元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

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 更新が遅くなりゴメンナサイ。
 まとまった時間が取れないため内容がまとまらず、全然書けておりませんでした……。しかしながら、投稿したお話はほぼ原作沿いの繋ぎの回的な内容です。

 一週間に一話とか調子こいたことを申しておりましたが、なかなかに難しく。年末年始であと数話更新できるかもしれませんが、不定期更新と思って下さい。
 楽しみにされている方いらっしゃいましたら申し訳ありません。温かい目で見守っていただければと思います。


37

「それってつまり、二人に志々雄真実を暗殺しろってことですか」

 

 神谷さんの質問に、部屋が沈黙に包まれる。皆、固唾を飲んで大久保さんの返答を待つ。

 

「……そういうことになる」

 

 視線を下に向け、絞り出すように返答を行う大久保さん。私はその返事を聞くなり立ち上がり、その場を立ち去ろうとする。

 

「私も剣心さんも殺しの依頼を受けるような人間ではありませんので、他を当たってください。失礼します」

「待て!」

 

 でこっぱちこと警視総監の川路さんが、慌てて私を呼び止める。

 

「むろん、タダとは言わん。報酬は十分支払う。加えて今まであやふやにしてきた違反行為を超法規的に認めよう。例えば、阿片密売の高荷恵の無罪放免…」

「冗談じゃないわよ。取引の材料に使われるくらいなら、私は死刑台の方を選ばせていただくわ」

 

 彼の言葉を遮るように床をバンっと叩くと、高荷さんは啖呵を切りながら睨みつける。

 しかし、高荷さんの件を持ち出すのはいただけないな。追い打ちをかけるつもりで私も口を開く。

 

「そもそも、あなた達の過去の不始末が原因なのでしょう。自分たちでなんとかできないんですか? 高荷さんを人質にしてまで私たちを動かそうとするよりも、西南戦争の時みたいに立派な軍隊があるんですからそっちを動かせばいいじゃないですか。私と剣心さんに頼むよりも、よっぽど現実的だと思うんですけどね」

 

 まったく、国が個人を恐れるなんて酷い事態だ。武器商人や剣客を囲い込んだとしても、戦争に関しては素人だけの集団ではないのか? 軍が動けば鎮圧は容易いだろうに。

 

「せ、西南戦争からまだ半年しかたっておらんのだ! 国の内乱にまた軍を出してしまえば内政の不安を諸外国にさらしてしまうことになる!」

 

 まぁ、なんの事情もなしに依頼に来たわけではないとは思っていたが、そんな理由があったのか。かといって、理由を聞いても依頼を受ける気にはなれない。結局は面子の問題であり、勝手なそちらの都合だろう。そのようなことにこだわり手をこまねいている暇はあるのだろうか。本当に明治政府が転覆されるようなことがあってからでは遅いだろうに。

 

「政治のことは()()()の俺にはよくわかんねーけど、まかり間違えば剣心も志々雄同様に抹殺されてたかもしれなかった事は理解できたぜ。今も昔も自分たちの都合で暗殺だの抹殺だの……。オッサン達、ちと頭おかしーぜ」

 

 弥彦の言葉に、その場が静まり皆沈黙する。子供の素直な意見とは、こういったときには強力だな。思わず緩みそうになる頬を引き締め、心の中でよく言ったと弥彦のことを褒める。

 

「大久保卿、今あなた方が剣心と浜口さんを必要としていることはわかりました。けど、二人とも今は人斬りじゃないんです。私達は絶対に二人を京都へは行かせません」

 

 凛とした表情で、神谷さんは大久保さんに向かい言い放った。神谷さんの言葉に、私は今も昔も人斬りではないんだけどなぁなんて言葉が浮かぶが、ここで指摘するのも野暮だろう。なんというか、アレだ。言葉の綾という奴であろう。

 しかしこれだけのことを言われているにもかかわらず、大久保さんは、ピクリとも反応しない。先ほどから黙って我々の話を聞いているだけだ。

 

「バカが! 貴様らは事態の重大さが……」

「よしたまえ川路君」

 

 川路さんの言葉を遮るために、大久保さんが重々しく口を開く。

 

「これだけ重大な事に直ぐ答えを出せと言っても無理な話だ。一週間考えてくれ。一週間後の5月14日に返事を聞きにもう一度来よう」

 

 剣心さんと私の顔を交互に見ながらそれだけ言うと、大久保さんは立ち上がり、部屋の外へと向かい歩き出す。言いたいことは言い、聞きたいことは聞いたということだろうか。もう少し説得されるんじゃないかと思っていたので、少し拍子抜けだ。

 

「……大久保さん、随分やつれましたね」

 

 立ち去る大久保さんの背を見つめながら、剣心さんが話しかける。

 

「旧時代を壊すことより新時代を築く方がはるかに難しい、そういうことだ。いい返事を期待している」

 

 一度立ち止まりそう返答すると、大久保さんと川路さんは道場を去っていった。私はその様子を、ただ黙って見つめていた。

 

 

 

 

「大久保利通!!」

「おうよ、どーする旦那!?」

 

 夜も更けてきた頃、自宅に血相を変え駆けこんできた赤松の報告を聞きながら、渋海は顎に手を当て考え込む。自分が飼いならしていたと認識していた斎藤が、実は大久保内務卿の密偵であったとの報告に驚きはしたものの、素早く自分が利を得るためにどう動くべきか考えを巡らす。

 

「そうか……。斎藤は大久保の()か……。斎藤に金を握らせて弱みをつかめば次期内務卿も夢では……」

「じょ、冗談じゃねぇ!! そんな危ない橋を渡るのは御免だぜ!俺は安全な上海にでもトンズラさせてもらう! いいな!」

 

 渋海の口から無意識に漏れ出た思考を聞くなり、赤末はこれ以上は付き合いきれないと渋海の部屋を後にしようとする。

 

「上海よりもっと安全な逃げ場があるぜ。地獄という逃げ場がな」

 

 そう呟きながら部屋に侵入した斎藤は、赤末の首を無造作に片手で持った日本刀で切り落とす。神谷道場から赤末を尾行してきた彼は、先ほどの会話を聞き潮時と判断。これ以上の茶番に付き合う必要もなくなったため、二人を殺害することにしたのだ。

 

「ひぃぃ!?」

 

 目の前でいともたやすく腹心の赤末が死に絶えた様に、渋海は腰を抜かし床を這いずり回る。

 

「渋海、お前は一つ勘違いしている。お前ら維新志士達は自分達だけで明治を築いたと思っているようだが、俺達幕府側の人間も『敗者』という役で明治の構築に人生を賭けた。俺が密偵として政府に服従しているのは、その明治を食い物にするダニ共を明治に生きる新選組の責務として始末するため。大久保だろうがなんだろうが私欲に溺れこの国の人々に厄災をもたらすようなら、『悪・即・斬』のもとに斬り捨てる」 

「ま……、待ってくれ! 金ならいくらでも……」

 

 自分の命の危機を感じ、なんとか交渉しようとする渋海であったが……。

 

「犬はエサで飼える。人は金で飼える。だが、壬生の狼を飼うことは何人にも出来ん!」

 

 斎藤は吐き捨てるように言うと、渋海を斬った。

 

「狼は狼、新選組は新選組。そして、人斬りは人斬り。そう簡単には変わらんよ」

 

 渋海の死体を見下ろし一言呟くと、斎藤はその場を後にした。

 

 

 

 大久保さんが道場に来てから一週間が経った。大久保さんには返事をもう一度聞くと一方的に言われていたが、無視するつもりだ。答える義理もないと思うのだが、今日がその日だと思うど、頭にそのことがちらつきどうにも落ち着かない。

 自室で帳簿の確認をする手を止め、ぬるくなった茶を啜る。(くだん)(けん)のせいで作業に集中できないせいか、先ほどから簡単な間違いを何度も繰り返してしまい、思わずため息をついてしまう。

 

「竜さん、もしかして調子でも悪いのかい?」

 

 そっと部屋に入ってきたさよが、湯飲みにお茶のお代わりを注ぎながら心配そうに聞いてくる。先ほどから何かと理由を付けては部屋にきていたさよを思い出し、どうやら心配させてしまっていたようだと気付く。

 

「……どうにもお腹が減ってしまってね。大福か何か、家になかったっけ?」

 

 お腹に手を当てながら、とぼけたような顔でさよに答えると、返ってきたのは大きな溜息。

 

「はぁ、わかったよ。たしかこの前買ったお饅頭がまだあったはずだから、持ってきてあげる」

 

 唇を尖らせながら、空になった急須を持ち部屋を出ていくさよ。その目には、私を非難する色が浮かんでいる。私の食い意地を非難しているのではなく、質問に対して嘘を答えた私に対する不満なのであろう。

 すまんね、と声をかけ小さく頭を下げて応じる私。嘘と気付いてあえて追及しないでくれるその優しさと、心配をかけて申し訳ない気持ちに対し、思わず謝罪の言葉が零れてしまった。

 夫婦となって何年だったか。わずかな彼女とのやり取りの中に確かな絆を感じ、なればこそ決して大久保さんの依頼には答えられないなと心の中で強く決意を固める。斎藤さんの言う通り、今の私は牛鍋を作っている方がお似合いなのだろう。

 なぜまた道場なんかに通いだしてしまったのか。沖田はもういない。剣の腕が上達することに、もう意味はないのだ。庭や道場の隅で素振りをしているだけではいけなかったのであろうか。いや、その行為自体、未練がましく、なんとも女々しいことだ。

 ずっと考えない様にしていたことだが、私が木刀を握る本当の理由は、あの時代に無くしてしまったいたのかもしれない。

 

 さよが出ていき部屋で一人になると、気が緩んだせいでまた溜息をついてしまった。今日はやけに溜息が多くなってしまいいけない。溜息をつくと幸せが逃げていくとは誰の言葉だったか。両の手で頬を叩き気合を入れなおすと、私はまた帳簿に向き直るのであった。




 竜之介に感化され、斎藤さんが赤末を斬らない赤末生存ルートとか考えましたが、斎藤さんの考えは変わらんだろうなぁと思ってやっぱり退場させました。
 生存した場合、斎藤さんの使い走りとして生きていく感じですね。
京都に連れてこられて、『足手まとい』とか言われて葵屋に残り、鎌足VS赤末な展開とか考えていたんですけどね。

 まだ東京編は一話か二話ぐらい続きますが、ここまでの話の中で個人的に一番好きだったのは、武田観柳編です。
 あくまでも個人の妄想の文章化であり、読み物としてどれも微妙との自己評価ですが、般若との戦闘とか、さよやたけさんとの絡みが中々に好きな感じでした。

 面白くなりそうだと思っていた斎藤編が、書き起こしてみると今一な気がしないでもないです。自分の中で妄想したいろいろなことを、うまくアウトプットしきれていないのかもしれません。特に過去の新選組での斎藤、沖田、竜之介の人間関係や小話みたいな部分は、回想を交えて書いても良かったかなと反省です。
 池田屋事件を題材に、オリジナルエピソードとか妄想してみたんですけど、そのうち回想編としてどこかで挟むかもしれません。

 各キャラの心情を想像して、自分なりに違和感ない感じになるよう心掛けているのですが、どうなんでしょうね。

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