元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

15 / 41
13

 捨て台詞を吐くと、鵜堂さんは窓から飛び降り逃走を図る。…逃がさない!

 

「待て!」

 

 私も窓から飛び降り鵜堂さんを追いかける。

 

「竜之介ぇ!」

「浜口殿!」

 

 後ろから剣心さんと左之助の、私の名を叫ぶ声が聞こえてくる。申し訳ないが、ここで取り逃すと厄介なので立ち止まらない。それよりも左之助には早く腕の治療をして欲しいところだ。鵜堂さんがいなくなり、そちらは安全なのだから。

 

 暗闇の中、鵜堂さんの後を追う。白い着流しが仇となったな。星明りに照らされて良く目立ち、追いかけることに造作も無い。

 

 

 

 しばらく追いかけると、鵜堂さんは町外れの鎮守の森に入っていった。これは誘っているな。そのまま追いかけると、森の奥の祠の前で立ち止まり振り返る。

 

「チッ、しつこい奴だ。そんなに早く斬られたいか」

 

 睨みつけてくる鵜堂さんを観察する。息は上がっていないな。私も足を止め、木刀を正眼に構えて相対(あいたい)する。

 

「知らなかったんですか、『木刀の竜』からは逃げられないんですよ」

 

 ここからが正念場か。余裕を見せるために、ニヤリと笑って見せるが、彼の殺気がさっきとは大違いだ。

 

 しばしの沈黙の後、先に動いたのは鵜堂さん。

 

 

 平突きを繰り出す。体をわずかに横にズラし躱す。そのまま剣を横に薙ぐので、バックステップで距離をとる。

 鵜堂さんの連撃は続き、私との距離を詰め唐竹割を繰り出そうと剣を振りかぶる。

 ここだ!攻撃と攻撃の合間のわずかな隙を突き、相手の胸に突きを喰らわす。

 

「グッ!」

 

 浅いな、後ろに下がりながらだったため、踏み込みが甘く、手だけで打ってしまったか。再度距離をとり、仕切りなおす。

 たたらを踏む鵜堂さんであったが、すぐさまを体勢を整え、右手で刀を担ぐ、というか背に回す。妙な動きだ。

 そのままの体勢でこちらに突進してくる。なんだ、隙だらけに見える。あの体勢じゃあ刀を振り切るのに時間がかかる。意図は?

 

「くぅ!」

 

 なにか得たいの知れない殺気を感じ取り、とっさに左側に回避する。鵜堂さんが()()一本で持った刀で斬撃を繰り出す。体勢を崩し片膝立ちになるが、相手から決して目を離さない。片手で持った木刀を相手に向けるが、返す刀で弾き飛ばされてしまった。

 

 いつの間に持ち替えた?先ほどまでは、確かに右手に刀を持っていた。背中に刀を回したのは、持ち手を変えるためか。そうかあれが…。

 

「『背車刀(はいしゃとう)』ですか。初めて見ました」

「フン…。次はお前の首を斬り落としてやる」

 

 ニヤニヤ笑いやがって。素早く立ち上がり、無手の構えをとり、再び対峙する。

 

 

 そこから、激しい打ち合いとなった。刀を手甲で受け、蹴りを躱され、拳を受け止められ…。手数はこちらが多いのだが、刀の一撃をもらえば一撃で勝負がつく。

 しびれを切らした鵜堂さんが、大振りの斬撃を繰り出す。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ガキィィィィィン。

 

 振り下ろされる刀に向かい前進し、頭上で交差させた腕で刀を受ける。(いった)いなぁ!鉄板を仕込んでいるとはいえ、かなりの衝撃だ。けど、捕まえた…!

 受け止めた刀を腕で挟み、思いっきり体を右にひねる。

 

 バキィ!

 

「何ィィ!?」

 

 

 刀を折ってやった。そのまま体を回転させた勢いで回し蹴りを鵜堂さんの脇腹に叩きこむ。

 

「ぐはっ!」

 

 いい感じに吹っ飛んだが、まだ折れた刀を握っており闘志は衰えていないようだ。しかし、今の一撃で肋骨が何本か折れた感触がある。もうこれまでの様に動けまい。これまでだな。

 

 

「勝負はつきましたね。鵜堂さん、大人しくお縄についてください」

 

 警戒しながら、ゆっくりと倒れている鵜堂さんに近づいていく。

 

「よりによって貴様なんぞに…。貴様なんぞに捕まってたまるかぁ!」

 

 そう叫ぶと、鵜堂さんは折れた刀を自分の左胸に突きさす。

 

「鵜堂さん!」

 

 急いで近寄ると、鵜堂さんの顔は満面の笑みでこちらの顔を見つめてくる。

 

「うふふふ…。浜口、随分といい顔だナァ…」

「何を言っている! 死ぬ必要なんてないじゃないか! おいっ!」

「どうせ捕まったところで殺されることはわかりきっている。いつ死ぬかぐらい自分で決めさせろ…。それに…。ごふっ」

 

 少し溜めて、再び口を開く。

 

「…いや、何でもない。うふふふ…」

 

 それ以上、私は何も言えなかった。

 

 

 しばらくぼうっとしていたが、このままではいけない。しばしどうしようか迷ったが、鵜堂さんをそのままにして、谷氏の屋敷へ向けて歩き出す。とりあえず人を呼ばなくては。

 

 森を出て街を歩いていると、すぐに警官と遭遇した。

 警官は、谷氏の屋敷を飛び出し行方が分からなくなっていた私と鵜堂さんを探しており、事情を話すと警察署に連れていかれた。

 警察署に着くなり、私は署長室に通され、浦村署長と再会した。無事でよかったと安堵してくれたようだが、私のせいで仕事を増やしてしまい、なんともバツが悪い。

 夜が明け、空が白み始めていたが、事が事なので、そのまま何が起こったのか説明をした。

 

 必要な説明を終える頃には、すっかり朝になっていた。話を終え、お互いに何度目かの欠伸を噛み殺すと、本日はこれで終わりにしましょうと浦村さんが言い、この場はお開きとなった。

 退室しようと立ち上がると、寝不足の影響か、少しふらついてしまった。昔であればこの程度はなんともなかったのに、私も老いたというか、衰えたというか。

 その様子を見ていた浦村さんが、家まで警官に送らせると申し出てくれた。申し訳ないので辞退したのだが、天下の往来で倒れられてしまっても困ると言われると何も言い返せない。これ以上は酔払いが酔っていないと主張することと同じだと思い、素直に申し出を受けることとした。

 私は警官に送られ、帰宅した。もちろん、足取りはしっかりしていましたよ?

 

 

 玄関を開けるや否や、部屋の奥からさよがスッ飛んできた。一応昨晩は、遅くなるし何時に帰れるかわからないから、先に寝ててくれと言い残し出かけたんだけどね。いやっ、そういう問題じゃないか。

 

 さよは何か言いたそうではあるが、家まで送ってくれた警官を見て、戸惑っている。昨晩は警察署内でお世話になって、送ってもらったのだというと、彼女は平身低頭して警官に謝罪した。

 私が、『犯罪』になるようなことは何もしていないから安心して欲しいと言い、警官もその言葉に同調すると、さよはホッとしたような表情をし、その後私はしこたま怒られた。その様子を見ていた警官が、苦笑していたが、まぁ甘んじて受け入れよう。

 

 警官が帰り、ようやく敷居を跨がせてもらうと、さよが真剣な言葉で聞いてくる。

 

「竜さん、昨日はいったい何があったんだい? 心配してるんだよ?」

「いやぁ、道場の何人かとね、ちょっと出かけていたんだけど、その後で昔の知り合いと会って盛り上がっちゃってさ…」

 

 嘘は言ってないぞ。信用って大事だからね。嘘は極力つかないのが私のポリシーだ。

 

「ふーん。その格好で?」

 

 ん…?

 

 やべぇ、手甲と鉢金付けっぱなしだわ。おまけに着物に血もついている。眠気と疲れでそこまで頭が回らなかったか。さよの言葉に冷や汗をダラダラ垂らしながら、眠気が一気にぶっ飛んだ頭脳をフル回転させ、言い訳を考えるのであった。




 鵜堂さんの独自設定というか解釈があり、悪役として鵜堂さんに魅力を感じている人には大変申し訳ない内容でした。作者の力量不足が如実にでております。

 また、今回と前話で戦闘シーンが長く冗長になってしまったと反省しております。今後はさっくりと戦闘を終わらせるように工夫しようと思います。
 読み直しましたが、こういった戦闘シーンは求められてないなぁ、と思いましたが、瞬殺させてもなぁとも思いまして、迷いました。結局書き直すのももったいないため、そのまま投稿しましたが。

 また活動報告にチラ裏ではございますが、鵜堂編の後書きを書きました。ご興味がありましたら読んでみてください。

 当方は二次創作の小説を書くのが、今回初めてでした。オリジナルで書くより楽な部分と難しい部分があり、現在も四苦八苦しております。こんなものでよければ、今後とも書きますので、読んで頂ければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。