオレンジギルドの手にかかったらしい。

 

「方法は…これを使ってください。」

 

男がそう言って差し出したのは、〈回廊結晶〉。攻略組でもおいそれと手出しが出来ない金額に設定されている高級品を差し出されて、俺は男に思わず目を向けた。男は震える手をもう一方の手で抑えるように握った。

 

「ギルドの残った金全部で買いました。行き先は黒鉄宮の牢獄に指定してあります。あいつらを憎い気持ちはありますが、牢獄に、送って下さい…」

 

男の声は最後は消え入るようだった。その声を聞いて、俺はキリトの目を見た。かつて虚ろだった目には、光がしっかりと戻っている。

 

「…分かった。俺たちが引き受けるよ。情報を教えてくれ」

 

キリトがそう言うと、男はお礼を言いながら〈タイタンズハンド〉のロザリアが35層あたりで活動してることを報告して、何度もお願いします、と言って去っていった。

 

「…俺もやるかの確認くらい欲しかったけどな」

「悪いって…俺一人でも大丈夫だとは思うんだけど、一応な。人数も多いみたいだし。…接触出来たら俺から連絡するから、アキヤは攻略進めといてくれるか?」

「まあ、まだ攻略自体は余裕あるとは思うんだけどな…分かったよ、こっちも何か変わったら連絡する」

 

そう返すと、キリトは早速向かうようで、転移門の方に歩いていった。

 

「…んじゃあ、頼まれたんだし、ぼちぼち攻略しようかね。」

 

 

 

軽く肩を回し、装備を確認して最前線のフィールドに足を向けた。

キリトからの連絡は予想以上に早く来た。二日後の夜に、キリトからメッセージが飛んできた。

 

『ロザリアと接触した。どうやら〈プネウマの花〉を狙うようだ。明日ビーストテイマーと47層に行くから来てくれないか。ビーストテイマーには助っ人って伝えておくから』

 

以上の文章を読んだ瞬間、6割は素直に納得した。しかし、残りの4割は…予想していた通りではあったが。

 

「…何か、面倒事になりそうなんだが…」

 

あいつが行ったのは35層あたり。そこで知り合ったプレイヤーを47層に連れていく、というのは要するに護衛、もしくはレベル上げになるということ。〈プネウマの花〉は〈使い魔〉を失ったビーストテイマーが〈思い出の丘〉に行かないと咲かないはずなのでどうしようもないことではあるが。

──まあ、あいつも考えてるんだろう。ここはあいつに任せるとしようか。

自分にそう言い聞かせ、了解の旨を知らせると、俺は武器類の確認を一応してから休むことにした。

 

 

 

翌日。転移門広場に来た俺は、転移門で47層に向かう。街の名前はその層の特色…というかそのもので、とても覚えやすい。

 

「転移、〈フローリア〉」

 

途端、青い光に包まれ、次に移った視界は一面の花畑だった。この層は通称〈フラワーガーデン〉。街だけでなく層全体が花だらけ、という特徴的なフロアで有名だ。転移門前も有名なフロアだけあって賑わっている。

 

「…フィールドで合流すればいいか。」

 

この辺りよりもフィールドにいれば合流もスムーズだろうと考えた俺は、『フィールドに出る所にいる』とキリトに送り、歩き出す。

〈圏内〉と〈圏外〉の間とも言える門に寄りかかって立つと、遠くから黒づくめの男が現れた。鮮やかな花と対照的でとても見つけやすい。その横に、小柄な2つ結びの髪の女性がいた。キリトは俺を見ると、右手を軽く上げた。

 

「よ、アキヤ。悪いな、遅くなって。」

「いや、そこまで待ってねえよ。で、そちらが話にあった子か?」

 

俺が指し示すと、赤い装備を基調とした女の子はぺこり、と頭を下げた。

 

「あ、シ、シリカです。キリトさんには昨日助けて貰って…それで、〈プネウマの花〉を取りに行くのを手伝ってもらうことになって…」

 

俺が初対面だからか、多少緊張したような言葉遣いだが、それを抜いてもかなり礼儀正しい子だろう。仕草や言葉の端々からもそれは伺える。

 

「えーと…俺はアキヤ。このキリトの友人。今日は念のための助っ人に呼ばれただけだから、基本方針とかはキリトに従って貰えば大丈夫。だろ?」

 

俺が最後にキリトに視線を向けると、キリトはやや呆けた後に頷き、それからシリカの方を向いた。

 

「基本はさっき言ったことを守ってくれれば大丈夫。戦闘に関しては複数体を相手にしないように俺とアキヤで回りは片付けるから、気にしないで闘っていいよ。それじゃあ行こうか」

 

キリトの言葉にシリカが頷くのを見ると、シリカとキリトの後ろに付く。まあこの層ならそこまで苦戦はしないだろうし、大丈夫だろうと思いながら二人の後を付いていくことにした。

 

 

 

それから数分後。モンスターとめでたく初のエンカウントをしたわけだが。

 

「ぎゃ、ぎゃああああ!?なにこれ──!?き、気持ちワル───!!」

 

シリカがブンブンと短剣を振りながら喚くのも無理はない。目の前にいるモンスターは回りの花畑からは一線──どころじゃないもの──を画して、もはやグロテスクだ。キリトはそんなシリカを傍目で見ながらふと呟いた。

 

「…そういや、ここの層こんな敵ばっかりだったな…シリカは大丈夫かな…」

「さあな…おっと。ちょっと片付けてくるからシリカのサポートよろしく」

 

キリトにそう言って、少し離れた後ろの方を向く。そこには、似たようなモンスターが2体ほどいる。〈索敵〉スキルを使って、なるべくシリカが複数体相手にしないように、遠くの敵が近づいて来ないようにするのが俺の役目だ。近場にいる場合はキリトが担当するらしい。

 

「…よっ!」

 

最前線よりもまあまあ下の層ということもあるが、元々この敵は弱い。1体をソードスキル〈ホリゾンタル・アーク〉で葬りもう1体を〈バーチカル・アーク〉で潰すと、シリカも戦闘を終えたようだ。何やら顔が赤いのは…聞かないでおこう。無駄な質問で変に気まずくなってもしょうがない。

それから数回戦闘をこなすシリカを見たが、ダガー使いとしての力量はそれなりに高いだろう。ヒット&アウェイの短剣の特徴をしっかりと使いこなしている。流石に攻略組と比べると些か劣るものの、腕前は中々だ。

 

「あれが〈思い出の丘〉だよ」

 

しばらく進んでキリトが指差したのは、回りと比べて一際高い丘。頂上まで登れば、そこに〈プネウマの花〉が咲くはずだ。シリカは道を眺めている。

 

「見たとこ、分かれ道はないみたいですね?」

「ああ。ただ、モンスターは相当出るらしい。…まあ、今まで通りで、気を抜かずに行けば問題ない」

「はい!」

 

俺の言葉にシリカが返事をして丘を登り出す。モンスターは徐々に大きくなるが、強さ自体はそこまで変わらない。どうやら事前にキリトが装備を提供したらしく、パワーアップしたシリカの攻撃に、モンスターは空しくポリゴンを散らしていった。

丘の頂上に着くと、シリカは木立が作った空間に入っていった。

 

「…見張りしてるから取ってこいよ」

「ああ。」

 

ここで俺が申し出た見張りとは、モンスターもあるが、ロザリアがここで襲ってくる可能性を考慮してだった。〈索敵〉スキルを使ってもモンスターの反応以外は無いため、ロザリアはこの周辺にはいないだろう。少し経つと、二人が中から戻ってきた。

 

「…おう、その様子だと取れたみたいだな。」

「はい!でも、この辺はモンスターも多いから、街に帰ってからしようってキリトさんが。」

「なるほど。俺もそれは賛成だな。帰りも似たような感じでいいだろ?」

 

キリトが頷いて、今度は丘を下り始める。そこで、俺は1つ考えを巡らせていた。

キリトと俺がいるなら、あらかたのモンスターは退治できるし、そこまで危険というわけではないだろう。それでもキリトがその提案をしたということは。

──ここからが、俺たちにとっての本番だ。

 

 




次回に続きます。

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