元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

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 この話を投稿後、順次過去の文章を改訂します。おそらく10分以内に終わるとは思いますが。
 細かい変更箇所は、改定後活動報告に記載しますが、主な変更点は下記のとおりです。

・主人公は転生者であるが、原作知識はない。
 →地の文(?)の現代人風の感覚の違和感の緩和。また、当時の人が知らない横文字の使用
・プロローグ1に転生者である描写を追加
 →設定の変更に伴うものです。
・剣心と主人公が初めて出会った際の描写を変更。
 →原作知識目線をもとに書いたドラクエ版の内容を引きづっていた為です。
・子供がいない理由を身体的理由に変更。
 →内容の改悪であったため。


また、変更後は各話の冒頭に、変更点を記入いたします。

 今後はコメントの影響ですでに投稿した内容変更を大幅に変えぬよう、進めていきたいと思います。不快な思いをしている方もいるようで、大変申し訳ありません。
 なお、感想返しは明日以降に行います。もう少々お待ちください。


鵜堂刃衛編
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 左之助が道場に出入りするようになってからしばらくたった。怪我の治りは医者の見立て以上に早く、ピンピンしていたのでいろいろと仕事をさせている。

 左之助はあまり真面目ではないが、薪割りだとか水くみだとかの労働をそれなりに手伝ってくれている。一番恩恵を受けているのは、たぶん剣心さんだな。

 変わったことと言えば、この前左之助がまたしても大怪我をしたことだ。どうやら喧嘩に負けたらしい。どんな喧嘩だったのか詳しくは話してくれなかったが、相手はどうやら剣心さんだったようだ。

 道場内に揉め事を持ち込むことはやめて欲しいのだが、左之助は妙に清々しい顔をしているし、剣心さんと左之助の仲は、むしろ以前より良くなったようなので、静観することとした。

 二人の問題だし、二人の間で解決できていれば、まぁこれ以上の口出しはいらないだろう。

 

 

 それから数日後、私はいつものように道場に稽古に来ていた。午前中の稽古が終わり、お昼ご飯を食べたのちの小休憩中、縁側でくつろいでいると弥彦が素朴な疑問を口にした。

 

「なあ、ずっと気になっていたんだけどよ、竜之介と剣心ってどっちが強ぇーんだ?」

 

 場に流れる沈黙。弥彦め、あまり考えないようにしていたことを…。割とそれ、デリケートな問題よ。

 

「少なくとも、弥彦よりは強いわよ。そんなくだらないこと考えている暇があったら稽古しなさいよ。け・い・こ!」

「茶々入れんなよブス!」

「なによっ!」

 

 空気を読んだ神谷さんが弥彦の質問を有耶無耶にしようとしてくれる。

 

「しかし『人斬り抜刀斎』と『木刀の竜』といやぁ、ともに幕末最強の剣客候補、好事家垂涎の組み合わせだ。実際のとこどうなんだ?」

 

 左之助が適当なことをいいながら話を蒸し返して聞いてくる。弥彦も私と剣心さんの顔を見ながら、答えを待っている。さてどうしようか。

 

 

 思い返してみると剣心さんと会ってから、数度剣心さんが剣を振るう場面を見たことはあったが、すべて本気ではなかった。並の相手には負ける気はないが、剣心さんの真の実力が分からない以上、勝てるかと問われればわからない。ここは無難に…。

 

「剣心さんの方が強いよ。」

「浜口殿の方が強いでござる」

 

 見事にハモったな。お互い苦笑しながら顔を見合わせる。

 

「いやいや、私なんてそんな。隊の中でも剣心さんと戦うことは止められていましたから、実力は剣心さんの方が上ということだと思いますよ。そいうことでいいですよね、剣心さん?」

「しかし、拙者も本気の浜口殿とやりあって勝てるかと言われると分からないでござるよ?」

 

 剣心さんが困ったような顔で答える。

 

「じゃあ引き分けってことで」

 

 ニヤリと笑いながら弥彦に向き直る。

 

「なんだよ、つまんねーな」

 

ちゃんと答えてあげたのに不満げだな。

 

「だって、見世物じゃないもん」

 

 むくれる弥彦を煙に巻き、したり顔で見返してやる。

 

「はいはいそこまで。いつまでも油売ってないで午後の稽古始めるわよ。」

 

 神谷さんが話を打ち切ってくれたので、これ幸いと稽古の準備をしようとしたところ、道場に不意の来客があった。

 

「お取り込み中申し訳ありません。緋村さんは御在宅でしょうか」

 

 

 

 道場にいらっしゃったのは、近所の警察署の署長、浦村署長であった。

 

 剣心さんに会いに来た浦村署長は、まず、先日の剣客警官隊の件について謝罪を行った。あー、そんなこともあったなぁと思い聞いているが、謝罪は本題ではないようであった。

 剣心さんが本題を話すように促すと、浦村署長は本題である、剣心さんへの頼みごとについて話し始めた。

 

 話は簡単で『黒笠』と呼ばれる剣客を『倒して』欲しいとの依頼であった。黒笠は、政、財、官界で活躍する元維新志士を狙う殺人鬼で、斬奸状(ざんかんじょう)という犯行予告を送り付けてから狙った獲物及びその護衛を斬り殺すことを繰り返しているらしい。この10年で数十回を超える犯行を繰り返し、未だ仕損じることはなく、被害者は100人を下らないとのことだ。

 そんな大量殺人者が、なぜ無名であるのかというと、警察の威信にかかわる機密であり、新聞社にも緘口令を敷いていると浦村署長は語った。

 なぜ今になりそんなお願いをするのかと聞くと、実は、浦村(うらむら)署長が斬奸状(ざんかんじょう)を送り付けられた要人の警護を頼まれ、剣心さんにその助っ人として、警護に協力して欲しいとのことであった。

 

 黒笠についてもっと詳しい情報を教えて欲しいとお願いすると、襲撃され、奇跡的に一命をとりとめた者の証言を教えてくれた。その生存者によると、黒笠と相対すると金縛りにあったように体が動かなくなり、その間に護衛及び標的とされた者たちが、次々と切り殺されていったとのこと。

 

「二階堂平法、『心の一方』か」

 

 浦村署長がそこまで話すと、剣心さんがぽつりと呟いた。話を聞いていた私も、同じ結論に辿り着いていた。無論、そこから推測される下手人についても、心当たりはある。

 剣心さんも下手人についての心当たりも、ある程度ついているのであろう。ふと、彼の凶悪な笑みを思い出す。昔の仲間の不始末だ。助力してもバチは当たらないだろう。

 

「えっと、その警護なんですけども、私も参加させてもらっていいですか?」

 

 

 戸惑う浦村署長に

「浜口殿の腕は拙者が保証する」

と剣心さんがフォローしてくれたため、警護への参加が認められた。

 途中左之助が『木刀の竜』の名前を出さなければ、余計な警戒もされず、もっとスムーズに話が進んだのだが…。

 

 後で浦村署長に聞いたのだが、一部薩摩出身の警官達より『黒笠』の正体は『木刀の竜』ではないかとの噂が立っているようであった。…ひどい風評被害を聞いた気がする。

 落ち込んでいると、浦村(うらむら)署長から

「噂で聞いていた人柄、見た目とずいぶん違いますね」

と慰められた。その言葉に私は肩を落とすのであった。

 

 

 

 数日後、斬奸状(ざんかんじょう)の犯行予告日、私と剣心さんと左之助は浦村署長に連れられて、今回の黒笠の標的である陸軍省の要人、谷十三郎の邸宅に来ていた。

 外には多数の警官隊が警戒に当たり、ピリピリとした物々しい雰囲気である。

 

 谷氏の部屋の前まで来ると、浦村署長に話を通してくると言われたため、三人で部屋の前で待機することに。

 壁が薄いのか、はたまた二人の声が大きいのか、廊下には谷氏と浦村署長の声が聞こえてくる。

 

 

「護衛の助っ人? いらんいらん、相手はたかが兇族(きょうぞく)一匹。助っ人どころか警察の警護もいらんわさ」

「甘すぎますよ。谷殿、相手はあの黒笠ですぞ!」

 

 黒笠に狙われているというのに、谷氏の方はだいぶ余裕がありそうだ。

 

「口を慎め! 剣林弾雨(けんりんだんう)を駆け抜け『木刀の竜』から逃げ切り維新まで生き抜いたこの俺に、一介の署長ごときが意見する気か!」

「ならばこそおわかりでしょう。達人の振う殺人剣がいかに恐ろしいかを」

「フン、わかっておるからこうして選りすぐりの最強護衛団を組んでおるのよ! 陸軍省にその人ありといわれる谷十三郎に心酔している猛者ばかりのな!」

 

 中から聞こえる会話に、剣心さんも小さな溜息をついている。これは余裕というより慢心だ。まったく、だんだんと浦村署長がかわいそうになってきた。

 

「そもそも外部のどこぞの馬の骨を助っ人に頼もうとするなぞ、なんと誇りのない! その助っ人がお前の配下全員合わせたより強いとでもいうのか!?恥知らずめが!」

「…面目ありませんが、その通りです」

 

 もうここまでだな。剣心さんと目が合い小さく頷くと、室内にゆっくりとした足取りで踏み込んでいく。

 

「聞いていれば谷さんも随分()()()になりましたね。背中を貸して剣林弾雨(けんりんだんう)から しょっ中守っていた幕末()の頃とはまるで別人のようですよ」

「ゲッ!」

 

 ポカンとした谷氏の表情が、剣心さんの言葉により驚愕の色に染まる。その滑稽な様子を見てしまい、思わず吹き出しそうになる。

 

「おいおい、どこが選りすぐりの最強だよ。どいつもこいつも一度はブッ飛ばした覚えがあるぜ」

「ゲゲッ!」

 

 左之助が入るや否や、谷氏の後ろに控えていた『護衛団』の面々の顔が青く染まる。

 

「お久しぶりですね、谷さん。元気にしていましたか?」

「…?おっ、お前はもしかして…」

 バタッ!

 

 私の顔しばらく見つめていた谷氏であったが、何かに気付いた表情をするなり絶叫し、泡を吹いて倒れてしまった。

 先ほどの会話で、私の名前を出していた為、茶目っ気をだして話しかけてみたのだが、失敗だったようだ。実は名前も浦村署長に聞くまで知らなかったし。泡を吹く谷氏の顔をまじまじと見つめてみるのだが、どうも見覚えはない。

 

 

 

 混乱を収束するために、しばらく時間がかかった。私に怯える谷氏を、剣心さんが何とか説得し、ようやく警備をはじめられる状況になったのだ。斬奸状(ざんかんじょう)に書かれている犯行予告時間よりも幾分か早く現場に来ていたことが幸いしたな。

 どうも谷氏、以前に私が取り逃した維新志士らしい(本人の弁による)のだが、記憶にない。当時は多くの維新志士と相対し、そのすべてを覚えているのかといわれると、そんなわけもなく。そもそも狙った対象以外の維新志士が逃げた場合、あとを追って捕縛に行くこともなかったので、そういった有象無象のなかの一人だったのだろうと、自分の中で結論付けた。

 実際に会ったことがあったとして、何か変わるだけでもないし、さっさと忘れよう。

 

 ともかく、余計な確執(?)は片付いたので、警護に取り掛かかることにするか。


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