TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~   作:地味子好き

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修学旅行編⑦

私は今、ふわふわと宙に浮いている。しかし風も吹いていなければ寒さもまるで感じない。

 

 

これはおそらく夢なんだろう。

 

 

ふと、下に目を移してみると眼下に広がっていたのはIS学園だった。

 

 

千冬さんが、簪が、一夏が、箒が……みんながみんな、それぞれの“日常”を過ごしていた。

 

 

その中に天利冬香(わたし)の姿もあった。

 

 

もっと近づこうといろいろと動いてみると、すぅっと身体が前に動き出す。

 

 

私は簪と談笑しながら廊下を歩くわたしを後ろからついて行く。

 

 

気分はまるで守護霊だ。まぁ、自分の守護霊が自分とはいささか変な気持ちだが。

 

 

むしろ、ゲームの再現アバターの行動を画面の外から見るプレイヤーのようにも思えた。

 

 

わたしと簪の二人は一組の教室へと入ってゆく。

 

 

簪が扉を閉めたが、私には関係がない。そのままスッとすり抜けた。

 

 

 

 

 

 

次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

ボトッと鈍い音をたて、何かが床に転げ落ちた。

 

 

 

私は落ちた頭のその()()()()と目が合った。

 

 

 

次にバタンと肉体が倒れ、そして大量の血しぶきが教室の床を濡らしてゆく。

 

 

 

()()はラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 

 

 

何が起きたのか分からなかった。

 

 

 

顔をあげていくと同時に私の視界は広まってゆく。

 

 

 

それは皆の死体が目に入ってくるのと同義でもあった。

 

 

 

 

のほほんさんが、シャルちゃんが、セシリアさんが、鈴ちゃんが、箒が、一夏が、皆が。

 

 

 

 

私が正面を向いた時、そこに見えたのは、血濡れのわたしが笑顔で簪を刺し殺すところだった。

 

 

 

私は叫んだ。今までにないくらいに叫んだ。だが、声は出なかった。

 

 

 

この身体は空気を震わすことが出来なかった。

 

 

 

わたしは雪片のような形をした刀を簪から引きぬく。

 

 

 

そして私のほうへ向かって、投げ放った。

 

 

 

それが私に突き刺さることはなく、私の身体を通り抜けてゆく。

 

 

 

何をして―と思った瞬間、後ろから音がした。

 

 

 

ドサッと二人の身体が地面へ倒れこむ。

 

 

 

それは虚さんと……楯無さんだった。

 

 

 

なんとか正気を保っていた私はわたしを止めようと全力で走ってゆく。

 

 

 

しかし、この身体はわたしをすり抜けるだけでどうすることもできなかった。

 

 

 

タッタッタッと廊下を走る音が聞こえた。

 

 

 

異変を察したのか、走ってきたのは山田先生だった。

 

 

 

それをわたしは何のためらいもなく心臓へ刀を突き刺す。

 

 

 

何が起きたのか分からない表情で山田先生は倒れた。

 

 

 

そうしている間に……千冬さんがこの教室に来た。来てしまった。

 

 

私は、この無力な身体で叫んだ。

 

 

 

お願いだから逃げて―と。

 

 

 

しかし、その願いが叶うことはなかった。

 

 

 

わたしは千冬さんの首を掴み、締め付ける。

 

 

 

徐々に徐々に、千冬さんには苦悶の表情が浮かぶ。

 

 

 

私にはどうすることもできない。

 

 

 

この異常な空間と、私の無力さで、私は潰れそうだった。

 

 

 

私は泣きながら、何度も何度も叫んだ。

 

 

 

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。と。

 

 

 

そうして、どれくらいが立っただろうか。

 

 

 

十秒か、数十秒か、1分か、それすら分からないほどに時間の感覚が失われていた私は、ふっと千冬さんの身体から力が抜けたのが見えた。

 

 

 

わたしはさらに力を入れ、千冬さんの首の骨を折っていた。

 

 

 

わたしはその手を放し、私の方を向いた。

 

 

 

 

 

 

「お前のせいだ」

 

 

 

 

そう一言だけ呟いた。

 

 

 

私のせい……私が無力だから、今までのことは全部起きて……。

 

 

 

簪が死んで、千冬さんが死んで、皆が死んで

 

 

 

それは全部私が……私が……

 

 

 

やったのはわたしで止められなかったのは私

 

 

 

ちがう……?

 

 

 

これをやったのは……()

 

 

 

はッとしてあたりを見る。

 

 

 

変わりようのないその惨状の中に(わたし)が立っていた。

 

 

私の右手には血の付いた刀が握られている。

 

 

 

「違う…違う…違う!違う!違う!ちがう!ちがう!ちがう!チガウ!チガウ!」

 

 

 

響いた。響いてしまった。声が聞こえてしまった。

 

 

 

ガシャン―と刀を落とす。

 

 

 

 

「うぅ……うぅっ……おうぇッ……あッ…ああ、アァァァァ!」

 

 

 

 

右手には、皆を刺し殺し、千冬さんの首を折ったその感覚が、まだ残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

「冬香の様子は?」

 

 

 

「先ほどからたびたびうなされているようですが、バイタルは問題ないようです」

 

 

 

「そうか…病院のほうはまだ無理そうか?」

 

 

 

「ええ。今回の戦闘で市街地にもそれなりに被害が出ているらしく、どこもまだ対応はできない……と」

 

 

 

あの後、私たちは泊まっていた旅館へと引き返した。楯無の伝手でなんとか一通りの手当はできたが、どこも人が足りない。

 

 

医者も命に別状はなさそうと診断し、別の現場へと向かって行ってしまった。

 

 

今、私たちにできることは冬香のバイタルと見ることと汗を拭いてやることしかできなかった。

 

 

 

 

「とりあえず今は目を覚ましたあいつから話を聞くしかない。山田君、君も少し参加してあとは冬香についてくれ」

 

 

 

「分かりました」

 

 

 

 

そう言って私達は部屋の中に入ってゆく。中には、先ほど目が覚めたばかりの一夏が土下座していた。

 

 

 

「はぁ…何をやっているんだお前は」

 

 

 

私がそう言うと、一夏は立ち上がって私の元まで来てこういった。

 

 

 

「千冬姉!冬香は!冬香は大丈夫なのか!」

 

 

 

一夏は、今まで私に見せたことの内容な焦りの表情を見せてそう言う。

 

 

 

「落ち着け、馬鹿者。…命に別状はない。お前と同じでな」

 

 

「そうか、よかった……」

 

 

 

一夏はそう言って安堵する。

 

 

 

「一先ず、今回の…冬香の経緯を改めて聞きたい。デュノア、更識妹」

 

 

 

冬香が亡国企業と接触した経緯は先ほど聞いたが、改めて状況を整理する必要があった。

 

 

ちらりと目を移すと、更識妹は冬香のことで気が気でなさそうだった。

 

 

デュノアはそれを察したようで、話を始める。

 

 

 

「僕たち三人は、京都を嵐山方面に向かっていました。途中、天利さんがトイレに行くからといって公園に入ったんです。そうしたら………」

 

 

 

「亡国企業が接触してきた、と」

 

 

 

「はい。私達は一瞬で気絶させられたので……でも、あれはオータムだったと思います」

 

 

 

山田先生によって発見された二人は丁寧にベンチに座らせられていた。

 

 

 

「しかし、何故シャルロットは二人の方についたんだ?」

 

 

 

ラウラがデュノアにそう言った。確かにデュノアは気が回るが、冬香と更識妹の間に入るというのは何か考えがあるように思えた。

 

 

 

「うん。……僕には天利さんの瞳が、前の僕の様に思えたんです」

 

 

「前のデュノアさん?」

 

 

 

隣の山田先生がそう聞いた。

 

 

 

「はい。皆を裏切ってしまうことへの恐怖…それを感じたんです」

 

 

 

「私…分からなかった…。私……冬香の親友なのに…」

 

 

 

更識妹はそう言って涙を流す。

 

 

 

「簪さん…無理ないよ。だって経験した僕ですら確証はなかったから……」

 

 

 

「そうよ簪ちゃん…。お姉ちゃんも分からなかった……」

 

 

 

(私だって…クソッ!結局、私は何も力になれなかった……)

 

 

 

そうやって私は心の中で悪態をつく。

 

 

 

(そうだ。臨海学校の時も、文化祭の時も、タッグマッチの時も、私はアイツに何も……)

 

 

 

私は自分が許せなかった。束の凶行を事前に防ぐことが出来ない私を。

 

 

 

「なぁ千冬姉」

 

 

 

漂い始めた重い空気を破ってくれたのは一夏だった。

 

 

 

 

 

ISっていったい何なんだ?

 

 

 

 

いきなりの一夏の言葉に、部屋の中は先ほどとはまた違った重い空気が立ち込めた。

 

 

 

 

「俺、なんかだんだん思い出してきたんだ。あの時の感覚を……」

 

 

 

「あの時?」

 

 

 

「えっと、なんか、良く分かんないけど、俺感じたんだ。冬香が、いや()()()()()()()()が苦しんでて、それで白式はその()()()()()()()から俺を護ってくれてる。そんなような感じがしたんだ。」

 

 

 

専用機たるISは、確かに操縦者の意図をくみ取る様に思える時がある。一般的にそれはISが継続的に操縦者のクセを学習しアップデートするからということで説明は付いている。

 

 

だが、確かに白騎士も暮桜も、そんなレベルの話では説明がつかないことが多々あった。

 

 

それにしても…だ。相手のISが持っている何かを感じるなんて事は私にすら聞いたことがない。

 

 

白式は……いや、黒薊と群咲。どちらにしても、アイツ()を捕まえて意地でも吐かせなければ何も分からないことは確かだ。

 

 

 

 

 

「織斑先生!」

 

 

 

そう考えていた私の隣で山田先生が叫んだ。

 

 

 

「どうした!?」

 

 

 

「冬香さんのバイタルが検知不能に!すぐ戻ります!」

 

 

 

「何だと!?」

 

 

 

最悪の事態になったと誰もが確信した。

 

 

しかし、その次の瞬間にはその確信は打ち壊されることになった。

 

 

 

ザザッと広間の引き戸が開く。

 

 

 

 

 

 

「よかっ!みんな…生きて……!ううっ…!」

 

 

 

 

そこには、ここまで病み上がりの身体で走ってきたのか、息を切らし汗を浮かべた冬香が泣きながら立っていた。

 

 

 

 

 




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