一日歩き通してもエ・ランテルへは到達できず、すっかり日も暮れ辺りは真っ暗な森の中をトボトボと歩くあろまボットン。
幸いこの体になってからは疲労はない。
「せめて森は抜けると思ったのになぁ.....」
歩いても歩いても木・木・魔物・木・魔物の無限ループにげんなりしていた。
「空でも飛べたら良かったんだけど、
空飛ぶ植物とかキモ過ぎワロリンチョと習得せず、アイテムも所持していない。
ロールプレイ重視し過ぎたせいで、ギルド内で見事に最弱だったしなぁ。
どうしても気持ちが暗くなると、ギルドの仲間たちの事を思い出してしまう。
俺が入ったときにギルド長をしていた
俺がギルド長になるころには全盛期の五分の一以下まで数を減らしていた。
仲の良かったモレナベさんやパンプ・ザ・ヘッドが引退すると聞いた時は、よく泣いていた事しか覚えてない。
「あぁ、モモンガさんに会いたいなぁ」
空に浮かぶまん丸の月を仰ぎ見る。
こんな世界を皆で見て回って、お宝見つけて朝までバカ騒ぎしたいものだ。
一人でいる事なんてとっくに慣れ切ってるもんだと思ってたんだけどなぁ。
寂しげな背中に寄りかかる様にして、誰かが抱き着いてくる。
女性の甘い香りとチクリとする感触に心臓が跳ね上がる。・・・・・俺って心臓あるんだっけ?
「え!?」「なっ!?」
振り返れば全く身に覚えがない女性がこちらの顔を見ると、同時に後ろへ大きく跳躍する。
もしかして恋人か誰かと勘違いしたの?
あぁぁ!どうしよう涙目でポカポカ殴ってくるし、何言っても泣き止まないしでお手上げである。
こんな美人さんがオーガみたいにミンチになる事はないのだ、マジでここで生きていくのにパッシブスキル系が邪魔でしかないな。
どうしよう馬鹿みたいに覚えてるんだけど......
「あぁ!逃げないで!」
走り出した女性を呼びかけるがわき目も振らずに走り去ってしまう。
こんな夜更けに女性一人で出歩いては危ない。
ん?
いつ魔物に襲われてしまうか分からないのに、危険を冒してまで何でこんな森に?
・・・・・はっ!?
この間の漆黒の剣の容姿は如何にもな中世西洋風だった。
つまり駆け落ちだな!
あんなに綺麗な人だったんだ、きっとどこかの令嬢様なのだろう。
危険を冒し漸く会えたと思って飛び込んだのに、人違いだったら恥ずかしいよな。
あのポコポコもきっとちょっとわがままな令嬢の一面なのかもしれないな。人型でも異形種に飛び込むなんて、一歩間違えれば死んでいたかもしれないのによっぽど会いたかったんだな。
「そうと決まれば保護しないと!」
うお!あのご令嬢思ったより足早いな。きっとおてんば娘なんだろうな。
近づく魔物どもを丁寧に一掃しながら、徐々に距離を詰めていく。
「やーっと見つけた、ぞ?ってえぇ!?」
声をかけた途端に女性は白目をむいて倒れてしまった。
言い訳してる場合じゃない、幸い気絶してるだけだし目が覚めて明るくなるまでは守らないとな。
いくつかのアイテムを使って魔法や遠距離武器を通さない防壁や生命体を遠ざける膜を張り、アンデッド除けの聖花を周りに生やす。
目の届く範囲で距離を保ち、木の根元に腰かける。
起きたときまた驚かせては申し訳ないからな。
それにしてもこの森広いのにどこで約束してるんだろうな?
ん?
何名かの足音が聞こえる。
約束の人ではなさそうだな。
大方令嬢を連れ戻すために派遣された兵士とかその辺だろう。
「見つけたぞ!ん?貴様何者だ?」
「ただの通りすがりだけど、この女性に何か用か?」
「貴様には関係ない!おい連れてけ!」
リーダー格の男が俺を見て鼻で笑い見下している。
俺はこの手の人種を腐る程見てきた。
あぁ今は立場もしがらみもない。
「隊長!謎の魔法で近づけません!」
「そんな薄っぺらい障壁どうにかしないか!それでも風花聖典のはしくれか!」
「おい」
「なんだまだ消えていなかったのか、神の慈悲だこの場を潔く去りすべて忘れれば何もしないとも」
ゆっくりと立ち上がり、自分より背の低いリーダー格の男を見下ろす。
「10秒待つ。出来れば人は相手にしたくないんだ、そっちが諦めて消えてくれ」
「は?どうやら命が惜しくないようだな!」
男は鞘から剣を引き抜き、余裕綽々の表情には自分が一切負けることを想定していない。
「なんだ?構えないのか?腰の剣は飾りか?」
「あぁ飾りだよ。」
「くくくっ世界の広さを教えてやる!」
男は遊んでいるのか、令嬢よりも遅いとは滑稽でしかないな。
「時間だな。ふぅ
ピンク色の甘い香風が吹き抜けると、男どもはピタリと動きを止める。
数舜置いて男たちは下着1枚になり、完全に目がラリった状態になってしまう。
「うぇうぇ!熱い厚い暑い!ヒャッホー!!」「「「「「ヒーーャッホー!!」」」」」
ユグドラシルのときは一定時間の経過で治るものだが、この世界での効果時間は知らない。
それに加えて意外にも効くことが多い為、結構愛用していたものでかなり強化しているのでそんじょそこらの神官じゃ失敗する確率は高い。
「蝶々だぁ!!アハハハハハh!」「「「「「アヒャヒャヒャッヒャッ!!」」」」」
森の中へと散り散りに走り出す男たちを見届け、再び腰を下ろす。
「まさかパンツ1枚になって走り出すとは、まっいいか」
見上げた月夜は今日も今日とて美しい。
パンイチ男共の雄たけびが聞こえなければ、なお美しいだろうなぁ。
・・・・・
鳥のさえずりと差し込む朝日に薄らと目を開け、体をゆっくりと起き上がらせる。
私が寝ていた場所には柔らかな草が敷き詰めてあり、身体もいつも以上に軽く感じる。
確か昨日化け物のに追っかけられて・・・・・・
「!?」
周囲を見渡すが、あの化け物の姿は見えない。
見逃がされたのか?
なぜ自分が生きているか分からず、混乱した頭の中を整理していると茂みが揺れる。
音のする方へと向き臨戦態勢に入る。
「あっ起きた!今朝ご飯作るからねー」
変てこな甲冑を付けた長身の男の手には、いくつかの木の実や山菜に大きな葉を器用に桶にして水まで持って来ていた。
「お前みたいな変な野郎に知り合いはいないと思うんだけどなー?」
「えーとそうだね、昨日初めて会ったね」
「昨日?」
こんな変てこな奴なら覚えてると思うんだけどなー
「昨日は迷惑もかけたし、それにその、あれがこうでですね」
「は?」
「その、あの、あなたみたいな、その、ですね」
「話進まないから早く喋ってくんない?」
「は、はい」
男はごくりと喉を鳴らし、大きく深呼吸している。
見た感じ弱そうだし殺そうかなーなんて考え始めていると
「あなたみたいなき、綺麗な人見たことないものですみません緊張してます。」
「!?」
おいおいとんだ変態君かなこいつは
「昨日驚かせてしまったみたいでごめんなさい!」
「ん?」
驚かせた?
「罪滅ぼしというわけではないですけど、あなたの追手は全員追い払いました。」
風花聖典を?
「反応を見るに人から見る俺の姿は凄く恐ろしいようで、怖がらせて泣かせてごめんなさい。」
ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!
嫌な予感が的中しそうな気がしてならない。
「出来れば逃げないでください、取って食ったりしませんから」
男が兜を取ると見覚えのある顔をのぞかせる。
棘の生えた蔦が何重にも連なり、目の部分は小さくだが力強く揺れる青い炎が灯っている。
昨夜の化け物がそこにいた。
「俺は『
冷静に考えればこのトブの大森林で無防備に寝っ転がって生きて入れるわけがない。
こいつが私を守っただと?
「目的は?」
「目的?経緯はさっき話したよね?」
こいつ実はガチで無害なのか?
ってことは私のミスかー。
「風花聖典追っ払ってくれたって本当?」
「ええ、その辺でダンスしてますよ」
「ダンス?なにそれどういうこと?」
「あまり女性が見るものじゃないよ。ほらそこに風花聖典の皆が置いてった鎧や衣服やらがあるでしょ」
指さす方向には、鎧とやら衣服やらの装備一式が無造作に置かれていた。
「確かにあいつらが着てたものっぽいね」
ふむ、こいつ使えそうだな。
化け物だけど妙に義理堅い所あるっぽいし。
「私がどれだけ怖くてムカついたか分かるかなー?」
「も、もしかしてまだ収まってないとか?」
「当たり前じゃーん、正直今すぐ、おっとっと何でもなーい」
こいつ右往左往して本当に人間みたい。ま、ありえないけど。
「私のお仕事手伝ってくれるよね?」
「え?逃避行をともにするお相手は?」
「ん?今のところあんたでしょ」
微妙にかみ合ってない気がするけど・・・・・まっいいや。
「あっそうだ!名前は?」
「名前?」
「無いの?自分の名前?」
「ああ、田中・・・・じゃなくて!あろまボットンです!」
「ふーん、私クレマンティーヌよろしくねー」
あろまボットンはこちらに手を伸ばしてくる。
ここまで来て殺されることはないはずと思いながらも少しビビってる。
ムカつくから伸ばしてきた手を捻り潰そうとするが、ビクともしない為早急に諦める。
「ところで」
「な、なに?」
まさか潰そうとしたのバレた?
冷や汗が止まらない。
「朝ごはん食べようか?」
「あっはい」
平和な朝食のひと時は異様に長く感じたのは気のせいではない。
あろまボットン仲間()が増えたぞ!ドンドンパフパフ
漸くエ・ランテルへ行けるぞぉ!