一輪の花   作:餅味

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遅くなって申し訳ありません。


不解の心象と友への手掛かり

五本爪の龍の光が夜を引き裂くようにして降り注いでいく。

 

『また』

 

近頃よく脳裏にこびりついた言葉である。

先ほどまで吸血鬼との激闘で身体はボロボロのはず、立つことすら辛いはずなのだ。

 

気づけば足はカイレへと駆け出していた。

 

結果的にはなんともなかったことにホッと安堵したが、それもつかの間であり聞こえてくる会話に呆然とする。

あろまが神?

これが神様だというのか?

 

急激にあろまが遠い存在に感じられる。

 

こちらに向かってまっすぐ歩みを進めるあろまの姿が見える。

棒立ちする私に話しかける声音は穏やかで一切変化は見られない。

 

 

怖くてたまらない。

 

 

出会った時よりずっとずっと恐怖してしまった。

 

 

―恐ろしい姿に

―圧倒的な力の暴力に

―神すら凌ぐ力に

 

 

どれも違う、しっくりこない。

 

 

私は一体何に怯えているんだ?

疑問は晴れることはなく霧がかかったように先は見えない。

ふと手にぬくもりを感じ、意識が戻っていく。

 

「大丈夫?」

 

「あっ」

 

私の手を壊れ物を扱うように優しく両手で握り、蒼炎の瞳は小さく揺れている。

恐怖がスッと抜けるように消えていくのが分かる。

 

「お前無茶し過ぎなんだよ.....」

 

「ご、ごめん!?」

 

力が抜け地べたに座り込み、目頭が熱くなる。

大粒の涙が頬を伝い、くしゃくしゃになった顔を隠すように下を向く。

 

「もうこんなの無しだから」

 

「うん」

 

「次やったら殺すからね」

 

「うん」

 

「本当に殺してやるからね」

 

「う、うん」

 

あろまはそっと頭に手を置こうとしたが、触れる前にピタリと止め伸ばして手を引っ込める。

何も言わずくるりと後ろを向きしゃがみ込む。

 

「なにそれ」

 

「いや、俺は慰めの言葉とか思いつかなくて。女の子の泣き顔を見るのも悪いかなって。」

 

「バーカ」

 

背中にこつんと頭だけもたれ掛かり、泣きながらも小さく笑うことが出来る。

こんな奴に慰められるなんて私も落ちたもんだなと心中でぼやく。

 

「いやーお熱い所悪いんだがよ...」

 

「ん?」

 

「は?」

 

ブレインは申し訳なさげに後頭部をかきながら話しかけてくる。

 

「頼みがあるんだが」

 

「あー俺もあるんだよブレイス!」

 

「ブレインな!なんだよ頼みって?命の恩人だ無償で何でも聞くぜ?」

 

「なら良かった!一緒に旅しよう!」

 

「「・・・・・は!?」

 

歯が全く立たなかったが一度は殺そうとした男と同行したいという提案に、ブレインは開いた口が塞がらない。

確かに実際戦ったのは私だけどさーとボヤいてしまうのは仕方がないだろう。

 

「それは願ってもない事だがいいのか?」

 

「いや、さっきクレマンティーヌを助けてくれたし、ブロックの武技かっこいいからね!」

 

「助けた?・・・だからブレインだっつーの!」

 

「囲まれた時もすぐに背後守ってくれたし、あそこのお兄さんからとかさ」

 

その言葉に疑いはなく全て本心だということも、初対面のこの男にですら分かる。

あろまは物事を楽観的に考えており、一度信じたら一切のブレがないのだ。

 

「俺の頼みはな、お前さんらに付いて行って強くなりたいって話だったんだがな。腕の一本位覚悟してたんだけどな、なんだかお前と話してると気が抜けるぜ」

 

「あんま褒めるなよー、照れるだろう」

 

「いや褒めてはないでしょ」

 

涙は止まり袖で頬を拭い立ち上がる。

 

「もういいの?」

 

「早くしないとあの吸血鬼が来ちゃうんでしょ?」

 

「あっ」

 

あろまから素っ頓狂な声が漏れる。

死にかけたくせに完全に忘れてたのかと2人の溜め息が漏れる。

 

「俺はあろまボットン!よろしく!」

 

「クレマンティーヌ」

 

「ブレイン・アングラウスだ、これから世話になるな」

 

「んじゃ行きましょうかね」

 

三人は意気揚々と走り出した。

残ったものは神を崇める信仰深いものとなぎ倒されたギガントバジリスク、それと乾き始めた小さく濡れた地面の跡だけである。

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

「それは本当なのか!?」

 

モモンガは思わず出た大声にハッとし口に手を当てる。

現在黄金の輝き亭程ではないがそこそこの宿に泊まっており、その一室で配下であるアルベトとメッセージ連絡を取り合っていた。

この部屋にはしっかりと盗聴の対策している為、誰かが入ってくる気配もない。

 

「大声を出してすまない、もう一度報告せよ」

 

「はっ、シャルティアがつい先刻負傷しナザリックに帰還しました。相対した敵の特徴があろまボットン様と酷似しており、現在捜索隊を急遽編成し全力で探索に向かわしております。シャルティアを負傷させる程の実力を持ち、植物型の異形種で形状が人型となればまず間違いないかと。」

 

「捜索隊の数は?」

 

「アウラが指揮の元、死霊(レイス)が50、影の悪魔(シャドウデーモン)が30、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の5体でございます。」

 

「ふーむ...死霊(レイス)影の悪魔(シャドウデーモン)は倍にし、ナザリックにいる八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)は全て駆り出せ。戦闘の起きた位置を知らせよ、私も向かう。」

 

「なりません!あろまボットン様と100%の確証を得るまでは危険です!」

 

モモンガは顎に手を当て、アルベドの言葉に頷く。

あろまボットンさんではなかった場合、シャルティアを退ける実力者と接敵し戦闘するのは危険性が高い。

 

あろまボットンさんにガチビルドのシャルティアに勝てるのか?

正直この辺りは情報が少なすぎて答えは出ないだろう。

というかなんで戦闘してるんだ?

ナザリックのNPC達にはあろまボットンさんの特徴は伝えてある。

ユグドラシルのときは数えきれないPVPの嵐で有名であり、ヘイトボットとかあだ名ついてた人だったけど.....

自分から仕掛けることをする人には思えない、第一PVPの相手のほとんどは人間種である。

 

人ではない異形種であるシャルティアをわざわざ襲うことはないはずだ。

 

 

では何か恨みを買ってしまったか?

 

 

一度思考の海から抜け顔を上げる。

 

「アウラに伝えよ、見つけ次第決して手を出してはならぬと。見つけ次第速やかに報告せよ。私も一度ナザリックに戻る。」

 

「はっ!必ずや見つけて見せます!」

 

「うむ」

 

メッセージを切り、近くに控えていたナーベラルに視線を移す。

 

 

「ナーベラル、一度ナザリックに帰還する。留守を任せる」

 

「はっ!お任せください。」

 

ナーベラルが深く頭を下げ見送る姿を尻目に異界門(ゲート)を開く。

 

このままでは埒が明かないうえに、ナザリックにいた方が緊急時対応しやすい。

シャルティアにもいくつか聞きたいことがあるしなと異界門(ゲート)をくぐりながらもあらゆる状況を想定し続ける。

 

「待っていてくれあろまボットンさん」

 

 

 

 

 

 

一方そのころナザリック内にて

シャルティアの痛むはずの無い内臓が、グサグサと刺し貫かれるような腹痛に襲われていたりする。

 

なおアルベドとコキュートス、デミウルゴスによって完全包囲され逃走は不可能な模様。

 

 

 

 

 

 

「へくしょん!」

 

「何それ風邪?あんたって風邪ひくの?」

 

「それはないだろ」

 

とっくに森を抜けた三人組は日が昇り切る前に王都リ・エスティーゼへとたどり着いていた。

 

「そういえばあろまといると必ず道に迷うらしいが全く迷わなかったよな?」

 

「ある意味それが恐怖なんだよね....」

 

「いやいやクレマンティーヌ、俺も成長したんだよ!うん、きっとそうだよ」

 

「ここまで信用ならない言葉は聞いたことないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 




一度ランキングに載ったらしく、作者が確認したときは週間ランキングの61位におり深夜のテンションで見事ノートパソコンを派手に落としました。
こっちも反省します。

たくさんのお気に入り、感想、評価、誤字報告感謝いたします。

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