一輪の花   作:餅味

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お気楽にどうぞお読みください。


プロローグ1

D M M O R P G<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>『ユグドラシル<Yggdrasil>』。

体感型のMMOとした絶大な人気を誇った超人気作である。

 

制約が少なく基本的に自由度のある人間種。外見は醜悪だが性能は人間種よりも優遇される亜人種。モンスター能力を持つがかなり色々な面でペナルティを受ける異形種が存在する。

その数は420種類。

職業の数は基本や上級職業等を合わせて880とかなりの数をほこる。

職業は最大で15レベルまでしかなく、限界レベルの100まで成長した場合7つ以上取得することになる。

 

これだけでもかなりの作りこみ要素のある『ユグドラシル』であるが、別販売のクリエイターツールを使えば武器や防具、自身の外見等々の詳細な設定を変化させることができる。

 

この世界で俺は異形種の植物系の最上位種の『妖艶なる呪花(トキシック・アマリリス)』である。

ニックネームは【あろまボットン】

毒々しい紫色の棘の生えた蔓がいくつも絡まり人型を形成している。目の部分には小さな青い炎が灯っている。

背丈は2メーターを超え、手の甲に枯れた緋色の花が特徴的である。

ギルメンには「ミイラっぽい」と言われているが、自分自身は不細工なこの分身を結構気に入っている。

束縛系スキルからデバフ系の職業を主体とし、その他はロールプレイ重視で植物関連のものを手あたり次第習得している。

 

所属しているギルド『妖精の庭(フェアリー・サークル)』では最も新参だった自分も今では最後の1人になってしまった。

 

盛者必衰

 

大作であった『ユグドラシル』にもついに終わりが来たのだ。

 

 

・・・・・・・

 

 

『ユグドラシル』のサービス終了間際

常に日の光が入る小さな庭園。頭上には妖精が飛び回るエフェクト。

ギルド内の個室でユグドラシル最後の時間を過ごしていた。

 

こうしていてもしょうがないと重い腰を上げ、ふとあることに気付く。

 

「.....ギルメン以外のフレっていたっけ?」

 

数少ないフレンド欄を開くとピタリとある名前で止まった。

異形種狩りの際に助けてもらった人物だ。

【モモンガ】

 

「いるかな?」

 

正直あまり連絡とったことがない。

昔、異形種狩りという異形種を標的としたリンチが横行していた頃。

PKされかかった所を助けてくれた恩人がモモンガさんだ。

これ以上迷惑はかけたくなく、一度お礼したっきり連絡を取っていなかった。

それになんだか恥ずかしいし.....

 

「えーい最後くらいビビるな俺!」

 

思い切ってメッセージを飛ばす。

冷や汗が垂れるのではないかと思うほど緊張するが、心の準備ができるよりも早く繋がる。

 

「あっもしもしお久しぶりですねあろまボットンさん」

「あ、あのそのすいません!え、えっとそのえーと・・・今から会いませんか!」

 

何を言ってるんだ俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

テンパりすぎて唐突に気持ち悪いことを言ってしまった。

死にたいと床に頭を激しく叩きつける。

ダメージ0の表記が無駄になり続ける。

 

「・・・こっちは全然大丈夫ですよ。丁度私も話し相手が欲しかったところです。」

「一分で行きます。」

 

メッセージを切り、そそくさと部屋から出る。

すると入り口で待機していたNPCの女エルフがこちらを向き頭を下げている。

ピタリと動きを止めそちらに向き直る。

NPCの設定はほとんどがモレナベさんが行っているはずだ。

確かこの娘は俺の嫁なんだっけ?

名前は『アンゼリカ』でそれからふむh・・・・・

俺の知らない俺とアンゼリカの馴れ初め等や結ばれるまでの恋物語がつらつら書き連ねてある。

読むほどが恥ずかしいなこれ。

そっと画面を閉じ、改めてアンゼリカを見る。

ブロンドのショートヘアに切れ長な淡い藍色瞳、鼻筋が通っており桜色の薄い唇。

引き締まった顔立ちで気の強そうな美人エルフに感じ取れる。

 

「しばらく出かける。自由にしなさい」

 

最後くらいいつもと違った痛いプレイングをするのも悪くないだろう。

それにここにいるNPC達は皆自分のかわいい息子と娘なのだから。

 

 

・・・・・・・

 

 

アンゼリカに背を向けギルドの外へ一気に転移する。

幸いアインズ・ウール・ゴウンは遠くない。

通常であったら10分以上はかかるが惜しげもなく課金アイテムを使い転移し、そのインターバルも課金アイテムで消しグングン進んでいく。

 

「着いたぁ」

「早いですね」

 

モモンガさんが入り口まで迎えに来ており、歓迎してくれた。

 

「立ち話もあれですし中で話しましょう」

 

モモンガさんはそう言うとアイテムボックスから指輪を取り出す。

 

「もう最後ですし入っても問題ないかと」

「あ、ありがとうございます!」

 

アインズ・ウール・ゴウンの中を基本的に自由に転移できるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをまさか貸していただけるとは思っても見ず、内心あたふたしてまう。

 

案内されたのは広く高い。

白を基調とした壁には金の細工が施され、天井には幻想的なシャンデリア。

それぞれの紋様が描かれた41枚の大きな旗。

 

どれも目を奪われるが特に心動かされるのは、低い階段の頂にある背もたれが異様に高い玉座と背後のギルドサインの施された深紅の巨大な布である。

 

「凄いですね」

 

そんなありきたりなことしか言えなかった。

 

「気に入って貰えて嬉しいです。」

「せっかくなんでささっ玉座に」

「そうですね」

 

モモンガさんが玉座に腰かける姿はかなり様になっている。

 

「んじゃ俺はこうですかね?」

 

膝をつき猿真似で平伏し首を垂れる。

 

「よしてくださいよ。背中がむず痒いですって」

「ですよねー」

 

笑いながら残りの時間を2人で謳歌する。

NPCのアルベドのビッチ設定をモモンガを愛しているに変えたりなんかして恥ずかしがりながらも最後の時を楽しんでいた。

 

23:59:41

 

「今日はありがとうございました」

「こっちこそ感謝してますよ」

 

23:59:48

 

「もっと早く会いに来れば良かったです。」

「そうですね」

 

23:59:53

 

「ではさよならですあろまボットンさん」

「ありがとうございましたモモンガさん!」

 

00:00:00

 

00:00:01

 

00:00:02

 

「あれ?」

 

頬を吹き抜ける風と宝石が散りばめられたかのような美しい星空。

 

「ここは・・・どこだ?」

 

先ほどまで隣にいたモモンガやナザリックのNPC達の姿はない。

眼前に広がるのは見たこともない緑豊かな自然の光景。

 

「腕が...ログイン延期?でもゲーム内で風なんて感じないよな?触覚もしっかりしている・・・」

 

ゴスッ

 

「うっ」

 

自分で自分の顔を殴打する。

痛みが夢ではないと確信する。

 

「だとしたらモモンガさんもどこかに?」

 

この世界に来ていると信じ探そう。

 

俺は最初の一歩を踏み出した。

 

 





作者はソシャゲ大好き課金厨のダメ人間ですが、これからよろしくお願いします。

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