一輪の花   作:餅味

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探し求めたはずの者たち

カジット達を表に引きずり出すと奇妙な縛り方をし、放置したまま街へと戻る道中。

 

「ねぇ、私が言うのもなんだけど悪趣味だよ?」

 

クレマンティーヌは顔を引きつったままである。

 

「これはかなり昔、パンプ・ザ・ヘッドさんが教えてくれたやり方なんだよ」

 

「わーお.....良い趣味してるわホント」

 

自信満々そうなあろまボットンに、何を言っても無駄だろうと脱力する。

 

股縄・亀甲縛り等々の様々な羞恥プレイを巡回の兵士に目撃される。

 

当然この二人が真実を知ることはない。

 

カジットの叫びはエ・ランテルの静かな夜に溶けて消えていく。

半泣きながらもなぜかわずかに赤面するカジットには、あまり人に迷惑をかけないようにと忠告しておいた。

置き土産にある花の種とたんまりと海藻類を渡すのも忘れずに。

 

なお数年後カジットの頭皮は蘇り、無事更生し墓守として一生を全うしたらしい。

カジットが墓守を務めると同時に、墓地にはアンデッドが沸かなくなったり、変態的な趣味の持ち主として、一部に何名かの同志を抱える仲間を見つけたとか。

 

 

・・・・・

 

 

その日はいつもの様に依頼をこなし、資金と情報収集に勤しむ為冒険者ギルドへと足を運んだモモンガ。

何か一気に冒険者として上へ行けないものかと日々思案するが中々良案が浮かばずにいた。

ナーベの人間に対する暴言の数々やナザリックの運営、あろまボットンの探索と他にも細々としたものことで頭を悩ませている為だ。

 

「どうかなさいましたかモモンさーーん」

 

ナーベに睨みを利かせる。

ここの様に人の目が多い所での失言は勘弁してもらいたいと内心で溜め息する。

 

現在(シルバー)プレートまでトントン拍子に進み、期待の新人として冒険者の間ではちょっとした有名人にもなっていた。

 

「何でもない、依頼を受けに行くぞ」

 

「はい」

 

最も金額が高いものを選ぶ。

実はこの世界の文字を少しは覚え、どのプレートの色から受けられるか位は読み取れるようになっていた。

 

「これにするか」

 

ガチャリとギルドの入り口が開くと、ギルド内がざわつき出す。

有名人でも来たのかなと振り返る。

そこには妙な既視感を覚える変てこな甲冑を全身に纏う大柄な奴と短いブロンドの髪を持つ20代位の女性の二人組。

なぜこんなにギルドがざわつかせる原因は一目瞭然だ。

女の方が来ている装備には冒険者プレートで埋め尽くされており、喧嘩を売りに着たも同然の格好であるからだ。

 

「ほう」

 

馬鹿なのかと思うが、少し興味がわいてきていた。

両方ともこの街では見かけたことはない事や、他の冒険者の反応からしても他所からから来たのだろう。

 

「おいあんた達!何しに来やがった!」

 

冒険者たちは既に臨戦態勢に入っている。

 

「いかがしましょう?」

 

「少し様子を見る」

 

ナーベは頭を下げ後ろへと下がる。

 

「何しに?そんなの決まってるでしょ?」

 

「「「「「!!」」」」」

 

声からして鎧の中身は男と推察できる。

 

(声は思ったより若いな)

 

冒険者たちが武器を持つ手に力を込める。

 

「やっぱこの格好はアレだったかなー?」

 

「そうだね、ちょっとアウトだね」

 

ちょっとじゃないだろうとナーベを除いたその場にいる者が内心で突っ込みを入れる。

 

「表出てるからちゃっちゃと終わらせて来てねー」

 

ひらひらと手を振り、踵を返し出ていこうとする女を呼び止めようと近くの男が声を上げる。

 

「おい!何帰ろうとしてんだ!てめぇそのプレーあぎゃ!?」

 

男の鼻はへし折れ痛みで床を転がる。

殴り飛ばしたのは甲冑男の方だ。ここにいる者で今の攻撃が見えたのはナーベと自分、そして金髪の女位だろう。

女はまたかといった表情だ。

 

「はひぃはひぃ」

 

殴られた男は痛みで言葉が届いていない様だ。

 

今の状態の自分と戦って五分か、それ以上の戦士位だろうと予想を立てる。

ここに来てガゼフ以上の実力者を見つけられたことに笑みを浮かべる。

後は武技でも使えればナザリックに連行してもいいな、など算段を始める。

 

 

何が起こったか分からない面々は困惑し、一部の者はモモンに顔を向けどうにかしてくれと言った表情である。

 

仕方ないと男の前に立つ。

 

「ん?」

 

「私はここで冒険者をやってる『漆黒』のモモンという。そこの男が粗相したのは謝罪しよう。だがそちらにも非があった、ここは矛を収めてくれないか?」

 

「すみません、頭に血が上りやすいもので」

 

意外にも簡単に頭を下げる男に、僅かに驚く。

礼節もある。ただ鎧が絶望的にダサい。

 

周りの冒険者達にはモモンの威圧に負け、恐縮しているように映るため更にモモンの評価は高くなっていた。

 

「名前を伺っても?」

 

「あー訳有って、すみません。」

 

まぁあんな女を連れているのだ、当然と言えば当然か。

 

「ギルドへは冒険者登録へ?」

 

「そのつもりでしたけど、今すぐ必要なものでもないですから。それにクレマンティーヌちゃんは短気だから待たせると、拗ねてフラフラどこか行っちゃうんでまたの機会にしますよ。」

 

「そうですか、冒険者になるならいつか共に仕事でもこなしましょう。」

 

右手を差し出し握手を求める。

男はすんなり握手に応じる。

 

握った瞬間に伝わる禍々しい気配に眉を顰める。

これは呪いだろうか?

もしかしたらこの呪いを解く為に旅をしているのか?

答えの出ない疑問に悶々とする。

 

「最後に一つだけいいでしょうか?それは呪いの類でしょうか?」

 

周りに聞こえないように注意を払い質問する。

男はギョッとしてから首を縦に振る。

 

他言無用でと言うとまた頭を下げ、踵を返してギルドから出ていく。

 

まるで嵐が通り過ぎたかのようである。

 

冒険者はあの鎧男にくぎを刺したようにしか見えていない為、更に評価が上がっていた。

なんだったんだあいつらと疲れた表情で席に戻る冒険者たち。

内心ビビっていたことなどお互い分かっていたが、あえて口に出す者はいなかった。

 

モモンガはすぐさまメッセージを飛ばし、シャドウデーモンたちに追跡させる。

 

これから数日後チーム『漆黒』は(ゴールド)プレートへとなり、前代未聞の超高速昇格に更なる期待と嫉妬が増していく。

 

ちなみに鎧男の追跡には失敗、原因は追跡途中でシャドウデーモンたちが迷子になるという理解できない

当の鎧男はエ・ランテルでは度々目撃されている。

ひょっとしたら呪いの力が起因している可能性もある、現状は放置し街の外周には常に見張りを付けておくだけに留めておく処置をなされた。

 

 

・・・・・・

 

 

「そんでそのモモンとかいう男はあろまの正体に感づいたの?」

 

「いやあれは中二病こじらせたまま大人になっちゃっただけだと思うけど?」

 

「チュウニビョウ?何それ?」

 

「心の病だよ、男の子はだいたい経験あるんじゃないかな?」

 

「ふーん変なの」

 

宿の一室を取り、これからの目的を適当にだべる二人。

 

「にしてもやっぱあんな露出高い格好はダメだよ?男共の野獣の様な眼光だけじゃなくて、手まで出そうとする変態とかもいたし」

 

「あれは違うと思うけどね.....」

 

出会ってからもう何度目かも分からない溜め息を吐く。

 

「後さ、モモンさんの後ろにいた・・・・・似てるな」

 

「アンデッドのお友達だっけ?」

 

「でも戦士職ではないしなぁ」

 

「第一にモモンって奴人間でしょ?」

 

「それもそうだね。」

 

兜の下を見たわけでもないが、あんな中二病の人がモモンガさんなわけがないと一蹴する。

 

「それでね、そのモモンさん後ろにいた人がものすごい美人さんで!」

 

「・・・・・もう眠いから。廊下行って」

 

「あ、そう?・・・もしかして何か怒ってます?」

 

ケラケラとにこやかな表情が一気に急転直下の絶対零度へと変わる。

あろまボットンからしたら何が原因か見当もつかないでいた。

クレマンティーヌ自身も何故という原因が分からないでいたりする。

 

「怒ってないよー?ぶち殺してやりたいけどねー、全然怒ってないよー」

 

あろまボットンに発汗機能があれば、今頃部屋は水没していたかもしれない。

 

 

とある夜から鎧姿の幽霊が「どうすれば」「誰か教えてくれ」など何かを求めながら街を徘徊するという怪談話が、エ・ランテルの街に地味に広がっていったとかなんとか。

 




遅くなって申し訳ありません。
ドンドン遅くなっているので最低一週間以内には、なんとか上げたいと思います。

たくさんのお気に入り登録ありがとうございます!
完走目指して頑張ります!

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