一輪の花   作:餅味

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初コンタクト

ふとユグドラシル全盛期での出来事を思い出す。

 

ネットですら上手く人と接することが出来ず、ソロで敵モンスタープレイなるある一部のフィールドに居座り効率の悪いレベリング等をしていた迷走の時期があった。

 

そこはレア度が低い花が咲くだけの一本の木を取り囲むようび広がる小さな花畑。

 

一部の店で低位安価で購入すらできるその花の為に、無駄に長い森を抜けてまで来るプレイヤーはごくまれであった。

 

自分は植物というものに非常に憧れがある。

データとして見たことはあるが実際に咲く花など見たことがないのだ。

まだユグドラシルを始めて間もないころ、モモンガさんやたっち・みーさんに助けられた森を抜けた先にあったこの小さな花畑に心惹かれてしまった。

決して美しくはない、探せばユグドラシルには美しい花畑はごまんと存在する。

 

だがやることもない人付き合いも出来ない、俺はある奇行をおよそ半年近く続けることになる。

 

花畑の近くにポップするモンスターを狩り、近づくプレイヤーを徹底的に遠ざけた。

幸い高レベルのプレイヤーは見向きもしない場所の為に特段苦労することはなかった。

 

そしてその奇行を運営が哀れんだのか世界級(ワールド)アイテム『平和の象徴』を入手することになったのだ。

 

当時価値を知らない俺はラッキー程度の感想しかもっていなかった。

 

折角だからと使用すると・・・・・

いつの間にか接近していたプレイヤーが非常に焦っている。

どこからか変な異形種プレイヤーがいると噂を聞きつけたPKプレイヤー6人が困惑し何かGMへと文句を垂らしていた。

 

明らかに自分より格上だと瞬時に判断し、隙だらけの為にありったけのデバフをかけてからの全力逃走。

あれだけ装備が良ければ花畑に手は出さないだろうと言い訳し、即ログアウトしたんだっけかな。

いやーあの時は焦った焦った。

 

 

他にも『夢想天輪』なんてアイテムがいつの間にかアイテムボックスに入っており、何やら大勢の人間種が集まってお祭り状態だったのでなんだかムカついてそのアイテムを使用。

更なる阿鼻叫喚のお祭りになったのは驚いたものだ。

 

 

それからどこで恨みを買ったのかよくPKに襲われる頻度が増えていた為、思い切ってギルド『妖精の庭(フェアリー・サークル)』に加入したのだ。

なぜか皆に名前を知られていたのは謎でしかない。

結果は言わずと知れた逆効果の様に増えていったが、ギルメンに対PK用の戦闘・戦略を教わり死亡回数はかなり減少した。

 

 

後にギルメンであるモレナベさんからは説明文はちゃんと読めと滅茶苦茶説教されたりしたのも懐かしい思い出だ。

 

 

とまあ思い出話に現実逃避をしている場合ではないのだが・・・・・

 

 

眩く照りつける太陽の日差しに目を細める。

空は青く晴れ渡り雲一つのない快晴である。

 

「どうしてこなった・・・・・」

 

昼間だというのに木々に覆われた大きな森の中で木の根にポツリともたれ掛かっている。

あろまボットンこと田中学(たなかまなぶ)の心は真っ暗な曇天である。

街に入ろうとすればモンスターだと攻撃され、森に逃げ込むも度々通りかかる行商や冒険者には怖がられる。

寄ってくるので一応話せるのがトロールやナーガだが、敵意むき出しで話し合いの余地はなさそうだ。

 

「モモンガさんを探すにも情報がない.....幸いこの体は水と太陽の光さえあれば十分生きていける。フルフェイスの鎧でも着るかな?でも幻術使えないから兜と取ったら即バレるしなー」

 

仰向けで大の字で寝ころび、思考を止め青空を黙って見つめる。

このままではめちゃくちゃ強い冒険者に討伐されてしまうかもしれない。

 

「あぁ日光浴最高」

 

折角の異世界転移もこれでは泣くしかない。

 

「明日から頑張ろ」

 

頭の中は既にふて寝することしかなった。

 

 

・・・・・・・

 

 

「なぁ本当に居ると思うか?」

 

皮鎧を纏った金髪の痩せ気味の男が気だるげに言葉を漏らす。

 

「まあまあモンスター狩りのついでみたいなものですし」

「ニニャの言う通り、やばかったら逃げればいい」

「そうであるな」

 

この中では幼い中性的な少年の魔法詠唱者(マジック・キャスター)にリーダーである金髪碧眼の戦士、ぼさぼさに生えた髭を蓄えた体格のガッチリとした森祭司(ドルイド)が街を出た道中、今回の依頼についてやくだらない雑談を交えながら歩いている。

 

 

彼らはエ・ランテルを拠点とする冒険者ギルド『漆黒の剣』。

今回の依頼は近隣の森で度々目撃情報の上がっている新種のモンスター調査であった。

出くわした商人はその恐ろしさに一目散に逃げだしたらしい。

 

「人型の全身植物のモンスターなんて、聞いたことも見たことも無いですよね?」

「案外蔓に絡まったオーガだったりしてな」

「あまり軽視しすぎると痛い目を見るぞルクルット」

「へいへい」

 

一向が目的地周辺に近づく頃には、会話は続けているものの警戒態勢を常にとっている。

いつどこで襲われるか分からない状況下で、チームの目であり耳である野伏(レンジャー)のルクルットが違和感に気付く。

 

「おいみんな止まれ」

 

静かに手で制止し注意深く辺り一帯を確認し始める。

 

「敵か?」

「違う、その逆だモンスターどころか生き物の気配が遠ざかってる」

「森が騒めき始めたのである」

 

四人の警戒心は一気に跳ね上がる。

本当にこれは自分たちが思ったよりも凶悪な存在かも知れない。

 

ニニャを囲むように陣を組む。

気配は感じ取れないというのに、本能が警報を鳴らし続けている。

ルクルットだけではなく、リーダーのぺテルや森祭司(ドルイド)のダインに魔法詠唱者(マジック・キャスター)のニニャも同様であった。

 

高まる緊張感の中静寂が支配する空間の中。

額には汗が滲み、武器を握りなおす。

 

 

「あっえーとどうもー」

 

 

静寂を打ち破ったのは呑気な一声。

四人が一斉に声の方へと顔を向けると、目を見開き息をのむ。

全身を茨に覆われ人型ではあるが二メートルを超える巨体、目の部分には小さな蒼炎が揺れている。

左の手の甲に枯れた緋色の花が生えている。

四人からしたら恐怖の化け物である。

ゴブリンやオーガなど比ではないと直感する。

 

ペテルが逃げるぞと声をかけるよりも早く化け物は声を上げる。

 

「待って!お願い逃げないで!」

 

どこからか取り出した白旗を右手に持ち両手を上げている。

それは誰が見ても降参のポーズであった。

表情の変化が無い為に4人からしたら態度と要石のギャップで頭が混乱する。

 

(あれ?ピクリとも動かないぞ、パッシブスキル切ったよな?毒にも麻痺にも呪われたりしてないよね?やっぱ外国の人と話すと緊張するなぁ。・・・・・どうしようこの空気)

 

転移して間もないころ周りの魔物やら何やらバタバタと倒れていったときは、何事かとテンパってしまったものだ。スキルを最低レベルにしてもほんの一部を除いて立つことすらできなかったのには驚いてしまったものだ。

一応奇襲対策はしてあるけどそれ以外のパッシブスキルや装備は変更していたりする。

 

あろまボットンの心中は漆黒の剣の面々に負けず劣らずの大荒れ具合であった。

 

「の、望みはなんだ?」

 

ペテルの声は震え上ずっているがチームのリーダーとして勇気を振り絞っていた。

少なくとも人と会話ができる知性を感じ、それに望みを託すしかないのだ。

 

「実は人を・・・」

 

(待てよ?俺の姿はユグドラシルのアバターだ、だとするならモモンガさんもオーバーロードの可能性が高いんじゃないか?危ない危ないようやく来たチャンスを逃すところだったぜ)

 

「じゃなかったモモンガさんというオーバーロードを探してるんだが、知り合いに心当たりはないだろうか?」

「オーバーロード?それは種族なのか?」

「え?あーこっちにはいないのかな?まぁアンデッドの一種だ」

 

ペテルが3人へと顔を向けると3人とも首を横に振る。

 

「悪いがアンデッドにもモモンガサンという名前にも憶えがない。」

「そうかそう簡単にはいかないよな。これは気持ちだ受け取ってくれ。」

 

あろまボットンがアイテムボックスから4つのアイテムを取り出す。

当然ペテルたちは何もなかったはずの空間からアイテムが出てくることに衝撃が走る。

 

「こ、これはどこから...!?」

 

ニニャが思わず疑問を口にしてしまい、数舜おいてハッとし口を手で覆う。

ここはあまり話を長引かせず、いち早くギルドに報告し対策を取るのが先決のはずだ。

 

「ん?アイテムボックスの事?ならごめん説明できないな」

「そ、そうですか」

 

ニニャはそんな大事な事教えてくれるわけないでしょうが!と内心で自分を叱咤する。

 

「んじゃリーダー君?にはこの盾をどうぞ。そこの金髪チャラ男君にはこの首飾りを、小さな君にはこのローブがいいかな。最後に森祭司(ドルイド)のあなたにはこの木彫り人形をどうぞ。」

「「「「これは!?」」」」

 

漆黒の剣の面々は呪いのアイテムだろうが受け取りを拒否すれば怒りを買い、皆殺しに会う危険性を下げる為渋々受け取るしかなかった。

しかし渡されて初めて気づく。

これらは一流と呼ばれる冒険者たちでもごく一部が装備しているような凄まじいマジックアイテムだ。

 

「本当に頂いても?」

「ああ構わないよ。ここに来て初めてちゃんと話せた人達ですからね。」

 

笑っているのか口角の部分の蔦が持ち上がっている様にも見える。

 

「お名前を窺っても?」

「んー・・・・・妖精さんで」

「「「「・・・・・・」」」」

 

空気が凍りつくとは正にこのことである。

 

 

「わ、我々は漆黒の剣というチームで私がリーダーのペテルで、右からルクルット、ニニャ、ダインです。では我々は用があるのでこの辺で。」

「そ、そうですよね!引き留めてしまって申し訳ない!」

 

漆黒の剣は微妙な空気の中警戒を怠ることなくその場を後にした。

 

「ふぅ行ってしまったか・・・・・日光浴でもしよ」

 

恥ずかしさを誤魔化す、ただのふて寝である。

 

「明日頑張ろう.....」

 

今日も同じセリフで幕を下ろすのであったとさ。

 

 

 

 




私の倍以上書いてる作者様方はホント凄いと思います。
精進します。ではまた。

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