TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~ 作:地味子好き
目が覚めた。
教室でただ一人、血の肉塊の中で泣いていたはずだった私は、畳の香りと、布団の温かいぬくもりに包まれていた。
横に目を移すとディスプレイには波と数字が表示されており、そこからは私の胸に向かって、数本の管が伸び、パッチが張り付いていた。
「私…そうだ!みんな!みんなはッ!」
ここがIS学園でないのなら、皆は生きて居るかもしれない。私は、やっていないかもしれない。夢だったかもしれないとそう祈る。
私は胸のパッチを強引に取り外し、急いで部屋の外へ出た。
さっきまでのアレは唯の夢であって欲しいとそう願って私は走った。
廊下へと出て、右も左も分からないまま、自分がこっちだと思ったほうへと私は足を進めてゆく。
角を右へ左へ。階段は無視し、先にある大広間へ、私は向かって行った。
そして、そこにあった引き戸を勢いよく引いて、私は部屋の中を見た。
「よかっ!みんな…生きて……!ううっ…!」
部屋の中には、大切な人たちが誰一人として欠けることなく存在していた。
「冬香!?」
私は思わず、身体から力が抜けていき、そのまま床に崩れ落ちてしまった。
あれは…あの悪夢は、単なる悪夢だったと。ただそれだけだったと。
私の今いるこの世界には何の影響も与えられない無力なもの。
その安堵が私を包み込んでいった。
私は泣いた。今までで一番の涙を流した。
私の大好きな日常を、私が壊してしまわなかったことが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
~~~~~
「本当にごめんなさい」
落ち着きを取り戻した私は、皆の前でそう言って土下座した。
理由があった、事情があったというのは言い訳にしかならない。
私は今までしてきたことすべてをはっきりと曇りなく思い出した。
群咲を名乗るもう一人の私がしてきたことも全て。
群咲は……
私の心が弱かったから、止められなかった。今なお私の心の奥にいる群咲を。
しばしの沈黙がその場に流れた。
「うにゃ~ぉ」
しかし、その重い空気は予想外の声で破られることになった。
それは一匹の白猫、シャイニィの甘えるような鳴き声だった。
「シャイニィ……」
スコールについて行った後、私は亡国企業のホテルの近くでこの白猫と、その主人と出会った。
今にも壊れてしまいそうだナ―と、私は彼女、アリーシャ・ジョゼスターフにそう言われた。
実際に、私の心はいろいろなものに押しつぶされていた。
しかしその時もシャイニィは今の様に私を慰めてくれるように甘えてくれた。
それでも、私は群咲を止めることが出来なかった。
「やっぱり私は……」
弱くて、皆に迷惑をかけて、この世界は……私が、私さえいなければ余計に皆が傷つくこともない。
私は……この世界から消えてしまったほうがいい。
「そんなことない!」
部屋の中に声が響いた。大きくはなかったが、芯のある声が。
「かん…ざし…」
「私は、私は冬香に救われたの!他の誰でもないあなたに!だからっ!だからそんな寂しいこと言わないで!これからもずっと私の隣にいて!」
頬に涙を流した簪は、私の身体をぎゅぅっと抱きしめる。
トクントクンと簪の鼓動を感じる。
ああ、なんて優しくて、暖かくて、心地いいんだろう。
~~~~~
「だいぶ落ち着きました」
私は気が付かなかったがどうやら皆、私と簪に気を使って違う部屋へ移動してくれたらしい。
「えっと…じゃあ天利さん。貴女のことを皆に」
「はい」
そう山田先生に言われた私は、自分のことを1から話そうとした、その時だった。
「先ず最初に、私はこ……このッ……かはッ!!!」
この世界の人間ではない―という言葉が出てこなかった。
まるで太い指で首を掴まれたかのように苦しい。
「「「冬香!」」」
皆がすぐに駆け寄ってきてくれる。
「は―ぁっ!はーぁっ!なに…これ…!」
苦しさは時間の経過と共にだんだんと緩んでゆく。
「これは…ナノマシン式の
私の様子を見ていたラウラさんがそう言った。
「まさか!そんなはずは……いえ束博士ならあるいは……」
「お姉ちゃん…それって…」
「体内に存在するナノマシンを使って神経系に接続、特定のワードを言おうとしたり書こうとしたりした瞬間にナノマシンが首や腕をコントロールして情報流出を防ぐシステムよ」
「追加で言えば、現在技術的に不可能とされている…はずだったが…」
楯無さんと千冬さんがそう説明する。それは私が聞いたこともないものだった。
「冬香、お前はいったん風呂にでも入ってこい。……更識姉妹。補助についてやれ。あとは私が説明しておく…それでいいな?」
「りょーかいです。ほら簪ちゃん、冬香ちゃん。行きましょう?」
「うん。冬香、行こ」
確かに、今来ている浴衣の下は汗でびっしょりだった。
「えっ…じゃ、じゃあ、お願いします千冬さん。」
「ああ。すまない、今はゆっくり休んでくれ」
そう言われた私は、楯無さんと簪ちゃんと一緒に旅館にある大浴場へ向かうことになった。
~~~~~
「冬香、ケガとかない?」
浴衣を脱いで籠に入れようとすると簪にそう言われた。
「うん、どこも。多分跡も残ってないよ」
「そっか…でも、もし跡があっても私がいるから大丈夫だからね?」
(それはどういう意味なんだろう…)
ガラッとスライド式の扉を開ける。
「はぁい、冬香ちゃん。ここに座って」
先に中に入っていた楯無さんがボディーソープを泡立てていた。
「えっとじゃあ失礼します?」
「うん、お姉さんが背中流してあげる」
「お姉ちゃんずるい!じゃあ私は前洗ってあげるね」
「ええッ!?簪!流石に前はできるから……」
「そっか…冬香は私よりお姉ちゃんのほうがいいんだね…」
「え、ち、違うよ簪!じゃあ髪!髪の毛お願い!」
そう言って背中は楯無さん、髪を簪に洗ってもらった私は、二人と一緒に外の露天風呂に移動する。
「ふぅ……あったかい」
少し寒い秋風に温かいお湯。そして綺麗な星空。それに加え私たちを包み込む優しいオレンジ色の光。
「私たちが入った頃はまだサイレンが鳴ってたけど、もう止んだのね」
「サイレン…ですか?」
「うん。亡国企業襲撃のほうは結構下にも被害がいっちゃったみたいだから…。幸い死人は出てないみたいだけど」
「そう…ですか」
「貴女が気に病むことはないわ。冬香ちゃん」
「そうだよ。冬香は何も悪くないから」
「楯無さん…簪…うん。ありがとう」
ちなみに、この後部屋に戻ったら私の布団を挟むように楯無さんと簪の布団が敷かれていた。
基本的にあとがきはその時の思いつきで書いてるのででたらめ情報も良くあります。
つまり修学旅行編はまだそれなりに続きます。修学旅行ほんへの話を忘れてたんや…。
それとISのアニメもう1期は10年も前なんですね。Twitterで記念ツイートを見て、時の流れを早く感じました。