TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~   作:地味子好き

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修学旅行編③

「千冬姉……」

 

 

 

一先ず滞在する予定だった旅館へ戻ってきた俺たちを出迎えたのは千冬姉だった。

 

 

その表情は怒りか悲しみか、それを悟られないように必死に隠しているようにも見えた。

 

 

 

「楯無が今情報確認と補給の手筈を整えている。お前たちは自室で待機だ」

 

 

「待ってくれよ千冬姉!俺達には何の説明もなしなのかよ!」

 

 

そう言って俺は去ろうとする千冬姉を呼び止める。

 

 

 

「…………」

 

 

しかし、千冬姉は立ち止まったまま何も言わない。

 

 

 

「知ってたんだろ!冬香が…冬香があんなISに乗ってたなんて!今までもずっと……ずっと……!!この京都視察だって冬香ありきの作戦だったんだろ!なぁっ!教えろよ千冬姉!」

 

 

 

そんな姿を見て、居ても立っても居られなくなった俺は強引に千冬姉へ掴みかかっていった。

 

 

心の中にあった混乱がより俺の怒りを増幅させ、我を失わせていた。

 

 

 

「やめなさい。一夏君」

 

 

 

芯がありつつも透き通った、よく頭に響く声。

 

 

熱くなった俺を制止したのは楯無さんだった。

 

 

 

「織斑先生、山田先生から連絡が付きました。簪ちゃんとシャルロットちゃんと合流して戻るそうです。皆は先ずISのチェック、山田先生たちが戻ってきてから説明するわ」

 

 

 

そう言った楯無さんは、慣れたような手腕でみんなを大広間へ行かせる。

 

 

 

「一夏君も、ほら。織斑先生のことはお姉さんに任せて」

 

 

 

楯無さんの言葉は本当に魔性だ。任せてと言われてしまえば俺は引き下がるしかない。

 

 

 

「分かり…ました。」

 

 

俺はそう言って、みんなが向かった大広間へ歩き出した。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

「お帰りなさい。待っていたわ」

 

 

 

私の言葉を聞くオータムは案の定、良い顔をしていなかった。

 

 

彼女は自分の認知外でいろいろ動かれるをひどく嫌うタイプ……。

 

 

まぁそこも彼女の可愛いところなのだけども。

 

 

 

「コイツはどういう事だ?」

 

 

 

迎えに出した()()がビルの屋上に着くなり、オータムは強引に振りほどくように彼女から離れる。

 

 

 

「篠ノ之博士の実験、かしらね。どういう理由か分からないけど、篠ノ之博士はそこにいる天利冬香を貴女の救出に行かせることを私たちにISを提供する交換条件にしてきたわ」

 

 

 

本当に奇妙な話だった。

 

 

IS学園を襲撃した無人機、アレを二機提供する見返りとして篠ノ之博士が求めたのはエムを博士の元へ行かせること。

 

 

そして私たちが招待した天利冬香の身柄を自分のもとに一度渡し、そしてオータムの救出をさせることの二点だった。

 

 

 

 

「やぁやぁ()()、どうだった?」

 

 

 

後ろから、束博士の声が聞こえた。

 

 

()、というのは一体どういう事だろうか。

 

 

 

「はぁい、マスター。すべて貴女の計画通りですよぉ」

 

 

 

その問いの解が出る前に眼前の、ISを解除した()()()()が返答していた。

 

 

束博士の元へ向かってゆく彼女に違和感を覚えた。

 

 

彼女の話し方、歩き方、そのテンション……。

 

 

私たちが監視していた時の天利冬香とは大きく違っていた。

 

 

 

「……ル!…コ―ル!おいスコール」

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 

私はオータムの呼び声でふと我に返る。

 

 

彼女のことを考えると、なんだか深すぎる闇に取り込まれる、今のように誰かの手助け無しでは出られない沼に誘いまれるようだった。

 

 

「え、ええ……ッ!!」

 

 

顔をあげてオータムのほうを向くと、その奥にいる天利冬香と目が合った。

 

 

漆黒で、金色に光るそのまなざし。

 

 

彼女は邪悪で、だが無垢な笑みを浮かべていた。

 

 

間違いない。彼女は、天利冬香ではない。

 

 

彼女の姿をした、「ばけもの」だった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

「まず、今まで皆に黙っていたことを謝ります。本当にごめんなさい」

 

 

眼前で、いつにもなくまじめで真剣な瞳をした楯無さんが頭を下げた。

 

 

その謝罪に声をあげるものは一人もいない。

 

 

全員がその行為の無意味さを理解していたからだった。

 

 

山田先生たちが戻ってきた後、先の冬香との戦闘で失ったシールドエネルギーを回復し終えた俺たちは今はこうして旅館の大広間に集められている。

 

 

 

「それじゃあ、作戦の説明に入るわ。今回の作戦は日本国内で活動する亡国企業の部隊、通称モノクローム・アバターを撃破すること。ただこの一点のみ」

 

 

 

空中投影型ディスプレイには、ターゲットの顔写真が次々と映されてゆく。

 

 

スコール・ミューゼル、オータム、マドカ。そして俺達を裏切ったダリル・ケイシーにフォルテ・サファイア。

 

 

 

そして…………

 

 

 

 

「お姉ちゃん!冬香も……冬香とも戦わなくちゃいけないの!?」

 

 

 

 

最後の一人、冬香の顔が映されたとき、簪さんが言った。

 

 

悲しさと苦しさをごちゃまぜにしたような、そんな顔だった。

 

 

 

「彼女、いえ。()()()()()()()()()()()()()がそう望む限り、私たちは戦わなくちゃいけない」

 

 

 

「天利さんの身体を奪っている……?」

 

 

セシリアが不思議そうにつぶやいた。

 

 

「これを見て頂戴」

 

 

画面に映されたのはIS学園の地下と思しきところで撮られた、写真……いや見たものをそっくりそのまま映したような画像だった。

 

 

 

「この前の電脳ダイヴ、あの時に学園内に潜入したとある敵兵士の記憶データよ。神経がISとリンクしてあったからサルベージできたの。入手先は今は気にしないで」

 

 

そこに映されていたのは漆黒の中に金色の瞳を持つ冬香の姿。あの時、俺達を攻撃したときは片眼だけだったが、この画像では両目が光っていた。

 

 

 

「これは……オーディンの瞳(ヴォ―ダン・オージェ)!?」

 

 

 

真っ先に反応したのがラウラだった。

 

 

だが冬香はラウラと違い軍属ではない。ではあれは何なのだろうか。

 

 

 

「分からない……。冬香ちゃんの出自や家庭環境なんかも調べられる限り調べたけど、何もおかしなところは見つからなかった。亡国企業に埋め込まれ洗脳されているのかとも考えたけれどそれも違った」

 

 

 

「あの、どうして違うって?」

 

 

 

そう聞いたのは帰ってきてからずっと口を閉ざしていたシャルだった。

 

 

 

「さっき虚ちゃんから連絡があってね。冬香ちゃんの部屋に写真があったの」

 

 

 

「写真?」

 

 

 

「そうよ。彼女の家と…父親の職場。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「じゃあ冬香は脅されて!!」

 

 

 

「そう。更識家の全ネットワークを駆使した結果、この間の運動会が終わった次の日、スコールが1年1組の生徒の声に偽装して冬香ちゃんに電話をかけ、その写真が入った封筒を渡していたことが分かったの」

 

 

空中投影ディスプレイに、監視カメラと思しき画像が映しだされる。そこは俺も行ったことがあるレゾナンス内のカフェのようだった。

 

 

冬香とオータムが向かい合わせで座っていた。

 

 

「じゃあ冬香はなんで!!」

 

 

俺がそう言うと、楯無さんの隣にあった扉が開いた。

 

 

 

「それは私が説明する。一夏」

 

 

 

「千冬姉!!」

 

 

今まで姿を見せていなかった千冬姉が入ってきた。

 

 

 

「冬香の裏には……ヤツが、束がいる」

 

 

千冬姉がそういうと、辺りは瞬時に凍りつく。

 

 

 

「冬香に……姉さんが関わって……なんで・・・」

 

 

俺の隣にいた箒が驚いてそう呟いていた。

 

 

俺も、俺も分からなかった。冬香が、学校の説明してきた角谷奈津美だったなら、その説明の中に束さんは一切出てこなかった。

 

 

「今回の件も束が関わっている。実際に束と接触しているところを見て居た奴がいる。入ってこい」

 

 

「はァイ」

 

 

そう言って入って来たのはさっき俺を助けた人……ア―リィさんだった。

 

 

 

「ヤァ、初めましてなのサ。おっと、そこの一夏クンは二回目だネ。私の名前はアリーシャ・ジョゼスターフ。まァ、『(テンペスタ)のアーリイ』って言えば分かるかナ」

 

 

 

彼女の名前、どこかで聞いたような気がしたが、やはりそうだった。(テンペスタ)のアーリィは第二回モンドグロッソの優勝者。

 

 

俺が捕まらなければ千冬姉と戦っていた相手だった。

 

 

卓越した戦闘センスに欧州一の操縦能力とコア洞調率を持つ彼女だが結局不戦勝で優勝となった。

 

 

しかし千冬姉と戦って勝ったわけではないとしてブリュンヒルデの称号を辞退したのは有名な話だった。

 

 

 

「失礼ですが……その腕と目は……」

 

 

 

「ああ、新しい子(テンペスタⅡ)に少し振られてしまってネ。起動に失敗しちゃったのサ」

 

 

 

答えを聞いたセシリアはこれ以上聞くべきでないと思ったのかそのまま口を閉じる。

 

 

 

「目標はここにある空港のコンテナ倉庫とそこから少し離れた高級ホテル。コンテナ倉庫にはIS含め相当な火器が隠してあると思われます。私たちは二手に分かれ同時に急襲。一気に殲滅します。倉庫方面には一夏君、シャルロットちゃん、ラウラちゃん、簪ちゃん。セシリアちゃんと鈴ちゃんそれに箒ちゃんの三人はアリーシャさんと一緒にホテルを急襲。私と織斑先生、山田先生は何かあった時のためにんすぐ動けるようにこの本部にいます」

 

 

敵の戦力は三人増加、こちらは人数的に二人減……だが実際はそれ以上差があることは明白だった。

 

 

俺達は全員、覚悟を決めた。

 

 

優しい笑顔を振りまいていた人と、正面から戦う覚悟を。

 

 

 

「それでは、作戦開始!」

 

 

後戻りは、もうできない。




お久しぶりです。毎日ツイッターでインフィニット・ストラトスと検索をかけ新刊情報が出ないか待っていました。

……まだ出ないんですか弓弦先生。


個人的に最終巻なので厚めなものを、初回特典にOVAとか設定資料集、ドラマCDなんかつけたりしたものを希望してます。無理だろうけど……。


頑張って最低月1くらいで投稿していきたいので今後ともよろしくお願いいたします。

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