一輪の花   作:餅味

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今回はギャグ薄目になっています。
たまにはいいですよね?


衝突

激しい剣戟の嵐が吹き荒れ、洞窟内に響き渡る。

 

「ほらほら私の首取るんじゃなかったのかなー」

 

「ちっ」

 

ブレインが王国のガゼフ・ストロノーフに勝つため編み出した《領域》と《神閃》を薄皮一枚で避けられており、顔には出てないが内心は今まで積み上げてきた自信が音を立てて崩れ始めていた。

それと同時にまだ俺は強くなれるという希望が沸々と腹の底から湧いてくるのを感じていた。

 

「ドンドン行くよー!」

 

「来い!」

 

お互いの表情には笑みがこぼれ、純粋にこの戦いを楽しんでいるのが分かる。

 

クレマンティーヌのフェイントを混ぜた鋭い突きの猛攻に必死に反応し、致命傷以外は無視しブレインも反撃の一撃を放つ。

それは《神閃》程の速度ではないが、《瞬閃》に匹敵するあり得ないほどの鋭い一閃である。

この戦いでブレインは確かに成長していた。

 

「《流水加速》」

 

水を切ったかのような手ごたえのなさに内心舌打ちし、返しの二閃目を許してくれるほどの甘い相手ではない。

すぐさま反撃の一撃が飛んでくるのを直感し、全力の回避運動を取ろうとする。

 

「!?」

 

眼前に迫る銀の刺剣がまるでスローモーションの様に感じ取れるが、身体は反応できない。

格上のクレマンティーヌも僅かだがブレインと同様に成長していた。

 

こんなとこで負けるのかと脳裏に走馬燈が走る。

まだガゼフに勝利していない。

こんなところで死ぬわけにいかない。

 

片目はくれてやる。

だが勝ちは譲れない。

 

身体は避ける事を止め、刀を持つ手に力を込める。

相打ち覚悟の一撃を放つ。

更に速く鋭く研ぎ澄まされた刃はクレマンティーヌの首筋に迫る。

 

ガキンッ

 

眼球が貫かれる音でも噴き出す血の音でもない、金属と金属がぶつかり合った衝撃音が洞窟内に響く

 

眼球の一寸手前で刺剣がピタリと止まる。

気づかないうちにあろまボットンはクレマンティーヌとブレインの間に割って入り、ブレインの刀を弾きクレマンティーヌの刺剣を握りしめている。

 

「邪魔しないでっていったよね?」

 

クレマンティーヌの額には青筋を浮かべ、怒りをあらわにしていた。

ブレインも死にたくないとは思ったが、情けをかけて欲しいとは微塵も思わなかった為あろまボットンを睨み付ける。

 

「ごめんねクレマンティーヌ。でも君がいなくなったら俺は悲しい。」

 

「ったくだからあろまは過保護過ぎるってーの」

 

クレマンティーヌはガシガシと頭をかき刺剣を引っ込める。

 

「なんで俺まで助けた?」

 

「あー・・・・・なんでだろう?」

 

「は?」

 

打算も無くただ助けたのか?そんな馬鹿なのかこいつはと呆れてしまう。

それと同時に一瞬で間合いを詰め、いともたやすく自慢の一撃を弾く技量に舌を巻く。

 

「それよりさ、お客さんが来てるよ」

 

「「えっ」」

 

あろまが顔を動かし、盗賊たちの背後を見据える。

 

「ごきげようでありんす。この中に武技を扱える者はおりんしょうか?」

 

唐突に表れたのは長い銀の髪と真紅の瞳を持った非常に端正な面立ちで白蝋染みた肌をした14歳ほどの少女。ボールガウンやフィンガーレスグローブで身を包み露出が少ない。

両隣に吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)を従えさせ、値踏みするかのような視線をこちらに向けている。

 

「吸血鬼!?」

 

「お前ら聖水をかき集めろ!」

 

盗賊たちは慌てて走り出し、迎撃の準備をしようとするが

 

「行きなんし」

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達は命令されると盗賊たちに容赦なく襲い掛かる。

 

茨の壁(ウォールオブガーデン)

 

分厚い茨の壁が現れ、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちが阻まれ立ち止まってしまう。

しかしは致命的で後退すべきであった。

 

立ち止まってしまった吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちを茨の壁(ウォールオブガーデン)から延びる茨に絡めとられてしまう。

必死にもがくが茨はビクともせず徐々に締め付けが強くなっていく。

 

「役立たず」

 

少女はこんなものも避けられないのかと心底使えない奴と言った表情をしている。

 

真祖(トゥルーヴァンパイア)は相性悪いんだよなぁ。二人とも俺より後ろにいて、でもあまり離れ過ぎないように気を付けてね」

 

「ヤバい?」

 

「うん」

 

クレマンティーヌはその言葉に顔を引きつらせ、大人しくあろまの影に隠れる。

 

「危ないよ?」

 

「男の背中に隠れるなんて情けない真似できるわけないだろ?」

 

ブレインは何を勘違いしているのか、自分とこいつなら勝機はあると思ってしまっている。

ここまで意気揚々としているのに、あろまボットンは正直に邪魔と言う訳にもいかずまぁ頑張ろうねと返す。

 

「お話は終わったでありんすか?」

 

「うん、大人しく引いてくれたら助かるんだけど」

 

「武技を使える者を頂けるなら、まぁ大人しく帰ってもいいでありんすよ」

 

「それは飲めないね、仕方ない頑張りますか」

 

一振りの大鎌を取り出す。

隣のブレインは一体どこから出したのだと目を丸くしている。

刃から持ち手にかけて絹のように白く、刃の付け根の部分には小さな漆色の蕾が付いている。

鎌自体が脈動しており、異様な不気味さを放っている。

 

「属性神聖、中位魔法効果、物理ダメージ40%向上および低確率即死付与、アンデット系ダメージボーナス20%効果、クリティカル率50%向上。評価.....危険」

 

「だいたいあってるのが凄いな」

 

基本的にデバフの通らないアンデット対策によく使っていた斬切舞(キリキリマイ)

 

目にもとまらぬ速さで突っ込んでくるシャルティアの手には大きな槍が携えてある。

クレマンティーヌの突きの連撃とは比較にならない速さだが、あろまボットンは上手く捌いている。

それでも鎧のあちこちはたった一度の衝突でボロボロになってしまう。

 

「ドレイン持ちでこの強さってガチすぎない?」

 

「そこそこ動けるようでありんすが、まぁスポイトランスを使うまでもなかったでありんすね」

 

ブレインは腰を抜かし、汗が止まらない。

勝てるわけがない。

《神閃》を軽々と超える速度で行われる攻防に震えが止まらない。

 

「やっぱこのままだとキツイし変えますか」

 

鎧を脱ぎ去り毒々しい紫色のローブに着替える。

 

「まあ!人間じゃなかったんでありんすね!」

 

「あまり人に見られるのは避けたいんだけど、今回ばかりは仕方ない」

 

ブレインは鎧の男が化け物だということに驚愕する。

どっちが勝っても自分たちの命はないのではないかと思い込む。

 

「いい加減下がれって、邪魔」

 

クレマンティーヌに襟を無理矢理引っ張られる。

 

「お、俺は逃げるぞ」

 

「死にたいならどうぞ」

 

「な、なんでお前はそんなに平気そうなんだよ」

 

「平気ねぇ。まあ超怖いよね」

 

クレマンティーヌはあろまボットンの背中を見つめ、苦笑いを溢す。

 

「何でだろうね」

 

こんな状況なのに何でお前は笑えるんだとブレインは茫然としてしまう。

クレマンティーヌが見つめる先に視線を動かす。

 

大きな背中だ。

俺はもしかして二度も命を救われたのか?

この背中を見ると気持ちが少しづつ冷静を取り戻していく。

 

 

 

「全力で追い返してやるからなヴァンパイアちゃん」

 

「目標とは違うでありんすが土産には丁度良いでありんすね。では行くでありんすよ」

 

 

激しい衝突音が洞窟音を抜け、静かな夜の森にまで響き渡る。

長い夜はまだ終わらない。

 




26から手術の為に次話の投稿が遅れてしまう可能性があります。
誠に申し訳ございません。

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